私という一頁の物語   作:スナエ

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対局

 なんで、こんなことをしてるんだろう?

 最初は、そう。普通にカウンセリングをしていたはずだ。

 クライアントの水上敏志くんと私は、何故か将棋を指している。私物のペラペラの将棋盤は、耐水性のお子様が使うのにも安心のやつ。

 水上くんは、飛車・角・金・銀抜きのハンデをくれた。それでも、私は負けが込んでいるが。

 

「…………」

 

 ふたりで、無言で将棋を続けた。

「水上くん、何か不安や懸念事項はある?」って訊いたら、「一局、将棋指してもらえれば分かると思いますわ」と返され、今に至る。

 ごめん。よく分からないんだけど?

 いや、まだ諦めるワケにはいかない。

 私が一手打つと、水上くんは、すぐに駒を動かしてくる。早指しだ。

 おそらく、私が何をするか予測して、手番がきたら、すぐさま返している。

 つまり、それは。

 

「王手」

「ひえー」

 

 ああ、これはダメだ。

 

「参りました」

「ありがとうございました」

 

 一礼して、将棋盤と駒を片付ける。

 

「水上くんは、効率化が好きなんだねぇ」

「やっぱり、話が早いですね。砂子さんは、効率的に生きるのって、どう思います?」

「それは、私の世界では、生まれたらすぐに死ぬべきになっちゃうからなぁ」

「はぁ。そういう派閥ですか」

 

 水上くんは、緑茶を一口啜った。

 

「つまらないことを言ったね。もう少し詳しく話すと、人間も昆虫のように機能的に生きられたら幸せだったかもしれないとは思ってるよ」

「……なるほど。人間は無駄が多い?」

「うん。その生命に意味はなく、価値はなく、それを認めた上でもっと機能的にシンプルに。そうだったらよかったと思う時もある」

「砂子さんは、クライアントに情を抱かない人やと思うんですけど」

「それは、まあそう」

 

 窓の外を一瞥し、水上くんは続ける。

 

「それって、機構みたいやないですか」

「うん…………」

「俺も、そうなりたい」

「そうなんだ。じゃあ、試験では、そういう方針で?」

「はい。それで、最大効率で稼げたらええかなって」

「それも、ひとつの正解かもしれないね」

 

 私はまた、表層だけを露にした。本音を言えば、君には、私のようになってほしくない。

 自己矛盾でエラーばかり吐いている私。成り損ない。

 

「ただ、ひとつ言わせて。水上くんは、冷徹な兵士になる必要はないよ」

「……はい」

 

 話が一段落したところで、私たちは、たい焼きを食べた。

 久し振りに将棋なんてしたもんだから、脳味噌に染みる。

 水上くんに、ブドウ糖タブレットを渡したら、お礼を言われた。効率がいいもんね。

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