キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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早く書き上がったので更新します。
いつもより長くなりましたが、いよいよ最後の山場に突入します。
読者の方々、お覚悟を!(キシリア風)



69. キシリア様は絶対者

 

 地球。旧アジア地区、ニューホンコン。

「久しぶりの地球……か」

 シャロン学園の教員であり、シャロン・フェアリー隊に所属するリディ・マーセナスは、ホテルの一室から窓の外を眺める。

 その時部屋のドアを叩く音が聞こえる。

「バナージです」

 ドアの外からの名乗りを聞き、ドアを開けるとシャロン学園の高等部に所属するバナージ・リンクスの姿があった。

「リディ先輩……じゃなくて先生。迎えがきました」

「……わかった。準備が終わったら俺も行く」

 リディの言葉に静かに笑みつつ頷き、バナージはひと足先にエレベーターホールへと向かう。その後ろ姿を見て、リディは密かにため息を吐いた。

 今回リディを呼び出したのは、実父ローナン・マーセナスであった。

 世界初の統合政府である地球連邦政府の初代大統領リカルド・マーセナスの血筋であり、リカルドの息子でありながら“ラプラス事件”の首謀者と噂されるジョルジュ・マーセナスの血を引く出生。それを受け継いだような地位…地球連邦政府中央議会議員、移民問題評議会議長という肩書きを持つ父と、リディは折り合いが悪かった。

「ったく…シャロン学園の教員になったのに今更何だよ……家を継げとかじゃないよな?」

 リディはシャロン・フェアリー隊で新たに導入された補給・輸送特化機の専属パイロットになっていた。

「兵装ユニットから補給ユニットに換装したリゼルディフェンサーに、やっと慣れてきたんだ…それに今更、MS隊の皆に補給なしでやれとは言えないだろうが…」

 そう言いつつもリディは一抹の違和感を抱く。それは歳の離れた母違いの兄に呼ばれたバナージと、同じタイミングで同じ場所に呼び出されていることであった。

 バナージがビスト家の血を引くと聞いた時はリディも驚いたが、そもそもシャロン学園の理事長はジオンの元公主。サイド4の首長の息子や、ジオンの元総帥の子供が17人いる時点で、色々とどうでも良くなったのはリディにとって懐かしい思い出でもある。

 

 アルベルト・ビストに連れられ、リディとバナージは一際大きな施設に辿り着く。

 施設の掲げられたエンブレムから、ルオ商会に関係した施設であることは分かった。しかし施設に出入りしているのは、軍関係や警察関係の制服を纏った人間で、物々しい雰囲気に包まれていた。

 そして施設の最奥、地下の最下層が目的地であった。

 

「遠路はるばるご足労いただき感謝します。私、キシリア・ザビ元理事長に仕えます、ニアーライトと申します」

 

 そう言う壮年の男の背後、部屋の中央には生命維持装置に繋がれた老人。それを囲むように周囲に立ち並ぶ顔ぶれに見覚えがあり、驚きリディはその名を呼ぶ。

「……ビスト家のカーディアスにマーサ・カーバインか? 親父、何故コイツらと一緒に居る⁈」

 カーディアスの名を聞き、一瞬肩を震わせるバナージに気づくことなく、半ば喰いかかるようにリディは父ローナンに詰め寄る。

「それについては、私が説明を……」

 そう切り出し、経緯を話し始めたのはニアーライトの隣に居た、ルオ商会内部での協力者であるべルトーチカ・イルマであった。

 イルマは、ルオ商会による実質のビスト財団の乗っ取り並びにサイアム・ビストの監禁、加えてBUNNySの制作における非人道実験の証拠が固まり、ルオ商会に対して地球連邦政府が強制捜査に踏み切ったことを話した。

「それで、なぜ俺やバナージを呼び出した?」

「キシリア様のご命令。ビスト家並びにマーセナス家に情報を開示するように…と」

「情報?」

「宇宙世紀開幕直後に起きた“ラプラス事件”。地球連邦政府の大統領官邸が所在していた、宇宙ステーション『ラプラス』の爆破テロ事件の真相」

 そう言いニアーライトは、白い壁の一角にプロジェクターで画像データを見せる。それは西暦の最終年度が記された、公式文章であった。

「事件で亡くなった初代大統領リカルドの手で進められた『トライステラー計画』の責任者であるシャーラ・マーキス」

 公式書類のサインを示したのち、ニアーライトは次のスライドを見せる。

「そしてトライステラー計画の研究所跡地で、シャーラの手記が見つかりました。連邦軍の鑑識でも、筆跡から本物であると実証されたもの…」

 幸いにも共用語で記された手記を、その場にいる者は皆読み解くことができた。そして書いてある内容に対して…皆は絶句するしかなかった。

 

