少し長めです。はっきり言って本話は難産でした(汗)。
今週まで本業が忙しいので、更新は控え目になるかと思います。
木星船団公社。
最短でも5億kmの距離を片道2年、採掘作業で2年、計6年の歳月をかけて航行し、木星の資源を地球圏へともたらすため地球連邦により設立された大規模非政府組織(NGO)。
核融合炉を稼働させるために必要な、ヘリウム3の運搬を行っていることから、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉による技術革新以降は特に重要視されており、連邦軍とジオン軍双方から保護対象とする約定が結ばれている事実上不可侵の組織である。
そしてジオン公国の独立戦争の影響で、サイド1とサイド4で多くのコロニーが破壊された。新規コロニーの動力源だけではなく、復旧作業に従事するMW(モビルワーカー)の稼働にもヘリウムが必要不可欠であった。
そして旗艦である資源採掘艦「ジュピトリス」を中心とした「木星船団」は、0083年に木星に到着していた。それから2年…ヘリウム3の採掘を終えて地球圏に向けての出航を控える中、ジャミトフ・ハイマンは同行していたアナハイムのウォン・リーを呼び出した。
「ジャミトフ閣下、要件は……」
「貴様、ジャマイカンに何を吹き込んだ⁈」
挨拶もなく苛立った様子で、ジャミトフは尋ねる。
「何も……ただ、閣下の真の目的を話しただけですよ」
さらりとそう言ったところ、ジャミトフに胸倉を掴まれるウォン。それに意を介する事なく、ウォンは何事でもないような声色で言葉を続ける。
「貴方が連れてきた者全てを木星に留めおく…いや地球圏から隔離すると言ったところですか?」
ウォンに目論みが全て知られていた事、そしてそれがすでにジャマイカンに知られた事を認識して、ジャミトフは苦々しい表情でウォンから手を離した。
「貴様ら……一体何を⁈」
「木星船団公社の最高責任者であるクラックス・ドゥガチは地球圏の勢力の弱体化が望み、ジャマイカンが程よく暴れることを期待している」
「そうではない‼︎ 貴様ら“戦争屋”の目的は何だ⁈」
「貴方の口から答えが出ていますがね」
ウォンがそう言うや否やジャマイカンらが押し入り、ジャミトフに銃口を向ける。
「ジャマイカン! 貴様……」
「閣下……我々は貴方の理念に賛同してここまで付いてきました。それなのに、ここで朽ち果てろとは…受け入れられるわけがない!」
「……我々は表舞台から消えるべきであろう」
「裏切り者のガディに譲れと? 貴方が設立する筈であった『ティターンズ』を名乗り、連邦軍に居座り続けているアイツに⁈ ならばこちらは『真正ティターンズ』を名乗るまで!」
狂気を目に宿したジャマイカンに対して、ジャミトフはそれ以上対話を試みることを止めた。
ジャミトフは理解していた。軍事裁判は“すでに起きた”罪を断罪する場で、既遂犯を見せしめにできたとしても、暴発する未来の火種を摘むことは出来ないことを…
ジャミトフには見えていた。敗戦の憎悪に駆られた者、失脚を恐れて牙を剥く者、思想を免罪符として暴れるしか能のない者たちが、再び戦乱を起こす火種になると…
だからジャミトフは、彼らをまとめて木星に連れてきた。軍事裁判では裁けぬ”未然の罪“を地球圏から引き離すために。そして自身も、その檻の中で果てる覚悟であった。
「それすらも出来ぬとは……な」
拘束にかかる兵士たちの手を振り払うこともせず、ジャミトフは静かに瞼を閉じた。
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宇宙世紀0086年。
サイド6、パルダコロニー。近辺宙域。
シャロン学園の地球圏共同特務隊「シャロン・フェアリー隊」の母艦となる戦艦の改修が終わり、その就役式が行われた。
地球連邦軍のペガサス級をルナ・ライン先端技術研究所で改修して生まれ変わった2つの戦艦は、「アーガマ」「ラーディッシュ」と名付けられた。そして、シャロン・フェアリー隊の隊員への技術移転を目的に派遣された戦艦運用人員の中で、ブライト・ノアとヘンケン・ベッケナーがそれぞれの艦長を当面務めることになった。
