キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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沢山の感想ありがとうございます。
いつも誤字修正していただき、ありがとうございます。
いよいよ一年戦争のクライマックス、ぼちぼち感想の返信をしていければと思います。時間がかかりそうですが…



45. キシリア様は案内人

 

 地球。

 南米上空の衛星軌道上に、ジオン軍の大型宇宙戦艦であるキシリアの座乗艦グワジンの姿があった。

 

 グワジンの艦橋でマは、眼下に広がる地球に視線を落としていた。

「マ准将。地上部隊のシャア中佐より連絡。部隊の配置準備が完了したとのことです」

 ウラガンからの報告にマは一つ頷く。

「ご苦労、地下貫通爆弾の準備状況は?」

「工程の97%の作業を終えたとの事です」

 地下貫通爆弾。

 地球侵攻における地下構造物破壊兵器として、キシリアから移譲された資料を元にマが密かに研究開発を進めていたことは、ウラガンも知っていた。しかしスペースノイドであるキシリアやマが、地下深部に対する攻撃手段を発想するに至った経緯については、当初から疑問を抱いていた。一度情報源について聞いた時、「地球で手に入れた旧世紀時代の資料を元にしている。ジオン軍の新規軍事ドクトリンと関連している故、他言無用」と、マは一度だけ答えてくれた。

 現在グワジンの格納庫で、地下貫通爆弾の通常弾頭を核弾頭へと取り替える作業が急ピッチで行われていた。取り替え作業は格納庫の容量からマの座乗艦であるチベ級では不可能であったため、キシリアのグワジンを借り受けることになった。ソロモンでドズルが核を移譲したこと、ギレンがグワジンの使用を許可したこと…それらは全て、キシリアの権限をマが代理として与えられた結果、成し得たことであった。

 空席となっている司令席を一瞥した後、ウラガンは静かにマに尋ねる。

「なぜキシリア様は、この方法を選択しなかったのでしょう?」

「物理的には破壊できるであろうが、EXAMシステム本体を無力化できる確証はないからだ」

 シロッコの協力でEMPも発生する見込みだが、地下である以上は効果は限局的と見込まれていた。それ以前にネットワークを通じてシステムのデータが移動した場合は、手の打ちようがなかった。

「……こうなる前に、この方法でジャブローを陥すという選択は無かったのですか?」

「ジャブローの正確な位置が判明したのはごく最近である事は、貴様も知っているだろう? それにジャブローには連邦政府の高官や、連邦兵士の家族も多く居住している。それら全てを焼き払うなど…美学の欠片もない虐殺だ。キシリア様に相応しい戦い方と思うのか?」

「虐殺…ですか……」

「我らジオンには連邦を完全に支配する、若しくは殲滅するほどの軍事力はない。下手に潰せば、連邦軍は戦力を保持したままジオンを狙うテロリストに変貌する」

「………」

「連邦には存続してもらわねば困るのだ。適当なタイミングで手打ちにする折、虐殺した我らの提案に連邦が躊躇いもなく乗ると思うのか? 閣下は…戦争の勝利だけではなく、その先の統治すらも見据えておられたのだ」

 キシリアを“過去”のように冷静に語るマであったが、その裏で隠しきれていない痛みをウラガンは感じ取っていた。

「……他の者に知らせなくて良いのですか?」

 キシリアがEXAMシステムの制圧に失敗した時、ジャブローごとシステム本体と無人MSを破壊する…マが受けた命令は、いざという時はキシリアごとジャブローを焼き払えという内容に他ならなかった。

「キシリア様から託されたのは私だ。第一、知らせたところで、士気に関わるだけだ」

「……貴方だけで抱え込むつもりですか?」

「何を言う、ウラガン。貴様も少しは背負ってくれるのであろう?」

「はい……マ・クベ様」

 そう答えるがウラガンは知っている。

 マは自身が背負う物を何一人、誰かに任せる気はないことを…

 

