4/28(月)の朝に一時的ですが二次創作ランキング1位になりました!
深く御礼を申し上げます‼︎
ジオン・ズム・ダイクンが死去した翌年に当たる宇宙世紀0069年。
前世で嗜んでいたサブカルチャー由来の情報が指し示す通り、ミノフスキー粒子の存在がトレノフ・Y・ミノフスキー博士により明らかとなった。モビルスーツの動力源となる小型熱核反応炉、メガ粒子やミノフスキークラフト、Iフィールドなどの実用化に繋がる理論が完成したのだ。
「ミノフスキー粒子の理論の応用展開は、順調のようです。これが今月分のレポートです」
そう言い差し出された冊子の要旨には、新理論を元としたモビルワーカーの改良案について記されている。モビルスーツの前身が形になっていく様を感慨深い気持ちで一瞥したのち、私キシリアは目の前の女性に視線を向けた。
「半年前のミノフスキー粒子の発見から出資をしてきましたが、漸く実を結んだようですね。今まで諸所の調整をしていただき、ありがとうございます、マレーネ義姉上」
「ふふふ……貴女にそう呼んでもらうのも、漸く慣れてきたところね」
そう言い鈴の音のような笑い声を漏らすマレーネは、一ヶ月ほど前に次兄サスロと婚姻を結んでいた。
ジオンの側近であった、有力な共和国議員であるマハラジャ・カーン。彼の長女であるマレーネ・カーンは、5年ほど前にサスロと婚約を結んでいた。そして私が保安隊の隊長職に就いてからは、ザビ家の家の中の取り回し…資金調達を目的とした投資および事業、他の名家との連携や関係維持などは、私から引き継いだマレーネがこなしていた。
私が持つ前世由来の情報では、婚姻より前にサスロが亡くなっている。その後にドズルの妾になったのは、余りにも家の内情を知りすぎたため、ザビ家から出る事を許されなかったからであろう。亡き兄に配慮している間に将来の妻と知り合い、マレーネとの関係が中途半端になったと容易に想像できるドズルに対して、正直溜め息しかないのだが…
この世界では起きなかった事象について悩むのは不毛であると考え、紅茶を一口飲み干した後に私は話題を変える。
「宇宙線被曝症の新規治療薬の進捗は?」
宇宙線被曝症とは、生体が放射線を被曝することを原因として発生する健康影響…即ち放射線障害のことである。
特に重度の患者で起きる消化器症候群については、対症療法しかないのが現状であった。最近では宇宙線被曝症の発生件数が少ないこともあり、研究に割り当てられている予算が少ない状況であった。そこへ、美容用品の購入で以前より消費額は増えていたが、結局は溜まる一方となっているキシリア個人の資産から、研究費を出資したのであった。
「新しい放射線障害軽減薬の治験は順調です。予防としての前投与薬としても期待できますので、再来年度には黒字に転じる見込みです」
そう。私が出資したのは、被曝前の予防薬としても、被曝後の治療薬としても使用できる薬剤であった。コロニーで生活している以上、宇宙線被曝症の危険は常に伴うため、特に予防薬については安定した需要が見込まれていた。現在は治験の最終段階にまで進んでおり、内部被曝も起きている重度の宇宙線被曝症を患っているギニアスにも治験の協力をお願いしていた。
因みにギニアスの治療経過は良好で、体内に蓄積されていた放射性物質は順調に排出されており、近いうちに再生医療で作り直した消化管組織を移植し、完治を目指す予定となっていた。
「ギニアス・サハリン氏の治験に対する謝礼ですが、その一部で妹君のアイナ嬢の託児施設利用に対する支払いを相殺しております。それについて、我が父から問い合わせがありまして…」
「マハラジャ殿から?」
「はい。私の妹たちの託児施設の利用についてですが、本当に無償でいいのかと…」
「無償ではない。派閥を超えて受け入れをしている関係上、どうしても中立の者を内部視察の要員として入れる必要がある。その謝礼と相殺しているだけの事です」
この託児施設と言うのは、昨年から私キシリアが主体で起こした新事業であった。
