筆が進みましたので、更新します。
宇宙世紀0084年。
サイド6、パルダコロニー。
そこに所在するルナ・ライン先端研究所の隣の区画に、新たな学術施設が設立された。しかしそれは研究施設ではなく教育機関であった。
フラナガン医療センターの附属施設として開校したその学校の名は「シャロン学園」。
旧世紀の宗教関連の古文書で、“旧約聖書”と呼ばれる書籍に記されている“理想郷”の名を付けられたこの学園は、近年になって報告されている“ニュータイプ”と呼称される、人の精神波を感応する能力を持つ子供らのための教育機関であった。
そのシャロン学園の中等部に通う生徒の一人カミーユ・ビダンは、支給されている上着の左肩に刺繍されている学園の校章を眺める。
校章を最初に見た時は星と思っていたが、実際は花。トルケスタニカ…原種系の白チューリップをモチーフにしているらしい。一つの茎から複数の花を付けることから、校章には中央と左右の3つの花…それぞれ「理念」「理想」「理性」を意味すると、入学式の折にシロッコ学園長が語っていたことを思い出していた。
チューリップの花言葉は「思いやり」。花弁の白は「誠実」、「未来」。花の中央の黄色は「希望」。数年前に隣に引っ越してきたファ・ユイリィがそのようなことを言っていたと思い出していた時、カミーユに誰かが声を掛けてきた。
「待たせたね」
校門近くで立っていたカミーユに話しかけてきたのは、年上の幼馴染であり高等部の生徒であるアムロ・レイであった。
そして2人はそのまま移動する。カミーユとアムロは同じ「MS研究クラブ」に所属している。今日は週2回のクラブ活動の日ではないが、週1回のニュータイプ関連の座学と訓練がない日は、母親が自宅に居るアムロの家か、こうして繁華街にあるファストフード店に寄って、MSの設計図を見せ合う事が多かった。
ちなみに2人の当面の目標は、クラブの顧問で学園長であるパプテマス・シロッコの度肝を抜くようなMS設計図を書く事。互いにシロッコの手で真っ赤に添削された設計図を見せ合いつつ、バーガーを片手にカミーユとアムロを議論を重ねた。
その時、店の入り口で騒ぐ子供の声が聞こえてきた。
「あれは…バスクさんだね。と言うことは、一緒の子らは医療センターに通院している子たちかな?」
アムロの声を聞いて、カミーユは思わず背後の入り口の方を振り向いた。
そこにはバスクと共に入店してきた、4人の少女たちの姿があった。どうやら限定メニューの売り切れに文句を言うドゥーを、3人の少女らが嗜めているようであった。1人は最近退院して編入してきたクロエ、もう1人はロザミア、そして緑の髪を揺らす少女は…
「フォウ」
カミーユが思わず名を呼ぶと、気づいたらしくフォウが笑みを返してきた。
それに対してカミーユは何も返すことなく視線を外し、ソフトドリンクを一気に飲み始めた。
「……同級生かい?」
アムロの問いに肯くカミーユ。
「そして気になるのかい?」
思わず肯きそうになったが、カミーユは思わず残り少ないソフトドリンクの紙コップを握りつぶした。
「あ……アムロさん‼︎」
「はははっ、ごめんごめん」
「そんなんじゃ……ただ……」
「?」
「彼女…連邦の研究所に来る前の記憶がないんだそうです…それで気になって…」
連邦軍が行っていた、“最強の兵士”を生み出す研究。非人道的な凄惨な実験が行われた影響で、被験者であった“強化人間”達は皆、記憶障害や精神症状を抱えていると、学園の大学部で学び直しつつフラナガン医療センターで医療スタッフとして働いているアルテイシアから話を聞いていた。
そしてアムロも、一年戦争の折に連邦軍の研究所での被験で、精神を分解されて機械に収められ、無人MSを動かして“破壊”を強要された。特に精神を磨耗したため、そのリハビリで休学を余儀なくされ、今はこうして学園の高等部で勉強をし直していると言う状況であった。そして満足に教育を受けれなかったララァもまた、高等部に在籍していた。
「で、アムロさんは、アルテイシア様とララァさん、どっちが気になるんですか?」
思考を読み取ったらしく茶化してきたカミーユの言葉に、飲みかけのソフトドリンクが気管に入って、アムロは盛大に咳き込むのであった。
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私キシリア・ザビは、サイド6のリボーコロニーに新設されたルナ・ラインのシャトル駐機場を訪れていた。
パルダコロニーのルナ・ライン先端技術研究所に隣接していた、ルナ・ラインの駐機場が老朽化に伴う移設計画が持ち上がった。そして空き地となった旧駐機場を買い取って、そこにシャロン学園を作ったという経緯があった。新規駐機場ができてから随分経過していたが、今回ようやくリボーを訪れる機会ができたため、こうして視察に来たわけであった。
ちなみに目的の一つは…
「キシリア理事長、ルナ・ライン旅客輸送部門のイームズ・イズルハ部長との面会予約が取れました。明日の13:00とのことです」
「ご苦労様、カイル」
私はルナ・ライン先端技術研究所の所長、元側近のカイル・クラインにそう労う。
「それにしても、軍を辞めて学校経営ですか?」
