最終章となる第6章開幕です。
慎重に書き進める関係上、週1〜2更新となる見込みです。
61. キシリア様は隠居中
宇宙世紀0091年。
サイド3、9バンチ。サイド3の中でも最大の「海」をもつリゾート・コロニーに、シャロン学園のシャロン・フェアリー隊が慰安旅行に来ていた。
「にしても……すげーな。貸切かよ…」
コロニー内の人工の海に面した人工海岸のプライベートビーチに隣接するリゾートホテルを一瞥して、ジュドー・アーシタは思わず呟く。
「何でも、キシリア前理事長が出資したホテルらしい」
「それと貸切と言っても、二つある別棟の一つだけだ」
そう説明するのは大学部に進学していたカミーユ・ビダンとティート・トゥッチであった。2人と後から合流したマシュマー・セロは、それぞれ飲み物と軽食が入った袋を手にしていた。
「おっ‼︎ マシュマーさんの奢りだ‼︎」
「馬鹿者! 後で請求するに決まっているだろう」
早速バーガーを持ち去ろうとするモンド・アガケに拳骨を落としつつ、マシュマーはそう言う。
「いっそ、ヘンケン艦長にツケとくのはどうだ? 1個や20個くらい買わされても、あの様子じゃ気付かないだろうし…」
そう言いホットドッグを掴みつつ、ビーチャ・オーレグが指した先には、並んで立って海を眺めるヘンケン・ベッケナーとエマ・シーンの姿があった。
「それにしても驚いたよね、ヘンケン艦長とエマ先生の先月の電撃入籍の話」
イーノ・アッバーブはそう言いつつ、ちゃんと代金をマシュマーに渡して、飲み物を受け取った。
「お兄ちゃ〜ん!」
その時、波止場の方からリィナ・アーシタとヨナ・バシュタが、手を振りながら駆け寄ってきた。
「遊覧船があるって聞いたの!」
「15分に出港だそうですが、行きませんか?」
リィナとヨナの誘いにその場にいた者の全員が同意して、集団でぞろぞろと歩き始める。
その集団の中のジュドーを、遠目でハマーン・カーンはただ静かに眺めていた。
「ハマーン姉様、トロピカルジュースを2つ買ってきましたよ」
カラフルな色をした飲み物を盆に乗せて、セラーナ・カーンは姉ハマーンに話しかける。しかしハマーンは複雑な表情でセラーナを一瞥して、遊覧船に乗ろうとしているジュドーに再び視線を向けた。
「あー…飲み物の差し入れを切っ掛けに、話しかける前に遊覧船の方に行きましたか…」
容赦のない状況説明をするイリア・パゾムを睨み、隣のピーチパラソルの下で談笑しているマウアー・ファラオとジェリド・メサに半ば怨嗟に近い視線を向けたのち、ハマーンは大きなため息を吐いた。
「セラーナ、イリア……その飲み物、飲んでいいわ」
そう言い残し、ハマーンは波打ち際の方へと歩いて行った。
砂浜では、レツ・コ・ファンが審判をして、キッカ・キタモトとルー・ルカ、サラ・ザビアロフとエル・ビアンノが、2対2でビーチバレーを楽しんでいた。
それに混ざることなく、カツ・ハウィンは砂浜に座ったままぼんやりとサラを眺めていた。
「混ざらなくていいのかい?」
突然話しかけられて、カツは驚きつつ隣に視線を向けると、そこにはグレミー・トトの姿があった。
「…グレミー先輩こそ、ルカに話しかけなくていいのですか?」
「友人と楽しんでいるのに、それを中断してまで話しかけるのは、紳士とは言えないだろう?」
そう言いこちらに向いた顔の頬には、立派な紅葉が付いていた。大方またストーカー紛いの言動でもして、ルーから一発平手打ちを喰らったのであろう。
深く追求することなく、カツは再びサラに視線を移し、ただ波音だけが2人に間に流れる。
「……グレミー先輩は、諦めようと思ったりしないんですか?」
グレミーがルーに好意を寄せ、何度も告白しては振られていることは、周知の事実であった。
「だったら君もサラを諦めるのか?」
「いや……それは……」
そして居ても立っていられなくなったのか、ビーチバレーをしているサラたちの方へとカツは走り去って行った。
一人残されたグレミーは、自身らが宿泊予定とは異なる別館…キシリアたちザビ家が貸し切って宿泊している棟へと視線を向けた。
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「随分と大盤振る舞いだな」
ビーチではしゃぐシャロン学園の子供らを窓越しで一瞥し、兄サスロが口を開く。
「シャロン・フェアリー隊の活躍を思えば、ささやかなものです」
そう答える私キシリアの言葉を引き継ぎ、後を継いでシャロン学園の理事長になったキャスバルが口を開く。
「先月のサイド1、30バンチで事件がありましたよね? あれの阻止に働いてくれたのですよ」
「確か……毒ガステロ未遂でしたよね?」
眉間に皺を寄せつつ、ガルマが聞き返す。地球連邦議員になってから殆どを地球で過ごしているが、この事件はさすがに耳に入っているらしい。
「我らがジオンが公国から共和国へ移行して1年、まだ余波は当分残るであろうな」
「とは言え、あの時を置いて共和国へ移行する好機はなかった。我々はただ前へ前進するのみ」
「だがよォ……親父の引退はともかく、ギレン兄はもう少し総帥でいた方が良かったんじゃねえか?」
弟ドズルの言う通り、ジオン共和国に移行したタイミングで、父デギンは政界から完全に引退し、兄ギレンはジオン共和国評議会の顧問に就きつつも、ジオン大学の名誉教授で思想学と国政学を教える方が主になっていた。
