キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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何とか予定通りに更新できました。
あと2話ほどしたら、一番最後の山場に突入するため、取りこぼしが無いように慎重に進めてます(汗)。



66. キシリア様は文化人

 

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センター、入院棟。

 その一室に、先日のアクシズへの襲撃で負傷したハマーン・カーンの姿があった。

 ジャマイカンら真正ティターンズの残党が、アクシズを奪って地球に落とそうとしたのだが、それを阻止することに成功した。アクシズの責任者でハマーンの父であるマハラジャらも保護され、そして捕縛したジャマイカンらを護送しようとした時、急に現れた別勢力から襲撃を受けたのだ。

「にしても、あのMSは一体…」

 見知らぬ強力なMSから母艦のラーディッシュをハマーンは守り切ったが、ジャマイカンらを乗せた護送船を奪われてしまったのだ。

 

「具合はどう?」

 

 ハマーンの思考を中断させるような声と共に病室に入ってきたのは、ハマーンが密かに思いを寄せているジュドー・アーシタであった。

「ジュドーか……いきなり入室は如何なものかと…」

「言っとくが、何度もノックしたぜ。全然返事しねえんだもん」

 そう言いつつジュドーは、袋をサイドテーブルの上に置いた。

「これ、部の皆んなから。本当は上手い食い物を持って行きたかったんだが…」

「ここは病院だ」

「分かってるって。だからコレ」

 そう言いジュドーは袋から端末を取り出して、動画を再生し始めた。そこに写っていたのは、ハマーンが顧問を、ジュドーが部長を務めている、シャロン学園のMS戦術クラブのシミュレーターでの模擬戦であった。

「へへ……客の入りは上々!」

「すまなかったな。学園祭の出し物では、お前と私の模擬戦で集客する予定だったのだが…」

 一昨日からシャロン学園で年に一度の学園祭が行われているのだが、2週間の入院を余儀なくされたハマーンは参加できなかったのだ。

「確かにアンタとだったら、もっと人が来たかもな…そこんところ、残念だけど……」

 自分との共演できなかったことを、心底残念そうに言うジュドーの言葉を聞き、ハマーンの心臓は一つ大きく跳ねる。そしてあらぬ妄想へ進みそうになった思考を切り替えるように、ハマーンは一つ咳払いをした。

「学園祭は今日までだろう? ここに来て大丈夫なのか?」

「あとは昨日までの記録映像で十分だろうって、なんかリィナに『ハマーン先生に報告に行きなさい』って言われてさあ…」

 そこで言葉を切るジュドーの頬は、心なしか少し朱が掛かっている。

 

「その……後夜祭の学園のイルミネーション、ここの屋上からよく見えるってセラーナが言っててさ…一緒に見ねえか?」

 

 シャロン学園、正門ゲート。

 普段は閉じている事が多いが今日は特別、学園祭最終日は周辺住民へ一般公開されていた。最近ではイベントの一つとして認識されており、学園関係者の家族や学園への入学希望者以外にも、家族連れなどの姿が見られていた。

「まさか学園祭でここまで人が多いとは…」

 そう呟き疲れた様子でベンチに座っていたのは、先日にビスト財団を引き継いだばかりのアルベルト・ビストであった。

 護衛と逸れてしまい、途方に暮れるアルベルトの前に、1人の少女が人混みから押し出されるように倒れ込んできた。

「危ない!」

 アルベルトは受け止めようとするが、少女はひらりと体勢を立て直してベンチに座った。空を切った両手を気まずそうに戻して、アルベルトもまたベンチに座り直した。そして財団の引き継ぎと共に後見人を務めることとなった歳離れた弟、バナージ・リンクスの写真と彼が居ると思われる展示場所の地図を見比べる。

