キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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前回も長めで微妙なところで切りましたが、今回も長めです。



51. キシリア様は推理人

 

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センター附属施設「シャロン学園」。

 

 高等部最終学年のアムロ・レイは、今後の進路を迷っていた。何故なら彼は“ニュータイプ“で、他の人とは少し違うからであった。

 シャロン学園はニュータイプの子供らの教育機関であるが開校からまだ数年で、将来的な展望は未知数。むしろアムロがその先頭を行くような感じであった。

「他の大学というのもあるけど…」

 通常の授業は普通の学校と同じ一般教養のカリキュラムである。

 シャロン学園ではそれに加えて、放課後週2回のニュータイプ能力の特別授業があるくらいであった。今日はその日で、ニュータイプ理論…フラナガンによる座学を受けた。その時に進路について相談したのだが、数年前に自身が身をもって経験した、自身の能力が“兵器”に転用されるという危険性を指摘された。

 その時、アムロのお腹が鳴る。

 成長期の身体は正直。アムロは寄宿舎併設の学生食堂へと足を運んだ。そこで知り合いを見つけたアムロは、側へと歩み寄った。

「カミーユ?」

「…アムロさん」

 最近は元・強化人間のフォウ・ムラサメと一緒に居ることが多かったが、今日は一人。沈んだ空気を読み取ったアムロは、唐揚げ盛り合わせを注文して受け取った。そして奢りと言わんばかりにカミーユの前に皿を置き、テーブル越しの席にアムロは座る。

 暫くしてカミーユは唐揚げを口に入れる。一つ、二つ食べたところでようやく口を開く。

「…フォウが記憶を取り戻したんです」

「よかったじゃないか」

「本当の名前は『キョウ』と教えてくれて…幼馴染を思い出したって」

 そこで言葉を止め、カミーユはコップの水を一気に飲み干す。

「幼馴染、ジルと言う名前で…手紙を書くって嬉しそうに言ってて…」

 カミーユはニュータイプ。

 知らなくてもいい感情を、感知してしまったようである。

「…飲み物は何がいい?」

「コーラ、2Lボトルで」

「一気飲みはやめてくれ」

 その時、学食で流されているテレビで速報が入る。

 

 サイド6のリボーコロニーで事故が発生。死者と行方不明者が多数発生しているという内容であった。

 

 サイド6、リボーコロニー近辺の宙域。

 宇宙空間に放り出された生存者の捜索と犠牲者の収容作業が、粛々と進められていた。

 作業艇や輸送艇が行き交う中、1隻の作業艇がデブリに紛れるように少しずつ離れていく。そして十分に離れたところで、突然加速を始めた。

 その作業艇のコックピットにいた二人は、自動操縦に切り替えた後に徐に作業上着を脱ぐ。その下から現れたのは、地球連邦軍の軍服であった。

 扉が開き、軍帽を深く被った士官軍服の男が入ってきた。

「輸送機との合流ポイントまでは?」

「あと30分です」

「すまないがどちらか一人、何か温かい飲み物を用意してくれたまえ」

「承知しました」

 そう言い下士官は操縦席を離れる。空いた席に座りつつ、連邦士官は気安げにもう一人の士官に話しかける。

「正直、回収が危うかったが…随分とリスクが高いとは思わないかね? ブルターク大尉?」

「暗殺計画の騒動に乗じての拉致計画です。そのくらいのリスクは仕方がないかと…」

「ふうん…“そのくらいのリスク“ねえ…」

 そう言い連邦士官が口を歪めたその時、下士官が紅茶セットを持参してコックピットに戻ってきた。

「遅かったな」

「すみません。手こずりまして…」

 そう言い下士官は右手を背に隠す。

「ま、いいでしょう」

 紅茶セットを受け取った士官は、ブルタークと下士官を残して、コックピットを後にした。そして歩み進んだ先、医務室の扉を開けつつ挨拶をした。

「ご機嫌いかがですか?」

 

 部屋の中央の椅子に拘束されていたのは、キシリア・ザビであった。

 