「マ准将、シャア中佐から連絡! 事前情報以外の地点12ヶ所で熱源反応を確認。作戦通り内部で動きがあったと思われます」

 オペレーターの言葉に頷き、ウラガンが尋ねる。

「ギニアス少将への連絡は?」

「通達済みです」

「ジャブロー周辺で電波障害…シャア中隊がミノフスキー粒子を散布したものと推定」

「アプサラス3機、降下を開始しました!」

 作戦が始まった。

 マは静かに指示を告げる。

「シャア中佐からの情報を元に、最終座標を入力。弾頭起爆設定を完了次第、大気圏に突入する! 我々は最悪の事態が発生した時の最後の砦だ。一秒たりとも戦場での変化を見落とすな‼︎」

 

 地球上、南米ブラジリア。

 テム・レイが持ち帰った情報に記されたゲートには、キシリアが操っている無人MSの姿はなかった。

 ジオン軍の索敵・電子戦特化アッガイを率いて、青色のカスタムカラーで塗られた電子戦特化型ガルバルディ試作機が、ゲートからジャブロー基地に侵入する。「青の呪い像」という二つ名をつけられたシャア・アズナブルの専用機である。

「アカハナ、そちらのゲートはどうだ?」

『別ゲートでの騒動で見張りすらいませんね』

「こちらも同様だ。ジャブロー内を各種センサーでサーチし、情報を速やかにギニアス少将へ送れ。我らの位置情報も忘れずにな」

『味方に撃たれるのは避けたいですからなあ』

「その後は、味方のレーザー通信中継網の構築に移れ!」

『了解!』

 

 ジャブロー基地を守る連邦軍の守備隊。

 彼らの悪夢が始まったのは余りにも突然であった。

 前触れなく4箇所の兵器格納庫で突然無人MSが起動。そのまま散って12箇所のゲートを破壊し始めたのだ。基地内の非戦闘員の避難誘導、暴れて手がつけられない無人MSの隔離などの対処に追われている中、空から3つの影が降ってきた。

 

 レーダーや各種センサーに感知させることなく降ってきた鉄の塊には、ジオン軍のエンブレムが描かれていた。

 

 大気圏を突破したジオン軍の大型MA“アプサラス”は、大気圏突入形態から爆撃航空形態に変形する。

 上空を切り裂くように滑走するアプサラス3機に対して、ようやく肉眼で確認したジャブローの連邦軍は、慌てて対空砲火で迎撃に入る。しかしアプサラスの厚い装甲を抜くことはできず…

 アプサラスの主砲が火を吹き、ジャブローに配置されている防衛システムが沈黙し、緊急発進した戦闘機を薙ぎ払っていく。

 そして2機のアプサラスが弾幕を維持している間に、ギニアスの搭乗機が投下母艦形態となり、格納していた4機の高起動型ゲルググが放たれた。全て色違いのカスタム機…キマイラ隊と呼ばれるエースで固めた特別編成部隊である。

 アプサラスのギニアス機はMSを降ろした後、再び爆撃航空形態に変形し、弾幕を維持しつつ残りのノリス機、アイナ機からも交互にゲルググが放たれていく。こうしてアプサラスが連邦軍の航空戦力を沈める中、キマイラ隊は隠蔽または偽装されている火砲、滑走路、カタパルト、格納庫や武器庫を次々と破壊していった。

 

 程なく、ジャブロー近くに陣を構えていたジオン軍の北米戦力が、総攻撃を開始した。

 

 ジオン軍の攻撃前に侵入していたニアーライトとキャスバルらは、騒動に紛れて動き出す。

 ニアーライトは連邦軍の軍服、キャスバルたちは私服であり、ララァとアルテイシアという女子供連れである時点で、咎められることはなかった。それでも呼び止められた折は、アルテイシアが“セイラ・マス“…連邦議会議員のエドワウ・マスの妹と名乗り「友人らと避難中」と誤魔化し、騒ぎになることは無かった。