「歴史研究クラブの展示場でしたら、この道を真っ直ぐ行った突き当たりですよ」

 突然そう語りかけてきた少女を、アルベルトは驚いた様子で見返す。アルベルトの様子を見て、少女は勝手に心を読んで話しかけた自分の失態にようやく気づいたらしい。

「君は……」

「マリーダ姉さん、ここにいたの⁈」

 ニュータイプかとアルベルトが尋ねる前に、目の前の少女と同じ顔の娘が3人駆け寄ってきた。

「ノン、リン、レイ」

 3人と合流できて、少女…マリーダはほっとした様子で名を呼んだ。

「マリーダ、このおじさんは?」

 まだ20代なのにおじさん呼ばわりされて少し傷つくも、アルベルトは立ち上がり少女らに向き合う。

「アルベルト・ビストと申します。こちらのマリーダさんには、道を教えてもらっていたのですよ」

「そうだったんですか。私、ミンタカ・リン・ザビです」

「オクル・レイ・ザビです」

「パラス・ノン・ザビ…って、ちゃんと自己紹介したの、マリーダ?」

 妹らに促されて、マリーダは静かに立ち上がってアルベルトに挨拶をする。

「レト・マリーダ・ザビです」

 叔母キシリアが付けたミドルネームと、父ギレンが神々と星の名を由来としてアルファベット順に姉妹を名付けたファーストネームを、マリーダは誇らしげに名乗った。

「もう‼︎ 探してたのよ!」

「ごめんなさい…プル姉さんを探してて…」

「プル姉さんは、プルツー姉さんが見つけたわ」

「早くお父様のところへ戻りましょう」

 そう騒がしく去っていくマリーダ達をぼんやりした様子で、アルベルトは唖然とした様子で眺めていた。

「ザビ……ザビ家⁈」

 護衛であるガエル・チャンが合流するまで、アルベルトは呆然と少女らが去った後を呆然と眺めていたのであった。

 

「ねえ…聞いてるの、お父さま!」

 

 旧世紀の故事で「女三人寄れば姦しい」と言う言葉がある。グレミーの父として、そして来年度からの入学に向けた見学として、娘らをシャロン学園の学園祭へ連れてきたギレン・ザビはその言葉を痛感した。

「父上が困っている‼︎ あまり騒ぐな!」

「何よ‼︎ プルツーったらいい子ぶって…」

「…ベルーナ、構わん。アトリア、話してみなさい」

 口論になりかける長女アトリア・プル・ザビと次女ベルーナ・プルツー・ザビの間に割って入るギレン。非常に疲れるが、これが一番精神的にダメージが少ないことをギレンは学んでいた。

「それでねえ…さっきグロリアから連絡が来たんだけど、MS戦術クラブのシミュレーターでの模擬戦が面白いんだって‼︎」

 他のプルシリーズ…彼女らにとっての姉妹からのメールを読みつつ、嬉々としてプルは話しかけるが、隣に座っているプルツーは時計と見比べてため息をついて口を開いた。

「1時間後にキャスバルさんとアムロさんの『地球への隕石落としのテロ対処』のVRシミュレーションを見にいくのだろう? 時間を考えろ!」

 ギレンが連れてきた16人の娘たち。流石に全員をギレンが見るのは不可能であった。そこでセシリアに加えて、ミネバの様子を見にきたドズルと、たまにシャロン学園で教鞭を取っていることから学祭に呼ばれたガルマに、それぞれ複数名ずつ対応を頼んでいた。

 ギレンが対応しているのはプル、プルツー、マリーダ、ノン、リン、レイの6人。次はどこを回るか相談中にプルが出店のクレープにつられて逸れて、プルを探している最中に今度はマリーダが逸れてしまった。何とかプルと合流して、マリーダも見つかったと連絡を受けて彼女らの合流を待っている最中であった。

 一つため息をつきギレンは、学園祭のパンフレットを開いた。

「ダリル・ローレンツとカーラ・ミッチャムの精神波を介した新たな義手研究…か」

「ノーマとアリシア達を連れてセシリアさんが行ってます。それから、シンシアとエレノア達はガルマ叔父上と植物研究関係を見るって」

「さっき画像が届いたよ! 珍しい花があるんだって‼︎」

 興奮したように口を挟んでくるプルの言葉を聞きつつ、ギレンはパンフレットに書かれた名に目を止める。

「イオ・フレミング……サイド4の首長の息子だったな」

 サイド4の首長のオットーが連邦の議員と共に、フォン・ブラウン市に地球の絶滅危惧種の動物や植物等を保存する施設を建設していることは、ギレンの耳にも入っていた。

「ふむ……興味深いな。次はそこへ行ってみるか?」

 

「兄上、少々宜しいですか?」

 

 その時、少々躊躇いつつも声を掛けてきたのは、ギレンの妹のキシリアであった。

「こちらは大丈夫です。例のVRシミュレーションイベントには、グレミー兄上だけではなく、ドズル叔父上もゲスト参加すると聞いてます。多分全員そこに集まるかと」

 残り時間が自分らで対応できると言うプルツーの言葉に、ギレンは頷く。

「そうか……アトリア・プル、ベルーナ・プルツー。あとは任せる」

 プルとプルツーの頭を軽く触れた後にパンフレットを渡して、ギレンはキシリアの後を追ったのであった。

 

 ********

 

「後夜祭……か」

 

 久しぶりにシャロン学園を訪れた私キシリア・ザビは、以前使用していた理事長室の窓から学園祭の様子を眺める。色とりどりに飾られた広場の様子に、思わず目を細めた。

 シャロン学園には、ジオンだけではなく他のコロニー出身者も、そして地球連邦に所属している者も在籍している。そして子女の様子を見るために保護者である各陣営の高官たちも集まった訳だが、特にトラブルは起きることなく、穏やかに歓談する姿が散見された。

