キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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かなり仕事が忙しいので、次回の更新は来週土曜日になる可能性が高いです。
早く仕上がったら、月曜日か水曜日に更新予定です。



53. キシリア様は操縦者

 月面都市「グラナダ」。

 

 突撃起動軍の総司令部、総司令官執務室でマ・クベは、ミネバを抱き穏やかな微笑を浮かべるキシリアの写真を見て、ため息を一つ吐いた。

「……キシリア様に平穏は訪れぬ。本人はそれを覚悟しているのであろうが……私は願わずにはいられぬのだ」

 サイド6リボーコロニーで起きた事件での対応は、まさに“綱渡り”だった。

 宇宙に投げ出され、キシリアの生死は不明。

 副官のウラガンからその報を耳にした瞬間、マの心臓が凍り奥で何かが崩れ落ちた。

 民間用スーツの酸素は十五分。救難ビーコンは脆弱で、漂流予測軌道が外れれば捜索は絶望的。故にこの報告が意味するところは、“死亡”とほぼ同義であった。

 そして「キシリア回収」という報告以降はニアーライトからの続報はなく、キシリアの“遺骸”を確認する覚悟で拉致犯の作業艇に突入したわけで…その先でキシリアが優雅に紅茶を飲む姿を見て、マの中で情報処理は一時的にパンクした。

 ニアーライトが“キシリア生存”の続報を入れ忘れたのは、救出した瞬間に彼の緊張の糸が切れたからである。諜報工作員としての腕“だけ”は最上級のあの男が…である。同様の事態がもう一度あれば、ニアーライトが壊れるのは確実であろう。それはマも同様で、実際にこの時は心が半ば折れ、こんな綱渡りが続けば守護する側が潰れると痛感した。

 

 軍を辞めて後方にいるから安全という認識は、今回の事件で夢想であると突きつけられた。これまでの所業で知れ渡った影響力と能力に付随する妬みや恐怖、そして連邦を中心とした津々浦々に渡った怨みを背負っているキシリアは、その“存在自体”が狙われる。例え要塞に閉じ込めたとしても、安寧はないだろう。

「ならば……どのような状況でもあっても、生き残るための“切り札”が必要だ!」

 紅茶を煽り飲み干したマは、シャロン学園へと通信を繋ぐ。程なく通信機越しに一人の男が姿を現した。

『マ・クベ少将。御用と伺いましたが』

「シロッコ学園長、サイド6で起きた事件の詳細は届いているであろう?」

『キシリア理事長がご無事で何よりでした。報道で一時的に生死不明と流れて、教員や生徒を宥めるのに苦労しましたよ』

「正直、最上位の成功率を誇る暗殺計画であった。軍事テロを2重に仕掛けられたようなものだ。防げたのは紙一重だ」

 マの言葉を聞き、シロッコは興味深そうに目を細めた。

『それで私に何を依頼したいと?』

「鉄壁の守りが約束された“絶対防御”を誇る機体を、私は欲している」

『ほう……絶対防御とは過剰ですな』

「むしろ過剰でなければ意味がない。常識を超えた防御力と制圧力を兼ね備えた機体こそ、キシリア様に相応しい」

 マの目には半ば狂気とも言える光が灯っている。それに気づきつつも、シロッコは微笑と共に承諾する。

『いいでしょう。お受け致します』

「即断とは珍しい」

『こちらとしても、リベンジをする良い機会なんですよ』

「リベンジ?」

『連邦とジオンとの戦争末期に製作したMSは、キシリア理事長の能力を活かしきれませんでしたからね。今なら、あの神の叡智そのものを最大限に引き出す“器”たるMSを、己が手で創れるはず…』

 シロッコの言葉を聞き、マはキシリアの持つ特異なニュータイプ能力…演算特化型の“Type-Z”のことを指していると気づいた。

 キシリアはMS乗りではないため、彼女の特性に合わせた機体が必要である。それに沿った設計を即座に走らせる鬼才を目の前に、彼に依頼した事は正解であったとマは確信した。

『閣下からの依頼となりますと…ギャンの系譜を基にする形で?』

「機動性重視となれば、それが最善であろう」

『閣下と私の発想と美学を掛け合わせる……宇宙の摂理すら干渉し得る傑作になりますよ。名はどうなさいます?』

 