「……宇宙世紀改暦セレモニーで、視聴している者全てに“理念”を埋め込むって何?」

「それはまるで……洗脳ではないか⁈」

 ようやく口を開いたマーサに続くように、アルベルトも思わず声を上げる。

「……その気持ちは分からぬわけではない。当時は人々が荒れに荒れていた…」

「宇宙移民計画遂行のため、世界の意思を統一するため…と、統一組織を作らんと多数存在していた少数派を、暴力でねじ伏せるしかなかった時代…」

 カーディアスの言葉に同意するように、ローナンは言葉を続ける。

「でもそれって、最初から“答え”を貰うってことだよね? その“答え”が正しいって誰が判断しているの?」

「第一、当時は“正しい”ってことが、今の世界でも“正しい”とは、限らないだろう?」

 即座に反論したバナージとリディの言葉に対して、眩しくも痛々しい者に対して向ける視線をローナンは向ける。

「世の大半の人々は、そこまで思考することはできない」

「だからと言って最初に答えを与えたら、思考する切っ掛けを奪わないか?」

 ローナンにそう反論し、リディは同様の内容が記された手記に再度目を向けた。

「理念に対する考察は結構ですが、その先を読んでもらえますか?」

 暗に先を読むように促すニアーライトの言葉に従って読み進め、そして全員がある一点で視線を止めた。そして思わず声に出したのは、アルベルトであった。

 

「シャーラは……式典を妨害するようにジョルジュに依頼した…だと⁈」

 

 己が思考の末に理念を見出さなければ、理念の重要性を認識できない。理念が道具に貶められる危険性があるとシャーラは訴えたが、リカルドには受け入れてもらえずそこでジョルジュに依頼した経緯が書いてあった。そして…

「説得は受け入れなかった。ジョルジュは実力行使を視野に入れることを相談して…」

「シャーラはそれを承諾した。その方法が宇宙ステーションごと、当時の政府上層部を吹き飛ばすテロであることを、シャーラやジョルジュはその時点で把握していたかどうかは不明だがな」

 マーサの言葉を引き継ぐように、カーディアスはそう言って視線をサイアムの方へと移した。

 そのテロの実行犯の一人が、己が祖父のサイアムであることをカーディアスは知っていた。この話を聞いて何かしら反応を示すかと思ったが…駆けつけた時は既にサイアムの精神は崩壊し、全く反応を示すことは無くなっていた。

 

「それからキシリア様から追加情報です。トライステラー計画で使う予定だった理念を植え付ける装置は、“宇宙世紀憲章の原本”に擬態しているそうです」

 

 ********

 

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センターの特別集中治療室前。そこで先ほどニアーライトから送られてきた、地球のルオ商会での捜査結果を閲覧し、私キシリアは思わずため息を吐いた。

「……ルオ・ウーミンはメガラニカごと“ラプラスの箱”を所持したまま逃走中…か」

 “ラプラスの箱”とは”“宇宙世紀憲章の原本”。サイアムがそれを隠した宇宙ステーション「ラプラス」の残骸を内包する形で、メガラニカが建築されたそうだ。

 そこまで異世界の情報通りじゃなくて良かったのに…と私は内心ぼやく。

 そして前室と治療室を仕切るガラス越しに、昏睡状態で横たわっている少女に視線を落とす。ルオ商会が所有するサイド3の24バンチ「タイガーバウム」を急襲した、ロンド・ベルが保護した昏睡状態のリタ・ベルナルであった。

「フラナガン博士の見立てでは、EXAMシステムに精神体を取り込まれたアムロやマリオンと同じ状況らしいが…」

 タイガーバウムで押収したMS、ユニコーンガンダム1号機の「ユニコーン」と2号機「バンシィ」に原因があるのではないかと疑ったが、どちらも異世界の情報と異なり“NT-D”は外されており、それ以上突き止めることは不可能であった。

