感想、誤字脱字修正いつもありがとうございます。
今話で第5章が終幕です。
最近、よく見る夢がある。
いや“最近”というのは語弊がある。
15年くらい前であったか…マス邸で起きた暗殺未遂で重症を負った後の治療の経過、一月ほど続いた微睡の中で何度が見た気がする。
そしてその夢の時間が長くなったのは、EXAMシステムのプロトタイプの暴走を止めた後で、頻度が上がったのは独立戦争末期の時に消失した自我を再構築してからであった。
分かっている。ただの夢ではない。
EXAMシステムに囚われたアムロを救うため、自ら破壊した自己との“境界”の先にある“世界構造の情報保管庫”からの情報…
『すごいわ! 本当に見えたわ‼︎ 刻の向こう…別の可能性の私の存在』
夢の中の“私”は何かの装置から出て直ぐ、“彼”に語りかけていた。
『貴方の予測通り、時間軸の分岐の根本…“世界構造の情報保管庫“は存在したのよ‼︎』
夢の中の“私”は“彼”の発明品で、人工的にType-Zの力を行使した。
『つまり貴方の仮説、多重宇宙論は実証されたのよ‼︎ でも……このままでは…』
夢の中の“私”は理解してしまった。このままでは悲劇が量産されるだけであると…だから“ラプラス”で実行予定の“計画”を止めようと決心した。
そして計画は失敗に終わり、夢の中の“私”は命を失った。
その計画の名は“トライステラー計画”。
「キシリア理事長?」
気遣うように呼ばれ私キシリアは、急速に白昼夢から目覚めた。
「申し訳ございません。カイ殿」
「いえ、こちらの希望での取材ですから。一度休憩を挟みますか?」
「大丈夫です。確かコロニー落下阻止をした後の話ですね」
「はい。話せる範囲で…」
そういうカイに対して私は首を左右に振る。
「ここまで話した以上は、今更です」
元連邦兵士による反乱、その末に起きた地球への“コロニー落とし”というテロ未遂の事件。表向きは、「両軍合同部隊であるロンド・ベルによるソーラー・システム照射で地球を救った」という形に収まった。マやニアーライトの工作で、ガトーやコウらを説得して、彼らあの場にいたロンド・ベルの隊員たちを“英雄”に位置付けた。
ジオン軍と連邦軍が力を合わせることで、未曾有の災害をも防ぐことができる。そのような希望を大衆に刷り込むために…
「こんな特ダネを、独り占めしていいのかねえ…」
シャロン学園広報担当として期間限定で働いてくれたジャーナリストのカイ・シデンは、頬を掻きつつ呟くようにそう言う。彼にだけは、今設けている取材の場で今回の顛末を伝えていた。彼に対する報酬として。
「それにしても…契約満期の追加報酬にしては大きすぎらぁ…」
「いいえ。これでも足りないくらいです。貴方がやってくれたことに対する対価としては」
私の依頼をカイは見事に果たしてくれた。ルオ商会とビスト財団の内部の人間で伝手が作れそうな人員の選抜、アナハイムの会長であるメラニーとのパイプ作り、何より今回の失敗で始末される直前であったウォン・リーの保護に成功したことが大金星と言えた。現在、ニアーライトがシャリアの協力の元、ウォンから情報の吸い上げをしていた。
「それじゃあ…最後の質問として……ジャマイカンは取り逃したと聞きましたが、ジャミトフは?」
そこまで言っておきながら、カイは手を左右に振って言葉を撤回しようとする。
「あ、やっぱりいいです! 流石にこの話題は…」
「“ジャミトフ・ハイマン”と言う名であった者には、木星に行ってもらっています」
そう静かに答えると、カイは目を白黒させて私を見てきた。
表向きはジャマイカンらの反乱に巻き込まれ、ジャミトフは死亡したことになっている。実際は、監視を任された元エコーズのダグザ・マックールとコンロイ・ハーゲンセンがジャミトフを救出し、投降してきたところをニアーライトらが確保していた。
「木星船団公社の最高責任者であるクラックス・ドゥガチと、面識があるそうです。だから彼に交渉を任せる事にしました。水と酸素の浄化および生成を行う『O2/H2Oプラントコロニー』の売り込みの交渉を…」
O2/H2Oプラントコロニーの売り込みを木星にしたいと考えていたのだが、何せ片道だけで2年も掛かる航路故に適任者がなかなか見つからなかったのだ。
プラントコロニー自体は地球連邦のヤシマ・カンパニー制作だが、消耗品のフィルター関係はジオン公国の企業が受け持っている。この消耗品関係の安定供給と引き換えに、ジオンへのヘリウム優先取引権を獲得できる見込みであった。
そのような内容を説明すると、カイは目を剥いて驚き声を失っているようであった。
「いや……その……正気ですか⁈ あのヤロウはアンタに散々な仕打ちを…」
カイの言いたいことは分かる。マやキャスバルに相談したときは、2人は更に激しい感情を露わにしたのだから。しかし……
