キシリア・ザビ閣下は・・・   作:桐錠

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感想、誤字修正等、ありがとうございます。
早く書き上がりましたので更新したいと思います。



70. キシリア様は擬態者

 

「どうですかフラナガン博士? きちんと人間ですか?私は」

 

 ソーラー・レイを跳ね返したダメージで半ば漂流していたカリョーヴィンは、シャロン・フェアリー隊の新造艦であるラー・カイラムに回収され、私はサイド6のフラナガン医療センターの受診を受けていた。

 各種検査結果に目を落としつつ、フラナガンが静かに口を開いた。

「……再構築されていますよ。完璧なまでに。ただ、わかる人には分かってしまうでしょう?」

「それは困りましたね。私を『人外』であると認識する者が増えれば、私は『人』ではいられなくなる」

 中破したカリョーヴィンを回収したラー・カイラムの格納庫、焼け爛れたコックピットから“無傷”で降りた私。それを遠巻きで眺めて近づこうとすらしない、アムロらニュータイプの隊員たちの姿が、私の脳裏に浮かんだ。

 しかし…そうだとしても私は……

「まだここに居たいという気持ちは……おそらく本物だと思うのです」

「……キシリア様」

「その名で呼んでくれるのですね?」

 

 上手く笑みを浮かべられたであろうか?

 

 ********

 

 憂いを帯びた笑みを浮かべるキシリア。

 しかしその笑みは人間であった時よりも余りにも自然で……それが膨大な情報から導き出された演算結果による「反応」であると、フラナガンは即座に理解した。

 キシリアの診察結果を纏めたフラナガンは、ギレン、キャスバル、マ・クベを呼び出す事にした。対面で伝えた方が良いと、フラナガンは判断したからであった。

 

「今の彼女は、己が感情、心情すらもデータ化した上で、世界の構造体と同期化させている状態……肉体もいずれは世界の構造体と同化するでしょう。即ちType-Z4“神化”です」

 

 予測していたとは言え、フラナガンの診断を聞き、マ・クベ、ギレン、キャスバルは押し黙った。

「そして貴方方への伝言を預かっております」

「………聞こう」

「キャスバル様には、自分への認識が揺らいだ時に受け止めていただいた…と」

 ミナレットでキシリアは「私は……“まだ”人でしょうか?」とキャスバルに尋ねた。その時に答えられず押し黙るしかなかった自分に、キャスバルは罪悪感が蘇った。

「ギレン様には、自分が消えていく恐怖からの吐露を受け入れいただいた…と」

 ザビ邸のバラ園で、「ギレン兄さん……私は……怖い」と弱音を吐いた妹から預かった“スウィッチ”、それを上着越しに確認したギレンは、眉間の皺を深くした。

「マ中将には、自分が“人“であると、心を揺らしたことで再認識できた…と」

 カリョーヴィンで出撃する直前、抱擁したマにキシリアは口付けを返した。その時返された“発信機付きの指輪”、軍服越しに触れつつマは、静かに目を閉ざした。

 

「どうした、マ?」

 

 涼やかな怜悧な声で名を呼ばれ、マは回想から現実に引き戻される。

 グラナダの自身の執務室、応接机越しに居る“キシリア・ザビ”が、気遣う様な視線を向けていた。

 不覚にもマは、キシリアがジオン軍に居た時代を思い出す。今はマが就いている突撃機動軍総司令は、キシリアから引き継いだ地位。軍総司令官時代には感じたことがない、柔らかな空気を纏っているキシリア。一方で紅茶を飲む所作は、自身の記憶通りのキシリアそのもの。

 

 なぜそこまで再現しようとする?

 その思考の先に思い出されたのは、キシリアがフラナガンに語った「まだここに居たいという気持ちは……おそらく本物だと思うのです」という言葉。

 

 この方はまだ……

 それならば自分のやるべき事は……

 

 マは軍服の襟元を緩めて、首にかかっている自身の認識票の鎖を手繰り寄せる。認識票と共に鎖に通されていたのは、キシリアから返された“指輪”であった。

 鎖から外した指輪を、マはキシリアの目の前に置いた。

「指輪? 前に返したはずだが…」

「返却不要です。どうか、持っていてください。それが私の願いです」

 私の心情を探る…いや、最適解を演算するように、キシリアは静かにこちらを伺う。

「……わかった」

 そう言い苦笑しつつキシリアは、机から指輪を手に取り、そのまま右手薬指に嵌めたのであった。

 それでマは確信する。彼女がType-Z4に至った今も“人”として振る舞いを止めないのは、まだ“此処に居たい”と願っているからであると…

 

 キシリアが“此処に居たい”と願う限り、その居場所を護る。それだけが、マの“誓い”であると同時に、今の“願い”でもあった。

 

 サイド6、パルダコロニー。

 フラナガン医療センター、入院棟。地下の特別入院室。

 入院している昏睡状態の少女…リタ・ベルナルの枕元に座っているのは、シャロン学園高等部に在籍しているヨナ・バシュタであった。

「失礼する」

「シャリア先生⁈」

 部屋に入室してきたのは、シャロン学園の教員主任であるシャリア・ブルであった。

 