「カリョーヴィン。迦陵頻伽。理性を謳い、理念を讃える…理想郷の象徴そのものだ」

 

 ********

 

 宇宙世紀0084年。

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センター附属施設「シャロン学園」。

 

 ニュータイプ部隊の設立準備が進められており、施設が着々と完成しつつあった。そして真新しい格納庫に、紫を基調に金と朱のラインが走る巨体が鎮座している。

 知らないところで勝手に造られていた、私キシリアの専用機だと言う。

「これが『カリョーヴィン』。貴女専用に設計した機体です」

 誇らしげに言うそう言うマ・クベ。その隣でシロッコが、艶やかな笑みを浮かべて高らかに宣言する。

「設計思想は単純です。絶対に死なせない。絶対に攻撃を通さない。絶対に負けない」

 シロッコの口から“絶対”という言葉が三度も出た。

 嫌な予感がしてならない。そんな私に気づくことなく2人は説明を始める。

「ミノフスキー粒子の制御で攻撃を全て偏向させ、光学迷彩による不可視化も可能。ビームも実弾も、装甲に届く前に無力化します」

「そして精神波への干渉機能。ニュータイプの直感さえ無効化できるでしょう」

 ……………はい⁈

 言葉通り受け取ると、この機体と敵対した相手は「攻撃が当たらない」「見えない」「ニュータイプも感知できない」と言うことになる。

「……やりすぎではないか⁈」

「「護るためですから」」

 マとシロッコは同時にそう言い切った。

 半ば引いた私に対して、マは細長い小さな箱を蓋を開けつつ見せる。

「これをお持ちください。メーティスとの接続ビーコンです」

 “メーティス”とは元々、EXAMシステムの無力化のために制作されたMS。その演算機を中心にAIとして制作した物が、カリョーヴィンに搭載されていた。

「これはメーティスとの通信・命令中継が可能な“起動キー”です。緊急時にビーコンを起動することで、メーティスから感応波形式に変換された信号が送出され、カリョーヴィンは“キシリア様の意思”を受け取り、即座に起動し迎撃行動を開始します」

 別世界の情報の中にある、ZやZZでカミーユやジュドーが自身のMSを呼び出していた方法と同様なのであろう。ただあちらは感応波で直接動かしたが、私の場合はメーティスを介して感応波を出し、カリョーヴィンを動かすと言うことになる。

 それはともかく…

「この形状は?」

 見た目はどう見ても扇子。要の部分は金、親骨は黒、扇面は紫で僅かに流水柄の光が走る。

「私がデザインしました」

 そう言い胸を張るマを見て、私は何も言い返せなかった。

 シロッコの指示に従って、扇子を少し開いて音声指示を出すと、モノアイが輝き起動した。通常時は指紋+音声コード+Type-Z脳波IDと言った3重認証らしい。因みに私の脳波から“恐怖”と言った異常を感知すれば、即座に起動し駆けつけると言う。

 過保護ではないか?

 

 カリョーヴィンの初陣は、シミュレーションで行われた。データ戦に挑むのは、精鋭と言っても差し支えがないシャロン学園の教師陣たち。

 シロッコ自身が操るジ・O試作機。

 シャリア・ブルとシムス・アル・バハロフのコンビによるキケロガ。

 クスコ・アルのエルメス・改。

 マリオン・ウェルチのキュベレイ試作機。

 

「カリョーヴィンの特殊機能の連続使用限界は3:00。模擬戦は2:30と致しましょう」

 

 模擬戦開始直後、メーティスの補助で私はカリョーヴィンを操作し、ミノフスキー粒子を散布する。

 粒子を感覚器のように展開し、メーティスが集めた情報を分析、解析、演算。算出された計算結果を元に、メーティスを介して粒子を操作した数秒後、カリョーヴィン周囲の空間が歪む。相手MSの動きが乱れたことから、目論見通りセンサーへの干渉に成功したようだ。

