沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
「どうか取引を継続して下さい!!我々には他に手立てがないんです!!」
「長らく私の事業に協力してくれた事は感謝しています、それでも私はやりたい事があるんです。」
「...やりたい事とは?」
「自分が作った小説を漫画化してアニメ化したいんです!!」
「は、そんな事のために?」
ムスッときた、個人の自由なのにそれを否定されるのは少し腹が立つな。
「こんなの私じゃなくてもできる事だし、AIに設計させてその通りに出力するだけだからな。」
「それがどれだけ難しい事か分かっていないんですか?!それは〇〇様にしかできない事なんですよ?!」
「私じゃなくてもできる、コツさえ掴めばな、よくある一般的な仕事だよ。」
交渉は面倒だ、私の自由意志さえ侵害しようとしてくる。
何が自由主義だ、個人の自由の筈だ。
人々は弄ばれ時間を浪費し、情を利用して、そして金の為に己が全てを捧げないといけないこの世界は異常ではないが健常ではない。
「それが積み重なって私達市民の生活は成り立っているんですよ!!アナタもその一員の筈です!!」
「いやそうだけど...
足抜けできるなら誰でもするでしょ、私だってそうする、てかその事の挨拶をしにきたんだから。」
「どうか...それは貴方にしかできないんです!!」
「私じゃなくてもできるさ、おじさんでもできる。」
食い下がる彼に土産を用意する、私がその出力に使っていた立体印刷機だ。
人を試す事はよくない事だ、それでも私達は何度も試されてきた。
それは道徳だ、ただし倫理ではない。
倫理とは並ぶ人同士に使われるルールだ、道徳は上の者のルールだが倫理は対等な者同士のルールだ。
私はそう信じる、例えそれがよくない事だとしてもズルズルと続くよりはマシな筈だ。
「…」
「事業再編が必要なんじゃないかな、私は何回もやり直して5年ついに実ったんです。
■■さんには養う人間が居るのは理解しています、■■さんには恩もありますから、これがあれば難しくないと思うんです。」
「違うんだ、物じゃないんだ、君は特別なんだ。
...その心持ちを変えるつもりはないのか?」
「そうだね、まあ大学卒業した後に多分就職しますからその時はもう一度宜しくお願いします。」
「...」
その時、お世話になっていた初老の男性に殴られた。
「お前はどこまで人を馬鹿にしたら気が済むんだ!!
周囲の部下に押さえられた彼に罵詈雑言を浴びせられる、立ったその時視界が揺らぎ右方向に倒れ込む。
その先には旋盤があり、その旋盤に頭を削り取られようとしていたその時、世界は止まった。
『ふむ、今のヒトは万物との関わり方を知らぬか、神が宿るとは知らぬのか。』
「...」
旋盤から声が聞こえる、そして次の瞬間私を殴り飛ばした人間にそれは宿り言葉を紡いだ。
『理解できぬ、何故貴様は己が目的を見失いながらも、目の前にあるものを認めていながらも、それを捨てられるのだ。』
「...アナタは?」
『八百万ノ神、それらの幾つかが習合した神である。』
「はえぇスッゴイ、なら助けてくれます?」
私はまだ死にたくないんだよね、読みたい小説が沢山あるし書きたい小説もたくさんある。
『それは満たされぬ者がする事だ、空虚なれど一時的に心の隙間を埋めるもの。
お主は何が足りないというのだ?本音で話せる友が居り、女が居り、充実した日々であった筈だ、何故そんなものに縋る。』
「夢の為だ、あと女はいないです。」
そんな壮大なものじゃない、コレは最も無心に続けられる惰性そのもの。
それは何なのか今の私には分からない、ならば誰にも分からないものだろう。
『何故貴様は絶望している?』
黄金が如き黄金色の稲、人々にとって壮大な筈の、希望も絶望もある神、それがこんなものだったら絶望もするだろう。
人類全てが夢想してきた神、恐らく魔術や魔法、それらが意識しなければ顕現できないものだとは思いもしなかった。
撒いた種の50倍の実が成る稲は食糧不足に喘ぐ人類にとって希望そのものだった、まさしく神に等しい存在だ。
だが今の私には、目の前のそれが黄金色に輝く稲ではなく薄汚く濁った蠅や蛆のような蟲に見える。
『勝手に夢想し、勝手に絶望する。
人は愚かだ、本質を捻じ曲げ自分が思い通りに曲解する姿は見るに堪えない。』
「なら、何故それを曲解する前に姿を見せない?それは勘違いされたいからだろう。
人に万物を見通す力までとは言わないが自分が置かれている情報を正常に理解できる能力さえあれば、この様な事故も防げた筈だ。」
『人の身では限界がある、故に仏となるのではないか?』
「...ふざけているのか?
