キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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筆が進みましたので更新します。



63. キシリア様は叔母上

 

 マ達が乗るチベ・改の目の前の空間が歪むような光のカーテンが走り、楕円に近い円盤様の資源衛星に塔が貫く様に人工建造物が融合した、異様な姿が現れる。

 驚き声を失う中、キャスバルが呟くように口を開いた。

「これが“ミナレット”か……」

「資源衛星に推進システムと管制システムを付けた巨大プラント設備……薔薇園の秘匿発着所で閲覧した情報通りですね。宇宙世紀以前に造られた遺物」

 今から一世紀ほど遡る。

 改暦前後の50年ほどの歴史は、白紙というのが通説。なぜキシリアはその存在を知っているのか……

 湧き上がる不安を押し殺し、マはウラガンに着陸準備を命令するのであった。

 

「ああ、待ってください」

 

 発着所に降りた艦艇から降り、先に進もうとしたマたちをジョニーが制する。そして探った壁表面をスライドさせた奥に姿を見せたパネルに手を置いた。

《生体情報確認。名をお聞かせください》

「ジョニー・ライデン」

《管理登録者と一致。お帰りなさいませ》

「久しぶりだな“エキドナ”。キシリア様はいらっしゃるか?」

《はい。同行者1名と共に滞在中です》

「今俺といる者たちと共に面会は可能か?」

《はい。“マスター代理”の許可は降りています。滞在先のブロックまでご案内します》

 女性の機械音声が終わるや否や、通路に繋がるゲートの一つが点灯し、その先に続く通路の照明が道案内をする様に点灯していた。

「照明が灯っていない場所に入らないでください…」

 そう言いジョニーは近場の石を拾い上げて、照明が灯っていないゲートに投げ込む。すると、通路内の闇を切り裂くレーザー光が入り乱れ、投げ込まれた石を粉砕した。

「……監視・防衛システム⁈」

「ジョニー中佐が対応した機械音声が制御しているのか?」

 セシリアに続いてキャスバルが尋ねる。

「ミナレットの統括OSに搭載されているAI“エキドナ”ですよ」

「ミナレットの外観の隠蔽も制御しているとなると…施設の内外に、無数のカメラとセンサー網が張り巡らされていると見た方が良さそうですな」

 マの言葉を一つ頷いてジョニーは肯定する。

「俺の指示に従ってください。とりあえずキシリア様に会いましょう」

 そこで言葉を切り、ジョニーに促されるままに通路へと足を踏み入れ、マたちはミナレットの奥へと進んだ。

 ミナレットの内部は広大であった。

 マ達は施設内エレカやエレベーターを乗り継ぎ、30分ほどかけてようやく辿り着いた扉の先には……

 

 娘16名の世話をするエプロン姿のギレン・ザビがいた。

 

 ギレンが虚無と言える表情で淡々と焼き菓子を配る中、来客に気づくや否や元気の良い子が「おじさま〜」とドズルとキャスバルに近づき、冷静そうな子が止めるのを無視して部屋奥へと連れて行く。そして呆然としているセシリアとグレミーに対して、ある子はハキハキと、ある子は淑やかに、そして別の子は物静かな感じ…と個々人ごとに異なった態度で、娘たちは次々と自己紹介をする。

 ジョニーの言葉から、彼女らの服がキシリアの子供時代の物である事は分かった。しかしマ・クベは、このカオスとも言える状況の背景が全くわからない。

 

「ジョニーの同行者はグレミーとドズルだけかと思っていましたが…貴方たちも一緒だったのですね」

 

 聞き覚えのある声が聞こえ、ジョニーとマは振り返る。

「キシリア様⁈」

「キシリア様…これは一体⁈」

 同時に尋ねるマたちに対して、エプロン姿のキシリアは「少し待て」といい、ワゴンに載せていたジュースを「キシリアおばさま」と呼びかける子供達に配り始めたのであった。

 

 ********

 

 私キシリアは人数分のお茶を淹れ、マ・クベ達の前のテーブルに置いた。

 16人の姪達は、今は兄ギレンの授業を受けている最中で、ようやく落ち着いて話せるタイミングとなった。

「私やギレン兄が、このミナレットを見つけた経緯については?」

「それは道すがら俺が話しました。学生時代に貴女とギレン様に誘われて、友人らと共に『テミス』を結成して、旧世紀のオーパーツ探しをしたことを…」

 どうやらミナレット発見の経緯はジョニーが説明したらしい。ならば余計な事は言わずに、話を先に進めた方がいいと私は判断した。

「今から30年近く前になりますね…ここを見つけた翌年に起きた、宇宙港の事故が全ての発端だった」

 その言葉を聞き、思い当たったようにセシリアはカップを持ち上げようとした手を止めた。

「宇宙港の事故…当時のローゼルシア派閥の者が多く巻き込まれた、連邦軍施設の事故ですか?」

「そうです。その事故で私やジョニーは大半の友人を喪った。このミナレット探しに参加した『テミス』のメンバーである、親友のセリーヌ・ロムとエルピー・プルも…」

「姉貴、それがどうしてギレン兄の子供が、大量に居る状態になってんだ⁈」

 弟ドズルの真っ直ぐな質問が、非常に耳が痛い…

「直接的な原因はクルスト・モーゼスが暴走した結果」

 クルストの名を聞いて、マとキャスバルは盛大に顔を顰める。EXAMシステムを作って暴走させて、世界を滅ぼしかけた元凶だから致し方ないが…

 

