キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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ようやく久しぶりのMS戦です。



57. キシリア様は助力者

 

 宇宙世紀0088年。

 サイド6、パルダコロニー。

 

 シャロン学園の理事長室に併設されている簡易通信室で私キシリアは、紅茶を一口含んだ後にため息混じりで口を開いた。

「マ少将。私は既にジオン軍を離れた身。そのような相談をされても困ります」

『ええ分かっております。広い見聞をお持ちであるシャロン学園理事長と見込んでの相談です』

 そんなことをつらつらと言いつつ、マはしれっとした表情を私に向けてきた。

「軍縮に伴って、ツィマッドの方も生産・開発を調整する必要があります。ドライセン…汎用MSの部分換装で射撃と防御を兼ねるという現状案は妥当では?」

 そう言い私は、秘匿回線で極秘に送られてきたジオン軍のMS部隊の戦略構想の抜粋部分…ランドセルがビームキャノンとなっている射撃特化型と、代わりに簡易I・フィールド発生装置である防御特化型を見比べる。

「重装仕様の防御特化型は、大楯も所持するのであれば問題はなさそうですが…」

『仰る通りです。問題は射撃班です。火力不足は明白で…宇宙攻撃軍のドズル閣下も同意見であります』

 そう言い募られて私は、機密部分を抜いた情報に留めている資料を眺める。ジオン軍の軍事ドクトリンの基礎を築いた私ならば、持ち得ている知識で補えば状況を把握することができた。

「……ツィマッドがMIPと共同開発していた、地上用の高機動火力投射特化型のMSがありましたね?」

『ヒルドルブⅡを増強する方向となって、見送られた『ズサ』ですか?』

「その宇宙仕様をMIPに発注する形は? 少数を機動打撃戦力として、ドライセン防御特化型と連携させ、敵支援兵器の迎撃と先制火力投射を担わせればよいでしょう」

『局所専門機を補助として置くわけですか』

 そう言い考え込むマに、私は閉じた扇子を画面越しで向けた。

「マ。カリョーヴィンの開発協力で、ツィマッドに相当無理をさせたのではないか?」

 そう言われてマは押し黙る。影響が出ているのは明白で、通信・電子戦特化型の新型機の配備が遅れていると、シャア大佐が嘆いている事は私の耳にも入っていた。

『そ…その……通信・電子戦特化型の新型については、戦わずして戦場を制す兵器としての拡充を目指し、指揮官機と量産機を分ける意向を受けたためであって…』

「ならば尚更無理をさせてはいけません。ツィマッドには、R・ジャジャとガザCの生産に注力してもらう必要があります」

 有事から平時の移行自体、ジオンの軍事企業にとって初めての経験。

 最大手のジオニックですら兵器生産の調整に苦戦している様子で、マラサイからネオザク…異世界の情報のザクⅣ相当の機体への更新は、開始時期こそ早かったが今だに更新完了には至っていない。結局強襲班のネオザクへの移行は指揮官機に留め、量産機のハイザックからの更新はマラサイ・改に切り替える改定案になっていた。

『確かにその通りで……ただ、射撃班と支援班の防御特化型、両者共用の指揮官機であるノイエ・ジールの配備は終了しましたので、少しは余力は出てくるかと思います』

 ノイエ・ジールはMSと言うよりMAなのであるが、ガトーがかなり使い勝手良く使用していることもあり、指揮官機として採用されるようになったそうだ。支援班の補給特化機も補給型ビグロマイヤーへ完全に移行し、索敵班はさらにヴァル・ヴァロへ移行しつつあった。

 このサイクルを維持してけば、ジオン軍は無理なく兵装の更新を継続していけそうである。

 

『それと……木星船団公社のジュピトリスが近日中に地球圏に帰還する見込みであると、連絡が入りました』

 

 ********

 

 サイド1「ザーン」。

 サイド6からの出資を得たロナ家の主導で、現在は工業用コロニー群の復旧に全力が注がれていた。

 そしてまた、制作された新規のスペースコロニーが2基、月とサイド1の中間あたりを差し掛かった時…突如謎のMS部隊の襲撃を受けた。

 襲撃の折、コロニーのミラーが切断された。それが原因で、コロニーの進路は大幅に変わり、月への落下軌道に入ってしまった。

 

 その異変にいち早く察したのは、近くの宙域で演習を行っていた、ドズル率いるジオン公国軍宇宙攻撃軍の艦隊であった。

 

 しかし……

 