「また個人資産が増えて、マレーネ義姉上に叱られてな。投資先を探していてちょうど良かった」
個人資産が増えた理由は、連邦からの独立戦争の折、連邦資本がサイド3から撤退した影響から経済市場の混乱を回避するため、買い支えていた大量のジオン公国の国債が原因であった。このジオン国債、連邦軍との戦争がジオンが勝利した結果、価値が急上昇したのだ。
「購入当時に、売れ残っていたリスクが高い変動金利を選択したのだが…」
「ああ、利率が上がったんですね」
「満期を迎えて恐ろしい額が返金された」
そして定年退職したミノフスキー博士を継いで、副所長…実質的な研究業務のトップとなったテム・レイは、「私への罪滅ぼし」と言って随分と頑張ってしまった。特許を量産した結果、株の配当金が跳ね上がってしまった。
ルナ・ラインの大株主の地位は何かと便利であるため、株を手放すことはできない。取り敢えず国債の満期償還分の内、前回の投資分と同額を再度国債の購入に宛てた。そして利率分と蓄積した株の配当金の全額を投入し、シャロン学園の初期投資費用とした。今後の株の配当金を学園の運営費に充てば、これ以上資産が増えることはない…はず!
「キシリア様……お金の使い方が違う気が…」
「確かに一個人が経営を支えると言うのは、健全な運営ではないな」
「いやそうじゃなくて、お金を減らすために投資するのは何か違う気が…また資産が倍増する未来しか見えないのですが…」
微妙に奥歯に物が挟まった言い方をするカイルを無視し、私は今後の学校経営について考えを巡らす。
「学校のスポンサーを集めているところではあるが…」
今の所、シュウ・ヤシマ、デアボロ・マス、それとガルマの義父であるヨーゼフ・エッシェンバッハが出資を申し出ていた。
「もしかして、この後にサイド1に向かわれるのは…」
「その一環だ。シャンホルスト・ブッホ…いや今はロナだったか。ジャンク屋から一代で、複合企業を叩き上げた遣り手と聞いている」
職業訓練学校をいずれ作りたいとか言っていたが、別世界の私がサブカルチャーで見た、どこぞの軍事組織やら海賊組織を連想させる名と設定。今のうちに接点を持った方が良いと、私は判断した次第である。
まだまだ地雷案件が多い宇宙世紀。
できる範囲で悲劇の芽を摘み取っておきたいと、私は考えていた。
翌日、13:00。
ルナ・ラインの幹部の一人で、旅客輸送部門のイームズ・イズルハ部長と私は面会していた。互いに時間が押していることから、挨拶もそこそこに本題に入る。
「火星との定期便…ですか?」
「O2/H2Oプラントコロニーを火星に売り込もうかと考えております」
ヤシマカンパニーとの協力で制作している、水と酸素の浄化および生成を行う「O2/H2Oプラントコロニー」。実は思ったほど各サイド内で普及していない。
その理由は、地球連邦に融通してもらった方が安価だからであった。
「ジオン公国は地球に拠点をお持ちでしたな。そこから得られる資源を他サイドへ輸出する気は?」
「そちらの方も価格でこちらが入る余地はないですね」
ジオン公国では自前のプラントコロニーで水、空気、食料品はすでに自己で賄えている。そこで地球産の資源を輸出しようとしたのだが、安い連邦産の物品が席巻している中で割り込む余地がなかった。
ジオンでは地球の現地労働者に正規の給与を与えている一方で、連邦は非正規の地球在住者を安い賃金で扱き使っている。人件費がそのまま価格に反映されることから、太刀打ちできない状態であった。
「ますますプラントコロニーの売り込みは、難しいですな。ジオンでは自国での生産に対して、補填をしているのでしたよね?」
「我が国は地球連邦から独立しました。国内で生活、経済が回るように統治している。それだけの話です」
私の言葉を聞きサイド6の政界と接点があるイズルハは押し黙った。
ジオンが独立を果たしたことから、サイド6は地球連邦に見切りをつけようとしている。
現状、ジオンと同盟関係を結んでいるサイド2とサイド5もまた、連邦からの独立を水面下で目指している。現状は治安維持費を徴収してジオン軍が治安維持を肩代わりしており、一方で各サイドの防衛軍の強化を進めているがまだ時間を要する見込みであった。そして経済規模の関係上、ジオンの共栄圏という形になる予定だ。
サイド1やサイド4もジオン共栄圏の参加を打診してきているのだが、「正直ジオンにはそこまでの体力はない」と兄サスロ内務大臣は苦い顔でぼやいていた。
「サイド6は素晴らしいですね。自サイド内で経済を回すのに充分すぎるほど潤っている。その余剰分で ”お友達“を増やすのもいいのでは?」
つまりサイド6を宗主として、サイド1とサイド4と共に独立した共栄圏の構築を提案している。そしていずれは、ジオン共栄圏と対等な関係での同盟を結べるようにしたいのだ。
しかし一つ大きな障壁があった。それは…
「なるほど、環境維持インフラを地球連邦政府に依存していては、色々と動くには障害がありますな」
国民の生存に関わる物資を、他国に委ねるなど安全保障の観点から許容できない。水、空気、食料をサイド内で需要を賄えなければ、スペースノイドは地球連邦から独立する事は不可能と言えた。
「しかし直ぐには方向転換は難しいでしょう」