 そしてララァが大まかな方向、ある程度近づいたらアルテイシアが詳細な場所を探知して、EXAMシステム本体の部屋と思われる鉄扉にたどり着いた。

「この先…」

 気持ちが逸り飛び出した先、丁度鉄扉から連邦兵が顔を覗かせる。

「アルテイシアっ‼︎」

 キャスバルが叫ぶのと、連邦兵が両手を上げたのはほぼ同時であった。

「あー…撃たないでくれ。味方だ」

「トラヴィス?」

 連邦士官の姿を見て、ニアーライトは一時期協力者であったその者の名を呼ぶ。既に協力関係は解消していたはずだが…

「……俺や部下を縛り付けていた、クソ上司を排除してくれた借りを返す」

「いやアレは、アナタの懐柔に必要だったからで…」

「それに……流石に胸糞悪いんでな…」

 薬剤で動けなくした上で拘束された女性…キシリアをホワイトベースから護送し、まるで“部品“のように機械に繋いで放り込む片棒を担いだことに対して、命令だったとは言えトラヴィスは罪悪感を抱いていた。

「俺を除けば今はムラサメしか居ない。行け!」

 そう言いトラヴィスは鉄扉の奥へと、キャスバルらを招き入れた。

 

 トラヴィスの言葉通り、EXAMシステム本体が納められた部屋にはムラサメしか居らず、キャスバルらは難なく制圧する事ができた。

 ムラサメにニアーライトが銃を突きつけ、キャスバルが冷酷な表情で胸ぐらを締め上げる。

「システムの医療カプセルを開けて、キシリアを解放しろ‼︎」

「無理だ…あの女の精神体はシステムに取り込まれている。その筈なのに…中で操って……こちらの制御を受け付けない…こんな馬鹿な話がっ‼︎」

 目の前の事態が受け入れられずそう言うムラサメを、キャスバルは半ば投げ捨てるように解放する。

「ちっ! 埒が開かん‼︎」

「大丈夫です。私が導きます」

 そう言いララァはEXAMシステム本体に片手を置き、キャスバルとアルテイシアに手を伸ばす。

「システムは完全に抑え込まれています。入っても呑まれる事はありません」

 そう言いララァは哀しげな表情で、医療カプセル…キシリアに視線を向けた。

「……わかった。ララァ頼む。アルテイシア!」

「はい。兄さん」

 ララァの手を握り、彼女の導きでEXAMシステムの中へ、キャスバルとアルテイシアは精神を飛ばした。

 

 そして……

 

 気がつくとキャスバルは、ザビ邸の中庭のガゼボで、キシリアとティーセットを囲んで座っていた。

「……連邦へ報復をしないこと…それが不服ですか?」

 自然とそう切り出すキシリア。今までの事は白昼夢だったのかと思い、キャスバルは何事もなかったように、胸に溜めていた疑問を口にする。

「甘い停戦をせず、連邦の連中は徹底的に潰すべきであった。そうしていれば…君が無茶をすることは…」

「全て覚悟の上でやった事です。理念を生かすため、現実を鑑みて私自身を手札に加えたに過ぎません」

「そうして身を削って温情を与えれば、奴らが改心するとでも? それこそ、ただの夢想家だ」

「“理念”を“現実が見えていない理想論”と同一視していませんか?」

「理念を語るなど甘い事。厳しい現実を見れば、ただの綺麗事に過ぎん」

「……理念なき現実主義を“良し”と判断するのであれば、モーゼスとジャミトフの所業を許容することと同義です」

「……どう言う事だ⁈」

「理念なき技術の暴力、理念なき秩序の暴力。彼らの行動はその最果てに位置します」

「奴らの……畜生に劣る所業がそうだと⁈」

「貴方がそう感じるのでしたら、理念は理想ではなく“理性の証”。そう言うことではないでしょうか?」

 そこで言葉を切り、キシリアは自嘲気味な笑みを浮かべる。

「悪意が制度の外から侵入し、人を救うはずの構造が人を裏切ると言うのは事実。私の現状は全てその対処に失敗した…言わば自業自得という事」

「そんな事は……」

「制度は信用するものではなく、運用するものです。不備があったら適宜修正を加える…そうやって時代に応じて改良を加えて、制御する以外に方法はないのでしょうね…」

「キシリア?」

「暴力と権力の制御装置として“貴方の理念”を上手く使いなさい。それが貴方の人間性の担保となり、制度を運用するための設計図となります。そして…今度は貴方が誰かの“水先案内人”になるのです」

 水先案内人。

 それはキャスバルがキシリアに求めた役目であり、その役目を譲るということは…

 

「キシリアっ‼︎」

 

