本話も長いです(汗)。
思った以上にキシリアが読者の方々に愛されているようで…原作から考えると嬉しい状況です。
私キシリアはブライトの案内で、ホワイトベースに搭乗した。
こんな状況だと言うのに…つい興味が抑えきれず次々と艦内の備品ヘと視線を向けてしまい、ブライトから非常に怪訝な目を向けられてしまった。前世に嗜んでいたサブカルチャーの情報と、どれだけ相違があるか非常に気になるわけで…
両舷にある艦載機用のリニアカタパルトを、ちょっと見せて貰えないだろうか? そう思い艦内構造図の端に手を伸ばした瞬間、ブライトに睨まれ、私は咳払いをして誤魔化した。
艦橋へ入らせてもらえると嬉しいのだが…
流石にそれは無理であろうな。
そして私とブライトは、士官室の一つとされる部屋の前に辿り着いた。
私の待遇について、艦長のブライトは個室への軟禁に留めようとした。
しかし私が連邦軍兵士と接触することを、ジャミトフは危険視していたはず。問い詰めると、やはりジャミトフの部下が前処理をする手筈となっていた。
「連れて来なさい。処置を受けます」
「しかし……」
「こんなところで貴方は、下手な疑いを味方から受けてはならない。そうであろう?」
そう告げると、ブライトは強く握った手を震わせるも、静かに部屋を出て行った。
程なく、大尉の階級章をつけた連邦軍士官が医官と共に入室し、私の姿を見るや一瞬目を見開いた。
「まさか本当に成功するとはな……」
前世の情報の中にある冷静さを滲ませた声と姿から、ジャミトフの配下ガディ・キンゼーであると理解する。彼はブライトに匹敵する有能な士官だ。下手に便宜していたら、ブライトは疑われるところであった。
点滴やら薬剤の準備をする医官に指示を出すガディを見てそんな事を考えていたところ、その本人が胡乱げな表情でこちらを見てきた。
「なぜ自ら来た?」
「セイラ嬢とミライ嬢の説得に応じなければ、私の身柄を奪う予定だったのでは? 設備と育てた人材を壊されては敵わん」
私がそう言うと、一瞬ではあるがガディは目を見開く。
やはりフラナガン医療センターを襲撃するつもりであったか。
私が窓口としているアースノイドの有力者のヤシマ家とマス家の身内を、わざわざ使い情で訴えてきた上での二段構え。サイド6に対しても、レイ親子を返して相殺したと言わんばかりの態度。相変わらず地球連邦は、スペースノイドに対して横柄である。
ガディの言動を見る限りでは、今夜にでも襲撃する予定…寧ろ其方の手段が本命であろう。こう言う悪辣な手に対して、被害を抑える良い手立てが少ない自身に対して、遣る瀬無さを感じてしまうが…
「キシリア・ザビ少将…貴様は何を考えている」
「EXAMシステムを制御する事だ。ジャブローにある大量の無人MS。それが暴走を始めれば、10年程度で人類は殲滅される。アースノイド、スペースノイドの区別なく」
「………鎮静剤、麻酔処置をさせてもらう」
「構わぬ。こちらとしても眠りで身体を休ませたいところだ。おそらく、あと一度しか保たない」
私の言葉を聞き、ガディは手を止めこちらを凝視する。
「貴様は……死ぬ気なのか?」
「貴官らにとって私は“精密部品”であろう? そんなことを聞いてどうする?」
「………処置を開始する」
「無体な扱いは控えるようにな。EXAMシステムの唯一無二の“制御装置”だ。失敗すれば皆諸共滅ぶと思え」
私の言葉に返すことなく、ガディは医官に薬剤投与を命じる。
「………すまない」
意識が途切れる前に、誰かの懺悔の声が聞こえた気がした。
********
サイド3、ジオン公国。
首都バンチ、ズム・シティにある公王庁の地下にある無窓会議室。ギレン、キャスバル、マ・クベ相手に、フラナガンとシロッコは一通りの説明を終えていた。
「Type-Z型のニュータイプ。キシリアがそうだと言うのか?」
自身もType-Eのニュータイプであるキャスバルが尋ね、続いてギレンが口を開く。
「特殊なタイプであったな? ニュータイプは特殊な脳波である感応波…サイコ・ウェーブの受信能力と送信能力の強弱で分類していたな?」
「その通りです。それが自己への感受性の強弱、他者への干渉性の強弱となって現れます」
「閣下のType-Zは、それとは異なると?」
そう尋ねるマにシロッコは頷き答える。