 迫り来るビームと実体弾を拡散し、直接攻撃は屈折構造の幻影で空振りにさせる。その隙に光学迷彩を完了させて移動。

 ビットを暴走させて自壊。ファンネルを乗っ取り、エルメスとキケロガにビームを浴びせる。驚き動きを止めたキュベレイに、私はミサイル・ランチャーを叩き込んだ。

 残ったジ・Oに位置を知られて反撃を受けるが、ビームを反射。回避行動に移った隙に操作した粒子を装甲内部から侵食させて、エネルギーを励起させる。

 次の瞬間、光と共にジ・Oが爆ぜた。

 

 結果:模擬戦相手は全機撃破。

 時間:二分〇八秒。

 カリョーヴィン損傷率:ゼロ。

 

 誰も口を開かない。言葉を失ったと言うべきであろう。

 そして私以外、誰もシミュレーターから出てこない。

 ようやくシロッコが出てきて、晴れやかな表情で口を開いた。

「概ね計算通りですね」

「やはりカリョーヴィンは理想的だ」

 シロッコとマ・クベはそう会話しているが、見学に来ていた高等部以上の生徒…アムロやハマーンたちは皆表情を引き攣らせた。

 キャスバルは、額に手を当て深いため息を吐く。

「……シロッコを関わせるからこうなるのだ」

「これは…兵器を超えてる……」

 中等部以下であったが、特別に見学に来ていたカミーユはそう言い視線を逸らし、ジュドーは顔を青ざめた。

「やべぇ……勝てる奴なんているのかよ?」

 

 この機体を凶悪なものとしているのは、主兵装ではなく散布弾や煙幕弾ポッドが放出するミノフスキー粒子であった。

 最近の研究で、ニュータイプは感応波でミノフスキー粒子を操作することができると強く示唆されていた。つまり、I・フィールドの擬似生成、逆位相フィールドの反射力場の形成、偏光及び屈折制御による光学迷彩が、ミノフスキー粒子の流れや配列を操作できれば可能と言うことである。膨大かつ緻密な演算計算の上で、精密に粒子操作をする必要があるが…

 理屈理論はわかる。別世界の情報にある「“逆シャア”でのアクシズ・ショック」や「“UC”でのバンシィのソーラー・レイ反射」は、まさしく“それ”が原因であろう。問題はその“奇跡”を、自在に顕現させてしまうことである。おまけにミノフスキー粒子の信号を改竄して、相手の精神情報を撹乱できるという…

 正に“ニュータイプ・キラー”、カリョーヴィン。ギャン系譜の発展形でありながら、その本質は「超高度演算とミノフスキー粒子制御による戦略兵器」。

 

「いや……実際はここまで上手くいくとは…」

 じりじりと遠巻きにされつつある状況に耐えかねて私がそう言うと、シロッコが笑みを浮かべて口を開く。

「そうですね。折角ですから実機の模擬試験をしましょう」

 

 そして今私は、カリョーヴィンのコックピットの中にいる。

 対峙しているのはZガンダム試作機に乗ったアムロと、百式試作機に乗ったキャスバルであった。

「最高峰のMSパイロット二人か……」

『恐縮です……』

『準備はいいか、キシリア』

「ええ。お願いします」

 開始の信号と同時に、白と金の二機が同時に推進剤を吹かし、宙域を切り裂いた。

 私は煙幕弾ポッドからミノフスキー粒子を散布させつつ、操縦桿を握り直す。式典等でMSを乗る事があるため、初めて実機を操縦する訳ではない。しかし運転期間が圧倒的に少ない私は、単純な動きをするだけが限度で…

 エースの中でも最強とも言える“白い悪魔”と“赤い彗星”とでは勝負にならない。その筈であったが…

 

 先陣を切って百式がクレイ・バズーカを全弾発射。一方、私の演算結果を反映してミノフスキー粒子の流れが組変わり、緑色を帯びた光が波打つ。機体に到達する前に、運動エネルギーを相殺された実弾は停止した。