「連邦軍が妨害……ですか?」

 マは厳戒態勢となったグラナダのジオン軍突撃機動軍本部で、通信機越しでも怒りがひしひしと伝わるドズルから現状報告を受けていた。

『こちらからの通信は?』

 同時に通信会議に入っている、ギレンが尋ねる。

『一向に反応なし。だが、識別信号で地球連邦軍所属の艦艇であると把握済みだ』

『ふむ……マ少将、連邦軍からは?』

「現状把握中の一点張り。今回の件、ワッケイン大将も寝耳に水の話のようですな。しかも、連邦議会が横槍を入れている様子で…」

 ギレンとマの情報の擦り合わせ作業に苛立ちを隠せないドズルは、金属製のデスクに拳を叩きつけて歪ませた。

『非常事態だぞ‼︎ このままではフォン・ブラウンに落ちてどれだけの被害が…』

「しかし、先の大戦で連邦軍は些か独断専行が過ぎました故、以前よりシビリアンコントロールが強化されております。加えて連邦軍内部でも少々揉めているようですな」

 ワッケインの失態にして追い落とそうとする別派閥の者が、連邦議会の一部議員と結託している可能性すら高いとマは考えていた。

『自分の腹が痛まぬという理由で、事態を軽視しているのであろう。連邦軍も連邦議会も』

「そうでしょうな。フォン・ブラウンはもちろん、我々が居るグラナダでも抗議をしておりますが…連邦政府の動きは悪い。フォン・ブラウンは独自で動く様子で、グラナダの自治政府は駐留している我々に応援を要請してきましたが…」

『いいだろう。ただし連邦軍から照合確認連絡が入るまでは攻撃を禁ずる。ドズルの方もだ』

 ギレンに釘を刺されて、ドズルは苦い表情を見せる。ようやくジオンの方も終戦処理を終えて落ち着きを取り戻してきたのだ。ここで戦火の切っ掛けを生むことは、避けたいところであった。

 コロニーへの接近に対しての妨害のみであり、連邦軍艦艇は直接攻撃をしてくるわけではない。しかしいずれ臨界点を超えればコロニーの推進器による進路変更は間に合わなくなり、破壊に切り替える必要がある。巨大なコロニーの破壊となると、核弾頭を常備していないグラナダの戦力だけでは正直荷が重かった。

「ドズル中将、こちらへは直ぐに来れますかな?」

『……いや、推進用の燃料が心許ない』

「こちらから補給艦隊を派遣しましょう。それからギレン総帥。シャロン学園へ応援依頼をしてもよろしいでしょうか?」

 学園の名が出て、ギレンは一瞬片眉を上げる。

『キシリアにか?』

「はい。念には念を入れた方がいいかと、愚考した次第です』

 

 月面都市フォン・ブラウン。

 この街の実態はアナハイム・エレクトロニクス社の企業城下町であり、同市の自治政府もまたアナハイム社の影響を強く受ける傾向があった。

 コロニーが都市に落下するという大事故を前に、フォン・ブラウンは落ち着いていた。何故ならこれは全て“予定事項”であったからだ。

 そして彼らは“自衛”を名目に、月への落下軌道に入ったコロニーの軌道変更用推進器に向けて、エネルギー供給用レーザーを放った。その結果推進器が点火、月の重力をも推進力に利用し、コロニーは強引に地球へと向きを変えたのであった。

 

 その報告を聞き、マは思わず卓を叩き頭を掻きむしった。

「完全にやられた…こちらから艦隊を向かわせたところで最早追いつけぬ‼︎」

 

 そしてコロニー2基は、地球への落下軌道に入る見込みとなり、ようやく連邦政府は事態の重さに気づいたのであった。

 

 旧アフリカ地区、ダカール。

 連邦議会で派閥間で責任を押し付け合い、一向に話が纏まる様子を見せなかった。その有り様に対して連邦軍総司令官ワッケインは、苛立ちを隠しせない視線を顧問のゴップに向ける。しかしゴップはその視線を受け流し、議会会場の出入り口を一瞥した。

