キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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お待たせしました。第5章開幕です。
本業の仕事が忙しくなるため、週1更新が中心となります。



第五章「シャロン学園」篇
47. キシリア様は教育者


 

 宇宙世紀0082年。

 

 一年戦争と呼ばれるジオン公国の独立戦争が終わり、2年が経過した。

 戦争の終わりに伴い、敗戦した地球連邦軍だけではなく、ジオン軍も軍縮が行われた。しかし、今まで連邦軍が行っていた各サイドへの治安維持活動をジオン軍が担う事になった。その名目で、ドズルの宇宙攻撃軍の大半は同盟を結んだサイドへ派遣され、各サイドが保持する防衛隊の中核となった。つまりジオン軍においては看板が掛け変わっただけで、実質軍の規模は維持されていると言う状態であった。

 一方で突撃機動軍は、従来通りに資源の確保目的で月のグラナダと地球の拠点を維持する事になった。ジオンが地球に作った中で、北米拠点キャルフォリニア基地、鉱山基地オデッサ、アフリカ拠点キンバライド基地に集約。他は地球連邦軍と共通利用という形となった。

 

 鉱山基地オデッサ。

 そこの一角に作られた一年戦争の戦没者の名が刻まれた慰霊碑の前で、シン・マツナガは花を捧げていた。

「やっと終戦か…」

「まだ軍事裁判の判決が出ただけだ。これからが本番と言える」

 そう言いアナベル・ガトーは、コーヒーの入った紙コップをシンに手渡した。

「レビルは戦死扱いか」

「まさか自軍の兵器が暴走して、それごと核で焼いたなどと、公表する訳にいかんだろう?」

 そう言い苦笑するガトーに対して、シンは苦い表情を見せる。

「ジャミトフには逃げられたな」

「極刑を逃れられんと本人が一番分かっているからな…逃亡を止めようとした部下を撃ったところを見ると、統制が取れなくなっているようだがな」

「だが、“ブルーディスティニー計画”に関係していたローレン・ナカモトにも逃げられた。結局EXAMシステム関係で裁けたのはワイアットのみではないか!」

 そう言いシンはコーヒーを一気に飲み干し、空の紙コップを握り潰した。

「軍籍剥奪の上に懲役20年か…ジャミトフの上司とも言えるコリニーが終身禁固刑……甘いな」

「主導で動いていたのはジャミトフだからな…ジオン軍と共同で無人MS機を核で焼いたエルランはともかく、ゴップは上手いこと躱したようだな」

 エルランは軍に残留し、コロニー間との調整および外交顧問として技術継承目的と言う名目で、再建顧問職に就いている。表向きは無人MSの早期排除の為に核使用したという泥を被ったこと、裏の事情としてジオン側に内通していた部分が配慮された結果であった。

 ゴップは公職引退し名誉顧問職に就いた。実務から外されたが、対民衆の緩衝材に残留する形である。ティアンムもまた同様な立場で、民間防衛指導の名目で、軍事顧問として技術継承をする形である。

「連邦軍は、ワッケインを中心に再編成をすると言う訳だな」

「EXAMの研究に同意するも導入には反対し、ルナツー防衛に回されたと言う話だからな。ルナツー陥落後の再編中に、ジャブローが降伏。徹底抗戦すべきというワイアットを抑え、宇宙軍を纏めて和平に貢献したと聞けば…な。新生連邦軍の象徴的人材として登用するのは妥当であろう」

「コーウェンやブレックスを重用するのも分かる。地球のアスタロス対策で、ジオン軍に協力的だったと聞いている。だがしかし…」

 そこで言葉を切り、シンは潰した紙コップを屑籠に投げ捨てる。その時…

 

「……何が不服かね? 戦時中に非人道的行為を働いた者は罰した。EXAMシステムの導入賛成派であった派閥の者は降格、上層部も親ジオンの人材にすげ替えた」

 

 突然背後から聞こえた声に驚き、シンとガトーは振り返る。

「マ司令……」

 オデッサの基地司令であるマ・クベの姿がそこにあった。

「まあ貴官らの気持ちは分からないわけではない。こちらも被害を被っている。戦争の勝者として、オデッサ、キャルフォリニア、キンバライドの資源の所有が認められたとは言え、アースノイドに対して今までの恨みを晴らしたいと言う心情は、誰しも持っているであろう」