 シャリアの訪問目的は、ヨナへの事情聴取と彼の当面の処遇を伝えるためであった。

 

 ルオ商会の検挙と共に、関連性の深いコロニー…サイド3の所在するタイガーバアムも制圧作戦が取られた。

 連邦軍とジオン軍の合同軍でもあるロンド・ベルが急襲したタイガーバアムに、休暇をとっていたヨナが軟禁されていたのだ。

 ヨナと顔見知りで、以前にシャロン学園に在籍して現在はロンド・ベルに所属していたカクリコンのお陰で、ヨナと彼が軟禁されていた同室に居たリタが保護されたのだ。

「まず君の処遇だが、メガラニカ関係の騒動が収まるまで謹慎処分となった」

「……はい」

 了承の返事をしつつも、ヨナはようやく再会できた親友のリタに視線を向ける。

「事情を考慮して、謹慎場所はフラナガン医療センターの敷地内とする。リタ嬢の病室に備え付けの、付添人用の部屋を宛てがうこととする」

「先生?」

「キャスバル理事長とシロッコ学園長の決定だ。君に拒否権はない」

「ありがとう……ございます」

 返事ではなく感謝の言葉と共に、ヨナは深く頭を下げた。

「それと……君がタイガーバアムに居た経緯について、詳しく教えて欲しい」

「はい……最初に断っておきますが、生き別れた親友のミシェルが、ルオ家の養子になっていたとは…彼女がルオ商会の幹部になっているとは、僕は知りませんでした」

「……だろうな。ルオ商会は表向きの顔役のステファニーですら、直接の接触履歴は限られている」

「僕は……ちょうどあの時は休暇を取っていました。ずっと探していた…オーガスタ研究所で生き別れたリタとミシェルの有力な情報が入って…」

「その情報源がミシェル自身で、彼女と共にでタイガーバアムに行ったというわけだね」

 シャリアの言葉にヨナは静かに頷く。

「後は……ミシェルにリタが寝ている病室に閉じ込められて…後はカクリコン先輩が来るまでは特に情報は…」

「ミシェル・ルオは、何か言っていなかったかね?」

「後で迎えに来る……と。それから“新世界”で、リタと一緒に3人でずっと一緒に居よう…と」

 その言葉を聞き、シャリアは一瞬眉を顰める。

「……その言葉を聞いた時、ミシェルから何かを感じたのではないかね?」

 自身の心の揺れを察したシャリアの追求に、ヨナはしどろもどろになりながらも口を開く。

「なんとなくですが…一度世界を“リセット”をする…そんなイメージが?」

「世界をリセット?」

「僕やリタを“方舟”に避難させたい…世界が生まれ変わった先が“新世界”…そんなイメージでした」

 そこで言葉を切り、ヨナはシャリアに縋り付くような視線を向ける。

 

「先生……多分、急いだほうがいい‼︎ お願いです…ミシェルを止めてください‼︎」

 

「第二次トライステラー計画……だとォ⁈」

 

 シャリアからの報告を伝えるキャスバルに対して、ドズルは通信機越しに聞き返す。

『身柄を保護したブリック・テクラート…ミシェル・ルオの秘書である彼と、そしてヨナからの聞き取り。そしてカムラの深層心理の探りから断片的に得られた情報から、選ばれた者を“方舟”に避難させ、それ以外の者を含む世界全体を一度“リセット”させる計画のようだ』

 キャスバルは簡単に説明するが、内容に反して冷静な態度が癇に障ったドズル、手元の端末にヒビが入る程の力を込めた。

 そして深呼吸をした後、通信機のスクリーンの窓に映っている、ロンド・ベルの司令であるブライト・ノアにドズルは視線を向けた。

「メガラニカの方は?」

 ブライトは一瞬眉間に皺を寄せたのち、静かに口を開く。

『ソーラー・レイの射線が、メガラニカと追撃部隊の間を割って入る形となった。緊急退避が間に合い追撃部隊には損害はないが、メガラニカの追撃には失敗した』

『ルオ商会の強制捜査をデコイにソーラー・レイを仕込み、そしてソーラー・レイを目眩しに逃げおおせた…と。なかなか狡猾ですなぁ』

 バビロニア共栄圏の防衛軍「クロスボーン・バンガード」の長官であるマイッツァー・ロナは、半ば慰めるような言葉を掛けつつ、事前にデータで配布された資料が映し出された端末に視線を落とした。

『万能化換装システムを搭載したMS…ガンダムTR-6…ですか?』

 ドズルもまた資料に視線を落とす。

 それはルオ商会が保持していると推定される、戦力についての情報であった。

 ガンダムTR-6[ウーンドウォート]と、それを素体として、様々なユニットと搭載した複数パターンの形態が掲載されていた。

『ただ複雑な換装システムを制御するOSは、一つしか完成していないと推定されます。その一つを搭載した“本体”から、複数の子機を制御するシステムは完成しているかと…』

