私という一頁の物語   作:スナエ

89 / 92
輪るピングドラムオマージュ。


列車は必ず次の駅へ

 好きな人がいた。

 その人は、現海砂子は死んだ。

 そんな運命、ゆるせないだろ。

 

「なあ、迅さん」

「なんだ?」

「あんた、選んだんだろ? 砂子さんが死ぬ未来を」

「それは…………」

 

 迅悠一は、俯いている。

 

「迅さんが選ばなかったから、死んだ。とも言えるか。なあ、あの人の命より大切なものってなんだ?」

「違うんだ。おれが、砂子さんを選ばなかったんじゃない。砂子さんが、おれを生かすことを選んだんだよ」

「へぇ。あの生き汚いろくでなしが?」

「…………」

 

 俺は、舌打ちした。

 

「君が生き残るべきだって、砂子さん、そう言ったんだ」

「だから?」

「だから、おれは…………」

「あの人を殺したのか……?!」

「ああ、そうだよ」

 

 拳を握り締めて、殴りたい衝動を抑える。

 

「もういい。そうやって、他人の命を天秤にかけてろ。神様みてーによ」

 

 捨て台詞を吐いて、迅さんに背を向けた。

 

◆◆◆

 

 運命を乗り換えなきゃ、あの人を救えない。

 砂子さんの遺品の日記帳を、俺は何とか借りた。

 そこには、あの人の死後のことも書いてある。予言書のような日記。

 運命を乗り換える呪文も綴られている。

 これで、砂子さんをこの世界に取り戻すんだ。

 そうして、俺は唱えた。

 瞬間。辺りは暗くなって、俺は、観客席の真ん中に座っていた。

 

「当真くん」

「砂子さん…………」

 

 舞台の中心。スポットライトが当たるところに、白衣を着た砂子さんがいる。

 

「どうして来ちゃうかなぁ?」

「そりゃ、俺の台詞だ。どうして行っちまったんだよ?」

「迅くんの代わりはいないじゃない」

「砂子さんの代わりもいない。俺と帰ろう、砂子さん」

 

 砂子さんは、悲しそうに笑う。

 

「当真くん、私……」

「頼むから」

「ダメだよ」

 

 子供を諭すように言われた。

 

「もう帰りなさい、当真くん」

「嫌だね。あんたの代わりに、俺が死ぬ」

「やめて。そんなこと」

「勝手に死んだ癖に」

 

 そして、俺は自分の命を差し出すことにする。

 ざまあみろ。

 

◆◆◆

 

 愛による死を選んだ者へのご褒美は、林檎だそうだ。

 

「当真くん、運命の果実を、ふたりで分けよう。そうすれば、ふたりで戻れるから」

 

 砂子さんが差し出した林檎を、半分にする。

 

「次に会う時は……まあいいか…………」

 

 段々、意識が消えていく。

 

「さよなら。またね」

 

 何か、夢を見ていた気がする。

 

「…………」

 

 朝。登校する。

 小学生が、本を読みながら歩いていた。

 すれ違い様に、少し足がぶつかる。

 

「わっ」

「悪り。大丈夫か?」

「だいじょうぶです。すいません」

「その本……どっかで…………」

「これは、わたしの日記です」

 

 日記に書かれた名前は、うつつみすなこ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。