 作業艇は予定の航路を進み、そして大型輸送艇との合流ポイントに到達した。

 しかしそこには船影がなく、真新しい大小様々のデブリが漂うだけであった。そしてそのデブリの中に地球連邦軍のエンブレムを見つけ、ブルタークは何があったのか瞬時に理解する。 

 レーダーは乱れていて通信機は使用不能。ミノフスキー粒子が散布されているとブルタークは気づいたが既に遅かった。

 

 直後、衝撃を受ける。

 

 外を見たブルタークの視界の端に映る、高速で旋回する機体にあるジオンのエンブレム。

「ジオン軍のMSか⁈」

 搭載しているMSに出撃を命じようとしたブルタークの頭部に向けて、隣に座っていた下士官が銃口を向けた。

「……貴様…まさかっ⁈」

 言葉にできたのはそこまでて、不意を突かれたブルタークは制圧され拘束された。

 

 ギャンK(クリーガー)…マ・クベの愛機がビームサーベルで作業艇の推進器を切り離す。そこでようやく、ギャンKに追いついたヴァル・ヴァロ試作機が作業艇を拿捕した。

 そしてヴァル・ヴァロのケリィ大尉ら突入部隊が艇内に入り、マ・クベもまた後を追う形でギャンKから降りて突入した。

 医務室までたどり着いたマは、扉を開けると同時に銃を構えた。

 

 そこには、優雅に紅茶を飲むキシリアの姿があった。

 

 キシリアの傍らで平然とカップを支えているのは、連邦軍士官の制服を纏ったニアーライトであった。

「……宇宙に投げ出されたと聞きましたが…」

「流石に私もこれまでかと思いました」

 キシリアに平然とそう返され、マは安堵と呆れが混ざったため息を吐いた。

「何はともあれ…ご無事で何よりです」

 キシリアが避難時に着用していたのは、民間用の宇宙服。酸素供給能力は低く15分以内の救助が必要であるが、救難ビーコンは最低限で貧弱であった。今回のように外壁の部分破壊で噴出された場合、短時間で救難者捜索域を離れるため絶望的と言えた。

「暗殺を目眩しにした拉致計画で命拾いをしました。宇宙服に仕込まれた特殊ビーコンを頼りに、待ち構えていたMSに拾われたのです」

 そう言いキシリアは、意味深な視線をニアーライトに向ける。キシリアを速やかに回収するように動かしたのは、拉致計画の実行犯の中に潜入していたこの男なのであろう。

「それにしてもよく間に合ったわねえ、マ少将閣下」

「拉致後の脱出後の長距離移動には大型艇が必要。リボー周辺の巡回警備を逆算すれば、大型艇を潜ませる地点とタイミングの計算など容易なこと」

 いつものおネエ言葉で話しかけるニアーライトに対して答えつつ、マは銃をホルダーに戻した。

「ワタシからの情報は不要だったかしら?」

「予め連中の輸送艇を沈める必要があった。潜入していた貴様らだけで艦内を制圧できたのであれば、余計なお世話であったか?」

「こんな場所、キシリア様にいつまでも居て貰うわけにはいかないでしょう?」

「確かに…キシリア様、私のチベ改にお移り下さい」

「そうさせてもらいましょう。アルたちに心配を掛けていますからね。急ぎリボーまで送ってもらえますか?」

 軍の在籍時代とは異なり柔らかな口調ではあるが、依然として鋭く怜悧な視線を向けるキシリアに対して、マとニアーライトは敬礼を向けたのであった。

 

 ********

 

 サイド6、リボーコロニーに戻った私キシリアに対して、アルは泣きながら無事を喜んでくれた。

 ガブリエルにバーナード、シャリアやガトーらも守りきれなかったことを謝罪してきたが、今回は核・爆破・拉致 の複合構造。それを防げというのは余りにも酷と思うが…と言っても納得できるわけではないと、私も分かり始めていた。

 

 だから私は安易には死ねない、死んではならない。

 