 その時突然扉が開き、複数名の若手議員が姿を現した。

「議長。地球連邦議会、緊急防衛委員会での決議をお伝えします」

「賛成多数。地球連邦軍の戦時即応権の発動が承認されましたのでご報告いたします」

 落ち着いた様子で議長に決議結果報告を渡しつつ、先頭に居たエドワウとガルマはそう伝えた。

 議会会場は一瞬静まり返ったのち、一斉に怒声が響き渡った。その隙に1人の新人の女性議員が、ワッケインとゴップの側に寄ってきた。

「君は確か…ヤシマ会長の?」

「今はミライ・ノアです。ゴップ顧問が本会議に顔を出していただきましたおかげで、別会議室で無事に審議を終えました」

 そう答えるミライの言葉を聞き、ワッケインは目を見開いてゴップの方を見ると、彼は苦笑しつつゆっくりと口を開いた。

「皆が皆、連邦議会の現状を良しとしているわけでは無いのだよ」

「地球連邦軍に対して、72時間の行動の自由が認められました。急いでください」

 正規の手続きで自由に動ける状況になったと漸く理解したワッケインは、ゴップとミライに敬礼し、足早に連邦議会の会議場を後にしたのであった。

 

 地球連邦軍、宇宙軍総司令官のワッケインの命令を受けて、ティターンズとロンド・ベルが出動することとなった。ただし、ロンド・ベルの先発隊は連邦軍のみの出撃となり、エゥーゴ、カラバの枠組みに関わらず精鋭が、地球に近づきつつあるコロニーへと駆けつける事になった。

 

「目標、依然として軌道修正なし。先発MS隊が接触するまであと10分」

 

 オペレーターの声を聞き艦橋に緊張が走る。ティターンズ艦アレキサンドリア艦長ガディ・キンゼーは、軍帽を深く被り直した。

 アレキサンドリアのすぐ背後には、ルナ・ライン先端技術研究所からの技術提供でアーガマ級に改装されたアルビオン…その艦橋に立つのはエイパー・シナプス。さらに後方、ネェル・アーガマにはブライト・ノアの姿もあった。

 地球の重力に引かれて加速しつつあるコロニーと、それを守るように展開されている1個分隊…旗艦と推定されるマゼラン・改が1にサラミス・改が4、全て地球連邦軍の識別標識がされていた。

 先行して艦艇の詳細な所属を突き止めるため、サウス・バニング率いるアルビオン隊の4個MS小隊が先行していた。

 

「先行MS隊、敵艦と接触。データ照合……識別信号、不明です!」

「連邦のコードでも、ジオン軍でもない?」

 副官の問いかけを遮るように、別のオペレーターが声を上げる。

「いえ………抹消データの方にありました‼︎ エコーズです‼︎」

「……エコーズの残党か……これより掃討に入る!」

「了解、各艦に伝えます!」

 ガディはレーダーに映っている光点を見る。エコーズの残党の方もMSを出してきており、先発隊と交戦している様子であった。

「正面からの小競り合い…いや、違う……陽動か⁈」

 

 次の瞬間、アレキサンドリアに衝撃が走った。

 

「何が起きた⁈」

「右舷被弾! 攻撃を受けています」

「レーダーには何も映って……え⁈ミノフスキー粒子が急激に散布されました! 索敵不能‼︎」

 そして艦橋から目視でようやく“それ”の存在にガディは気づいた。動力源と照明を切り、慣性移動で静かに忍び寄っていたそれは…

「ジュピトリス? 木星船団の船が何故⁈」

「やられたな…気付かぬうちに電子戦を仕掛けられていたようだ」

 副官の疑問に答えるガディの声に反応したように、ジュピトリスから鮮烈なビームが虚空を裂き、後続のアルビオンを揺らした。そしてジュピトリスの周囲を飛び交うのは、ザクⅡの胴体に背に飛行翼、腕部に4砲身のガトリングを付けた見慣れないMS…

 その時、ジュピトリスから突如通信が割り込んできた。

『どうかね? 我らがドラッツェ部隊は?』

 スクリーンに映し出された男の姿を見て、ガディは複雑な表情を見せる。

「……ジャマイカン・ダニンガンか」

『なんだ、貴様が乗っていたのか…久しぶりだな、裏切り者のガディ・キンゼー』

「裏切り者は、軍から抜け出した貴様たちの方であろう?」

『敵国の意思に従う軍事裁判に従う道理などない。貴様がのうのうと士官を続けていることが、地球連邦軍が腐っている証左そのものだ』

 次の瞬間、ジュピトリスからMS…ガーベラ・テトラとドラッツェが次々と発艦していく。

 

『ティターンズの正統性はこちらが引き継ぐ。宇宙のデブリとなれ。ガディ・キンゼー』

 





残り3話ほどで第5章の終幕予定です。
次の更新は来週月曜日予定。筆が進めば今週の土曜日に上げる予定です。

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