「政界にはサスロ、軍部にはドズルお前が居るであろう。ガルマが地球連邦政府に入り込み、ジオン共和国を中心とした共栄圏も安定している」
ギレンは端的に説明するが、まだ納得していないドズルに対して私は軽くため息を吐き、口を挟むことにする。
「ダイクン派分裂の大粛清から20年以上経って、国を支える人材は育っているわ。我々ザビ家が国体を支えなければならない事態は脱しています」
「そりゃあそうだが…」
「ならば、新たな者へ責任を引き継がせなければなりません」
ザビ家が権力を握ったままでは、今度は姪のミハルやミネバが、私のように責任を負わされる事になる。それだけは避けたかった。
「そりゃあ分かってるが……どうも部下に任せるのは歯痒くてなあ。例の地球へのコロニー落としで軌道変えて飛ばした1基が、まだ見つからんし…」
「でもあの時は非常事態で、連邦軍のソーラー・システムで辛うじて弾き飛ばした訳だから……」
ガルマの言う通り、飛ばす方向を考える余裕もなく、地球への落下起動からずらした後の軌道計算ができたのは、事件の収束後のコロニー捜索を開始してから。どうしても誤差範囲が大きく、コロニーの捜索は難航してまだ発見されていなかった。
状況的に見つからなくて当然。しかし……
私は静かに席を立って、人数分のみ用意した書類を皆に渡す。
「これは?」
「アナハイム社で扱っている物品の一部を抜粋して、過去5年における取引量の推移をまとめたグラフです」
真っ先に尋ねるキャスバルに私は答える。
カイ・シデンのおかげでアナハイム社のメラニー会長を始め、何名かの幹部と繋がりを持つことができた。その関係を介して得られた情報であった。
「それはわかるが…2枚目のコレは?」
サスロが尋ねたのは、コロニーを改造した戦略兵器の概要図。
「『コロニー・レーザー』または『ソーラー・レイ』と呼称される、コロニーを改造したレーザー兵器と聞いております」
異世界由来の情報では、このソーラ・レイは独立戦争時にジオン公国が対連邦軍の切り札として製作した戦略兵器であるが、この世界では開発はされなかった。一方で、似た兵器の研究が地球連邦軍の方で進められていたのだ。
「…一昨年から取引量が急増している物品と、そのソーラー・レイの材料となる品目が一致している。そう言いたいのだな?」
即座に見抜いたギレンの言葉に一つ頷き私を見て、ドズルは資料を半ば破る勢いで立ち上がる。
「ちょっと待て、だったら行方が分からないコロニーはまさか?!」
「誰かがソーラー・レイの材料にするために内密に確保している可能性がある…と?」
ドズルとキャスバルの言葉に頷き、私はガルマの方を向いた。
「私が隠遁先から出てまで、ここで会う機会を設けた理由は分かりましたか?」
「…確かに連邦政府は危機を脱したからと、漂流したコロニーの捜索を軽視していました。私の方から議題にあげます」
「ジオン軍の方でも、本腰入れて捜索させよう」
「シャロン・フェアリー隊でも注視する」
「お願いします」
その時、突然何かの電子音が響く。その音源に気づいて、私は懐から専用MSカリョーヴィンの起動キーである扇子を取り出す。
「どうした?」
「一昨日の夜に呼んだカリョーヴィンが、あと暫くしたら到着するようです」
そう言い私は、扇子の親骨部分に表示されている到着までの所要時間を見せた。
「カリョーヴィンを? なんでまた?」
「シャロン学園に通い始めたミネバの話を聞いてな…娘のミハルが見たがって、無理を言った」
キャスバルの問いにサスロは申し訳なさそうにそう答えた。
「これからミハルとミネバを連れて宇宙港の方へ向かいます」
父デギンに向かってそう言うと、デギンはゆっくりと頷く。
「お前からの話はこれで全部であろう? 自由にするがいい」
「ありがとうございます。ガルマも一緒に行きますか?」
隠遁先に引っ込んでから、こうして家族が揃って直接会うのは久しぶりである。サイド6のフラナガン医療センターへの定期検診と、サイド3の首都バンチと今いる9バンチには時折寄っているが、流石に地球にまで足を伸ばせず、ガルマと直接会う機会はほとんど無かった。それを配慮して声をかけたのだが、ガルマは静かに首を左右に振った。
「いえ、イセリナと街を散策する予定ですので」
「身重なんだから無理させないほうが…」
「マレーネ義姉さんとゼナ義姉さんの話によると、今の時期は逆に運動した方がいいって、お二人にも同行してもらいますから大丈夫です」
そう言い笑みを返すガルマは、弟ではなく父親の顔をしていた。
私は護衛のバーナードとクリスティーナを連れて、姪のミハルとミネバと共に宇宙港に移動した。
カリョーヴィンは定期的な整備が必要であるため、サイド6のシャロン学園のシャロン・フェアリー隊の格納庫に保管してある。そして私が現在居る隠遁先はサイド6ではないため、私の呼び出しで駆けつけられるように、サイド間移動用のブースターを背負わせているから、異なるサイドに居ても到着まで2日も掛からない仕様であった。
「ああ、ようやく来ましたね」
紫を基調としたMSが宇宙港に入った様子を見て、ミハルは歓声をあげる。
「キシリア叔母様、早くコックピットに入れて‼︎」