 違法賭博とMS同士の闇バトルについて、現地に居たバーナードとガトーから詳細を聞く。

 ガーベラ・テトラのパイロットの生き残りの逮捕に成功し、送還を終えて会場に戻った時は既に人一人居なかったそうだ。

「避難ブロックでの生存者は?」

「通路に居たガブリエルとイズルハ部長、そして子供ら以外には確認されておりません。貴女と違い宇宙服未着用で…」

「証拠隠滅の口封じかと」

 バーナードが言いづらそうにしていた言葉を、ガトーが静かに引き継ぎそう言った。

「ガーベラ・テトラのパイロットは?」

「今、シャリア殿とシムス殿が尋問しております。ニュータイプですので、虚言は見抜けるかと思いますが…」

「末端である以上は、有力な情報は望めませんか……連邦軍の方は何と?」

「貴女の拉致を目論んだ者たちについては、取り調べ中の一点張りです。MS盗難と核による脅しは、退役後の者までは感知できぬと」

「核は闇バトル会場の地下に位置するコロニーの外壁、空気制御装置の液体酸素タンク群に設置されていましたが…ね」

 それはコロニーの破壊を本気で目論んでいた証左であった。退官後の者が1人で仕組んだとは考え難い。クリスの証言通り、連邦軍特殊部隊「エコーズ」が関与していると見た方がいいであろう。

「クリスチーナ・マッケンジーは?」

「こちらで保護しました。随分と取り乱していて…シーマ大佐が付いています。それから…連邦軍が引き渡すようにと、催促しております」

「拉致実行犯の引き渡し、及び本件におけるエコーズの再調査。その2つの条件を呑まない限りは引き渡さない。マ少将の方針通りに対応しております」

「エルラン顧問を介して、ワッケイン大将に連絡を取りました。フラナガン医療センターから診察と検査入院を申し出て、クリスチーナさんは保護します」

 私の言葉を聞き、バーナードは安堵の息を吐いた。連邦軍にクリスを引き渡したら、どうなるものか分かったものではない。精神不安を理由に入院させて、そこで得た情報で交渉した方が得策であろう。

 

 取り急ぎの情報共有と指示を終え、ガトーとバーナードは退室する。

 私は一息吐きつつ、マから受け取った報告書に目を通す。そして救出されてからリボーに戻るまで、チベの中での会話を思い出す。

 

 ニアーライトは独自の情報網で私の拉致計画を察していたが、マ・クベの情報源はキリングであった。

 

 宇宙攻撃軍は単独での兵站管理が必要となり、ジオン軍でそれを担ってきた突撃機動軍の人員とトレードを進めている。その一環でキリングが宇宙攻撃軍へ移籍予定なのだが、それを左遷と見たアナハイムの社員が接触してきた。

 マと相談した上で、キリングは接触して情報の引き出しに成功。信用させるためにムーア戦役の戦勝記念のワインを渡したと、キリングは嘆いていたらしい。私の拉致計画を掴んだマはニアーライトと情報共有し、マが輸送艇の排除、ニアーライトが潜入して現場を担当した。

「エコーズから直接恨みを買うようなことは……」

 そう言えば……あった。

 7年前のサイド3のモーゼスマウントで発生した、コロニー貨物船労働協会本部の襲撃事件。協会幹部は全員死亡しサイド3内のコロニー間の物流に影響を与えたこの事件は、表向きは火災事故とされていたが、エコーズが実行犯であった。終戦処理時に再調査を要求したところ、連邦軍は関与を認めた。結果エコーズのトップは収監され、隊の権限は大幅に削られた。

「エコーズを支援していた地球連邦議会議員、前の北米での選挙でガルマ様に敗れて席を失ったのよね。部隊自体を解体する噂も出ていたわ」

 ニアーライトの言葉を聞き、エコーズが私への殺意を爆発させた理由が判明したわけだが…

「暗殺はわかります。しかしなぜ拉致を?」

 引っかかっている部分はそこであった。

「確かにあの暗殺計画は目眩しにしては過剰ではないかと」

 マの言う通り、コロニーに核が仕掛けられ、避難ブロックにも仕掛けがあり……そこで宇宙空間に投げ出された私を探しての拉致。離脱は容易だが、拉致ではなく死体の回収になる可能性の方が高い。