「この身に受けた仕打ちを忘れた訳ではありません。その結果、周囲の者がどれだけ傷ついたかも」
「だったらどうして…」
「穏やかな未来が欲しかった。それだけです」
そう言い切った私の目をしばし見つめた後、カイは深い溜息と共に手帳を閉じた。
フラナガン医療センター。
その入院棟の一室に、シロッコは入院している。落下コロニーの破壊時に私とカリョーヴィンの演算補佐をしてくれたのだが、さすがのシロッコとジ・Oでも限界だったのだ。幸いにも後遺症は残らない見込みではあるが、1ヶ月の入院を余儀なくされた。
そして今私は、シロッコが入院している個室を訪れていた。もちろん見舞いであるが、もう一つの目的は……
「理事長を退任⁈」
珍しく半ば声を荒げて、シロッコは私に聞き直した。
「はい。本年度をもってシャロン学園の理事長職を退きます。運営費に充てられている、ルナ・ライン社の株は全て、シャロン学園に移譲します。理事長職の後継ですが、これから候補者に打診を…」
「お待ちください!」
私の説明を強引に止め、私の心を測るようにシロッコは鋭い視線を私に向けた。
「決心は固いようですが…敢えてお尋ねします。なぜですか?」
「……このまま私がいれば、生徒らの成長の妨げになります。先日のコロニー落下阻止で、私は些かやり過ぎた」
「貴女とカリョーヴィンの力を、あの愚か者どもに見せつけたではないですか! 生徒らも貴女の力に感服しているのです‼︎ 貴女を中心にシャロン学園は纏まった。これからなのです! 貴女を中心に、我々の未来は…」
「誰か一人に依存する未来の芽は、速やかに摘み取らなければなりません」
私の言葉を聞きシロッコは息を呑む。
「祀り上げられるのは、本意ではありません」
「しかし!」
「ニュータイプを人間社会の一員として共存させることが学園の理念。私が神格化されるとその理念が崩れます」
私は容赦なく畳み掛けるとシロッコは押し黙る。しかし納得はしていない様子で…相変わらずこの男という者は…
「……シロッコ、すでに気づいているはずだ」
「何が……でしょうか?」
「私のニュータイプ能力の深化が限界に達しつつあることを。私は……彼らの導き手ではいられないのです」
ソーラー・システムの放つ光線を、跳ね返すどころか自在に操り、コロニーを粉砕するという“奇跡”…あの時の私は出来ると確信していた、そして実際にやり遂げてしまった。それが“引き返せない領域”に到達しつつある証左であった。
「力を持つ者として責任を持てるのは、貴方しかいない。パプテマス・シロッコ。シャロン学園の未来を託します」
シロッコの病室から出ると、扉横の壁に寄りかかるようにキャスバルが静かに立っていた。
「……話をお聞きになったようですね。ギレン総帥からですか? ララァさんからですか?」
サンバイザーを外すことなく、一言も発しないキャスバルの様子を見て、私は深く溜息を吐く。
「……ラウンジの個室に行きましょうか」
促す私の言葉に、キャスバルは静かに頷いた。
「お前は俺を拒むのか?」
ラウンジの特別個室に入るや否や、キャスバルが口を開いた。
「……貴方もギレン兄と同じことを言うのですね」
「公職を退くだけではない、私との婚約解消はどう言う了見だ⁈」
そう言いサンバイザーを外したキャスバルの蒼い目は、長年積み重ねてきた信頼関係を否定された怒りと哀しみが滲んでいた。
「……ララァさんから聞きませんでしたか? 彼女は気づいていたと思いますが…」
「何のことだ?」
ララァがキャスバルに密かに想いを寄せ、時々相談しに行っているのを知っていたが…流石にこの件だけは話さなかったようだ。
「私のニュータイプ能力は、Type-Z3の安定期に差し掛かっています」
私の言葉を聞き、キャスバルは目を見開いた。
「一体何を……」
「既に私の中に“自己以外“が混在しつつあります。もうどこまでが本来の私か…最近わからないのです」
「キシリア⁈」
「フラナガンから聞いているはずです。Type -Z3安定期に入ればもう戻れない。多分近いうちに私は……」
Type -Z3安定期の次はZ4“神化”か、Z5“虚数化”…“人”を保っていられるとは到底思えなかった。いずれ人を辞める者を、ニュータイプの進化と適応を導くキャスバルの伴侶にするわけにはいかない。
それが私の矜持であった。
「そうか……お前はもう、人の立場に居られぬところまで来てしまったのだな」
「はい」
「私が公主を辞めれば……」
「辞めたとしても、貴方が選び取った道までは捨てる気はないですよね?」
私の言葉に押し黙るキャスバル。それこそが答えであった。
「もう貴方の進む道を支えられないのです」
「……その言い方は卑怯ではないか?」
