私という一頁の物語   作:スナエ

29 / 92
Snipe at you

 罵声が聴こえた。それは、現海砂子が発したものだった。

 自分自身を罵り、自分の頭を殴る彼女。

 その様が、とても人間みたいで。俺は、好感を持った。

 現海砂子。ボーダーで唯一のカウンセラー。人助けマシンみてーな存在。

 自身を「砂子さん」と呼ばせるのは、苗字が発音し辛いからだと言っていた。本当に、それだけか? ただの勘だが、違う気がする。

 もっと知りたい。あんたの皮膚の下。

 どんな風に泣くのかとか。どんな風に怒るのかとか。どんな風に笑うのかとか。

 あんたは、どんな風に人を愛するんだ?

 誰も知らないんだろ? そんなことは。

 別に、あんたは何にも隠しちゃいない。ただ、感情をあまり表に出さない性質というだけで。

 そのポーカーフェイスを、崩してやりたくなる。

 所詮、あんたも、赤い血が流れてる人間なんだよな。今まで知らなかったけど。

 つまらねー人だと思ってたんだ。他人の心を解体して、他人の悩みを解決して、他人の不安を解消して。自分のことは、二の次にしているように見えたんだ。

 でも、違う。本当はもっと、エゴがあるんだろ? 欲があるんだろ?

 あんたの夢は、なんだ? きっと、全然お綺麗じゃないんだろう。

 もっと汚いところが見たい。

 

“誰が、あんたを救ってくれるんですか?”

 

 俺から逃げたあんたに、この手を伸ばしたら、掴んでくれるだろうか?

 退屈への渇きみたいな、この感情は、なんなんだろう。

 見せてくれよ、全部。あんた、本当はもっと面白い人間なんだろ。

 あんたの精神の柔らかいところを狙ったら、見られるのかもな。まあ、嫌われるかもしんねーけど。

 砂子さんが見ている世界は、どんなもんなんだか。ろくでもないんだろうな。

 結局、俺とあんたの間に引かれた線がある限りは、それに辿り着けない。

 その線を引いたのは、砂子さんだ。いつもは、カウンセラーとクライアントという線を引いている。でも、俺はクライアントじゃない。だから、きっと、引かれている線は、大人と子供。

 ふざけんな。それは、正しいことだが、ムカつく。あんたにとって、子供はみんな、庇護の対象だ。

 それで? そんなあんたを救ってやれるのは? いないだろ、そんな奴。

 心のない機械だと思ってた人が、血と肉と体温のある人間だったんだ。それだけで充分だろ、俺が、あの日のあんたのことを忘れらんない理由なんて。

 世界で一番嫌われるか、世界で一番愛されるか。それとも、もっと別の何か? どう転がるか分からないけど、もう、物語は始まっている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。