キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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書き残しや伏線回収と最終章への伏線の敷き忘れがないか、半ば戦々恐々としながら書き進めています(汗)。
欲を出して外伝までを手をつけた結果、登場人物が多くなって四苦八苦しています(自業自得)。



59. キシリア様は救済者

 

 地球付近宙域。

 暴走コロニーの地球への落下軌道予測宙域。

 

 地球から打ち上げられたシャトルで待機中の、ネモ小隊を率いるコウ・ウラキのガンダムMk-IIに通信が入る。

『すまない、遅れた…』

 通信元のMS…ジオン軍のエース級指揮官機を示す、カスタムカラーのアサルト・マラサイ2機がモニターできる位置まで近づいてきた。ロンド・ベルに所属するガトーとシンであった。

 落下コロニー対応への妨害者が連邦軍を離反した反乱者と断定され、ようやくジオン側も対応できるようになったのだ。

「反乱軍は鎮圧されたが…コロニーの軌道変更には失敗したらしい」

 保険としてコウらは地球に待機していたが、出撃した他のアルビオン隊の仲間からの情報はいち早く入っていた。

 奇襲により連邦軍艦隊が大被害を受け、コロニーの軌道を逸らすために持ち出した核ミサイルも喪失したことも…

「ジオン側の核は用意できたのか?」

『……ナカト少佐が責任問題になることを恐れてな…マーネリ准将の許可を取り付けられなかった。時間が無いと見て俺たちが先行することになった』

 シンの説明によると、トリントン基地は連邦軍とジオン軍の共用施設だが、連邦軍が実質管理している。ジオン軍の核弾頭の保管庫の扉を、連邦軍のマーネリ基地司令が開けなかったそうだ。

 コロニー地球落下への「阻止限界点」が迫る中で連邦軍の宇宙軍総司令官ワッケインは、ジオン軍から核弾頭を借り受け、再度核ミサイルによる飽和攻撃で軌道を逸らすことを提案していたはずなのだが…

『コウ! 本部から連絡だ、コロニー対応には連邦軍の戦略兵器が使われることになった』

「戦略兵器……“ソーラー・システム”か⁈」

 同僚のチャック・キースに聞き返すと同時に、連邦軍の戦艦がコウらがいる前線を、推進光を尾を引きながら加速しつつ通り過ぎていった。マゼラン改級を特別改造し、ソーラー・システムのコントロール艦に仕立て上げた戦艦「タイタン」である。

『イーサン・ライヤー少将らの“切り札”だそうだ』

「そこまでジオン軍との共闘が嫌なのか⁈ こんな状況下で子供かよ……矢面に立つのは俺らなんだぞ‼︎」

『いいや大人だろう。ジオンの手を借りず連邦軍単独でやり遂げられると見せつけ、事態収束後の政治的主導権まで考えてるんだから』

 キースの話によると、どうやら連邦政府全体で派閥間の意見対立が発生し、土壇場で別の作戦が採られたらしい。

 危機を間近に控えた状況であるにも関わらず、政治的対立を持ち出す連邦政府上層部に対して、コウは溜息を吐くしかなかった。

 

『ん? 何か様子が変だぞ』

 

 ガトーの声を聞き、コウはタイタンに再度視線を向ける。その時、艦船を追尾する様に走る、複数の光の帯を目撃した。

「あれは…MSの推進光じゃないか⁈」

 それに気づくや否や、コウは小隊の部下に指示を飛ばし自身も出撃準備に入る。程なくシャトルのオペレーターから、タイタンから救援要請が入った直後に連絡が途絶えたことが知らされた。

 

 キース隊とシン隊を残し、コウとガトーはそれぞれ部下の小隊を引き連れタイタンに救援に向かう。戦艦に張り付いていたガーベラ・テトラとドラッツェを殲滅するが、タイタンの艦橋は破壊されていた。

 

 生き残り士官がいるが負傷で動けず、コロニーが迫る中混乱をおさめるためには、大尉であるコウが実質的に引き受けざるを得なかった

 コウは生存していた艦内の連邦兵に指示し、第二艦橋を始動させる。戦闘機能は失われたが、ソーラー・システム管制機能だけは生き残っていた。

 緊急用コンソールを立ち上げ、ソーラー・システムを起動させたが遅かった。ギリギリの判断でコロニー1基のみに照準を絞り、何とか軌道を逸らすのに成功するが、残り1基は進路上にあったソーラ・システムと激突し、大破させてしまった。

