新作日間ランキングに入りました。
モビルスーツが出るどころか、まだ開発すらされていない時期である本作で、予想を遥かに超える反応で驚いています。
読者の皆様に感謝申し上げます!
スペースノイドの希望とも言えたジオン・ズム・ダイクンは、地球連邦から独立すると言う志半ばで倒れた。
緘口令があったにも関わらず、ジオンの死は民衆に伝わってしまい、至る所でデモが発生した。そしてサイド3に駐留している地球連邦軍の駐留部隊と民衆のデモ隊が衝突し、死傷者が出る騒ぎにまで至ったのであった。
民衆の熱狂にさらに拍車が掛かろうとした時に、ジオンの国葬が執り行われた。喪に服すと言うことでデモ隊は自然解散し、国葬以降は彼の冥福を悼むかのように一時的な小康状態となっていた。しかし精神的支柱であったジオンの死に対する怒りは、収まるどころか水面下で膨れ上がっているのは明らかであった。
そんな最中で、ある噂が流れる。それは先日のジオンの国葬で、ラル家によるザビ家暗殺が未然に防がれたと言う話であった。今現在、ラル家はジオンの遺族を己が屋敷に留め置いている事からも、権力の奪取狙いでテロを画策したのではないかと、民衆から疑われつつあった。
それと同時期に、ジオンの正妻であるローゼルシアとその派閥に属する者が多数巻き込まれた、4年前の宇宙港で起きた事故についてメディアが特集を組んで報道していた。側室が子を産んだことでジオンがローゼルシアを厭い排除しようと、ダイクン派のラル家が連邦の手を借りたと言う暗殺未遂説が、一部の界隈で騒がれたりしたのだが…
「ふざけるなっ‼︎ 4年前のアレは民衆がジオン議長へ不審を抱くのを避けるために、我が一族が敢えて泥を被ったのではないかっ‼︎」
CLUB Edenの店の最奥にある個室で、怒声と共に投げられた灰皿が直撃し、陰謀説を話すコメンテーターの額に突き刺さる形でテレビのモニターが破壊された。
青年……ランバ・ラルが荒い息を整えていたその時、一人の女性が個室に入ってきた。その女性の姿を見るや否や、ランバは罰が悪そうな顔をして、壊れたモニターから視線を外す。
「ハモンか。すまん、店の備品を壊して……」
「今までのツケと一緒に請求するから、問題ないわ。それより……厄介な客が来たわ」
「厄介な客?」
「ドズル・ザビよ。今はクランプが抑えているけど…貴方に会いたがっているわ。どうする?」
ハモンの店に迷惑は掛けられないと、ランバはドズルの入室を許可する。
巨体を縮こませてドアを潜ってきたドズルは、緊張した面持ちでランバに対峙した。しかしそれも最初のうちで、一度ソファーに座ってからは、ドズルは気負わぬ様子でランバに次々と世間話を振ってきた。具体的な用件を聞き出そうとすると、不自然なほど強引に話題を逸らし、そして先ほどから時間を気にしている様子で……
「っ‼︎ まさか屋敷に保安隊が⁈」
時間稼ぎをされていると気づけば、即座にドズルの目的をランバは看過する。そして乱暴に席を立ったランバの腕をドズルは掴み、強引にソファーへ座らせた。
「今帰って暴れたところで、お前も逮捕されるだけだ。俺はそれを望まない」
「ラル家に引導を渡したいのではないのか? お前らザビ家は‼︎」
「こちらの望みは、話の通じない当主から、柔軟な考えを持つ当主への代替わりだ」
数日前に行われた会議にて、同席していたドズルの前でキシリアは、デギンとギレンにある提案をした。
それはザビ家がラル家を追い落とすのではなく、跡継ぎのランバ・ラルがジンバ・ラルから実権を奪う内紛という形にできないかと言うことであった。
さらにキシリアは、ダイクン派の残党はランバ・ラルに押し付けて、纏めて監視できるようにした方が良いと、さらりと言葉を繋げた。それに対してギレンは、ラル家を継いだランバの元で反対派閥が纏まり力をつける危険性を言及した。それに対して、最近の世論操作で連邦との繋がりを民衆から疑われている上に、権力を奪取すれば同派閥の者が不審を抱くため、武人肌のランバは派閥を纏めきれないとキシリアは告げる。その言葉にサスロは、一理あると腕を組んで唸った。
そこまで話した後、キシリアが提案した“とんでもないこと”については、初めて目にしたと言っても過言ではない、長兄ギレンの驚愕した顔が見れたのだが…
キシリアのこれまでの性格を考慮し、事前に相談しただけでもマシと考え、ギレンは承諾の意を示す。一方デギンは、味方を一枚岩とする布石になると考え、あっさりと許可したのであった。政治が不得手であるドズルはそこまで深読みはできていなかったが、事前に手の内を明かした事で、キシリアがデギンやギレンに恭順を示している事くらいは理解している。だから……
「一刻も早く国内を掌握して、独立を勝ち取ることが先決ではないですか?」
そう言ったキシリアを、ドズルは信じようと思った。
「くだらない内輪揉めと連邦からの独立。お前はどちらに協力するのだ、ランバ・ラル?」
********
深夜。人目を避けるように武装した隊員を引き連れ、私キシリアはラル邸を訪れた。
ジンバ・ラルに任意同行を求めるも激しく抵抗され、結局ジンバは引きずられるように連れ出されることになった。