「そして根本原因は、セリーヌとエルピーを救命しようとした事です」

 

 宇宙世紀0064年。

 宇宙港の事故の後遺症で余命幾許もない婚約者であるセリーヌを、ギレンは諦めきれなかった。私も親友であるセリーヌとエルピーをどうしても助けたかった。人類が文明のピークを迎えていた時期に作られた「ミナレット」は、おそらく現状の科学技術を凌駕する。私とギレンがミナレットの設備に2人の救命を賭けたことは、当然の結果であった。 

 しかしセリーヌとエルピーの命を救うことができなかった。ミナレットの全システムの制御AI“エキドナ”に、どうにか蘇生できないかとギレンが無理難題を突きつけた結果…

 

「セリーヌの精神はミナレットの統括OSに取り込まれて、制御AI“エキドナ“と同化してしまった」

 

 その言葉を聞き、皆は一斉に言葉を失った。

 少し大きめの音を立ててカップをソーサーに戻したドズルが、吃りながらも言葉を紡ぐ。

「……で、でもよおォ……それとギレン兄の子供とどういう関係が?」

「セリーヌの精神を解放する研究のため、セリーヌの父のフラナガン博士がクルストを助手として、一時期このミナレットの管理をしていました」

 しかし研究は行き詰まった。AIから分離させた精神を宿らせる肉体が問題とクルストは結論づけ、そして…

「凍結保存されていたセリーヌとエルピーの遺骸から採取した生殖細胞と、研究協力で提供したギレンの生殖細胞を利用し始めた。私たちに無断で…」

「なっ⁈」

 サイド6の研究所…現フラナガン医療センターの設立人員として、私がフラナガンに仕事を振って彼がミナレットに滞在する時間が減った事も悪手であった。

 そうしてセリーヌとギレンの生殖細胞を組み合わせて生まれたのが、グレミーであった。

「私もギレンも多忙で…クルストの暴走に気づいた時には、グレミーはすでに物心がついた頃でした」

「自治共和国から公国への移行期あたり…確かにキシリア様もギレン様も、多忙ではありましたな」

 過去を思い出すように目を細め、マは静かに紅茶を口にする。

 それを皮切りに俯いたままのグレミーと彼を慮るセシリアを除き、各々が冷めかけている紅茶に口をつけた。

 私も紅茶を一気に飲み切る。喋り続けて喉が渇いたというのもあるが、発覚した時に見せたギレンの憤怒を思い出したからだ。

「……しかしギレン兄はクルストを処分できなかった。彼が手がける研究に、セリーヌの精神解放の一縷の望みをかけていたから」

 その後クルストは、私の目が届くフラナガン医療センターで研究を続けた。そしてセリーヌの身に起きた現象の再現…人の精神を機械に宿らせようとした時に事故が起き、そしてEXAMシステムへと続くことになる。

「そしてその…先ほどの16人の子供らは?」

 気を利かせた言葉が思いつかなかったらしく、視線を外しつつキャスバルが尋ねる。

「…エルピーがニュータイプで…クルストはニュータイプの素養がある方が、エキドナから分離させたセリーヌの精神を宿らせやすいと考えたみたいですね…」

 セリーヌの生殖細胞にエルピーの遺伝子情報を組み替えたキメラ細胞に、ギレンの生殖細胞を交配させて生み出したのが、前世の情報で「プル・シリーズ」と呼称される、先ほどの16人の子供らであった。大方、受精卵の16分割時に分割したのであろう。

 異世界の情報ではニュータイプ能力の強弱で最も成功した者を私の親友と同じ「エルピー・プル」と名乗らせ、次点の者を名前とナンバーを捩った「プルツー」と呼称していたようだ。しかも“UC“のマリーダを含む残りの10人をナンバーズとし、それ以外には名すら与えなかった。

 そのような扱いをしたのは、異世界の情報内のグレミー・トト。唐突かつ残酷な形で、この事実を突きつけられたのであろう。だから“ZZ“であんなにも己が“正統性“に固執してしまった。

 そして目の前に居るグレミーは、自身の出生の事情を聞き顔面蒼白となっている。

 

「……グレミー、“セリーヌ“と会いますか?」

 