私キシリアはシャロン学園の理事長室で、シャロン学園の視察に来たギレン・ザビ総帥と共に就役式の様子を見ていた。
「アーガマの副艦長をバスク・オム…元・連邦士官に任せて、彼に技術移転すると聞いたが?」
兄ギレンは相変わらずの低い美声で尋ねる。
「はい。艦長に適した者がなかなか居らず、唯一適性があった学生もまだ中等部で不安の声もあり、教官の方からも人員を出したのです」
元・強化人間の生徒らの治療完了を機に本学園の教員に迎え、そして基礎知識があった事を理由にバスクを抜擢したのであった。
そう言うとギレンは珍しく複雑な表情を見せる。
「何か?」
「……お前が気にしないのであれば構わん」
過去にあった永久保管未遂の時、EXAMシステム本体の制御装置扱いされた時、バスクが立ち会ったことを気にしているのであろうか? マにも似たようなことを言及された訳だが…任務を全うしただけの行為に対して、私情で責める方が理解し難いが…
就役式が終わり、私はギレンを学生食堂へと案内する。
学生が寛げないことから、私が学食を使用するときに使っている応接スペースへと向かう。すでに食事は用意されており、ギレンの秘書のセシリアとその部下が内容を改め終えていた。ジオン公国の総帥であるギレンは、相変わらず暗殺未遂が絶えないらしい。
「随分と食材が揃えられるものだな」
並べられてる昼食を見て、ギレンは目を細める。
今日の昼食は、ローストビーフ、ロールパン、サラダ、コーンスープ、苺である。食器等は来客用だが、食事の内容は学生と同じとなっている。
「加工品や保存食ではなく、生鮮に近い形での提供か…」
「合成牛肉は、本学園で学生らが進めている研究によるもの、野菜と果実は学生の実習と研究の成果物です」
「成果を直ちに還元し互いに評価する…達成感と社会性を育てる上で合理的だな」
ギレンは黙々と食事を口に運びながら、冷徹に分析を始める一方で、セシリアが疑問を口にする。
「ですがここまで生活基盤にまで踏み込む必要があるのでしょうか?」
「シャロン学園は、総合教育とニュータイプの支援機能を持つ場。MSのシミュレーターや救助や戦闘訓練用のVR施設だけではなく、機械工学施設、バイオ研究実験室、屋内試験農場も取り揃えております」
「そんな事までやっておられるのですか⁈」
驚いたセシリアは思わずそう尋ねる。サラダを食べ終えたギレンがコーンスープに視線を落としつつ、低く呟くように口を開く。
「確か一時期、ガルマを教官に招いていたな?」
「はい。今でも年に2回ほどガルマは特別授業を受け持っております」
そう言い私は苺を口に入れる。以前より甘みが増している。生産量の向上が課題だが。
「ニュータイプという存在が判明した当初は、戦場を支配する戦力と見る者も居たが…社会基盤の発展にも貢献しうるわけだな?」
「彼らの超感覚は戦場での優位性に留まらず、心理療法、災害救助、そして微細な変化に気づき究明していく研究分野においても、活躍できる可能性を秘めております」
「学園の狙いは、ニュータイプを“新しい人材”として組み込むことか」
「軍事訓練だけでは、兵を育てることはできても共同体は育ちません。この学園は、国家の礎となる社会的資源を育てる場なのです」
食事を終えた私とギレンは応接室へと戻る。
室内には既に二人の男性の姿があった。一人はシャロン学園の名誉学長であるキャスバル。そしてもう一人は…
「マイッツァー・ロナと申します。お目に掛かれて光栄ですな、ギレン・ザビ総帥閣下、キシリア・ザビ理事長」
私が持つ別世界由来の情報の中にある、悲劇を引き起こす種子の一つ。それがマイッツァー・ロナが設立したブッホ・コンツェルンの職業訓練学校。シャロン学園への寄付金の見返りに、本学園から職業訓練学校への教員派遣を打診したところ、学校設立者であるマイッツァーが学園の視察を要望してきたのだ。
このマイッツァーの視察日、キャスバルの来校日、そしてギレンの視察日と同日にした。流石に不意打ちは避けるべきと考え、それぞれに打診したところ同意を得ることができたわけだが…
