キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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たくさんのコメントありがとうございます。
返信が追いつかなくなってきていますが、全て読ませていただいています。今後ともよろしくお願いします。



7. キシリア様は婚約者

 

 綺麗事だけでは不可能と悟り、心を通わせていた者と袂を別ち、長く伸ばしていた髪を切った。

 

 4年前、事故と見せかけて殺され奪われた多くの友。彼ら、彼女らに私キシリア・ザビは誓いを立てた。そして、祖国の民の命と尊厳をこれ以上踏み躙られるわけにはいかないと、形振り構わず力を求めた。性別ゆえに否定されて、今となっては違うと分かるが家族にも軽んじられていると感じ、権力を得るために多くの権限を求めた。

 そして、目的を果たすために権限を求めるのではなく、その権限を持つこと自体を目的としてしまっていたのだ。前世の記憶を手に入れる前の私は、友への誓いすらも忘却していたのだから……

「汚泥に身を沈めても、祖国の独立を成し遂げる」

 誓いを口に私は慰霊碑に花を捧げる。

「……その誓い、少し修正させて欲しい。筋の通らない行動は後に歪みを齎し、やがて祖国を滅ぼすと知ってしまったからな。清濁併せ吞むと言う言葉がある。狭量である私には些か荷が勝ち過ぎているかも知れぬが、やれるだけやろうと思う。我が祖国を守るために」

 

「キシリア様ではないですか。ご無沙汰しております」

 

 突然、魂が抜けそうな美声が背後から聞こえてきた。腰が砕けそうになるのを抑えつつ、出来るだけ平常心を保って私は振り返る。

「久しいですね。ギニアス殿」

 名を呼ばれ、15、6くらいの金髪の少年が、少し疲れた様子で笑みを浮かべる。

「幸いにも体調が良かったので、ノリスに無理を言って連れてきてもらいました」

 そう言いつつ、ギニアスは同行していた大男…ノリスに支えられつつ、慰霊碑に花を捧げた。

「お礼を申し上げます。我がサハリン家をザビ派に迎え入れていただきまして…」

「デギン議長に伝えておきましょう。その判断を下したのは父デギンですので」

「……3年前と同様に、旧ダイクン派の2派閥間の全面衝突が再び起きていたのであれば、我がサハリン家の再興は絶望的となっていたでしょう」

 

 3年前、ダイクン派の人間が20万人粛清された。前世のサブカルチャー由来の情報では、ザビ家が権力を握るためにダイクン派を派手に粛清したとされていたが、これについては少し語弊がある。

 ジオンが地球から呼び寄せたジンバ・ラル達と、ジオンの正妻であるローゼルシアが率いるサイド3の統治者たちが合わさり、最大規模の派閥であるダイクン派が形成された。しかし7年前のアストライア毒殺未遂事件で、真のダイクン派であるジオン派と、正妻側のローゼルシア派へと分裂してしまったのだ。

 そして4年前、この場所で起きた地球連邦軍の駐留部隊が所有する宇宙港の事故。当時この周辺はローゼルシア派に属する名家の屋敷が立ち並ぶ高級住宅地であり、事故があったときは丁度ローゼルシアを招いて会合が行われていた。そのため、ローゼルシア派の関係者が多数巻き込まれ、死傷者だけではなく重度の宇宙線曝露症患者を多く生み出す悲劇となった。この事件は、連邦の手を借りたジオン派が事故に見せかけて攻撃したというのが、ローゼルシア派の言い分であった。結果、互いが互いを謀殺し合う事態となり、内戦寸前にまで陥った。それを両派閥の過激派を粛清することで事態の収拾に努めたのが、ザビ家であった。

 その後はもっと悲惨であった。事故の周辺地域は事故調査の名目で連邦に接収され、ローゼルシア派に属する多くの名家が財産を失っていた。続いて起きた粛清騒動で、報復を恐れ身の危険を感じたのか、為政に携わる要職を辞退する者が続出し、ザビ家の一族内で穴埋めする事態に陥ったのであった。

