キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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誤字脱字修正、コメントありがとうございます。
ちょっと本業が忙しくなりまして…更新ペースが落ちるかと思いますので、ご承知ください。



52. キシリア様は設立者

 

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センター附属施設「シャロン学園」。

 

「ジャミトフ・ハイマンに関してですが…地球圏に潜伏しているのは一部の部下のみで、ジャミトフ自身は既に木星圏に逃れた可能性が高いでしょう」

 

 シャロン学園の地下にある無窓会議室で、ニアーライトが徐に報告した。

「木星コロニーは『木星船団公社』の管理下ですよね? NGOとは言え、前身は地球連邦政府の組織。コロニー公社同様、実質は連邦の支配下では?」

 カイルの問いに、キャスバルは首を左右に振りつつ答える。

「木星で採取される『ヘリウム3』は戦略物質。故に先の講和条約で中立の不可侵組織と定められた」

「しかし片道2年、通信も送るだけで30分は掛かる。地球圏からの目が届きにくいでしょうな」

 シロッコの言葉に私は頷き、ジオン単独の木星航路を確立させたシャリアに、私は視線を向ける。

「実際どうなのだ?」

「逃げ込むことも、潜伏することも可能ですね。木星へ赴く船団は、長期間の星間航行のため、全長数kmの超大型輸送艦で構成されます。乗務員には高度な技能が求められますが、航行は極めて過酷ゆえに成り手は少ない」

「最近まで連邦軍の兵士だった者は、歓迎されると言う訳か」

 確か出航した木星資源採掘船ジュピトリスの物資は、12年契約でアナハイム・エレクトロニクス社が担当していたはず。

「アナハイム社のジュピトリス物資担当者は?」

「ウォン・リーです。しかし木星船団に同行しているとのことで…」

 黒に限りなく近いグレー。

 しかし現時点でこれ以上、アナハイムがジャミトフ逃亡に関与した事を追求する事は難しいであろう。ならば……

「私の暗殺計画…それに伴うリボーコロニー破壊未遂の件についてはどうなっている?」

 地球連邦軍との水面下の話し合いで、クリスチーナ・マッケンジーの退役およびこちらでの保護を認めさせる代わりに、暗殺計画の主犯であるエコーズの連邦軍内での処理…つまり連邦軍の部隊がコロニーにテロ紛い行為の隠蔽に同意した。まあクリスがこちらにいる以上は、何かあった時は彼女の証言を全面に出して話を蒸し返すつもりだが…

 一方で、エコーズにアナハイム社がMSを提供した事は明白。ガラハウ隊とアルビオン隊がMSを拿捕したことから、物的証拠は確保したのだが…

「エコーズに物資提供した担当者はアナハイム社のオサリバン常務。しかし…例の暗殺未遂事件の同日に亡くなったとのことで…」

 ニアーライトの言葉を聞き、キャスバルは苦々しい表情を見せる。

「口封じに加えてトカゲの尻尾切りか…手際のいいことだ」

「ジオン軍のキリングと接触した者は?」

「それもオサリバンでして……」

 私の暗殺犯と誘拐犯、両者へ兵器提供する担当者を集約していたようだ。

 …まだ終わっていない。

 連邦も、アナハイムも、ジャミトフも…おそらく全ての根は“同じところ”で絡み合っている。それこそが何を引き換えにしても潰さなければならない、この宇宙世紀に争乱を齎し続けている“黒幕”のはず…

 目星は付けてある。アナハイム社やビスト財団が台頭する前…それらが台頭する“お膳立て”をしたとすら噂されている、宇宙世紀以前から裏で世界を牛耳っている組織。

 ルオ商会。そしてその設立者である“ルオ・ウーミン”。

 

 私は…備えねばならない。

 

「報告はそこまでにして、会議に移りましょう」

 私の声を合図に、ニアーライトは一礼をして会議室を後にする。

 残ったのはシャロン学園の理事長である私、名誉学長のキャスバル、学園長のシロッコ、教員主任のシャリア、そしてルナ・ライン先端技術研究所の所長であるカイルであった。

「それでは、シャロン学園運営会議を始めます」

 進行を務めるカイルの宣言で、私たちは議題を進めていく。

 元・強化人間の擬似ニュータイプ能力が低下した事を受けて、「普通科」と「ニュータイプ科」と分ける事を検討。そして普通科は一般生徒の募集を掛けることになった。

 実は、ジオン国内で多数の託児施設と孤児院を経営している、アストライアから相談があったのだ。それは孤児たちの就学相談で、特待生や奨学金を受けるようになったとしても、学費以外の生活費等が賄えずに進学を断念する事が多いと言う。

