沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
「エレオノーレ、お前は少し眼がよすぎる。」
少女は謳う、その所以を。
「誰かが言わないといけない事だった、早期に存在を認識できて僥倖だったと思う。」
「何故広めた?そのBETAとやらの存在を把握しているのなら、公言する必要はない筈だ。
何が目的だ?」
「なあ親父、アメリカに移住しない?」
「...私の質問と何の繋がりがあるんだ?」
「頭の硬いクソ親父への愛娘からの提言、帝国という船でコイツ等を駆除できるか。」
親父は一頻り考えた後に、口を開いた。
「分からない、だがエレオノーレが無理だと断言するなら不可能だろう。」
私は全て見てきた、その上で断言できるBETAの駆除は帝国を取り巻く環境では絶対に不可能だと。
「なら、BETAとの戦争がどうなるかを想像したところで続き、帝国は四方の仮想敵国全てと戦争して勝てる?」
「厳しいな、共和国や協商連合はともかく連邦に戦争で勝利する方策が想像できない。」
「帝国はその事を認識した上で凡ゆる体制を変更を行う事ができるのか?
最初は軍事、内線戦略を破棄し新たな戦争計画を立案しなければならない。
次に経済、そして現在の鉄道線による輸送と鋼鉄産業が中心となっている帝国を、空輸及び車両運送を基軸とした化学製造産業を別で構築しなければならい、正確にいうと有事での無茶な計画のもと決行される軍事産業的な輸送を想定したインフラ整備を行わないといけない。
最後に教育と体制、『身分や社会的背景を問わず協調し国家と国民が志す目標に例外なく献身できる環境を整える』というお題目は立派だが、それでも恵まれている人間を妬み貧困に喘いでいる人間を国家による幇助なく助けられる道徳的な倫理観を育められる結果を齎さないといけない。」
ただしこれは建前、だが口にする度に建前を信じてしまうのが人間なのだ。
諸君侮ってはいけない、こういった建前を理解できない人が居ると誰もが思った事はあるだろうが、建前とは組み立ての事である、そういった組まれただけのモノを形にできる人間は真摯であり高い能力を有する人間である、そして建前を常に使う人なんざそもそも人とマトモな仕事はできないのだ、騙されてはいけない人の嘘に。
...所詮人間は嘘の塊だ、それでも嘘を本当にできる事に価値がある。
帝国の頭脳とも揶揄される参謀本部の出世頭である私の親父ですら、このカルマからは逃れられない、寧ろ能を有し道徳的倫理的な観点から優れている真面目な人間ほど強固に信奉してしまう
「それは不可能だ、10年いや20年以上かけて未来で行うべき理想の構築だからだ、それを今すぐに為せと言われできるものか。」
「師団規模での敵要塞陣地への夜間襲撃作戦は帝国軍に決行可能ですか?」
「同じく、不可能だ。」
「秋津洲は旅順で、それをしましたよね。」
「...どこで聞いた?」
「どこまでも我々は対等なのです、利点もあれば欠点もあります。
ですが我々帝国が周辺国との戦争に陥った場合、共和国や連邦を含む他の国々は帝国に全戦力を指向できますが側背の警戒を解く事が帝国はできません、全戦力の半数を動員できれば御の字でしょう、そんな状態の帝国が戦争に勝てるとは思えないのです、そしてその末に始まるのは意味のない責任の押し付け合い、戦犯は誰なのかという問いに誰かが晒し上げられ処刑されるまで永遠に続く茶番が巻き起こります。
...それを避けるには、全てを凌駕しないといけないのです。」
父は首領の処刑によって責任の所在を曖昧にする、唯一にして最高の手段だと肯定した。
この辺やはり親父はマシな部類だ、皇帝の居る国でその様な事を口にできる人間なんざ我が国の貴族じゃ不敬者を除いて他に存在しないだろう。
「我々人類は押し固める事のできた安全な家から踏み出し、何もない混沌とした場所に『ありもしない必要もない活路』を見出す存在なのです。
1923年6月協商連合との国境紛争を機に帝国は協商連合との戦端を開きます、その動きに呼応する形で共和国が帝国への侵攻を開始しますが、その際に我が軍は長年積み立ててきた内戦戦略の恩恵を享受する事ができるのでしょうか。
否それは限定的なものでしょう、帝国軍は夢を見てしまうのです協商連合の打破撃沈による包囲網からの脱出を求めたのです。
しかしそんな小さな隅を手に入れて何になるのでしょうか?
我々帝国は湯水の様に砲弾を利用することはできず、兵士も無尽蔵に採れる訳でもないのです。
あるのは頭一つ抜けた軍事水準のみです、そんな状態で帝国が世界を相手に戦争で勝てると思えません。
...今アメリカ等に移住するべきだと思うんです、今有する財を持ち米国に移住する、その選択をするべきだと思うんです、そうすればこの絶望から抜け駆けできると思うんです。」
だが父がその様な選択をとる人間ではないとは分かっていた、それでも私は父を試したのだ、子か故郷かという二者択一の選択を、それは父に絶望を告げる言葉である。
「私はエレオノーレが正しいと信じる、だが、私にも譲れないものがあるのだ。
私は帝国を離れるつもりはないが、エレオノーレは合衆国に向かうか?」
「私は恩愛に基づいてこの言葉を表に出しました、意味は理解頂けますか。」
「そうか、私は帝国はよい結末を迎えられると思っている、エレオノーレ私に力を貸してくれないか。」
人と同じ志を持てた喜びの裏、今度は目の前のにあった筈の希望が最初から手に届く場所にないのだと気付いてしまった、いや正確には改めて乗り越えられないものだと認識させられてしまった『何があろうと人は変わらない部分はあるのだ』と。