私という一頁の物語   作:スナエ

45 / 92
帰りたい家

 また、ボーダーに近界民が入隊した。その少年は、ヒュースくんという。角付きの少年。

 再び、私に精神鑑定をしろとの指令がきた。

 

「はじめまして、ヒュースくん。私は、現海砂子。呼ぶ時は砂子でいいよ。ボーダーでカウンセラーをしている。カウンセラーってのは、対話して精神の調子を整える仕事をする者のことだよ」

「オレには必要ないな」

「まあまあ、そう言わずに。緑茶とうなぎせんべい、どうぞ」

「……スナコは、誰の命令でオレと話している?」

「城戸司令だよ。直属の上司なんだ」

「そうか。要職なんだな、カウンセラーというものは」

「私ひとりしかいないんだ。困ったことにね」

 

 みんな、脱落しちゃったんだよ。単純に、近界民を恐れて、三門市を去った者。兵士に同調してしまい、精神を病んだ者。子供たちに心を砕き過ぎて、折れてしまった者。

 

「替えの利かない役職だなんて、組織には不都合だ」

「その通りだね。でも、私が死んだら代わりを見付けるはずだよ」

「何故、今から探さない?」

「私が優秀だからかな。ある意味」

 

 私は、うなぎせんべいを齧った。

 

「美味しいよ?」

「……いただく」

 

 ヒュースくんは、せんべいを一口食べる。

 

「美味いな……」

「でしょ?」

 

 ふたりで緑茶を飲み、一息ついた。

 

「さて。それじゃあ、色々テストさせてもらおうかな」

「テスト?」

「君の精神状態を見せてもらう。そんなに難しいことじゃないから」

 

 ヒュースくんに、バウムテストやロールシャッハ・テストをしてもらい、私は少し憂鬱になる。

 

「これで終わりか?」

「うん。お疲れ様。じゃあ、玉狛に戻っていいよ。何かあったら、いつでもおいで」

 

 ヒュースくんを見送り、ひとりになったカウンセリングルームで、私は溜め息をついた。

 

「はぁ。しんどいな」

 

 ヒュースくんが描いた木には、うろがある。彼は、身体的には傷がないから、これは、心理的に傷があるということ。

 また、一枚一枚丁寧に描かれた葉は、強い目的意識を表している。

 帰りたいよね、家に。

 私は、今の家が好きだ。弟とふたり暮らしの生活を気に入っている。最悪な肉親から離れられて、せいせいした。

 ある日突然、その家に帰れなくなったら、どうする? 私は、冷静でいられるだろうか?

 ヒュースくんが、無事に家に帰ることが出来るといいな。

 城戸さんへ提出する報告書には、精神に異常なし、と記した。空閑くんも、彼も、ごく普通の子供でしたよ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。