「ドズルとハサウェイの父君であるブライト大佐が、本日のメインイベントのVRシミュレーションにゲスト参加してくれたおかげであろうな」

 VRシミュレーションの内容は、私が持つ異世界の情報の中にある“逆襲のシャア”のクライマックスの再現であるが、ドズルが率いる艦隊とブライトの率いる艦隊の共闘で、見事地球への隕石落下を防いだのは圧巻であった。尤も生徒らが歓声を上げたのは、データ上で完成していたνガンダム搭乗のアムロと、サザビー搭乗のキャスバルの一騎打ちであったが…

 

 私が居なくても理念は受け継がれて、そして新たな理念が生まれて育まれている。

 しかし、それすらも塗りつぶすような悪意が蠢動し始めていた。

「……過去の亡霊…か」

 呟きを落とし、ほぼ無意識に右手薬指の指輪に触れる。

 

 つい先程まで私は、シャロン学園本部の無窓会議室で地球連邦の高官と情報共有をしていた。

 主だった者と言っても、シャロン学園の生徒である子女の招待を受けて学園祭へと足を運んだ、地球連邦政府の参謀次官アデナウアー・パラヤ、地球連邦軍エウーゴの司令に就任したブライト・ノアの2人であるが…

 事前に状況共有を終えていた、兄ギレンとシャロン学園の学園長であるシロッコの立ち会いで私は、密かに匿っているウォン・リー、そして先日救出されたカーディアスとマーサから得られた情報の一部を開示したのだ。

 流石に情報源については伝えられず、それに対して特にパラヤ参謀次官は不審を抱いたが、先日のアクシズ襲撃を掴んだ情報と同一であることをシロッコが伝え、それでようやく信用をしてくれたわけだが…

 

「まさか相手が、ガンダムTR-6[ウーンドウォート・ラー]を持ち出すとは…」

 

 私が滞在している旧世紀の研究施設衛星「ミナレット」。

 宇宙世紀に入ってから“何者か”が使用していた第二研究ブロックで、とあるMSの設計と基礎シミュレーションによる設計データの改良が繰り返し行われた形跡が見つかった。

 それは前世の情報の中、連邦軍のティターンズが「トライテスラー計画」の予算を利用して遂行された“TR計画”、その最終成果である“ガンダムTR-6”と酷似してた。

 そしてそのTR-6の換装形態の一つ、ウーンドウォート・ラーが先日のアクシズ襲撃事件の時に姿を現した。強大な力でアクシスの防衛軍のMSは壊滅寸前にまで追い込まれたが、ディマーテルを駆るハマーンのお陰で辛うじて撃退。しかしウーンドウォート・ラーは、捕縛したジャマイカンの護送艦を奪い去ってしまったのだ。

「素体MSに多種多様な換装パーツを装着し、無限とも言える換装形態を有する高スペックの決戦兵器…」

 様々なオプションパーツを装着することで、巨大モビルスーツ形態や巨大モビルアーマー形態、果てには戦略兵器へと拡張可能な、はっきり言って化け物MSであった。

「ミナレットの施設利用は、コロニー・レーザーの製造に関わる基礎データの算出と基礎シミュレーションだけかと思ったが…予想以上に厄介だ」

 だからこそ今回私は、ガンダムTR-6とコロニー・レーザーの情報を連邦にも伝えたわけではあるが…

 

「果たして連邦政府はどこまで動いてくれるか…今しばらく監視を続けてくれないか。ニアーライト」

 呟くようにそう言うと、部屋の隅から長年私に支えてくれているニアーライトが姿を現した。

「軍を退役しましたので、存分にこの身をお使いください」

「お前が軍を離れてマは苦言を吐いていましたけどね。流石にジオン軍に身を置いた上では際どい仕事が多い。今回の件は特に助かりました」

 対象が絞りきれたのだが、逆に国軍が一企業を追い回す体裁は避けた方がいい。故に公職を離れた私が単独で動いている形であった。

「いえ…カイ・シデンの情報があってのこと」

「ペルトーチカ・イルマでしたか? ルオ商会と縁ある者と伝手ができるとは、なかなか有能ですね。これでようやく、貴方を解放することができます」

「いえ…最後まで私は貴方にお仕えします」

「こちらの方は、もうこれ以上諜報は必要ありません」

 

 そう、情報は全て繋がった。ミナレットの第二研究ブロックの利用者が判明したのだ。

 ルオ商会の創設者、ルオ・ウーミン。

 旧世紀の研究施設衛星「ミナレット」の副所長であった男だ。

 





次回は土曜日更新を目標。早ければ水曜日、遅くとも来週月曜日に更新予定です。

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