私という一頁の物語   作:スナエ

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七夕と誕生日によせて。


おまけ
君がいなかった世界


 現海砂子。小学5年生。11歳。

 

「うわっ。魔女だ」

 

 クラスメイトの男子が、すれ違い様に砂子を冷やかした。

 ちょっとやそっとの悪口では、もう彼女の心は動かない。

 動かないが、じわじわと傷口が膿んでいる。

 学校生活を独りきりで、なんとかやり過ごし、砂子は帰宅する。

 少し遅れて、弟も帰って来た。

 ふたりは、特に話すこともない。この姉弟が仲良くなるのは、成人してからのことだから。

 その後、母が帰宅してから、父も帰宅した。

 後に離婚するふたりは、すぐにいがみ合うので、砂子はCDプレイヤーにセットした大好きなヴィジュアル系バンドのアルバムを聴くことに集中する。

 晩ごはんに呼ばれるまで、砂子はずっとそうしていた。

 食後は、また自室に戻って江戸川乱歩の孤島の鬼を読む。世界で一番好きな小説だ。

 ふいに窓の外を見ると、星空が広がっていることに気付く。

 そういえば、今日は七夕だったな。

 砂子の家は、行事をほとんどやらないので、今気付いた。

 給食に七夕ゼリーが出ていたのに、すっかり忘れていた。

 砂子が、星に願うことは。

 不老不死になりたい。

 だって、死にたくないし、働きたくない。

 まだまだ出会っていない“物語”が無数にあるのに。

 なんだっていい。願いを叶えてほしい。

 いくら祈っても、砂子の願いは叶わなかった。

 一年後。

 現海砂子。小学6年生。12歳。

 当真勇。誕生。

 当然、ふたりはまだ出会わないので、お互いを知らない。

 砂子の七夕は、いつも同じ。

 不老不死を願うが、それは叶わない。

 人生は、ろくでもない。

 そのことにはとっくに気付いていたが、彼女は、それでも願いを捨てられずにいる。

 両親を見ていると、恋愛や結婚に希望は持てないし。

 孤立している私は、友情にも期待出来ないし。

 砂子の側には、ただ“物語”だけがあった。

 それは、現実逃避と自己を映す鏡の両方を兼ね備えた大切なもの。

 それだけをよすがにして、毎日を生きている。

 砂子の好きなバンドのボーカルは、「歌詞に出てくる、救いたい“君”というのは、自分のこと」だとインタビューで言っていた。

 砂子も、自分で自分を救いたいと思う。

 一年後、彼女はペンを取って物語を書き始めた。

 SFやホラーやオカルトが好きな砂子は、それらをやりやすい舞台から創り上げていく。その都市は、彼女の創作世界の中心に据えられた。

 いつも心に、折れないペンを。砂子は、剣の代わりにペンを持つ。

 現海砂子が、運命の人に見付けてもらえるまで、あと17年。

 

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