私という一頁の物語   作:スナエ

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進まない

 若村麓郎くんは、俯いてマグカップの中を見つめている。

 しばらくそうした後、重そうに口を開いた。

 

「オレには、何が足りないんですかね……?」

「足りない?」

「やっぱ、才能とかセンスとかなんですかね?」

「……そうは思わないけど」

「じゃあ、単純に努力がですか?」

 

 若村くんは、乾いた笑いを漏らす。

 

「私は、戦闘についてはよく分からないよ。選抜試験は、君の疑問の答えを見付けるいい機会なんじゃないかな? いつもと違うことをすると見えてくるものがあるかもしれないし」

「なるほど…………」

 

 私は、若村くんにも、誰にも“正解”を示すことなんて出来ない。

 私は、指導者ではないから。

 

「若村くんは、自分の強みはなんだと思う?」

「えっ? いや、特には…………」

「そう。じゃあ、弱みは?」

「指揮能力がいまいちなところ、ですかね……」

「そう。自分の強みと弱みは、細かく理解していた方がいい。というのが、私が失敗だらけの人生で学んだことだけど、これは別に万人に通じるアドバイスではないと思う」

 

 若村くんは、「でも……」と言ってから口を引き結ぶ。

 

「それっぽく聞こえた? でも、この答えは、君の正解じゃない。私の人生に必要なことだっただけ」

 

 ぐっと拳を握り、若村くんはうなずいた。

 

「試験で、なにか見付けられるといいね」

「はい」

「時間だ。お疲れ様。何かあったら、いつでもおいで」

「はい。ありがとうございました」

 

 若村くんは、一礼して退室する。

 今回は、だいぶ繊細な問題だった。私には、どうすることも出来ない。

 若村くんって、犬飼くんに師事してたよな?

 余計なことは言ってないつもりだけど、少し心配だ。

 何回自分に裏切られても、もう一度信じるしかない。

 私は、ただ、“私”だから。いつも。

 足りない、か。足りてないことが分かってるだけでも、だいぶ凄いんだけれど。それだけじゃダメなんだろうな。ボーダーでは。

 

「言えないよなぁ…………」

 

 その悩みの根本的な原因は、ボーダーに所属しているせいだよ、なんて。

 そんな答えは求めてないだろうし。

 

「ん?」

 

 スマホが震えている。城戸さんからの着信だった。

 

「はい」

『調子はどうだ?』

「いつも通りですよ」

『そうか』

「珍しいですね、城戸さんが私のことを訊くの」

『きみには、重荷を背負わせているからな』

「あら、やっと気付いたんですか?」

 

 低く笑う声。

 

『現海の才能を買っている』

「ありがとうございます」

 

 それって、詐欺師の才能ですよね?

 

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