「選択肢を持たぬ者は未来を選べぬ者です。サイド6ほどの力があれば、それは致命的な隙となるでしょう」
いずれ各サイドの者たちは決断するであろう。独立の選択ができるように、プラントコロニーの生産ラインを維持しなければならないのだ。
「……確かに火星では、プラントコロニーの需要がありそうですな」
「はい。一度導入すればメンテナンスや修理など、継続的な収益は確実です。しかしその為には、安定して地球圏と火星を行き来できる手段が必須となります」
そこがプラントコロニーの火星への売り込みで、ヤシマカンパニーが難色を示した部分であった。
「ふむ……設計者、技術者、整備員が2〜3年交代で単身赴任する形ですかな? つまり、往復の旅客需要は確実と?」
「浄化フィルターなどの各種消耗品、補給品は定期的に輸送する必要はあります。これらの物資輸送便の余剰スペースを、旅客に利用するのはいかがでしょうか?」
イズルハは考え込み始めた。
あともう一押し。
「それと……」
私は先日ハン博士とヒルダ博士から届いた報告書を、イズルハに見せる。
「ルナ・ライン先端技術研究所の研究で、低重力環境下で生成された結晶は高品質である事が証明されています。光学レンズ、レーザー発振器用結晶…高品質な工学結晶は今後需要が見込まれる産業かと」
「火星の重力は地球の約38%でしたかな? 火星に生産工場を作れば独占も可能。火星で生産した結晶をブランド化するというのもいいですね」
「研究所への打診は、カイル・クライン所長にご連絡いただければ」
私の言葉にイズルハは深く頷いた。
「民間機で片道の航行期間は、再接近期で一月半、最も遠い時期で3ヶ月となりますね」
「再接近の周期は2年半。そのタイミングで1〜2往復の臨時便という形が現実的かと」
その内容で旅客輸送部門の方でまとめ、企画書を本社へ提出するという形となった。
イズルハ部長との面談は上首尾で終える事ができた。
火星との定期便が安定したら、次は木星にプラントコロニーを売り込みたいところである。
応接室から一階に降りると、新たな護衛であるバーナード・ワイズマンが一人の少年の相手をしていた。
長年私の護衛に就いていたサイクロプス隊の手練であるアンディ・ストロースは、イセリナと結婚しエッシェンバッハの婿養子となったガルマの護衛へ配置換えとなっていた。義父ヨーゼフの地盤を引き継ぎ、地球連邦議会の議員を継いだガルマの身辺警護を強化するためである。
そして私キシリアの護衛に就いたのは、ガブリエル・ラミレス・ガルシアと新人のバーナードであった。こちらに気づくと、子供はイズルハの方へと駆け寄り、解放されたバーナードが耳打ちをしてきた。
「イズルハ部長のご子息、アルフレッドです」
サイド6のリボーに来たキシリアのもう一つの理由は、地球連邦軍が講和条約への抵触行為に対する噂を聞きつけたからであった。それはジオン公国に無断で、独自にMS開発をしていると言う噂であったが、「信憑性が低い」と情報を持ってきたニアーライトは重要視していない様子であった。
今いるリボーは、別世界の情報源の中で見た作品の一つで、実際に連邦軍が新型MSを密かに開発していた。その作品…“ポケットの中の戦争”の主要登場人物が、新人の護衛のバーナード、そして目の前にいる少年のアルフレッドであった。
更新は週1〜2になりそうです。
基本は水曜日、筆の進み具合で月または土に更新予定です。
あなたが好きなキャラクターは? ②
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キシリア・ザビ
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マ・クベ
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キャスバル・レム・ダイクン
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ギレン・ザビ
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ドズル・ザビ
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アムロ・レイ
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ララァ・スン
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ニアーライト
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シャリア・ブル
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パプティマス・シロッコ
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カミーユ・ビダン
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ジュドー・アーシタ