「キャスバル兄さん?」

 聞き覚えのある声に呼ばれ、キャスバルは隣を見る。

 先ほどまでキシリアと居た空間は消え、エメラルド色の光の粒子が溢れた空間にキャスバルは浮かんでいた。

「待たせてごめんなさい…大丈夫?」

「あ……ああ……」

 キャスバルの思考は先ほどの夢心地から急速に目覚める。そして自身がシステムの外と繋ぐ“碇”となり、アルテイシアとララァがアムロの精神体の捜索をしていた事を思い出した。

「アムロは?」

 キャスバルが尋ねた直後、光の粒子が下から盛り上がり、白鳥となって飛び上がった。そして白鳥は光の珠を抱くララァへと姿を変えた。

「その光は……アムロか?」

「はい。今は深く眠っています」

「そうか……キシリアは?」

「…………」

「……了解した。一度システムの外へ……」

 その時、緑光の海から漆黒の蔦が無数に伸びてくる。蔦はアムロの精神体を抱くララァごと絡め取ろうとするが…

 緑光の海…その水面で漆黒の蔦を押さえ込んでいた碧の無数の光が飛び散り、ララァ達に手を伸ばす蔦を斬り裂き、一人の女性の姿を朧げながらも形造る。そして…

 

 ドンっ‼︎

 

 その女性が放つ圧を伴った光が、蔦を一気に押し流した。

 光の中央……いや、その形を崩しつつ光を放っているのはキシリアであった。

 一瞬、キシリアと視線が合うキャスバル。

 彼女が言いたいことは即座に理解できた。

「システムの外へ‼︎」

 キャスバルは、ララァとアルテイシアの精神体を引き上げ外の世界へ押し出す。そしてキシリアにも手を伸ばそうとした。

 

「…………後は頼む……」

 

 その声と共にキシリアの精神体の輪郭は揺らぎ、溶け出し、弾けるように無数の光の雫となって漆黒の蔦に降り注いだ。そして蔦から蕾が伸び、花を咲かせ…無数の花弁が舞い散り煌めき消えていった。

 

 そして……

 

「兄さん‼︎」

 

 アルテイシアの声で精神世界から目覚めたキャスバルの目の前で、機械が火花を放って赤く光り膨張を始めた。

「っ‼︎」

 キャスバルは、アルテイシアとララァを押し出すように抱えて飛び退く。次の瞬間EXAMシステムの本体は、近くに居たムラサメを巻き込んで爆発した。

 耳鳴りが治りキャスバルが起き上がる頃、ニアーライトが火花を放つシステムから、キシリアが入っている医療カプセルに取り付く姿が見えた。キャスバルも協力して医療カプセルをシステムから引き抜いた。

 

 露わとなった医療カプセルが表示するキシリアの心電図は、短音と共にフラットとなっていた。

 

 その場に崩れ落ちそうになったキャスバルを支えるララァ。一方でアルテイシアは、一縷の望みをかけて医療カプセルに飛びつく。

「アルテイシア様⁈」

 ニアーライトの制止を無視して医療カプセルに近づき、アルテイシアはパネルを見る。

「まだ脳波が残ってる…それにこれはナノマシン? キシリア様に投与されているもの? 蘇生措置のプログラムが立ち上がっている…」

 パネルに付いている血痕。

 アルテイシアが医療カプセルが収まっていたシステムの方へ視線を向けると、システムの爆発時の破片で致命傷を負い、そのまま事切れ倒れ伏したムラサメの姿があった。

 ムラサメに対して目を伏せ黙祷を捧げた後、アルテイシアは祈る気持ちで実行キーを押した。

「お願いですキシリア様……戻ってきてください‼︎」

 

 心電図を写すモニターに、規則的な音と主に波形が蘇った。

 

 地球連邦軍のゴップ大将から、ジオン公国軍からの降伏勧告に応じたと基地内の放送が流れたのは、その数分後のことであった。

 





次回は第四章の最終話です。

あなたが好きなキャラクターは? ②

  • キシリア・ザビ
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  • キャスバル・レム・ダイクン
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  • アムロ・レイ
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  • シャリア・ブル
  • パプティマス・シロッコ
  • カミーユ・ビダン
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