「はい。少将はサイコ・ウェーブの感知と放出はできませんが……世界の“外”と接続ができるようなのです」
「世界の外?」
「俗に言うアカシック・レコード…世界のデータベースと言えばいいでしょうか? その“構造体”と接続して情報の収集、演算の補助、メガデータを利用した精度の高い予測を行っていると推定されます」
そう言いフラナガンは、モニターで特異的な波長を見せたキシリアの脳波を見せた。
「制御できているのか?」
「はい。閣下は自発的に、必要に応じて接続と切断を自在にしております。今のところは…」
ギレンの問い答えるフラナガンの言葉の末尾に不穏な響きを聞き、ギレンは先を話すように促す。
「続けたまえ」
「…はい。Type-Zは深度があると予測されます。閣下は普段されているのは、演算特化のType-Z1、その演算結果で望ましくない予測を修正する折に干渉特化のType-Z2の能力を発現していると考えられます」
「……その言い方では、それ以降のType-Z3以降の問題があると?」
キャスバルの言葉に肯き、フラナガンは模式図をスクリーンに映す。
「Type-Z3は融合特化。”構造体“と同調して、膨大な情報を流入させ獲得する、さらには領域を借り高度な演算を成し遂げる」
「情報を流入させて獲得する…Type-Z1やZ2と差異はないのでは?」
「いいえ、マ大佐。Type-Z2までは“閲覧”のみなのです。Type-Z3は“複製”して取り込むわけですが……人の身体と自我では負担が大きい」
フラナガンが言外で伝えようとしていることに気づき、マは思わず押し黙った。
「己が意思でリミッターを外さない限りは心配は無用です。過剰な情報圧から身を守るため、“構造体”と同調して領域を借り、溢れたデータを戻しているようですから。ただし…」
フラナガンの頷きを見て、シロッコは持参した資料をギレンらに配る。
「これは?」
「最新の精密検査の結果です」
グラナダで倒れたキシリアが入院した時のデータで、過去の精密検査の結果と比較して、脳波の中に特異的な波長が存在していた。
「閣下の自我と“構造体”との融合が起き始めています」
「融合⁈」
「Type-Z3の初期に入ったと見られます。今はまだ流入した情報を押さえ込んでおりますが、破綻すれば閣下の自我は変容するでしょう」
不穏な言葉を聞き、キャスバルは思わず尋ねる。
「……キシリアは……どうなるのですか?」
「精神が不安定になると予想されます。尤も“安定期”に入れば収まりますが…」
そこで黙り込むフラナガンに対して、マは厳しい視線を向ける。
「その“安定期”に何か問題が?」
「……“自己以外“の混在を受け入れた、つまり“構造体”との同調が不可逆的になったと言う事…それはもう人とは言えない。その結果どうなるか、我々にも予想がつかないのです。身体はそのまま世界に留まれるのか、Z4“神化”に至って世界の構造の一部となるか、Z5“虚数化”となり世界の構造の改変者となるのか…」
ギレンは言葉を打ち切らせるように音を立てて、書類をテーブルの上へと半ば放り投げた。
「今の時点で予測すら立てられぬのであれば、その話はここまでだ。しかし疑問がある。なぜ急に妹はType-Z3に? 偶然と言うわけではなかろう?」
ギレンの睨みでフラナガンが萎縮する中、シロッコが静かに口を開く。
「……先日のオデッサ防衛戦で連邦軍が投入した無人MS、その中枢であるEXAMシステム本体の制御を試み、失敗したことが原因です。本体への回線が細く、情報の逆流が起き、それで身体が限界に達したことが原因かと…」
「っ‼︎ 通信時の不調はまさか…」
「……側に控えていたリアナの報告では、迷走神経反射で52秒ほど心停止したと…」
その後のギレンとキャスバルそしてマ・クベとの通信後、キシリアは昏倒し、フラナガン医療センターで療養をとっていた。
「……閣下は…何故そのような事を⁈」
身を乗り出し、マは責めるような視線をシロッコに向ける。
「過去にEXAMシステムの暴走事故があった時に、少将が暴走を抑えました。その再現ができる補助AIを搭載した、遠隔操作型のMSの制作の依頼を受けました」
「暴走事故の報告は受けたが、キシリアが止めたと言う話は聞いていない!」
