私という一頁の物語   作:スナエ

50 / 92
嫌われた

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 廊下を歩いていると、香取葉子さんに呼び止められた。

 

「ちょっと、顔貸しなさいよ」

「ん? うん」

 

 すたすた歩く彼女について行くと、人気のない廊下の端に着く。

 

「あんた、ズルしてない?」

「ズル?」

「夏頃、烏丸先輩とふたりで歩いてたでしょ?」

 

 ふたりで、をめちゃくちゃ強調して言われた。

 

「あー。うん」

「ズルよね。ズルだわ。あんたは、大人で、カウンセラーだから、誰からも牽制されないものね」

 

 なんか、烏丸くんを取り巻く権力闘争とかある?

 

「香取さん、私は、本当にただ、彼と歩いてただけだよ」

「隣を、歩いてたのよね?」

「まあ…………」

 

 隣、を強調する彼女は、ずっと刺々しい。烏丸くんのこと、好きなのかな。

 

「アタシ、あんたのこと嫌いだわ」

「そう」

 

 つい、いつもの調子で事実を受け止めてしまったのが、よくなかった。

 

「なによ! 余裕ぶって! ムカつく!」

 

 香取さんは怒り、喚く。

 

「いやぁ、ちょっと驚いてる。謎の柄シャツ女の正体がバレたところで、なにも起きないと思ってたから」

「ふん。大人だからって見逃さないわよ」

「大人だからというか、ほんとに何もないんだよ。烏丸くんとは」

「とは? え?! 本命が別にいるの?!」

「いないいない。私は、あんまり恋愛はしないし。というか、烏丸くんが本命なワケないだろう。私は、子供は庇護すべきものと思ってるから」

「なぁんだ! まあ、それはそれとして? 隣を歩いたのは事実なワケだし? ムカつく」

「えー」

「えー、じゃないわよ!」

 

 この年齢になっても、こういう嫌われ方ってされるもんなんだなぁ。

 

「せめて、デートしてから嫌ってほしかったな」

「デートする気なの!?」

「いや、少なくとも私からは誘わないよ。ただ、たまに、誘われるから。デートって言ってるのはおふざけだと思うけど」

「存在がズル!」

「存在が…………」

「アタシもカウンセラーやる!」

「無茶言わないで」

 

 香取さんは、若干泣きながら、私の白衣を掴んで引っ張る。やめてほしい。

 

「カウンセラーになったって、烏丸くんに好かれるワケじゃないから」

「うぅ~!」

「ほらほら、君は、君らしくいればいいんだから」

 

 なんとか、香取さんに、白衣から手を放してもらう。

 恋をして、一喜一憂するのであろう彼女を見て、私は微笑ましく思っていた。

 まるで、対岸の火事みたいに。

 恋とは縁遠いものだと、呑気に考えていた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。