「子機……無人機か?」

 シロッコに対してドズルは低い声で尋ねる。

『はい。しかし無人機は予めユニットを搭載した状態の換装不可の量産機になるかと…』

 そう言いシロッコが表示したデータは、ガンダムTR-6[フライルーII・ラー]とガンダムTR-6[アドバンスド・キハールII]を接続した、超重装形態ガンダムTR-6[クインリィ]。換装機能が無いとはいえ、充分脅威であると言えた。

『今現在、ルオ商会が買い付けた資材や部品から推定生産数を算出中だが、それなりの数が見込まれる』

『パイロットの育成を考えなくて良いということは、生産数がそのまま反映されるというわけか…』

 キャスバルの言葉を聞いたブライトはそう言い、頭が痛いと言わんばかりに片手で額を抑えていた。

 

 情報の共有を終えて、ブライトとマイッツァーが通信会議からログアウトする。

 ドズルもそれに続こうとした時、ドズルの後ろに座り会議に参加せずに静観していた、ギレンがそのまま通信を続けるように促す。

「少しこの場にいる者の間で、情報共有をさせて欲しい」

 姿を現したギレンに対して、通信機のスクリーンの小窓に映るキャスバルとシロッコは表情を引き締める。

 

 そしてそこでギレンは、“ラプラス事件の真相”を話した。

 

『リカルド・マーセナス、ルオ・ウーミン、シャーラ・マーキスが企画した『トライステラー計画』とは、宇宙世紀の改暦セレモニーの放送を通じ、全人類に“理念”を埋め込むことが目的。その妨害のために、首相官邸が置かれていた宇宙ステーション『ラプラス』が爆破された…と?』

「つまり…理念を人に埋め込むのを阻止しようと、全部吹っ飛ばしたのが“ラプラス事件”だったのかッ⁈」

 シロッコとドズルが確認するように尋ねると、ギレンは静かに肯く。

『理念を植え付ける…いや、正確には“正しい思考の型”を上書きする装置か。それがメガロニカに残存したままで、ルオ・ウーミンが手に入れたと言うのか? それがキシリアの情報か?』

「そうだ。その方法というのが、“世界構造の情報保管庫”へ一時的にアクセス可能にし、そこから得た正しい理念を己がものにするというもの」

『……人類をキシリアと同じ、Type-Zにすると言うことか?』

『しかし、一時的とはいえ理念を植え付けて鎮静化させるのは、悪い手立てとは思えませんが…』

 シロッコは「愚民をマシにするには良い」と言う口ぶりでそう言ったが、ギレンは静かに首を左右に振った。

「キシリアの話によれば、その装置の実験に携わったシャーラが“悲劇”を視たそうだ。一部の者が“世界構造の情報保管庫”への不正アクセス法を確立させ、“人類の遺伝子編集技術”の情報を抜き出し利用したそうだ。そして、容姿、性格、知能、身体能力…思うがままに人を“生産”した…と」

 ギレンの言葉を聞き、キャスバルは露骨に表情を歪めた。

『……碌でもない未来に至ったであろうと容易に予想がつく。大方“造った側”と“生み出された側”との間で、争いが起きたのであろう』

『未熟な者に与えるものではない。根拠なき自信で“扱える”と過信し、意図していない行動を起こし制御不能になるわけですな』

 要するに、ウーミンは“正しい人間”を造ろうとして、神になり損ねた。ドズルはそう理解するに至った。

 

「その“仕掛け”である宇宙世紀憲章の原本の石碑…特殊合成鉱物による人工結晶体は、ウーミンの発明品という話だ」

 

 ギレンの言葉を聞き、シロッコは静かに目を細める。

『もしやルオ・ウーミンは“Type-Z”であると?』

「そうだ」

『それであれば、態々その仕掛けを使わずとも“世界構造の情報保管庫”から情報を引き出せるのでは?』

「例の“仕掛け”は、“世界構造の情報保管庫”の情報をそのまま“翻訳”し、世界に“顕現”できる状態にするもの。そして“世界構造の情報保管庫”には、世界構造そのものを“リセット”させる方法も記されているらしい」

 ギレンの言葉を聞き、先ほど話題に上がった「第二次トライステラー計画」の意味に、流石のドズルも気づく。第一次トライステラー計画が“理念の共有”による世界の統合である一方で、第二次は“構造の上書き”による世界の破壊と再構築。つまり……

 

「ルオ・ウーミンの目的は、世界の“終末”そのものだ」

 





いよいよ最終決戦へと突入します。
次回は土曜日更新を目標。早ければ水曜日、遅くとも翌週月曜日に更新予定です。
残り5話(予定)ですが、最後までお付き合い願えると幸いです。

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  • キシリア・ザビ
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  • キャスバル・レム・ダイクン
  • ギレン・ザビ
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  • カミーユ・ビダン
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