 シャロン学園は、制服や運動着など被服費に加えて修学旅行費などを含む、純粋な学費以外の費用も全て免除、学生食堂や寄宿舎の利用費用も免除としている。このことから成績優秀者に対してニュータイプ能力の有無に関わらず門戸を広げれば、孤児たちの学習機会を奪わずに済むと考えた訳である。

 実母であるアストライアからの相談でもあって、キャスバルは承諾。運営費で懸念を示していたシロッコも、私以外に毎年定期的に寄付する者が複数現れたことで承諾した。

「キシリア理事長の理念はご立派です。しかし、そこまで資金を投入するのは過剰ではないかと…何かしら、社会貢献をする形をとらなければ、周囲は納得しないのでは?」

 そう懸念を示すシャリアの言葉は尤もである。そして敢えてそうなるように、私は話を持って行ったとも言えた。

 

「そこで私は提案する。我がシャロン学園で『ニュータイプ部隊』を設立したい」

 

 私の言葉を聞き、皆は一瞬押し黙る。

「ニュータイプ部隊……キシリア、君は教え子らを軍事目的に利用するつもりか?」

 半ば咎めるような声でキャスバルは尋ねる。確かに別世界の情報の中での私は、ニュータイプを兵器利用していた。しかしここでは…

「ここで改めて申し上げますが、ニュータイプを兵器として利用に対して、私は一貫して反対の立場です」

 ニュータイプを兵器利用すれば、一般兵をニュータイプに近づける“強化人間”に関連する研究も進むであろう。それがこの宇宙世紀で戦乱が続いた理由の一つであると、別世界の情報を解析した結果、私は確信していた。

 最善と言える状態で、ジオンは独立を果たした。戦後のスペースノイド全体の統治機構も、軌道に乗りつつある。それを御破産にしかねない戦争の再燃など、何を差し置いても阻止せねばならない!

 そのためには…

「ニュータイプ部隊は、ニュータイプの“イメージアップ”のための宣伝…と言ったところでしょうか?」

「宣伝……」

「イメージアップ?」

 聞き返すシロッコとシャリアの言葉に一つ頷き、私は概要案をスクリーンに映す。

「今の所は3つを想定しています」

 一つ目、「災害対応小隊」。

 主な任務は災害救助および探索活動。

 これは先日の暗殺未遂の時に痛感したのだが、事故で宇宙へと放り出された場合、特に爆発事故と併発した場合、デブリに紛れてビーコンを察知するのが困難で、救命率が著しく低いと言う。

 ニュータイプの精神感応による生体反応の探知があれば、速やかな救助に繋がるであろう。

 二つ目、「監査防衛小隊」。

 主な任務は犯罪抑止およびテロ未然防止。

 これも先日の暗殺未遂の時に気づいたのだが、シムスが殺意を拾い、リボーコロニーに設置された核弾頭の場所の割り出しに成功した。つまり、犯罪やテロの予兆として、群衆の中から不審な思考波の発生源を突き止められるのだ。

 ニュータイプの精神感応で悪意を事前に察知すれば、速やかなテロ対策に繋がるであろう。

 三つ目、「心療医療小隊」。

 主な任務は医療・精神ケア分野への協力。これもまた先日の暗殺未遂の時に判明したのだが、私の暗殺未遂を目の当たりにしたアルが一時的に声を出せなくなった。状況の聞き取りでシャリアが精神同調した結果、失声症が治ったと言う。

 ニュータイプの精神感応による精神同調が、トラウマ患者への精神ケアに繋がったと言える。

 

「君は……あのような事態に陥ったというのに、そんな事を考えていたのか?」

 半ば呆れた声で話しかけてきたキャスバルの方を見ると、他の者たちも呆れた視線を私に向けていた。その理由がわからず、私は思わず尋ねる。

「……何か?」

「いや……君はそう言う人間だった……」

 大きな溜息と共にキャスバルはそう言い捨てた。

「良い案だと思います。実は、大学部や高等部の生徒の一部から、今後の進路の不安が出ておりましたので」

 シャリアの言う通り、ニュータイプの子供らが大人になった後の行き先がない状態である。このニュータイプ部隊はその受け皿にもなる訳である。

「運営のための経費は?」

「当面は私が負担しますが、活動内容を開示してスポンサーを募集します。いずれは私の関与がなしでも、運営できればと考えております」

 私の回答に納得がいったように頷くシロッコ。一方でカイルは一瞬眉を顰めたが…一体どうしたと言うのであろうか?