「キャスバル陛下の父君…ジオン元議長の提唱された『ジオニズム』、そしてギレン閣下の著書である『優性人類生存説』には深く感銘を受けております。場を整えていただきましたキシリア理事長には、改めて感謝申し上げる」
紅茶で喉を潤し、私は徐に口を開いた。
「いかがでしたでしょうか? シャロン学園は?」
感想を尋ねられ、ギレンは静かに口を開く。
「目に見える形で成果が還元される仕組みは良い。成果を挙げるためには秩序と統制が不可欠…その集団教育の場としては、一定の評価ができると言えよう」
「学園の教育は、学生に主体的な判断と成果を求めるものと見受けられる。自律的に考え己の判断で行動し、民を導く者を育てる場として感銘を受けました」
ギレンに続いて、マイッツァーも学園に対して好意的な感想を口にし、私は静かに笑みを浮かべる。
「本学園は理念、理性、理想を掲げた教育機関。そこを理解していただけて、私も嬉しく思います」
「理想……ですか。恐れながら…シャロン学園におけるキャスバル陛下の理想像は?」
「ご存知かと思いますが、私もまたニュータイプです。その共感力を持って、支配ではなく共存を導く民意を持った、指導的人材を輩出するための養成機関が目指す姿ですね」
マイッツァーの問いに柔らかく答えるキャスバルに対して、ギレンは苦笑を浮かべる。
「我が公主陛下は、些か夢想が過ぎるところがありましてな…」
「しかしそれはスペースノイドに覚醒を促し未来を切り拓くという、ジオニズムの精神を教育機関に落とし込むということ。素晴らしき理想かと思われます」
ギレンの言葉にそう反論するマイッツァーに、キャスバルは「恐縮です」と答える。
「理念として平等主義は御立派ですが…今だに無知である民を導く者がやはり必要ではありませんかな?」
「『コスモ貴族主義』でありましたかな?」
そう尋ねるキャスバルの言葉に、マイッツァーは目を細める。
「ほう…ジオン公国の公主がご存じとは…光栄でありますな」
「しかし血統や階級による線引きはやがて、地位と権力にしがみ付く者を生み国を腐敗させる」
「ギレン総帥の仰る通り。祖先が高潔であるからと言って、子孫がそうなるとは限らない」
支持するような言葉を発するも、キャスバルは鋭い眼光をギレンに向けつつ言葉を続ける。
「故に成果を示す者こそが指導者に相応しい。そして成果を挙げるためには、秩序と統制が不可欠という考えも理解できる。しかし…統制だけでは民衆が盲従に陥る」
「然り。民衆の盲従を防ぐには、判断できる“選ばれし者”が導く必要がある」
キャスバルの言葉に追従するような姿勢を見せるマイッツァーに対して、ギレンは目を細めて尚も静かに反論する。
「選ばれし者もまた統制の中で律されねばならん。統制がなければ国家は瓦解する」
「その律し方は民意で担保されるべきだ。理想と民意がなければ国家は暴走する」
「民意に一貫性など期待できぬ。故に自覚と責任を持つ指導階層が必要なのだ」
ギレン・ザビ、キャスバル・レム・ダイクン、マイッツァー・ロナ。
この3人が互いの主義主張の不備を指摘し合い議論を重ねる様を見て、私は思わずを笑みを浮かべてしまう。
別世界の情報の中のように、孤立して己の思想に固執し暴走した挙句引き起こした虐殺も破局も、今目の前に設けたような場があれば防げたのではないか…と。私はそのような事を考えていた。
「キシリア?」
私が先ほどから発言をしないからか、突然笑みを浮かべたからなのか、訝しげな視線を向けつつキャスバルが名を呼び。
「失礼……3者とも、相手方の意見に一定の理解を示していると思いました故」
「……どういうことだ?」
「相手の主張の全否定ではなく不備を指摘している。つまり、全員が互いの意見に一理あると認識している」
私の言葉を聞き、3人とも絶句する。
「つまり『全てが正しい。しかし単独では必ず歪む』…そういうことではないでしょうか?」
「我々全員の主義主張の組み合わせこそが最適解だと?」
「予測となりますが……それが出来ているのであれば、地球があの様な有様になっているとは思えませんので」