「研究担当者のアルフ・カムラも、昏睡から目覚めぬとは…徹底した情報封鎖だ」

 ニューホンコンで身柄を拘束した時点で既に昏睡状態で、ララァを中心にシャロン学園の関係者が治療と情報収集を進めていた。

「サイアムも精神崩壊状態と聞く……ルオ・ウーミン。お前と言うやつは……」

 垣間見えるシャーラ・マーキスの記憶通りの強かさで、私は思わず眉間に皺を寄せる。メガラニカの放送設備を使って、今度こそトライステラー計画を成就させるつもりか?

「いや……ミナレットの記録では“精神データを機械に取り込ませる”研究ログが多く見られた」

 その実験記録のお陰で、クルストは一人でEXAMシステムを生み出せた程だ。おそらくウーミンにとって中核となる研究のはず…

 私の予想よりも遥かに碌でもない事を企んでいるのは分かる。

「せめての救いは、ロンド・ベルとジオン軍がメガラニカの追跡できていることだが…」

 メガラニカに乗っているのは、ステファニー・ルオ、ミシェル・ルオ、そしてルオ・ウーミン。近いうちに彼らの身柄を確保できるはず。

 

 それなのに、膨らみ続ける漠然とした不安は何だ⁈

 

『キシリア様‼︎』

「シロッコか? どうした?」

『緊急事態です‼︎』

 

 シャロン学園、シャロン・フェアリー隊の格納庫…専用MSカリョーヴィンの保管場所へと私は足早に向かう。

 

 地球へのコロニー落としテロ未遂の主犯である真正ティターンズの残党で、アクシズ襲撃事件を起こしたジャマイカンら一味を、ルオ商会が保護していたことが発覚。さらに…

「ジャマイカンらにソーラー・レイを引き渡したと⁈ 気狂いに刃物とはよく言ったものだ…」

 そして同時に、ルオ商会が監視衛星へハッキングしていた痕跡が明るみとなった。捜索で得られた本来のデータを解析したところ、ソーラー・レイの長距離出力試験と推定されるエネルギー波のデータを捕捉されていた。

「移動可能なコロニーレーザーではないだけマシか…」

 ソーラー・レイ設置推定場所が特定されるや否や、キャスバルはシャロン・フェアリー隊の出撃を決定。なぜならば…

「サイド3の首都バンチを中心とした一帯が、推定照射範囲内とは偶然ではないだろう‼︎」

 奴らの標的はサイド3のコロニー群。

 サイド3やグラナダからジオン軍が出撃するが、コロニー・レーザーの推定設置場所までは距離がある。むしろサイド6の方が距離が近いと、シャロン・フェアリー隊も出撃という形になったが…

「情報が明るみになるタイミングが出来すぎている‼︎ ウーミンが計算した上でならば、逃亡の目眩しのためにいつ発射してもおかしくない‼︎」

 

 ノーマルスーツを着る時間も惜しい私は、到着したカリョーヴィンのコックピットの扉が開くと同時に、ブーツのマグネットを切って乗り込もうとしたが…

 

「これ以上はお止め下さい!」

 

 カリョーヴィンのコックピットの中には、マ・クベの姿があった。

 ソーラー・レイの詳細情報は、シャロン学園に詰めていたマから伝えられたと、シロッコが言っていた事を思い出す。

 そしてマは静かに銃口を私に向けた。

「……私とカリョーヴィンでソーラー・レイを反射する。それ以外に代案が有れば申せ」

「ありません。正直それが最も成功率が高い。しかし“貴女”が無事でいられる保証は?」

「ない。むしろ“人”の枠を壊す必要がある」

 あっさりとそう言った私の言葉を聞き、マは微かに腕は震わせる。

「ならば行かせる訳にはいきません!」

「そうか……悪いが行かせてもらう!」

 自身に向けられた銃口を無視し、私は無重力下の床を蹴ってコックピットに飛び込もうとする。しかしそれと同時に、マもコックピットから飛び出しそして…

 

 マは私を優しく抱き留めた。

 