端的に言うと、政府高官の身内に限定した子息子女を預かる施設…前世の記憶で言う保育所と学童保育を組み合わせた施設であった。マレーネにはハマーンとセラーナと言う2人の妹がいるのだが、セラーナの出産後に母親が体調を崩したことから、2人ともこの託児施設を利用していた。
この託児施設の責任者としてアストライア・トア・ダイクンを据え置いたところ、かなり強気な料金設定をしたにも関わらず利用希望者が殺到していた。ジオンの影響は今だに根強く、その遺族との接点を持ちたいと言う下心もおそらくある。しかしそれ以上に、派閥間の闘争で家庭内での諜報や暗殺が横行した結果、子供の世話を任せられるほど信用できる使用人が殆ど居なくなった状況もまた理由であった。そこに目をつけた事業であり、商業面では確かに大当たりしたと言える。しかし私にはそれ以外の目的があった。
「子供同士の接触で、問題は発生していますか?」
「親同士の派閥に関わらず仲良くやっていると、アストライア様から伺っております」
その話を聞いて、私は良い傾向だと呟きつつ頷いた。
どうも子供らの精神性が幼く協調性に欠けているのだが、それは近い年齢の者と接触できる機会が少ない事が原因であると薄々感じたからだ。6歳から4年間受ける義務教育において、為政者の子息子女らは家庭で家庭教師を付けることが一般的である。従って、一般家庭が通う学校のように数十名の児童が互いに接するなど機会がない上に、最近まであった派閥間の闘争が激化していた状況では交流を行うこと自体が困難であった。そして、前世の情報で我が軍に纏まりが欠けていたのは、それが遠因ではないかと考えたのだ。
「順調そうで何より。アストライア様のご様子は?」
「キャスバル様とアルテイシア様と会う口実になっておりますので、精力的に業務をこなしておられます」
「ランバ・ラルの接触は?」
「週に一回程度、ハモン殿が訪問するくらいです」
新生ダイクン派はランバ・ラルが暫定的にまとめてはいるが、辛うじて空中分解しないという程度で、正面からザビ派と対峙できる状態ではなかった。後は時間をかけて切り崩せばいいと、不穏分子が地下へ潜伏する事態が避けられた事に、昨日会ったサスロは安堵した様子であった。
「キャスバル様は特別養成学校課程の内容を修学済みと聞いたが、きちんと年下のガルマやアイナ嬢への教師役は熟せていますか?」
ダイクン邸に戻ったキャスバルは、表向きは婚約者の私と会うため、実質は実母のアストライアと会うために、妹のアルテイシアを連れて頻繁にザビ邸を訪問していた。最初は形だけでも私との面会時間を作っていたのだが、正直会って話す事などないことから、代わりに弟や預かっている子供らの家庭教師をお願いしたのだ。
「自分が理解できているのと、誰かに教えるのは勝手が違うようですね……マ・クベ殿の手を借りてますよ」
「知っている“つもり”ではなく、理解して自分の知識として落とし込むまで至らなければ、他者へ教える事など不可能でしょう。マを付けて良かった」
マ・クベはザビ家が所有する美術品の真贋判定のために雇ったのだが、この様子では家庭教師としての給与も追加で払った方がいいだろう。その考えをマレーネに伝えたところで時間が押していることに気づき、挨拶もそこそこにして私は足早に部屋を後にする。
移動先は、ザビ邸の一角にある薔薇園。
長兄ギレン・ザビとの打ち合わせが次の予定であった。
父デギンは選挙で議員に再当選し、ムンゾ共和国議会の議長を続ける事となった。一方でギレンは、今まで通りムンゾ政治部部長として政務に専念していた。
今日の内々の打ち合わせは、端的に言うと私キシリアの身の振り方についてであった。我が祖国が所有する武力が「軍」として確立される時期は、前世の情報の中で複数の設定が存在していた。しかしこの世界では、近いうちに保安隊と防衛隊を再編成して、正式な防衛軍へ格上げさせることになっていた。そしてその長として、弟ドズルを据え置くことになっていた。
「お前は防衛軍から外れるのだな」
「はい。現状においても部隊の指揮はトワニング副隊長がこなしておりますし、諜報に関してはサスロ兄の協力で何とか形になっているにすぎません」