「申し訳ございません、公主陛下。設立者で出資者であるキシリア閣下から命令された以上、我々は…」
キシリアが口止めをした以上、フラナガン医療センターを責めるのは酷と理解し、キャスバルは押し黙った。
「……過ぎたことは今はいい。それより他に話があるのでは?」
ギレンに尋ねられ、シロッコは一瞬躊躇ったのちに静かに口を開いた。
「EXAMシステムの暴走事故の時、モーゼスは現場に居ました。少将がシステムを制御できる可能性を、モーゼスは亡命先の連邦軍に話した可能性が高いかと…」
その言葉を聞き、会議室に居た者たちは同じ事に思い当たる。
キシリアを“制御装置”と見做し連邦軍が欲する危険性だ。
製作者のモーゼスは死んだ。
しかし地下にある連邦軍のジャブロー基地に、EXAMシステム搭載無人MSが100機以上存在している。今はEXAMシステム本体が休眠状態だが、次に動き出したのならば数時間ほどで内部の人間を殲滅し、兵器格納庫や工場を乗っ取り、無人MSを量産する危険性すらあった。
最悪なのはそれが地下で行われること。発覚が遅れ、気付いた時には手遅れとなる可能性が高いと予測されていた。
「人類を守ると言う名目で、廃棄コロニーか手頃な資源採掘衛星をジャブローへ落とすか?」
「EXAMシステム本体は地下最奥でしょう。場所が確定できない以上は、確実に破壊できるか不透明では?」
「破壊が不完全でシステムが自律性を保っていれば、地下工場を再起動させ、自らの端末として使える兵器を密かに量産するでしょう。その場合、地下に埋もれたことにより発覚が遅れて危険かと」
キャスバルの過激な案に対して、マとシロッコが否定する。
「ジャブローを放棄させ、連邦軍自らの手で爆破処理するように勧告するのは?」
「無理だな。今やジャブローは軍需研究の全てを担う拠点。連中が手放すはずなかろう」
「そもそもEXAMシステムを捨てると言う選択をしないのでは? 制御できる見込みがあるなら尚更…」
「ジャブローに居る者たちに対して、EXAMシステムの危険性を説明するには止めた方がいいでしょう。彼らが”恐怖“を抱いた途端に、暴走を開始する可能性が高い」
続いて出されたマの案に、ギレンとシロッコ、フラナガンは反対する。
「フラナガン博士、EMPや電撃兵器の類は?」
「シロッコ君、EXAMシステム本体がある地下の密閉施設内には、そもそも届かん。届いたとしても相手はシステム化された”データ“そのもの。ネットワークを介して逃亡する可能性が高い」
「確かに自我を持ったデータとなれば、物理的な破壊で消滅するかも不透明ですな」
「その通りです。観測不能に陥るような破壊をすれば、消滅したという証明が不可能となります。広範囲物理破壊は最後の手段とした方が良い」
マの言葉に同意しつつ、フラナガンはそう警告する。
「問題点があると言うのに制御可能と思い込むとは…僅かな可能性に縋る愚か者どもが、全人類を道連れにするなど馬鹿げた話…」
そこで何かに気づいたギレンは、唐突に言葉を止める。
「……総帥?」
「…フラナガン博士、今の内容はキシリアにも伝えたのか?」
「はい。全て詳細にお話ししました。次、EXAMシステムを制御しようとすれば命に関わると言う警告と共に。それが一体…」
「自身以外に打つ手なしと判断したキシリアが、“自発的に”動く可能性はないか?」
会議が終わるや否や、フラナガン医療センターに戻るフラナガンやシロッコに同行する形で、キャスバルとマはサイド6ヘ向かった。キシリアの所在を確認するために…
執務室に戻り一人思案するギレン。その時ノックが響き渡った。
「総帥閣下」
先程の資料を鍵付きの引き出しに入れ、ギレンは応答する。
「セシリアか? 何だ?」
「情報部所属、突撃機動軍付きのニアーライト少佐が面会を希望しておりますが、いかがいたしますか?」
ニアーライト。実質キシリアの直属の諜報員である。
「通せ」
程なくニアーライトが入室し、ギレンに敬礼を見せる。
「要件は?」
「はっ! キシリア・ザビ少将より直接ギレン総帥に渡すよう命令を受けました」
そう言いニアーライトは、ギレン宛の手紙とデータの記録ディスクを取り出し、ギレンの執務机に並べて置いた。
「……キシリアには会ったのか?」
「はい。フラナガン医療センターでお会いして指示を受けました」