 

 おそらく私の提案がなければ、兄ギレンはダイクン派を潰すために、それに似た事象を誘発させる策を実行したであろう。そうしてダイクン派を壊滅させ、弱体化したローゼルシア派を完全に吸収し、サイド3では新参とも言えるザビ家に権力を集中させるために。しかし…

「…そのやり方では、確かに短時間で国内を纏められる。しかし、不穏分子を多数潜伏させる危険性がある以上、中長期的に見れば悪手であろう」

 幸いにも、父デギンが私の案を採用し、兄ギレンも結局は承諾してくれた。国内を纏める他の方法が見つかったからである。それは…

「それはそうと、キャスバル様とのご婚約おめでとうございます」

「ああ」

 静かに肯き、ギニアスからの祝いの言葉を受け入れる。流石にジオンの葬儀から間もないこともあり、私とキャスバル・レム・ダイクンとの婚約は、身内派閥の内部のみで内々に知らせてあった。

 

「キシリア様……そろそろ」

 

 護衛としてついてきた、側近のカイルが声をかけてきた。

 隣の区画への移設に伴い、地球連邦軍から民間に払い下げられた新しい宇宙港へと視線を向ける。程なく一隻の宇宙船が出航し、今いる首都のある1バンチのコロニーから旅立って行った。

「……療養地に戻られるのですね、ローゼルシア様は」

 ローゼルシアを乗せた宇宙船が見えなくなるまで敬礼をしていた私に、ギニアスは尋ねる。

「キャスバル様とアルテイシア様をダイクン邸に戻すこと、アストライア様はザビ家が預かることで納得して頂いた」

 父デギンの説得によるものか、兄ギレンの脅しによるものか、私とキャスバルとの婚約を含めてローゼルシアから承諾を取ることができた。そして余命少ないローゼルシアは、ジオンが亡くなった時に着用していた服を形見分けとして貰い、長期療養している別バンチのコロニーへ戻ることになったのだ。

「ローゼルシア派は、これで完全に無くなるのですね」

 何処となく憂いを帯びた目で、ギニアスが呟くように言う。

「サハリン家以外にも幾つかの家がザビ派に移る。カーウィン家など一部の家は、新生ダイクン派へ移動するがな」

「新生……ダイクン派ですか」

「そろそろ仕上げに掛かっている頃合い…」

 そこで私は、ある事を思い出してギニアスの方を見る。

「そう言えば……学費の工面にご苦労なさっていると?」

 突然、自家の経済状況に関わる事を尋ねられたからか、ギニアスは推し黙ってしまう。家が没落している現状を指摘する形で心苦しいが、せっかくの機会なので前々から考えていた事を、今この場で打診したいと思う。

「それに地位が安定した以上、貴方には最先端の治療を受けて宇宙線被曝症の完治を目指して頂きたい。治療に専念する間、妹さんの面倒を見る者が必要では?」

「………それが貴女とどのような関係が?」

「とある事業を計画中でな。問題を一挙に解決できるかもしれぬと思っただけだ」

 

 ********

 

「何でお母様と一緒に暮らせないの⁈」

 

 両目に涙をいっぱい溜めて、アルテイシアは母アストライアに抱きつき、詰問するような視線を兄キャスバルに向けていた。

「暫くの辛抱だ。ボクが力をつけたら、みんなで暮らせるようにしてみせる」

「でも………」

「アルテイシア。あまり困らせないで。一緒には住めなくても、いつでも私の所に会いに来ても大丈夫と、キシリアさんから約束してもらっているわ。だから……」

 

「アストライア様! ザビ家の奴らとの約束など、信じてはなりません‼︎」

 

 声と共にジンバ・ラルが部屋に入ってくる。入室許可を求める声を聞いていないと思うも、今いる屋敷の主はジンバであったとキャスバルは思い出す。諦めたようにため息を吐いたのち、キャスバルは漸く視線を向けた。

