沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
見た限り本当にいい生まれらしい、何人もの侍従が私の出産に立ち合い、彼ら彼女ら全員が私を祝福している。
その中心にはアラサーの立場が高そうな男が居り、私を抱えるのは麗女であった。
「神よ...」
「無事に生まれてきて本当によかった...」
彼らは35を越えてようやく生まれてきた子供である私を抱き抱えた、私は『神の子』だと讃えられ、蝶の様に私は可愛がられる事が確定したのである。
いやまあ誰もが求める恵まれた生まれだと思うよ?ただここまでは求めていないかなって、心の平穏が欲しかっただけだからな、何か微妙にズレてるんだよなぁ。
ズレてるのは私か、それとも私の言葉を受け取る存在か、両方だな。
碌に動かす事のできない肉体、手を少し動かすだけでこの苦労だ。
目も見えず耳もあまり聞こえない、やれ手足が細く短いだのパワーがないだの言っていた時期(5分前)が懐かしい。
さて皆さん、改めまして初めまして私の名前はエレオノーレ・フォン・ゼートゥーアです。
貴族の1人娘でパパは高級軍人、ママンは貴族の娘、ハンサムな父と可憐な母の間に生まれて、神を騙る蛆虫に奇跡という名の呪いを与えられた碌でなしである。
...貴族直系の軍人の家に生まれ変わらせられ、世界に冠たる泥舟の中で生まれた人間だ。
魔法があり、拡張主義で軍事色が強いドイツ風の皇帝機関国家、男女平等主義という妙なところだけ先進的な自由主義的な色が濃い帝国とかいう混沌の中で生まれた。
そして魔導師なる軍単位が存在する世界といえば一つしかないだろう、みんな大好き幼女戦記の世界である。
ターニャ・デグレチャフとかいう少女を騙るオッサンが辱められる
よりにもよってあのゼートゥーアの娘に生まれ変わってしまった、それもターニャやメアリーに並ぶかもしれない怪物としてね。
『何がどうしてこうなった?』
誰だってこう言う、私だって言うしあのターニャでさえ言ったんだ、きっと社会で生きる人間なら誰だって感じる感情であろう。
あれは小説だから面白いのであってだな、いいか存在Xよ。
絶望を更なる狂気で上塗りできる状況が存在Xによって整えられている状態から、なろう的な主人公最強帝国最強的な面白さを新鮮にかつ能動的な擦れ違いが偶然成り立っているから、なろう的な不快感を感じさせずに、そのなろう的な面白さを抽出できているから面白いんだ。
あとターニャの思い通りにいかないところ、だから面白いんだよ分からんか存在Xよ?確かに結論ありきの物語は面白くないと俺も思う。
だが転生させるなら結論ありきのハッピーエンド世界にしてくれ、誰もハードボイルドに残虐な世界に転生したくない、よりにもよって兵站作戦戦術戦略を下位の次元で引っ繰り返す事のできない、英雄や勇者がすべからず死に絶える世界に、一発逆転のチートカードがない世界に転生したいなんか誰が考えるものか。
あの神を名乗る悪魔はド畜生である、でもいいさ私はこの世界の行き筋を知っているのだから。
結論ありき、ターニャと仲良くしつつ親父と件の日で永遠の別れを演じればいい。
何だ正解は分かっているじゃないか、その通りにすればいい。
エレオノーレと両親に呼ばれる度、それは呪いの様に自分の心を穿つ。
私は人でなしだ、それでも人の心はある。
目の前の人を救えるなら、誰だって救いたいと思う筈だ。
成長して5歳になるまで家族みんなで渡米しようと何度も言おうと思った、でも言えない。
私はまた気楽な方に逃げたと、あの存在Xに言われるだろうな、でも事実だと思うし否定する気はない。
父は1人の大切な愛娘とその娘を育む国を守る為に軍人として奉仕すると、そして母はそんな浮かれたそそかしい父を支えると、2人はそう誓った。
...そんな私が、言葉にはできないが2人の間に水を差そうとは思えなかった。
貴族である為に、男子優勢思想を有していておかしくない筈の父、だというのに彼らは何があろうと、生涯をかけて寄り添う神の誓いを守った、私はその祝福に違いないと思ったらしい。
...一度であれそんな私からこんな言葉を言わせようとさせるとは、悪魔もドン引く凶行に違いない。
分かっているそれも一つの理由だ、国の為に己を捧げた父が今己を曲げる筈はないだろう。
分かっていた、だから言わなかった、口にしなかった。
この生活は私にとって変えがたい、捨てられないものなのだ。
...私という存在はどこまでも恵まれているんだ、大切なモノを気安く失う事に慣れていないから仕方ないだろう。
だから私は謳うのだ『ライヒに、黄金の時代を!』と、全てできる事をしようと思う。
倫ではなく徳を信ずる人間として、エレオノーレ・フォン・ゼートゥーアとして、ライヒに、黄金の時代を齎すために。
随分と早い心変わり、そうですこれが普通の人間です、どこぞのオーバーワークが意固地なだけなんです。