私という一頁の物語   作:スナエ

16 / 92
暴力の速度

 今日も元気だ。ご飯が美味い。

 食堂で、からあげ定食をもりもり食べながら、そう思った。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした。砂ちゃんは、いつもいい食べっぷりねぇ」

「食べるのが好きなんです」

「見てて分かるわぁ」

「いつも、ありがとうございます」

「いいのよ」

 

 おばちゃんとの会話もそこそこに、私は仕事場へと戻る。

 この空間は、とても落ち着く。ほとんど自宅みたいに感じている。

 家具は私の好きな寒色だし、私物のモササウルスやミツクリザメのぬいぐるみが置いてあるし。

 さて。午後一番のクライアントは、と。君か。

 感情受信体質である彼にとって、私はストレスを感じない相手らしい。感情と、表情や口にする言葉が一致しているからだそうだ。私は、抜き身でしか生きられないしな。

 影浦雅人くんは、度々カウンセリングルームを訪れる。

 

「こんにちは。今日は、緑茶と塩せんべいだよ」

「……どうも」

 

 影浦くんは、ぶっきらぼうに言う。

 例の話をしに来たんだろうか?

 

「……降格になったの知ってますよね?」

「うん」

「俺は、我慢出来なくて」

「うん」

「だから、殴った」

「そう」

 

 根付さんを殴ったんだよなぁ。隊務規定違反だ。

 

「……また、砂子さんを巻き込んじまった」

 

 このカウンセリングは、半ば強制である。

 始末書を提出する際に、カウンセリングを受けるように言われたはずだ。

 

「いや、それは気にしなくていいけど」

 

 ずずっと緑茶を飲む。

 

「まあ、殴らない方がよかったとは思う。思うけど、殴る方が速度があるからねぇ」

「速度?」

「話し合いをするより、拳一発の方が楽だもんね」

「砂子さんは、いつも叱るよりヒデーこと言うな」

「そうかな?」

 

 私は、事実を述べているだけだ。

 私は、剣よりペンを取った者だけど、文章は読まれなくては届かないし。言葉は、時に無力だ。

 

「君の選択は、少なくない人を巻き込んだ。それは、その通り。それだけは覚えておいてね」

「ああ……」

 

 それからは、ぽつりぽつりと自分のことを話す影浦くんの声に耳を傾けた。

 時間が来て、影浦くんを見送った後、私は考える。

 あの時、アイツらを殴っておけばよかった、と。小中学生の頃、私はからかいの対象だった。

 その場で、すぐに殴り飛ばしてやれば、こんなに引きずらなくてよかったのかもしれない。

 結局、何を選んでも後悔するような気もするが。

 拳は、暴力。言葉は、刃。私は、"対話"がしたい。それを選び続けるのは、私の意思である。

 選択の積み重ねの先に、何があるのかは分からないけれど、未来のことを信じていよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。