 

「コロニー、阻止限界点を突破‼︎」

 

 オペレーターの声を聞きコウは壁に拳を叩きつける。

 そして第二艦橋の窓から複数のMSの推進光が見えた。MSは落下を続けるコロニーに向かっている様子であった。

「コウ、シンから連絡が来た。コロニーを押し返すと…」

「そんな無茶な…」

 そう言った瞬間、第二艦橋の脇をキース機と彼の部下のMSが通り過ぎた。彼らが向かう先もまた、落下コロニーであるのは明白であった。

 そして目の前のガトーがコウに敬礼して、第二艦橋を後にしようとしたその時であった。

 

『コントロール艦の乗員、応答せよ』

 

 凛とした女性の声が、通信機越しに聞こえてきた。

「っ⁈ キシリア様⁈」

『その声……ガトーか?』

 コントロール艦の前で虹色の光のカーテンが一瞬走り、光学迷彩が解かれて露わとなった、エルメスⅡに牽引されているカリョーヴィンとジ・Oが姿を現した。

「何故ここに?」

『任地へ向かう途中、地球近くを通過する際にラーディッシュから降ろしてもらった。それより時間がない。ガトー、貴方には協力してもらいます』

「一体何を……」

『ソーラー・システムで残存しているミラーを掻き集めて配置し、カリョーヴィンに向けて照射するのです』

 とんでもない事を言い出したキシリアに対して、ガトーは絶句する。

 ソーラ・システムの残骸でも、一定の出力を確保できていれば単一方向の光線照射は可能。現在、ミラーは全体の1/3ほど残存しているため光線の照射自体は問題ないが、照準の正確さと範囲が限定的であった。

 それをキシリアの搭乗MSに向けろとは…

「自殺行為ですっ‼︎」

 いち早く立ち直ったコウが、流石に止めようとする。

『問題ない。カリョーヴィンの機能を使えば、空間構造反射体の構築が可能だ』

 カリョーヴィンの能力の真価は、超高度演算機能とミノフスキー粒子操作能力。演算計算に基づき、粒子の密度・濃度・極性を操作し、空間的に静止・配置することで、“レンズ群”や“偏向ミラー群”を形成することができた。

『Iフィールドの模倣、光屈折制御機能の再現は既に検証済みだ。私とカリョーヴィンを介せば、ソーラー・システムの光線をコロニーへ精密照射することは可能』

「しかし‼︎」

 揺れ動くガトー。

 その時、連邦軍本部からの通信が割り込んできた。

 

『キシリア理事長、お言葉だが我々も照射を許可できん』

 

 ********

 

 カリョーヴィンのコックピット内に映し出されたモニター越しに、私キシリアは冷ややかな視線を向ける。

「ならば他に良案はありますか? そこまで我々が“手柄”を持っていく展開が、不服というのですか?」

 私の言葉にコジマ中佐が一瞬目を見開き、隣のライヤー少将は苦々しい表情を見せる。

「万が一の危機に対して万全な動きを取れる組織を作れていない時点で、既に“詰み”であったと理解できていない様子ですね」

 地球連邦とジオンが共闘路線を取れる組織づくりが進んでいれば、対応策に使える手札は多数存在したはずであった。それを対処“後”の政治的な権力闘争に囚われ、複数あったはずの手札を身勝手に自ら捨てた結果、地球に大惨事が起きようとしていた。

「私とて、地球連邦軍から受けた仕打ちを忘れたことはない。だがしかしその”我儘“で未来に負債を残すような、無責任な恥知らずになるつもりは毛頭ない」

『しかし…もし貴方に何かがあれば……』

 半ば心配する様な声で尋ねるコジマに対して、私は軽く笑い飛ばす。

「数千万を超える人間が命を落とすかどうかの瀬戸際にしては、今回も“前回”と同様に悠長な態度ですね? 責任の優先順位を見誤っているように思えますが?」

『っ‼︎』

「シャロン学園が受け持った依頼は『落下コロニーによる地球への被害を最小限に抑える』ことです。その依頼遂行のために、協力を願えませんか?」

 私の言葉を聞きライヤーは少し目を開き、更に苦虫を噛み潰した様な表情を見せる。ようやく気づいたか。私が連邦軍に「依頼遂行の協力」という“名目”を与え、主体的に協力したという体裁を整えているということに。