 百式は着弾を待たずに突進。異常が見られた範囲から位置を予測し、ビーム・サーベルを振り下ろす。

『何⁈』

 カリョーヴィンの姿は粒子に溶け込むように消え、百式の斬撃は虚空を切る。モニター越しに見える百式の背に向けて、私は双刃を展開したビーム・スピアを軽く当てた。

『命中判定。百式、撃破』

 審判役のシャリアが告げる。

『そこっ‼︎』

 直後、Ζガンダムのビームライフルが閃光を放つ。光学迷彩をものともしない精密射撃は見事。しかし…

 カリョーヴィンの周囲に青白く光る幕が走り、ビームが屈折して宙域に散った。同時に屈折構造へと粒子流を組み替えて、幻影を無数に作る。もちろん精神干渉も相乗させる形で。

 困惑しているZガンダムの目の前で私は光学迷彩を解く。アムロが動揺した瞬間、コックピット部分にビーム・スピアを突きつけた。

 

 一足先に格納庫に戻りコックピットから降りた私は、無傷の自分の専用機を見て思わず溜息を吐いた。

「カリョーヴィン…か」

 そう呟いた時、Zガンダムと百式が戻ってきた。

「はっきり言って引いたぞ…これは“悪夢”だ」

 百式のコックピットから降りたキャスバルは、冷ややかに吐き捨てるように言った。

 続いてZガンダムから降りて歩み寄りつつ、アムロも視線を鋭くする。

「もし暴走したら宇宙そのものが危機に陥りませんか?」

 素直に不安を語るアムロの質問に対して、私は静かに首を振った。

「この機体の能力の本質は“攻撃の無効化と反転”…それに私のニュータイプ能力の性質上、感情的に操作することはできない」

「どういう事だ?」

「Type-Zの高度な演算は中立的な思考が前提。感情や我欲に溺れれば、膨大な情報制御が破綻して自滅するでしょう」

「……つまりお前がこの力を保てるのは、中立を貫いている間だけというわけか」

 私の説明を聞き、キャスバルが小さく目を細めつつそう言った。

「そうだとしても……これじゃあ、サイコミュシステムを使った兵器競争も意味がないな」

 ヘルメットを抱えてアムロはそう呟く。

「ニュータイプを兵器に…と言う話は茶番になるな。カリョーヴィン1機で鏖殺される」

 呆れが混じったキャスバルの言葉を聞き、私は思わず頭を抱える。

 カリョーヴィンの存在自体が、サイコミュシステムの兵器開発競争の種火に、氷山を投げ込む程のインパクトを与えるのは間違いない。莫大な資金を投入して開発を進めても、私がカリョーヴィンを駆れば一蹴される。自ずと研究は下火になるのは明白であり、それは私の望んでいた事ではあるが…

 

「試乗はいかがだったでしょうか?」

 

 沈黙が落ちかけた時、マ・クベとシロッコが格納庫に入ってきた。

 来たな…このブッ壊れ性能MSを造った元凶共‼︎

「これは……まるで暗器か処刑具ではないか‼︎」

 思わず声を荒げて私はマを軽く睨む。

「マ‼︎ 貴様は私を兵器として利用するつもりか⁈」

 マ・クベは、安堵に満ちた笑みを浮かべて静かに言った。

「違います。これは護るためのもの。貴女を二度と失わないため、貴女の為に造った、貴女への献上品です」

 嗚呼……ダメだわ…コイツ……

「シロッコ‼︎ 私は化物の象徴になるつもりはない‼︎」

 シロッコは恍惚とした微笑みと共に、恭しく頭を垂れた。

「違います。これぞまさしく極楽の迦陵頻伽。その説法が宇宙を震わせる日を、私は愉しみにしております」

 楽しんでいるのは貴様だけだ‼︎

 悪びれるどころか達成感すら滲ませる二人に溜息を吐き、私は再度カリョーヴィンを見やった。

 

「こんな代物…どう扱えと言うのだ…」

 





⚪︎キシリア専用機の補足情報
 機体名:カリョーヴィン(迦陵頻)
 監修:マ・クベ
 設計:パプティマス・シロッコ
 開発:ルナ・ライン先端技術研究所(副所長テム・レイ、MS開発検証部門部長フランクリン・ビダン、同部門副部長モスク・ハン)
 協力:トレノフ・Y・ミノフスキー、フラナガン・ロム
 イメージ資料:https://mslexicon.sakura.ne.jp/wiki/wiki.cgi?page=%A5%AB%A5%EA%A5%E7%A1%BC%A5%F4%A5%A3%A5%F3

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