 ミナレットの全設備を管理する統括OS“ハーモニー“。

 その本体が鎮座している中央機器室へと、私はグレミーを案内する。

「少し会話してもいいかしら? “エキドナ“……いいえ“セリーヌ“」

「っ?!」

 私の言葉に驚くグレミーの目の前に、生前のセリーヌ・ロムの姿をしたホログラムが姿を表した。

「叔母上……まさかママンは…」

「セリーヌは“エキドナ“を掌握している。つまり、自我を維持している」

 それを知ったのは、私がミナレットの隠遁生活を始めた時であった。

 内密にしていた事に対して私は責めたが、セリーヌは「話しかけた事が原因でクルストが半ば発狂し、研究が暴走した」と告げ、それで接触に対して慎重になっていたと告げた。しかし、端末ロボットを介した「プル・シリーズ」の世話は限界になりつつあり、長期滞在を始めた私が統合生活プラントの食糧生産状況を確認すればバレると悟り、セリーヌは意を決して接触を取ってきたのであった。

 親友がAIの自我を乗っ取っていたとか、この世界でもプル・シリーズが存在しているとか、地雷案件を同時に公開された私の心境を少しは慮ってほしいと、その時のセリーヌと口論に発展したわけだが…

 それでも「16人娘がいる」と知らされたギレンよりはマシであったかもしれない。思考が完全にシャットダウンしたため、ギレンはサイド3に戻れなかったわけだから…

 そんなことを考えている間にも、グレミーは恐る恐るセリーヌのホログラムに近づく。

「貴女が……ママン…いえ、母上ですか?」

《……私は……貴方に何もしてあげられない。今までも…そしてこれからも…そのような私が、貴方の“母“と名乗るなど……》

 人工音声であるにも関わらず、胸を張って言えない痛みが感じ取れた。

「僕は…何者なんでしょうか? 僕はこれからどうすれば…」

《その答えは私は持ち合わせていない…貴方の成長に携われなかった私には、答える権利など無いのです。ただ…》

 触れられない。それでもセリーヌのホログラムは、微かに息を呑んだグレミーの頬を抱え込むような仕草をした。

《…貴方をここまで立派に成長させてくれた人が存在したことに、感謝します》

「トト家の養父母のことですか?」

《キシリアから聞いています。シャロン・フェアリー隊で活躍していることも…良き友人関係を育み、そして成長した貴方を、私は誇りに思います》

「っ‼︎」

 言葉にできない感情を抑え込むように、グレミーは俯き肩を震わせた。

 ……この場に留まることは無粋であろう。

 そう判断して、2人を残して私は部屋を後にした。

 

「キシリア様」

 

 部屋を出た私を呼び止めたのは、ギレンの秘書であり一部では愛人とすら噂されているセシリア・アイリーンであった。

「ギレン兄と話せましたか?」

「いいえ…授業を終えてすぐに何処かへ…」

 そう言いセシリアは目を伏せる。

「……私は…何も知りませんでした」

「知らせる必要はないと、兄は判断したのでしょう」

「私は……あの方を支えているものだと自負しておりました」

「ギレン兄に婚約者がいたことくらい、情報部に居た貴女の耳にも入っていたのでは?」

「情報として知っておりましたが……『以前いた』というあの方の言葉だけを私は信じていたのです…」

 セシリアの言葉を聞き私は驚いた。表情を読み取ったのか、セシリアは訝しげな表情で私を見てきた。

「…キシリア様?」

「……ギレン兄は…セリーヌの存在を“過去“と認識できるようになったのですね」

「っ?! それはどういう……」

「誤魔化すだけであれば、『ただの噂だ』という回答に留めるはずです」

 私の言葉を聞きセシリアは目を見開いた。この様子では、ギレンを問いただすことは今後一切なさそうである。であれば……

 

「セリーヌを『過去』とした言葉を引き出せた貴女でなければ、ギレン・ザビを支える事はできない。兄をお願いします。セシリア・アイリーン」

 





第7話の伏線回収完了。多分一番間隔が長かったかと…
次回は目標は土曜日更新、遅くても来週月曜日に更新予定です。

【おまけ:プル・シリーズの名付け】
ギレン「……16人…」
キシリア「名前を付けましょう。番号のままは流石に…」
ギレン「確かに。で、1番は?」
キシリア「『プル』はどうですか?」
ギレン「家名そのままはどうかと思うが…」
キシリア「で、では…『エリー』は? エルピーの愛称」
ギレン「ふむ……2番はどうする?」
キシリア「『プルツー』…ではなくて『ルツー』は?」
ギレン「…何故『プル』を入れようとする?」
キシリア「だったら残りの子は兄上が付けて下さい」
ギレン「その方が良さそうだな」
キシリア「ああ、12番は『マリーダ』でお願いします」
ギレン「……何故?」

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