私という一頁の物語   作:スナエ

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年齢差逆転IF。


いずれ✕✕になる子供

 赤でもピンクでもない色の特徴的なランドセルを背負った小さな影を見た。

 現海砂子、6歳。早足で歩いているが、追い付くのは容易い。

 

「よう、砂子」

「うわ、当真さん」

「うわって、なんだよ」

「デカくてジャマです」

「邪険にすんな」

 

 この子供は、俺に冷たい。気紛れな猫みたいだ。

 

「なにか?」

「何かねーと話しかけちゃいけねーの?」

「そんなことないですけど」

 

 砂子は、嫌そうな顔をする。

 俺が、コイツに構うのは、生真面目で面白いからだ。

 

「わたし、いそがしいんです」

「宿題でもあんのか?」

「本をよむんです」

「なんの?」

「シャーロック・ホームズのまだらのひも」

「あー、あれだ。探偵の」

「名探偵です!」

 

 勢いよく訂正された。

 

「小難しいもんが好きだな、砂子は」

「むずかしくないです。ホームズも、透明人間も、海底二万マイルも」

「推理小説とSF小説じゃねーか。小難しいぜ」

「そんなことありませんよ。かしますから、よんでください」

 

 少女は、ランドセルから一冊の本を取り出す。児童向けにした、シャーロック・ホームズの緋色の研究。

 

「…………」

 

 俺は、それを手に取り、鞄に入れた。

 

「よんだら、かんそうおしえてくださいね」

「はいよ」

 

 砂子は、満足そうにしている。

 数日後。小学生の登校時間に、路地裏の隅にひとりでいる砂子を見付けた。

 

「砂子」

「うわ」

「うわ、はやめろよ」

「なんですか?」

「おまえこそなんだよ? 学校行かねーのか?」

 

 砂子は、地面を見て、しばらく黙る。

 そして、溜め息をついてから、話し出した。

 

「ほんとは、がっこういきたくないです。じゅぎょうは、つまらないです。どうして、みんな、しょうらいのゆめをきかれて、しょくぎょうを答えるんですか?」

 

 意外な本音を吐く砂子。

 

「わたしは、ようちえんのころから、おとなになりたくないとおもっています。はたらかないといけないから。そんなのイヤです」

 

 生真面目に見えたのは、そういう振りが得意なだけか。

 

「がっこうに通っていると、おもいしらされます。人間は、社会せい動物で、なんらかのカタにはまらないと生きていくのはむずかしいと」

「へぇ。じゃあ、一緒に逃げようぜ」

「……にげきれますか?」

 

 小賢しいこと訊きやがる。

 

「逃げ切れる。俺は、強いから。どこに行きたい?」

「…………海」

「了解」

 

 砂子の小さな手を引き、駅を目指す。

 こうして、ふたりの逃走劇が始まった。

 

「いいんですか? 18さいも子どもなのに」

「気にすんな」

「しょう算はあるんですか?」

「トリガーがある」

「わるい人……」

 

 砂子は、クスクス笑う。

 俺は、初めて砂子の笑顔を見た気がした。

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