「対外向けの諜報と工作を行う機関の新設と、そこでの役職を望むと言う話だな」
「私は裏で色々動く方が性に合っております故」
「直ぐには用意できぬぞ」
「暫くはサスロ兄の秘書の真似事をしようかと考えております」
「……お前が誰かの補佐を望むとはな……」
そこで言葉を切ったギレンは、枝の剪定をしていた立ち切りバサミを下ろし、近場にあったテーブルセットへと歩み寄った。
私に向かいの席へと座るよう促し、目の前に一冊の本を置いた後、ギレンもまた席に深く腰掛けた。
本の表紙には「優性人類生存説」と記されていた。
地球環境の保全を図るために全人類は宇宙へ移民すべしと言う「エレズム」、そして宇宙へ移民したスペースノイドは地球連邦政府から独立して自治国家を目指すべしと言う「コントリズム」。この両者を統合した上で、人類は宇宙環境に進出し適応することで進化した存在…即ちニュータイプになれるという思想、それが「ジオニズム」である。ジオン・ズム・ダイクンが提唱したジオニズムは、今現在スペースノイドの中で圧倒的な支持を受けていた。
そして兄ギレンの提唱した「優性人類生存説」は、前述のジオニズムを劇物進化させて「ニュータイプに至るスペースノイドは優性人類である」と定義した、謂わゆる選民思想というわけである。烏合の衆を短期間で纏めるには、最良の方法と言えるだろう。しかしその一方で、優性人類に分類されない者に対して非情な扱いをしても構わないと言う良心が壊れた思考に陥り、攻撃停止の指示に従わない制御不能な無差別破壊者を量産してしまう危険性を孕んでいた。
「ジオニズムを利用して大衆意識の方向性を制御するつもりですか?」
「それ以外に民を纏める方法は無かろう」
「ギレン兄が考えているほど、大衆というのは愚かではない上に、理性的とは言い難いですが」
「……続けろ」
「旧世紀で独裁者として有名なある人物の話です。強い指導者を求めた民衆により国の頂点に立つわけですが、部下らがその権威を傘に勝手に動き回り、最終的に統制が取れなくなったと言う話です」
「権威を利用する小賢しさはあれど、我欲を抑え切れるほど理性はない。それが民の大多数を占めているのは間違いないな」
「小賢しいゆえに犯した罪を全て、自身らがその権威を利用した指導者へと未来永劫押し付けてきますよ。己が保身のために」
考え込むように眉間に皺を寄せるギレンに対して、私は成すべき事を端的に告げる。
「理性的な民を増やすべきかと」
「なるほど、先日お前が提案した事に繋がるわけか……わかった。お前がやりたいようにやり給え」
以前に示した提案が内々で承認され、私は内心安堵の息を吐く。これで次の段階に進めると考えを巡らせようとしたその時、思い出したようにギレンが口を開いた。
「お前が変貌した原因は何だ?」
ギレンに尋ねられ、私は随分前から用意していた回答を口にする。
「未来を見た…と言うのが近いでしょうか」
「……随分と酷い未来だったようだな」
「我らが成そうとしている事を考えれば、当然の事では?」
「人口調整については変更はないと?」
「やり方は変える必要があるかと。そのため、一度地球へ赴きたいと思います」
「……地球だと?」
「そこで見極めたいと思います。新たな方法を成就させる見込みが、あるかどうかを」
宇宙世紀0071年。
先鋭的に再編されたジオニズムを元に国を纏め、ムンゾ自治共和国は「ジオン自治共和国」と名を改めたのであった。
第一章「ムンゾ自治共和国」篇はこれにて閉幕です。
アンケートへのご協力ありがとうございました。
第二章「ジオン自治共和国」篇も誠意執筆中ですので、今しばらくお待ちください(来週月曜日に更新予定)。
今後ともよろしくお願いします。
第二章「ジオン自治共和国」篇に進みますか?
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はい
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いいえ