「指示の内容は?」
「手紙と記録ディスクを渡すようにと……会議で同席とお聞きしたのですが、キャスバル陛下とマ大佐は?」
「サイド6へ向かった。キシリアを見舞うらしい」
「……そうでしたか。お二人にも手紙を渡すように命令を受けております故、失礼いたします」
そう言いニアーライトはギレンに敬礼し、静かに執務室を後にした。
「……相変わらず読めんな、あの男は」
キシリアと会ったと言うニアーライトから、間接的に情報を得ようとしたが芳しくは無かった。
そしてギレンは受け取ったキシリアからの手紙を開く。
一度読み……二度目はある部分を凝視するように読み、そして深く席に座り吐き出すように言った。
「…………遅かったか……」
数分程目を瞑りギレンはセシリアを呼ぶ。
そして地球連邦軍総司令部のジャブロー地下基地へ、総攻撃の準備命令を下したのであった。
方々への通達に向かうセシリアが退室した後、ギレンはキシリアからの手紙を睨みつけたまま声を漏らす。
「いつもの独断専行と揶揄されるだろうが、唯一残された手だったに過ぎん。一年前の連邦駐屯基地への出頭もそうだった。己が役目で幾度も身を切る行為を指差し“またか”と嘲る無責任な者に、国家も戦争も語る資格はない…キシリアよ、やはり“選民”は必要ではあるまいか?」
再びギレンは手紙を開く。
何度読んだところで内容が変わる訳ではないキシリアからの手紙に再度目を通し、吐き捨てるように言った。
「トップは責任を負い、No.2は泥を被るもの…立場ゆえに私ができぬ選択を、またお前に背負わせたと言うのか? 我々には……他の選択肢は無いというのか…」
ギレン・ザビ総帥
EXAMシステムを無力化するために、ジャブローへ向かいます。結果の成否に関わらず、私の命はないでしょう。
最悪の事態が発生した場合の対処法は、マ・クベに指示を出しております。総帥は速やかに、ジャブロー総攻撃の準備を進めて下さい。
EXAMシステムを制圧し、ジャブロー内部からゲートに向けて攻撃するよう、無人MSを動かします。熱源反応で内部からの攻撃兆候を確認しましたら、ミノフスキー粒子を散布し、大気圏外から攻撃型MS空母「アプサラス」を突入させて制圧して下さい。
ジャブローとゲートの詳細な位置情報は、手紙と共に届けさせたディスクにあります。
ジオン公国に永久の栄光を。
キシリア・ザビ
第四章は第46話までの予定です。
最後までお付き合い願えると幸いです。
あなたが好きなキャラクターは? ②
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キシリア・ザビ
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マ・クベ
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キャスバル・レム・ダイクン
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ギレン・ザビ
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ドズル・ザビ
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アムロ・レイ
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ララァ・スン
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ニアーライト
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シャリア・ブル
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パプティマス・シロッコ
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カミーユ・ビダン
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ジュドー・アーシタ