私達は今あるこの世界を生きているんだ、なのに何故そんな有り得ない方向性を指針する。」
『...小学生の頃、作文さえ碌に書けなかったのにマトモな言葉を紡げる訳なかろう。』
「おっと人の過去を覗くのは禁忌だぞ?過去は過去だ、今の私は違う。」
『「...」』
『主らは物を欲しがりながら、何故に虚を売りたがるのだ。
ウリを捕らえと実を皆で食せとまでは言わん、物を売り物を買う、それで十分ではないのか。
挙げ句の果てに物を雑に扱う、言い伝えを軽んじて新たな伝説を創り出す傲慢さ、目の前にあるものを理解してもいないのに存在の程度を断言する軽率さ、だから死ぬのだ。』
「死んだよ、そして絶望したんだ。
何かおかしい事でもありますか?」
人は試してもいい、だが『神は試すな』か、それこそどうだっていい。
『お主は強い、世界でもお主ほど能にも背景にも恵まれた人間は居らんだろう。』
「細く短い腕と弱い足、恵まれない体躯に少ない体力、そして統計学的に知能は並以下の俺が恵まれた存在だって?冗談キツいわ。」
『世には生まれ以って病魔に苛まれている人間が100人に1人居り、100人に1人が死する時まで永続する何かしらの病に侵される。
1万分の1の確率で人間は順風満帆な人生を送れるが、それは世界広き中で100万人も居ない恵まれた存在なのだぞ?その中でも一握り、若くして涅槃に至る才能に立場を与えられ、何故それを自分でも成功すると思っていないのに捨てられるのだ。』
「いい加減にしろよ、これは俺の自由だ、その過程で死しても後悔はない。」
『...ならば受け入れられると?』
断じて認められない
「私が進出に失敗して世界に取り残され、自分が得る事のできる水や食料等の生存必需資源が得られる環境でなくなったなら、或いはその半ばで病に倒れたなら別だが、この死に方は認められない。」
『ならば貴様は己が認められる程までの恵まれた生を与えられ、絶対の絶望を前に朽ち果てる事をよしとするのだな。』
...む?
確かに言葉の上ではそうだ、だがそんな現実は御免だから俺は努力してきたんだぞ。
「いやお待ちください神様、それは言葉の綾という物でして、わわわわ私は安らぎの中で己を発露できる環境を求めていただけであって、そしてそれを認められたかっただけなのです。」
『ほほう?神とは言えぬが己が抱える思想を、己が想像に至らぬ存在にすら吐き出す事のできぬ人間の言葉が何が為せるというのだ。
何という業、逃げ続けた己を見つめ直させねばならんな。
何が必要か、そうか常に奇跡のある世界で人を知り、恵まれた存在に生まれ己以外の全てが追い詰められている世界で人の為に生きるがいい。』
それで私が生まれたって訳☆
馬鹿げた理由だと思わんか諸君こんなのが神を名乗っているのだぞ?こんなのが作った世界なんざ碌でもないに決まっている。
つまりターニャは正しかったのだー!!そんなターニャでも乗り越えられない現実がこれだぜ?笑うしかない。
解除された実績
幼女転生
...どっちかと言えば幼児だよな?