「それは……」

「だが我らが問えるのは“戦争に対しての責任”のみ。それ以上の行為は、個人的な恨みを発端とした報復となる。そして他サイドはジオンが連邦をどうするかを注視している。私怨で動く蛮族か、理性的に動く統治者か…」

「……我らの行動次第で、現在中立となっているサイドが友好的にも、敵対者にもなり得ると?」

「次の戦いは始まっているのだよ。戦後に新たな秩序を構築すると言う、途方もない戦いがね」

 マの言葉を聞き、シンとガトーは顔を見合わせる。その様子を苦笑しつつ、マはさらに話を続ける。

「戦争の責任は誰か一人が背負うものではなく、“全体で”責任を分担せねばならない。我々も連邦も、全ての者が新たな国家運営を軌道に乗せねばならんのだ。そうでなければ…あの時全てを投げ打ったキシリア様に、顔向けできないであろう?」

 その言葉を聞き、ジオン軍を退役したキシリアの理念を受け継いだ突撃機動軍総司令、マ・クベ少将に向けてシンとガトーは背筋を伸ばして敬礼をした。

 

 サイド6、フラナガン医療センター。

 地下特別病棟、軍法医療区画。

 ここには、EXAMシステムに関連した強化人間の被害者や、軍事裁判を受ける軍関係者の中で傷病を持った者が収容されていた。

 そして、ジャミトフの腹心であったガディ・キンゼーもまた、そこに収容されている一人であった。

「久しぶりだな、ガディ大尉」

「……出世したようだな、ブライト大尉」

 面会に来た者を一瞥して、ガディは口を開く。そしてブライトの後ろに、リュウ・ホセイ、スレッガー・ロウの姿を見て、ため息を一つ吐く。

「軍事裁判の結果が出たのか?」

「そうだ。ガディ・キンゼー大尉、連邦監察局配属を命ずる。以上だ」

 そう言いブライトは辞令書をガディに渡した。

「………どういうことだ?」

 そう言いガディは戦慄きつつ受け取った紙を見直すが、自身に対する処罰について何も記されていなかった。

「何の冗談だ? ジャミトフ閣下の元で私は…」

「EXAM関連研究の兵站に関与していたな? それについては、ジャミトフ・ハイマン、ローレン・ナカモトの逃亡阻止しようとした事を鑑み、不起訴となった」

 リュウにそう告げられガディは、ジャミトフの逃亡に同行したジャマイカンに撃ち抜かれた左腹部へと、半ば無意識に手を伸ばしていた。

「正直おまえさんのやった事は可愛いもんでな、オーガスタ研究所やムラサメ研究所の連中の所業と比較すれば霞むほどだ。ムラサメは死亡、ローレンは逃亡、ゲッタ所長は終身刑の判決だ」

 スレッガーの言葉を聞き、ガディは盛大に顔を顰める。

「しかし自分は、キシリア・ザビを……」

「キシリア・ザビ女史は自ら協力した。書類上はそう処理されている」

 畳み掛けるようにブライトに言われ、ガディは悟る。「義を持ってジャミトフに背いた士官」として象徴に据えられ、残存しているジャミトフ派の掌握を求められていることに…

「バスク・オムはどうなった?」

 自身と同様にジャミトフらの逃亡阻止に失敗して負傷した、バスクへの判決についてガディは尋ねる。

「有罪判決が出た…が、穀倉地帯を復活させた英雄ガルマ・ザビと、イセリナ・エッシェンバッハ嬢との婚姻による恩赦で、実刑免除となった」

「で、バスクはどんな仕事を押し付けられた?」

「名誉監督職…と言ったところだな」

 リュウの言葉の意味が分からず唖然とした表情をするガディ。その様子を見て、ブライトらはただ苦笑するのであった。

 

「ふむ……バスク・オム監督官…ですかな?」

 

 目の前にいる強面の男に視線を向けつつ、フラナガンは尋ねる。

「はい。地球連邦軍のオーガスタ研究所およびムラサメ研究所の実験の被験者…強化人間と我らは呼んでおりましたが、その者たちの所謂保護者と考えていただければ結構です」

 フラナガン医療センターの特別応接室でフラナガンとシロッコは、バスクともう一人金髪の少女と対話していた。

「そして貴女がナナイ・ミゲル嬢ですな」

「あ……はい」

 13歳の少女である彼女は被験者としてオーガスタ研究所に連れてこられたが、途中でEXAMシステムとその派生品への研究へシフトした結果、研究者の助手に転職してローレンの弟子となっていた。