私がそう答えると、マイッツァーは複雑な表情を見せる。唯一と決め付けていた己が主義に、揺らぎが生まれたのであろう。
「多様性を認めるということか…それではスペースノイドを一致団結させる事は難しいであろう?」
「だからこそ複数の共栄圏に分けるのです」
連邦に要求するにせよ対抗するにせよ、各サイドの単独では限界があり、各個撃破されるのは明白。複数のサイドで纏まる以外に方法がないことなど、この場にいる全員が理解していた。
「しかしサイド1のロナ家の思想は、サイド4、サイド6とは大いに異なる。これでは纏まるわけがない」
「同一思想では無く、利益関係で繋がる関係にすれば良いだけです」
疑問を呈するギレンとキャスバルにそれぞれ答えて、私はマイッツァーに視線を向ける。
「サイド1、サイド4を加えた共栄圏の設立を、サイド6のランク政権は目指している事はご存知ですよね?」
「どっち付かずの蝙蝠で肥え太った輩の浅知恵…経済力はあれど武力が無ければ意味はない」
「逆を言えば経済力“は”あります。連邦に破壊された、サイド1の工業コロニー群を建て直せるほどの…MSや戦艦がなければ、人材を育成したところで戦力とはならない。違いますか?」
私の言葉を聞きマイッツァーは押し黙る。彼がシャロン学園へ視察に来た一番の理由は、シャロン・フェアリー隊が兵装備を揃えた方法を探るためである事は、最初から分かっていた。
「……サイド6が経済を、我がサイド1が軍事を…と言う事ですかな?」
「その通りです。そのための人材育成の一助となるのであれば、本学園から職業訓練学校への教員派遣は、吝かではありません」
そう言い私は、カリョーヴィンの起動キーである扇子を開き、優雅に自身に向けて風を送った。その様を見てキャスバルは一瞬物凄い表情をこちらに向けたが… マイッツァーはその様子に気づくこと無く暫し思案する。
そしてギレンに確認するような視線をマイッツァーは向ける。
「閣下が新たに提唱し、この10年で実証した『民全体の生活向上による人口の制御』。その実現に向けて、地球連邦政府を内部から改変する…でしたな?」
「いかにも」
「…承知いたしました。共栄圏設立に協力いたしましょう」
私が扇子を閉じてキャスバルに視線を向けると、彼は一つ咳払いをしてマイッツァーに手を差し出した。
「良き隣人として、主義主張は違えど同じスペースノイドとして、未来を共にする」
ジオン公国公主とロナ家当主の間に握手が交わされた。
この会談が行われた一カ月後、サイド1はサイド6が提唱する共栄圏への参画を、正式に表明したのであった。
次回は来週月曜日更新予定です。
早ければ水曜日か土曜日に更新します。
あなたが好きなキャラクターは? ②
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キシリア・ザビ
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マ・クベ
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キャスバル・レム・ダイクン
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ギレン・ザビ
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ドズル・ザビ
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アムロ・レイ
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ララァ・スン
-
ニアーライト
-
シャリア・ブル
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パプティマス・シロッコ
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カミーユ・ビダン
-
ジュドー・アーシタ