私という一頁の物語   作:スナエ

83 / 92
観用少女パロ。


廃棄物

 せっかくの休日だから、行ったことのない店に来てみた。

 

「いらっしゃいませ」

「どーも」

 

 胡散臭い店主の男が、俺を見る。

 分かってるって、ガキが買えるようなもんじゃねーってことは。

 観用少女は、美しくて、高級品で、維持費もバカにならない。

 店に並ぶ綺麗な少女たちは、みんな、目を閉じて静かに椅子に座っている。

 そんな中で、異質なものが混ざっていた。それに、目を奪われる。

 

「こいつは…………」

 

 それは、パチリと目を開いた。焦げ茶色の瞳が俺を見つめる。

 

「おや、それが目を開くとは。店の前に捨てられていた、観用少女の成れの果てですが」

「…………」

 

 元少女。こいつは、女だ。

 漆黒の長い髪。無機質だが、薄く笑みを浮かべている。白い肌。星空みたいなドレスを着ている。

 

「どうして、こんなことに?」

「おそらく、ミルクと砂糖菓子以外のものを与えられてしまったのでしょう」

 

 店主は、困り顔で言った。

 

「名前は?」

「砂子と呼ばれていたようです」

 

 欲しい。どうしようもなく、欲しい。

 

「いくらですか?」

「お代は結構です。処分に困っていたものですから。彼女も、あなたが気になっているようですし」

 

 店主の言葉に甘えて、俺は、砂子を連れて帰った。

 親には驚かれたが、大金をつぎ込んだりはしてないし、なんとか説得する。

 その日から、俺の部屋には、砂子がいるようになった。

 砂子は、なんでも食べたがる。本来なら、日に三度のミルクと、週に一度の砂糖菓子で済むのに。ピザもラーメンもプリンもケーキも食べた。

 この生きた人形は、チョコレートが好きらしい。与えると、笑顔を見せた。

 愛情をやることも大切だと聞くが、俺がそれをやれてるかは、よく分からない。

 愛情を充分にもらえなかったプランツ・ドールは、枯れてしまう。砂子は、枯れてないから大丈夫なんだろう。

 

「美味いか?」

「………!」

 

 砂子は、チョコレートを食べながら頷いた。

 食べ終えた後、砂子の口を布巾で拭ってやる。

 そして、砂子は歩いて、定位置の椅子に戻った。椅子は、店主がおまけでくれた物で、黒檀で出来ている。

「愛してる」と、頬に片手を添えて言った。

 砂子は、焦げ茶色の目を細めて笑う。

 まさか、俺が人形に恋をすることになるとは。

 

「砂子は、俺のこと好きか?」

「…………」

 

 答えはない。別に構わなかった。

 季節は、過ぎていく。

 俺は、大人になった。砂子は、何も変わらないままだ。

 ある日。

「砂子」と、名前を呼んだ時。

 彼女は、椅子から立ち上がり、俺を抱き締めた。

 そして、落ち着いた低めの声で囁く。

 

「愛してる…………」

「砂子……?」

 

 言葉を覚えたのか。

 

「……愛してる」

 

 繰り返し、「愛してる」と言う砂子。

 

「ああ、俺も愛してるよ」

 

 それが、ただの俺の真似に過ぎなくても嬉しかった。

 抱き締め返したら、ひまわりの香りがする。

 俺を見上げる砂子の頬に、涙を落としてしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。