 

 会議を終え、各々が会議室を後にする。

 同様に立ち去ろうとしたカイルに私は声を掛けた。

「カイル、部隊設立のために出資してくれないか? その肩書きで出資すれば、他の企業の者が出資する呼び水に……」

「……そうやって、自身の『枷』を少しずつ無くして、貴女さまはどうされるのですか?」

 快諾してくれるものと思いきや、カイルはいきなりそんな質問を投げかけてきた。

「…どうも何も、学園はほぼ私が出資したようなものだ。せめて部隊は、設立時の段階で複数から運営費を賄う形にせねば、健全な経営とは言えない」

「それは分かっておりますが……私には、貴女が全ての柵を捨てて、我々の前から立ち去る準備をしているように見えます」

 そう言いカイルは私の方を見据える。

 カイルは一番最初の側近で、おそらく今も接点のある他者の中では付き合いは一番長い。本来は兄サスロの部下であったが、今は私のためにルナ・ライン先端技術研究所の所長に収まり、サイド6とジオンとの折衝を担ってくれている。

 

 一人ため息をついて、私は一枚の写真をカイルに手渡す。

 

 最初は訝しみつつも、写真に写っているものを見て、カイルはみるみる内に血の気を失った。

「その写真は、独立戦争の最中に姪のミハルとミネバに面会した時の写真と推定される」

 そう、推定。

 何故ならこれば盗撮だからだ。

「その時、確か近くにお前がいたな?」

「それは……」

「それとこれと類似した画像データが、高額取引されていること、その関連性について貴様は何か知らないか?」

 

 画像データの取り引きが発覚したのは、3年ほど前、私がマ・クベへ突撃機動軍の司令を引き継がせた時であった。

 グラナダの突撃機動軍総司令官の執務室を引き渡す作業の時、マの私物から額縁に入った「ミネバを抱いて表情を緩めている私の写真」を見つけてしまったのだ。問いただしたら、ニアーライトやリアナも所持しており、私の画像データが出回っている事実が発覚した。

 そこで済めば良かったのだが、その数日後に兄であるギレン総帥に呼び出されて、予想もしていない事態を聞かされる。

「お前はコレを把握しているのか?」

 そう言いギレンが見せたのは、表情を緩めた私とミハル、ミネバの3人が映っている画像データであった。寝耳に水で訳がわからずギレンに尋ねると、画像データは没収したものと聞いた。

 撮影して方々に売り付けたのは、カイル・クライン。

 そこでようやく、私がドズルの娘のミネバ、サスロの娘のミハルと交流していた時に撮った画像データで、カイルが荒稼ぎしていた実態を把握した。ミハルとのツーショットを兄サスロが、ミネバとのツーショットを弟ドズルが高額で購入。私とミハル、ミネバの3人の写真は、サスロとドズルが提示する額を競り上げて取り合う騒動となり…

「私が没収した」

「……お手数をおかけして申し訳ございません。ところでギレン兄上、その画像データはどうなさるおつもりで?」

 そう尋ねる私からギレンは視線を逸らしたが……私は深く追求することなく、執務室を後にした。

 その後、サスロとドズルから取り上げる…のは必死で懇願してきたから止めて、複写して作成したアルバムを父デギンに贈ったが、喜んでもらえただろうか?

 

 それはさておき、騒動の元凶となったカイルを私は見据える。

 

「盗み撮りは肖像権の侵害……」

 私がそう呟くと、脱兎の如くその場からカイルは逃げ……ようとしたが、速攻で私の護衛のバーナードが取り押さえた。

 私の前に引っ立てられ、顔面蒼白で冷や汗を滲ませているカイルを見てため息一つ。マに追求した時は自裁しそうな勢いだったし、ニアーライトに追求した時は速攻で土下座をしてきた訳で……

 皆揃って私を何だと思っているのか‼︎

「申し訳ございません、キシリア様‼︎ データを回収して売上金も返金します!」

「もう良い。一度出回ったデータを、コピーも含めて全部回収できるわけなかろう」

 冷たくそう言い放つと、平伏から顔だけ上げたカイルの表情に絶望が浮かぶ。だから何故誰も彼も、生命の危機を感じるというのだ⁈

「第一、追求するつもりがあれば、発覚した3年前に問い詰めてます」

「と言う事は許していただ……」

「売上金はシャロン学園のニュータイプ特別部隊への出資に回しなさい。“ルナ・ライン先端技術研究所所長”の名目で」

 許したわけではなく、こう言う時の交渉カードに残しただけだ。

「それは……」

「良いな? 二度は言わぬ」

 そう言い切った私の言葉を聞き、半ば諦めた様子でカイルは頷いたのであった。





次回は来週水曜日更新予定。
余裕があれば土曜か月曜に更新します。

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