「拉致犯の手がかりは?」

「私が入れ替わった拉致犯の所持品ですが…」

 そう言いニアーライトは一枚のカードを机の上に置く。それは地球の賭博組合の一つ、インターナショナル国債管理公社の社員証であった。

「違法賭博のシステムは洗練されていました。おそらく国債管理公社と関連があるのでしょう」

 おそらく違法賭博は、地球連邦の高官達の資金洗浄の場。だが今回、関係者を全て葬る徹底ぶりでエコーズは潰した。これは利用した対象を証拠隠滅のために処分する時と酷似していた。

 加えてアナハイムとの関係性だ。違法賭博と拉致犯だけではなく、核弾頭の警備をしていた暗殺犯のMSも同社製と判明している。

 

 そこで私はあることを思い出す。

 

「国債管理公社の総裁を、ジャミトフは務めていなかったか?」

 軍事裁判で死刑判決が出て逃亡した地球連邦軍の元高官の名が出て、マもニアーライトも静止する。

「暗殺犯はエコーズでアナハイムの依頼で違法賭博を利用。拉致犯は違法賭博と繋がりがある旧ジャミトフ派の一部。そしてアナハイムは両者と繋がっている」

 私の言葉を聞き、ニアーライトが眉間に皺を寄せる。

「エコーズが暗殺に見せかけて、拉致を企んだのではない?」

「エコーズの暗殺計画を陽動に使い、別組織が拉致を画策したということか」

「確かジャミトフと共にローレンが逃亡していたな?」

 EXAMシステムによる無人MS研究に携わった、最後の一人の名を口にしたことで、マもニアーライトも気づいたようである。

 

 ジャミトフらがEXAM計画を継続し、その制御装置として私を狙っている可能性に…

 

 そこに至り、私は別の懸念について思考を巡らせる。

 それはニュータイプの兵器化や強化人間の研究が行われる危険性だ。

 私が“次の計画”の前倒しを検討していると、マとニアーライトは私の警備体制の強化について話し合い始めていた。

「今のままで充分です。再来月にはリアナが産休から復帰して、影武者も付くわけですから…」

 気軽に動けなくなると口を挟むと、マは目を細めて私の方を見てきた。

「正直に申し上げます、キシリア様。今回の暗殺計画は、過去例を見ても比類なき成功率であると言っても過言ではありません」

「それに乗じた拉致計画もそうです。一手でも遅れていれば貴女を喪っていたでしょう」

「こんな事が続けば我らが先に潰れる…だからこそ、護衛体制を強化するのです」

「これ以上強化って……私を閉じ込めるつもり?」

 現時点で表向きの護衛に加えて「二重の防諜体制」と言う、超過保護な構成である。それも全て、キャスバルとギレンがマ・クベとニアーライトに依頼したからだ。その理由は…

「キシリア様。独立戦争末期の貴女の”行為“と、その結果貴女の身に起きた事、我々は忘れていませんよ!」

「敢えて単独で連邦軍に捕まり、EXAMシステム本体の無力化と引き換えに、どうなったかお忘れですか? あのような”悲劇“は二度と起こすわけにはいかないのです!」

 ニアーライトとマに言われ、私は押し黙る。あの時の私は死ぬ覚悟で敵地に赴き、特にこの二人とキャスバルに最大級のトラウマを植え付けた訳で…

 益々単独行動が不可能となる警戒体制が決まりつつある状況に、私はため息を一つ吐いて残りの紅茶を飲み干したのであった。

 

 いや……頼むから24時間監視は勘弁してほしい…

 





今回書いた暗殺計画、拉致計画はラスボスクラス。
これ以上の手は実質ない感じですね…

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  • キシリア・ザビ
  • マ・クベ
  • キャスバル・レム・ダイクン
  • ギレン・ザビ
  • ドズル・ザビ
  • アムロ・レイ
  • ララァ・スン
  • ニアーライト
  • シャリア・ブル
  • パプティマス・シロッコ
  • カミーユ・ビダン
  • ジュドー・アーシタ
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