 

 ライヤーはコウに対して、ソーラー・システムの第二射を許可したのであった。

 

「シャロン学園所属、シャロン・フェアリー隊のキシリア・ザビである。この宙域に居る全兵士に伝える。速やかにコロニーから距離を取れ」

 全チャンネルで私は呼びかけるが、動きは鈍い。

「落下コロニーは、私が責任を持って対処する。巻き添えを避けるため、速やかにこの宙域から離れなさい!」

 再び呼びかけた後、ようやく連邦軍もジオン軍も動き出す。どうやらコウとガトーも、それぞれの軍に引くように呼びかけた様だ。

 

 その様子を安堵しつつ見送ったのち、私は左右にいる僚機の通信モニターに視線を向ける。

「すまないな…かなり負担を掛けることになる」

『いえ……私は大丈夫ですが…』

『ご心配なく。私とジ・Oであれば、貴女の演算補助くらい問題ありません』

 今からやろうとしている作戦は、ミラー群を移動させていた連邦軍を見つけ、ソーラー・システムを稼働させる予兆を感知して考案したわけだが…キャスバルが反対したのだ。あまりにも私の負担が大きいと…

 そこでシロッコが出した代案は、ミノフスキー粒子の状況把握と情報転送補助にララァ搭乗のエルメスⅡ、演算補助にシロッコ搭乗のジ・Oをつけるという案であった。

 それでも渋るキャスバルに対して「貴方が解決すれば杞憂に終わる」と、あくまでも全ての策が失敗した時の最終手段という位置付けにして説得したわけだが…おそらく今頃は百式の操縦桿に八つ当たりをしていると推定される。

 ただ当初の予定と異なりソーラー・システムのミラーが一部破損したため、光線を増幅させる過程を追加させた影響で、その分私とシロッコの負担は増えるのだが…

「私はともかく、シロッコが保つかどうか…」

 心配ではあるが今更作戦を外れるなど、シロッコは承諾しないであろう。ならば私が出来ることは、初回で成功させることだけであった。

 

 やがて破壊を逃れたミラーが動き出した。

 遠目で煌めくミラー群を一瞥し、私はララァから送られてきたデータを分析、シロッコが演算を肩代わりしてくれているコロニーへの照準データと集約していく。

 

 少しずつ高度を落とし、地球を周回してきたコロニーの姿が見え始めた。

 シロッコの指示に従い作戦開始。

 ガトーのカウントダウン、そしてコウの号令の元、ミラーが輝き暴力的な熱エネルギーの束が、カリョーヴィンに迫る。

 

「………展開」

 

 カリョーヴィンの周囲に張られた第一の反射場で光は撹乱され、第二の粒子雲で偏向し、第三の複数の鏡面構造体が時間差で発生し一筋の光が複数に増殖、第四のレンズ構造で収束された。

 そうして生まれた熱線は千を超え、張り巡らされた鏡面構造体で多重跳弾し、形成された光の網が覆い被さるようにコロニーへと降り注いだ。

 光の網を構成する光線は、コロニーの金属板の溶接部やボルト結合部を狙い撃ち、構造部材が熱変性し、数秒後に爆裂のように亀裂が走り連結部位が次々と崩壊した。

 継ぎ目を失い構造を分断、分離されたコロニー…パーツからさらに無数の破片へと成り下がった構造体は、重力の歪みと空力負荷により、さらに小さい破片へと引き裂かれていく。

 そしてバラバラになった無数の白い断片が、流星のように軌跡を描きながら、大気圏の上層で燃え尽きていく。

 

 コロニー落下に付随した津波を警戒し、高台に避難していた者の頭上を、無数の流星群が降り注ぐ。

 圧巻とも言える光景に、無邪気な子供が歓声を上げる中、コロニーは一欠片も地上に到達することなく、大気圏で燃え尽き消えていったのであった。

 





次話で第5章は終幕予定。
更新は土曜日を予定していますが、早く書き上がれば水曜日に更新します。

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