「……帰ってきていたのか、ジンバ」

「若。長くに渡りお側を離れ、申し訳ございませんでした。ザビ家の奴らめ……根も葉もない噂で儂を拘束した間に、姑息な手を使いおって……」

 そこで言葉を止め、ジンバは半ば睨みつけるような視線をキャスバルに向け、言葉を続ける。

「キャスバル様、お屋敷に戻られてはなりません! これは罠です‼︎」

「罠?」

「我らラル家を皆殺しにし、ダイクン家を…そして貴方様を守る者を、消し去るための罠でございます」

「……キシリアはボクと約束した。屋敷からローゼルシアを追い出すと」

 そこで言葉を切ったキャスバルは、ジンバの目の前に新聞を叩きつけるように落とす。そこには、ローゼルシアが再び療養施設に戻った事を伝えるニュースが記されていた。

「……マスメディアを利用するのは、奴らの常套手段ですぞ! これは恐らく偽情報……」

「ランバに調べてもらった。彼が信頼できる伝手から得た情報からも裏付けはできている。ローゼルシアは、もう屋敷に戻らないと」

「若⁈」

「向こうは約束を果たした。今度はこちらの番だ。ボクとアルテイシアは屋敷に戻る。そして母上には、ザビ家の屋敷へ移ってもらう」

「若っ‼︎」

「もう決めたことだ!」

 キャスバルがそう言い張ると、ジンバは両手を戦慄かせつつ頭を抱えた。

「……あんまりではありませんか……」

「ジンバ?」

「このジンバ・ラル、ダイクン家に忠誠を誓い続けていました。このサイド3に来る前、ジオン・ズム・ダイクンが地球に居た時からずっと…」

「………爺…」

「だからこそ4年前、ザビ家に踊らされダイクン家へ仇なそうとする愚か者共の矛先を、我がラル家は全て受け止めたのです!」

「爺!」

「この地で得た地位を投げ捨ててまで、儂はジオン様に仕えたのだ……それを貴方様は、儂ではなく、ザビ家の小娘の方を信じると言うのか⁈ ザビ家は……貴方のお父上を殺したのですぞ‼︎」

 

「親父はあっ!」

 

 廊下から部屋の中にまで響き渡るランバの声が聞こえてきた。ジンバが部屋の所在を伝えると、ランバは入室の許可をキャスバルに尋ねてから入室した。

 彼に続くように、ラル邸の護衛隊長と執事が部屋に入ってきた。

「どうした、何やら引き連れてきおって。今、キャスバル様と大事な話を…」

「今この時点をもって、ラル家の総領は俺が継ぐ」

「唐突に何を……」

「派閥内の根回しは終えている。新生ダイクン派として、俺を中心に建て直していく」

 そこまで聞き、ジンバは漸く自身が置かれている状況を理解することができた。

「お…お……お前ェっ‼︎ 儂の立場を乗っ取ると言うのか⁈」

「父さんのやり方は、平時でしか通用しない。これから有事へ向かう中では、馬鹿げた権力闘争は国を滅ぼす」

「それでも儂の息子かっ⁈」

「無駄な抵抗ですよ、父さん。地球に亡命する手立ては整っております。地球に行ってからの身の処し方は、父さんが自分で決めろ」

 ランバがそう言うや否や、廊下に控えていた護衛は速やかにジンバを引き連れて行った。

 

 残されたキャスバルらに対して、ランバは片膝を着いてジンバの無礼を詫びた。

「ランバ、お前はボクに忠誠を向けてくれるのか?」

 退室するため扉を開けた時に声をかけられ、ランバは振り返りつつ口を開く。

「貴方の御心のままに」

 そう言い残し、ランバは一礼と共に部屋を後にしたのであった。

 





次話で第一章が完結予定です。
アンケートを設置しましたので、ご協力よろしくお願いします。

第二章「ジオン自治共和国」篇に進みますか?

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