「…………マ? …何を⁈」

 予想外故に停止しかけた思考を再起動させ、私は行動の意図を鋭く問う。しかしマは、腕を緩めるどころか更に私を抱き締めてきた。

「貴女が一番手放したくないものを払ってまで、守られたいと思う者は誰も居ないのです‼︎」

「しかし私は……」

「貴女はもう出撃しなくていい‼︎ これ以上、貴女は戦わなくて……」

 

 最後まで言わせない。

 

 尚も言葉を紡ごうとした口を塞ぐように、私はマ・クベの口角に口付けを落とした。

「………⁈っ…な…な………あ…あぁっ‼︎」

 目に見えて狼狽えて力を緩めた隙に、私はマの腕から抜け出す。

「っ‼︎ お…お待ちください‼︎ キシリア様っ‼︎」

 尚も私の腕を掴もうと手を伸ばしたマに、私は右手薬指の指輪を投げ渡した。

 

「後は頼む……」

 

 言うだけ言ってコックピットの扉を閉じ、私はカリョーヴィンを発進させた。

 

 カリョーヴィンのコックピット内。

 操作パネルを雫が濡らす。自身の双眸から涙が絶え間なく流れ落ちている事実に、私は少なからず驚いた。

「…この後に及んで涙が出るとは……」

 ……そうか……これが………

 原因となっている感情を理解し、静かに流れる涙は止まった。

 同じタイミングでコロニー外郭の緊急発進口に辿り着く。ハッチを開いた先に広がる漆黒の闇へと機体を投じると同時に、私はシロッコに通信を繋いだ。

「聞こえるか、シロッコ」

『っ‼︎ キシリア様⁈』

「以前のソーラー・システムの反射時の演算シーケンスを、精神ネットワーク経由で見せなさい!」

『……キシリア様⁈ っ‼︎ ま……まさか単独で⁈ いけません‼︎』

「もう遅い。データは転写させてもらった」

 騒いでいるシロッコとの通信を切り、私はカリョーヴィンのブースターを点火した。

 

 加速とともに速やかに演算計算に入る。

 送られてきたソーラー・レイのデータを分析。予想していたが、自身とカリョーヴィンの補助AIだけでは、演算領域が足りない。

「境界を踏み越えて……クラウドに繋げるイメージで……“あの領域”の演算領域を借りれば足りる!」

 問題は、極限まで自身を“世界の構造体”と同調させること。

 

 つまり……人間を辞めること。

 いやだ………私はまだ………

 

「だがそれより……喪う方が耐えられない!」

 

 ソーラー・レイとサイド3の中間地点の宙域。カリョーヴィンの補助AIであるメーティスが予測した射線上に着いた所で、私はカリョーヴィンからブースターを切り離した。

 メーティスが異常なエネルギーを感知して警告する。ジャマイカンの歪んだ笑い声が微かに聞こえた気がした。

 

 時間が無い‼︎

 

 カリョーヴィンに搭載しているミノフスキー粒子を全弾放出。

 メーティスの限界までサイコウェーブを放ち、周囲のミノフスキー粒子をかき集め、演算計算に従って配置していく。そしてカリョーヴィンの前に、幾何学模様の光が走り収束していった。

 

 直後、災害級の熱を伴った光の束が“ミノフスキー粒子の盾”に激突した。

 一部は乱反射して宇宙空間に消え、漏れ出た一部がカリョーヴィンの機体を灼く。その衝撃はコックピットまで届き、一斉に警告アラートが幾重にも響き渡った。

「……くっ‼︎」

 メーティスが悲鳴をあげているが、自身を呑んだ父神の性質を全能神へ書き換えた女神の名であろう? 物理法則をも書き換えてみせろ‼︎

 

 誤差を演算の再計算で補正し、やがて最適解の配置へとミノフスキー粒子が並んだ次の瞬間、熱を帯びた光は乱反射し、屈折し、跳弾し、集約され、そして……

 

 光の槍が生まれた。

 

 それが視認できたのは一瞬の事。

 軌跡を辿るように高速で放たれた光の槍は、展開していたジャマイカンら真正ティターンズ残党の艦隊を焼き払い、ソーラーレイシステムの改造コロニーを貫き崩壊させた。

 

 護れた……でも……

 もう少し……“人”で居たかった。

 





次回は来週水曜日が目標。遅くても来週土曜日に更新予定です。
残り6話(本編5話+エピローグの予定)。
最後までお付き合い願えると幸いです。

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