「すまないが、オーガスタ研究所について話してくれないかね?」

 北米にあった地球連邦軍の秘密研究所であるオーガスタ研究所、その存在を連邦軍は秘匿していたが、以前からジオンと内通していた連邦軍特務部隊「スレイヴ・レイス」の隊長であるトラヴィス・カークランドから情報が漏れて発覚。ジオンの北米派遣部隊「マルコシアス」と共同で制圧作戦を実施し、連邦軍のMSを鹵獲していた。

「ペイルライダーのことでしょうか?」

「そうです。保護したクロエ・クローチェ…ムラサメ研究所でニュータイプの素質なしとオーガスタに回された彼女の治療の手がかりを探していてね」

 ムラサメ研究所で保護されていたNo.3にあたる子供は助からず、元No.1であったクロエを、フラナガンは助けたいと考えていた。

「EXAMシステムを元に開発した戦闘用オペレーションシステム『HADESシステム』の影響かと…」

 パイロットを制御システムの一部として扱い、システムが演算した最適解を強制的にフィードバックさせる事で、高い反応速度を発揮する…HADESシステムであった。

「薬物によって身体能力をHADESシステムと同調させている…となれば、キシリア様に使っていたメーティス用の制御ナノマシンが有効かと思われます」

 シロッコの言葉にフラナガンは頷く。

「そのようだね。それとララァ特務少尉の力を借りるとしよう。他の強化人間の被験者にも効果があったからね」

 そう話を進める二人を見て、バスクが静かに尋ねる。

「……助かるんでしょうか?」

「ゼロ・ムラサメ、ドゥー・ムラサメ、フォウ・ムラサメ、ロザミア・バダム、ゲーツ・キャパ…皆の経過は順調です。半年もあれば、発作などは起こらなくなるでしょう」

「そうですか…しかし、もう普通の生活は…」

 被験者はまだ子供で孤児。

 被験の事実すら秘匿する必要がある上に、ニュータイプ並に感応が過敏となっている事から、一般的な孤児院に入れることも難しかった。

「それについてですが…来年度にフラナガン医療センターの付属学校が設立することになっています」

「付属学校?」

「はい。そこに通学させるのはどうですか? そうそう、ミゲルさん。貴女もそこに通うといいでしょう。まだ色々と学ぶべきだ」

 そう言いシロッコは、意味深な笑みを浮かべた。

 

 ********

 

 キャスバル・レム・ダイクン。

 

 地球連邦との戦後の混乱はまだ治らず、水面下で公国から共和国への移行準備が進められているものの、まだ当分の間はキャスバルがジオンの公主を務めていた。

 テーブルを挟み、キャスバルは一人の男と対峙していた。

 ジオン公国の木星エネルギー船団…ミノフスキー機関のエネルギー源であるヘリウム3の採取及び運搬に従事し、危険な任務においても何度も生還を果たした「木星帰りの男」。

 

 その名をシャリア・ブルと言う。

 

「で、大尉は私から何を感じるのだね?」

 キャスバルが尋ねると、シャリアは全てを見透かすような視線を少し伏せ、静かに口を開いた。

「……わたくしは陛下のようなお方は好きです。お心は大きくお持ちいただけるとジオンの為に素晴らしいことだと思われますな」

「よい忠告として受け取っておこう。私はまた、友人が増えたようだ」

「もし我々がニュータイプなら、ニュータイプ全体の平和の為に案ずるのです」

「人類全体の為に、という意味にとっていいのだな?」

「はい」

 シャリアの言葉に満足そうに頷き、キャスバルは机の上に一つの冊子を置く。

「それは、先日の打診について承諾したと受け取っても?」

「そうですね。お引き受けいたしましょう。ですから…部屋に入って来ていただけますか?」

 そう言うシャリアの言葉に対して、私キシリアは思わず笑みを浮かべてしまう。そして静かに応接室へと入りつつ、一礼をした。

「盗み聞きした形で失礼いたしました。来年度より設立予定のニュータイプを対象とした学校、『シャロン学園』の理事長を務めます、キシリア・ザビです」

「そしてキャスバル陛下が名誉学長というお話でしたな。良いでしょう、喜んで教員を務めさせていただきましょう」

 そう言いシャリアは、キャスバルが差し出した冊子…シャロン学園のパンフレットを一撫でした。

 





水曜日更新を基本にしたいと思います。
よろしくお願いします。

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