そして側近のカイルを責任者として、保安隊本部へと護送することになった一方で私は、どう言うわけかキャスバル・レム・ダイクンと対峙していた。前世で嗜んだサブカルチャーの情報が知らせる、キシリア・ザビにとって最大の最凶フラグと……
「これはこれは…夜分遅く、騒がせてしまったことをお詫び申し上げます」
取り敢えず私は、夜分に押しかけたことを謝罪する。
「……ジンバを捕えたとの事ですが、それは誰の命令ですか?」
「ムンゾ自治共和国政府、新議長のデギン・ソド・ザビが民意に押されて…と言えばいいでしょうかね」
「その民意と言うのは、あなた方が作ったものではないですか?」
「話したい事はそれですか? こちらは一人であるにも関わらず、そちらは屈強な男を引き連れ威圧された状態で、根拠も無い妄想で咎められる理由はありません。お暇してもよろしいでしょうか?」
そう言い放つと、キャスバルは背後に居た護衛らに退室するように促す。少しだけ抵抗した素振りを見せた後、結局は部屋を出ていく護衛たち。命令されたとは言え、そこは護衛対象から離れるべきでは無いだろうと唖然としつつ、周囲にまともな者が居ないキャスバルを少し哀れに思った。
それはともかく、暗に日を改めると伝えたつもりであったのだが、私はキャスバルと話さなくてはならない状況となった訳で…何が地雷か分からない未来のテロ組織製造機と、無難にコミュニケーションが可能なのかと不安になりつつも、取り敢えずはプライベートモードに近い形で接することにした。
「私にお話があると?」
「あなた方の目的は何ですか?」
「“あなた方”と言う事は、ザビ家を指した質問と言うことですね。それは興味本位からの質問ですか? ダイクン家として情報を得るための命令ですか?」
「……分かっているなら早い。ボクはジオン・ズム・ダイクンの子だ。キャスバル・レム・ダイクンが命じる。ボクの問いに嘘偽りなく答えろ!」
自分に逆らう者などいない、自分が危害を受ける事態など起きるはずも無い。そのような自信を滲ませた目を見て、私は思わず失笑してしまう。
「権力というのは、権威と力が揃うことで得られるものです。貴方にあるのは、偉大な人物の血を引いているという事実のみ」
「それはどういう……」
「逆説的に言うと、今の貴方にはそれ以外は何もない。それなのに何故、貴方の命令に従う必要があるのでしょうか?」
「っ! ボクの父を殺し権力を奪ったのは、貴方たちではないか⁈」
「なるほど、貴方が一番聞きたかった事はそれですか? しかし私が話したところで、既に貴方の中に存在する結論を裏付ける内容でなければ、納得しないのでは?」
「だからボクは命令している。嘘偽りなく答えろと。大きくなってまた、デギンや貴女を従えるんだ! その時に後悔したくなければ、ボクの問いに答えろ‼︎」
…………このガキの両手に手錠を掛けて、ガツンと身の程を分からせたいと言う気持ちが沸き上がる。
しかしそのような行為は前世の記憶と照らし合わせると、ショタコンかつ婦警さんSMプレイ趣味があると誤認される恐れがある。これから実行しようとしている策を考えると、それは大きなマイナスとなるのは明白であった。
何度か深呼吸をしつつ、目の前の少年の前に座り目線を合わせる。その青い瞳が私を見据えたのを見計らい、ゆっくりと口を開く。
「貴方の父君が死に至った要因を挙げていきましょう。その上であなた自身が判断したらどうですか?」
「そんな誤魔化しは…」
「連邦に理想を阻まれ続けて前議長は身心衰弱に陥っていた、これが一つ目。寝食を惜み職務をこなす為の薬を前議長は常用していた、これが二つ目。過激な演説内容を我が父デギンに諌められて激昂して発作を起こした、これが三つ目。倒れて脳死状態となった前議長の延命を我が兄ギレンが中止させた、これが四つ目」
「……それをボクに信じろと?」
「信じられなければ調べればいい。貴方自身の手で。与えられた情報だけで、あたかも自分で判断したように錯覚する。それは操り人形以外の何者でもない」
「……ボクはジンバに都合よく操られていると言うのか?」
「それを判断するのもまた、貴方自身では? こんな場所に閉じ込められたままでは、偏った情報しか見えない聞こえないでしょうが」
言いたいことを吐き出して、私はキャスバルに背を向ける。
「ついでに言っておきましょう。近日中にザビ家からダイクン家へある提案をしたいと思っております」
「提案?」
「提案の内容は、正式な場においてご説明いたしますが、今この場で一つお約束しましょう」
そこで振り返ると、年相応の表情を浮かべ小首を傾げたキャスバルが一瞬入った。見られていると気づいたキャスバルが即座に向けてきた厳しい視線を受け流し、私は続きの言葉を告げる。
「提案を受けていただければ、貴方の母君アストライア様と妹君アルテイシア様の身の安全と自由を保証致しましょう」
筆が進みましたので、木曜日更新しました。
第二章「ジオン自治共和国」篇に進みますか?
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いいえ