「あの…私も乗っていいですか?」
「もちろんですよ。ミハル、ミネバ」
急かしてくる姪二人を宥めつつ、私は音声認識で扇子を介して操作して、カリョーヴィンのコックピットのハッチを開いた。
「……マ、何故お前がそこにいる?」
コックピットの中には、予備パイロットスーツを纏ったマ・クベの姿があった。
「そ…その……カリョーヴィンの座席シートが劣化していると報告がありまして…」
マの話によると、自身が選別した特殊素材であったことから、自ら取り寄せてわざわざサイド6まで足を運んだという。そして整備士に頼んで張り替えをしてもらい、座り心地を確認していたところで…
「急にハッチが閉まって、そのまま出撃した次第で…」
非常に間の悪いタイミングで、私はカリョーヴィンを呼び出したようだ。
「……装甲が少し汚れているようだが?」
「途中で襲撃してきた愚か者がおりまして…私が乗っていたため最大加速で離脱できず致し方なく…」
カリョーヴィンの特殊機能は私にしか扱えないが、元はギャンの系譜のMSであることから、そのままビームスピアと格闘戦で、襲撃してきた海賊MSを駆逐したという。それはともかく…
「…有事でもないのにコックピット内で1日半か…悪いことをしたな」
「いえ…ああ、コックピットにあった非常食を少しいただきました」
「そうか。だが、それでは足りぬだろう? 迎えが来るまで私たちの滞在先で寛ぎなさい。今日の夕食は特別ですから」
「そうですか…それではお言葉に甘えて…」
スッポン鍋だから体力回復には最良であろう。
シャロン学園にいた時、誰かにすっぽんの養殖研究をして欲しかったのだが、希望者は誰も出なかったのだ。そして隠遁して時間ができ、この9バンチで密かに研究していてようやく結んだ成果であった。
余談であるが、カリョーヴィンの制御AIメーティスが保存したマの格闘戦闘データを元に、ミノフスキー粒子操作機能をオミットした廉価版カリョーヴィンの製作企画が持ち上がった。
それが後に「ギャン・エーオース」の開発に繋がる訳だが…それはまた別の話である。
【おまけ:マ・クベ in カリョーヴィン36hログ】
・0時間後
「メーティス、なぜ閉じた⁉︎ 何故勝手に出撃した⁈」
《起動条件を満たしました。生命反応が座席に固定され、かつ呼び出し信号を受領したため、自動出撃を実行しました》
「……誤判定だ。座り心地を確かめていただけではないか!」
《搭乗時間五分を超過、正式搭乗と判定》
・2時間後
《体温上昇を検知。推奨:パイロットスーツへの着替え》
「この私がキシリア様のスーツを⁈ いや……流石に畏れ多い……」
《訂正します。予備スーツは“新品”“未使用”の男女兼用です》
「……なぜ“新品”と“未使用”を強調する⁈」
・4時間後
《敵性反応接近。推奨:最大加速による回避》
「私を殺す気か⁈ そんな加速、身体がもたん!」
《了解。次善策:格闘戦》
「ええい……結局そうなるのか‼︎」
《……敵機沈黙、戦闘データを保存しました》
「消せ! 余計なものを残すなっ‼︎」
・6時間後
「……あと、どのくらいで到着する?」
《計算完了。所要時間、約30時間》
「さ…さんじゅう………」
《非常食コンテナを開放します。座席下をご確認ください》
「……水と固形栄養ブロック…か。……粉っぽい……」
《ストック量・栄養素は十分です》
「精神面を考慮しろぉっ‼︎」
《尚、これまでの会話ログデータは保存済みです》
「やめろぉおおっ‼︎」
あなたが好きなキャラクターは? ②
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キシリア・ザビ
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マ・クベ
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キャスバル・レム・ダイクン
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ギレン・ザビ
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ドズル・ザビ
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アムロ・レイ
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ララァ・スン
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ニアーライト
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シャリア・ブル
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パプティマス・シロッコ
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カミーユ・ビダン
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ジュドー・アーシタ