私という一頁の物語   作:スナエ

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叶わなかった全ても

 パン売り場をうろうろしていたら、お茶に合いそうなパウンドケーキを見付けた。ので、ドサドサと買い物かごに入れる。

 

「砂子さん」

「お、弓場くん。こんにちは」

「こんにちは。それ……」

「あ、パウンドケーキ? 買うの?」

「はい」

「いくつ?」

「5つです」

「了解。戻す戻す」

 

 かごから、パウンドケーキを出した。

「ありがとうございます」と、弓場拓磨くんは一礼する。

 

「いやいや、気にしないで」

「いつも、砂子さんが用意を?」

「そうだよ。おかげで、私が食べたいものを選べる」

「……でも、カウンセリングに行った奴らは、自分の好みのものが出てきたって」

「あー、それはまあ、出来るだけそうしてる」

 

 少しでも、リラックスしてほしいから。

 

「私は、わりとなんでも食べられるから、大丈夫」

「そうですか」

「うん」

「……カウンセリングを受けるほどじゃないんですが、話したいことがあります」

「連絡先交換する?」

「お願いします」

「オーケー」

 

 私は、スマホを取り出して、QRコードを見せる。

 

「気軽にメッセージしてね」

「はい」

 

 弓場くんは、また一礼して去って行った。

 そうなんだよなぁ。カウンセリングルームに来ない子も結構いるんだよなぁ。

 ちょっとしたことでも、来ていいんだけどな。

 カウンセリングは、医療行為じゃない。もっと、欧米みたいにカジュアル化しないもんかね。

 白衣、やめた方がいいのかな? 私が好きで着てるだけだし。でも、黒スーツもそれはそれで威圧感があるような気がする。

 考え事をしながら、会計を済ませ、帰路につく。

 弓場くんの話したいことってなんだろう? ランク戦で負けたこと? 個人的なこと?

 いずれにしても、私は、誠心誠意対応しよう。

 

「ただいま」

「おかえり」

 

 帰宅すると、弟が起きていた。もう昼だからな。

 

「砂子、また甘いもの買った?」

「うん」

「太るぞ」

「うるせー。頭脳労働だから、仕方ないんじゃー」

 

 反論する私。弟は、呆れ顔をしている。

 部屋着になり、ソファーに寝転んだ。

 スマホでインターネットを徘徊し、二次元の前髪両メカクレ・金髪褐色肌チャラ男・美少女などを眺める。

 少しして、弓場くんから、メッセージがきた。

『神田が抜けたからこそ、勝ちたかったです』

 ストレートな気遣いだな、と思う。

『君は、神田くんの指揮のおかげで、闘いに専念出来ていたもんね』

『エースと指揮を両立させるのは、難しいことだよ』

『それを目指したことに価値があるくらい』

『叶わなかったことに意味がないとは、私は思わないな』

 その後悔は、過去は、いずれ宝石になるから。

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