沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
「なぜ?」
目の前に立つ初老の技術者は答える、私は神秘の探求者ではないと、自分は魔導と工学を信ずる機械の徒であると。
「私には信ずるべき皇帝が居り、親愛を抱く友が居る、私には神は不要である。」
私も同じだ、良き両親に恵まれた。
これからも人生の渦中か戦乱の中で多くの出会いがあるだろう、ならば神なんぞなくてもいいのだ。
「だからこそ私は神が必要だと思うのです、大事な友を犯さんがため、人として神が必要なのです。
どう思いますか?」
「つまり何が言いたんだ?」
「今この瞬間人ですら侵せない貴方が、こんなガラクタで何を侵すというのでしょうか。」
彼にとって禁忌に等しい言葉であった、自身の最高傑作或いはそれに類似する何かを否定され、憤りを覚えない人間はいない。
だが、この
初対面でこの態度、私がただのガキじゃなきゃ許されなかっただろう。
「
むしろ枷ですね、演算宝珠の範囲の出力しか利用できませんから、アナタは何をしたいのですか?コレからは何も想いが感じられません、空虚そのものです。
児戯にも等しい、まあ思いは伝わります、ただそれだけですね。」
「君は、私を前にして何をそう悲しむ。」
帝国一の天才、存在するならアレを作ったのも彼だった筈だ。
だから軍務とはいえ、どうやってそこまで辿り着いたか知りたかたった、だが現実はコレだ幻滅したよといえば嘘になる。
「私は神を見ました、或いは悪魔か、はたまた麦畑に靡く黄金の種子の様に、素晴らしいものでした。
世界初の電子コンピュータ、それも1900年代初頭に、あまりにも早過ぎる時期に生まれたそれは誰にも理解されなかったのでしょう。
...どれほど、それが素晴らしいものだったか貴方に分かるでしょう、人類が手を届かせる事のない筈のものだったのです、人間の次に賢いであろうその機械は私の心を初めて人情以外でかつてないほど揺るがしたのです。」
「そうか、君はあれの素晴らしさを理解できるのだな、ならば私がしている事が児戯に等しいと感じてしまうのも無理はないだろう。
...君ならどうするんだい?」
「純粋に発展させる、私はシュゲール技師の目標を既に達している、生来それを有しているそれを欲しがる事はない。
既に満ち足りている人間が、新たなモノを欲しがらないように...まあ意味合いは少し違いますけど。」
「概要を聞かせてくれないか?」
「礼拝級魔法、それを現在の我々が使用する魔法と仮定します。
賛美歌を謳い、神に祈る、そうして顕現する奇跡が既存の魔導ですね、ですがそこから脱する事はできません。
故に新しい体系を用意すべきです、これを祭壇級魔法と呼称します、大規模な儀式を行い魔力を含む対価を支払う事で為されるかと。」
「了知した、つまり新たな魔導体系の構築を模索するのだな。」
「そういう事です!!どうですかいい案だと思いませんかシュゲール技師!!」
「つまり中身を変えると、同じ小銃弾薬のまま中身を大砲に変える様な試みですな。」
「その点私の口径は無限大ですからね、私個人における試みなら対して難しくない筈です。」
「それ、意味がないのでは。」
「「おだまり!!これはやんごなき方々にしか分からない事なのですよ!!」」
「いやあのドク、准尉殿?あのですね、いや何から話すべきか。」
「これほどの魔力密度大丈夫なのかね!!このままでは循環する高圧化した魔力に耐えきれず宝珠が融解し、魔力がこの場で爆裂するぞ!!」
「壊れるギリギリなのですよシュゲール技師、安定化している今だからこそ、その状況を可能な限り維持し魔力を保全するんです。」
宝珠が融解する寸前、その魔力は遥か上空に加速され打ち出された。
これまでにない洗練された術式構造、そして過去にない密度で圧縮された魔力は、高度10万メートルの位置で爆発した。
地上でなら、秒速約300m程の風速を引き起こしていたであろうそれは、正に神もしくは悪魔が有する力そのものであった。
爆心地の大気の密度は低く、衝撃による地表付近において直接的な破壊は免れたが、それが他の魔導師でも使用できる代物ならば戦争のみならず政治の在り方を大きく変えるものになるだろう。
複数の魔導的要素の同調性及び持続性を高める事で、
その為には工作技術の発展と、術式運用構造の発展が不可欠であると確信せり。
以降この結果を基に、改めて魔導研究が進められる事になる。
そしてエレニウム工廠製九五式演算宝珠なるものができるのだが、それはまた別のお話。