「無責任な言動は取りたくはありませんので」
そう言うとようやく、キャスバルは苦笑を浮かべた。
「……私たちの関係は何だったのだろうな?」
姉と弟、師と弟子、運営協力者…
「私にとって貴方はガルマと同じ、身内で未来の担い手ですね」
「ガルマと同じ……結局は弟扱いから卒業できなかった訳か…」
結局はその枠組みからは抜けれなかった。キャスバルに対して家族愛はあったが、異性に対する感情を持つことは一度も訪れることは無かったのだ。
「申し訳ございません」
「いや……私もおそらく同じだ。君に対して…姉に対する思慕しか抱いてなかったのだろう」
「まだ水先案内人はいりますか?」
そう尋ねる私に対して、意気込むことなくただ穏やかな眼差しをキャスバルは向けた。
「いや……一人で選択肢を見つけて選び歩ける」
「そうですね。その重みを理解した上で、貴方は自身の責任を負える。そして…誰かを導くことができる…」
「できるだけ君に負担を掛けないようにする。だから…今しばらく此処に居てくれないか?」
懇願するような響きを伴ったキャスバルの声。それに対して私は、はっきりとした返事はできない。
しかしこの言葉だけは言っておきたい。
「それは私の一番の願いです」
シャロン学園理事長室を叩く扉の音に、私は追憶から引き戻される。
許可すると、入室して来たのはマ・クベであった。
理事長室を引き払う準備のため、床に積まれつつある収納ケースを一瞥した後、マは静かに口を開いた。
「……全ての公職を辞すと伺いました」
「流石はジオン軍突撃機動軍総司令ですね。正確な情報を入手する速度は随一…」
否定しない私の言葉を聞き、マの瞳は揺れる。
「キシリア様……貴女は本当に…」
「私は表向きの場から去ります。隠遁先もギレン総帥と相談した上で決めてあります」
「閣下が退かれては、秩序は瓦解しますぞ! ジオンも、連邦も、学園も……皆、閣下の御身を柱としておるのです!」
「だからです」
だからこそ私は、身を引かなければならない。
「居続けることで、全てが私に依存してしまう。それがどれだけ脆弱で危険なことか、あなたは分かっているはずです。マ・クベ」
連邦からジオンが独立を果たした8年間で、スペースノイドの自立、ニュータイプの未来、その道筋を創り出してきたが……些かやり過ぎた。特にコロニー落としを阻止した事が、“私一個人への依存”を生む構造的契機となってしまった。
「だから、全ての公職を辞する。それが一個人に責任を集中させる“歪んだ構造”を断ち切る唯一の道なのです」
これ以上留まれば私は、責任を押し付けるための便利な偶像とされるであろう。それでは私が目指している“責任を皆で分散して支える”と言う構造が、完全に崩れてしまう。
そしてそれは、私が望むことではない。
「それに以前、私は貴方に言ったことがありましたね。私はまだ…人として皆と共に居たいのです」
「っ‼︎」
私の言葉を聞き、マは一瞬目を見開いた。
彼も理解しているのだ。このままでは私は“また”責任に押し潰されると…
暫くしたのち、マは意を決したように深いため息を吐いた。
「……承知いたしました、閣下」
「もう閣下ではない」
「そうでしたな。それではキシリア様、これだけは受け取っていただきたい」
そう言いマは私に小箱を渡してきた。
予想外の行為で思わず受け取ってしまい、促されるまま小箱の蓋を開く。
「指輪?」
「発信機が付いています。どこまでも貴女の側に駆けつけるために」
その言葉を聞き思わず苦笑する。監視か…保証? いや……これは“繋がり”であろう。
「……随分と信用がないな」
「今までのご自身の行動を、振り返っていただきたいと存じます」
随分と遠慮のない言葉だが、その声が震えていることに私は気づかない振りをする。
「要らないとお思いになった時に、お返しください」
続けられたマの言葉に対して首を左右に振って否定して、私は右手の薬指に指輪を嵌めた。
後もう少しの間だけ“人”で居られるように…そんな願いを込めて。
「今しばらく、共に居てくれますか? マ」
第6章(最終章)は色々と情報整理をする関係上、来週土曜日あたりの開始を目指しています。
よろしくお願いします。
あなたが好きなキャラクターは? ②
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キシリア・ザビ
-
マ・クベ
-
キャスバル・レム・ダイクン
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ギレン・ザビ
-
ドズル・ザビ
-
アムロ・レイ
-
ララァ・スン
-
ニアーライト
-
シャリア・ブル
-
パプティマス・シロッコ
-
カミーユ・ビダン
-
ジュドー・アーシタ