沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
それは突如動き出した。
雪化粧が残る暗闇の中
傍目に連邦の陣地を穿つ帝国装甲軍集団、現在有する機動部隊のほぼ全てを動員したそれはスモレンスクを突破してモスクワ市街地への外縁にまで辿り着く。
だが突入はせず、ただ広域に展開する。
周辺の連邦軍をモスクワ市街地へと誘導するかの様に進軍する、まだ突入はしない、それをする意思は帝国にない。
大量の爆撃機が飛来する、魔導師の管制誘導及び観測に伴う精密爆撃によりモスコーには火の海に覆われた。
暖炉に焼べる筈だった薪や炭化物に次々と引火し、それは猛火となって市街地に立て篭もる
そしてクレムリンに逃げる敵兵に向け128mm砲が火を吹く、同時に魔導師による大魔導術式によって発動させられた拡散魔力・気化爆裂術式は、構造物の内側にてエネルギーを解放し、内側から
かくして、連邦首都モスコーは一晩の内に抵抗能力を失い、その
対岸にて待ち構える連邦軍、それを帝国軍は無視する事もできず、能率的に対処する事もできず、ただ両軍は立ち尽くしていた。
連邦からは122mm以上の重砲が、帝国からは128mm以上のカノン砲及び榴弾砲が互いに前線を叩き、ただ互いに、悪戯に損耗を増やす事になる。
連邦軍は絶対死守命令を発令し兵の損耗を憂慮せず次々と送り出し、帝国軍は『対岸に行って死んでこい』と強攻命令を下していた。
帝国は陽動の部隊を除き全戦力をこの場所に投入していた、空軍も投入できるだけ投入され、行われている戦略爆撃によって文字通りモスコーは火の海となっている。
それは両軍の兵士が
このまま戦争を続ければ圧倒的な被害によって連邦軍は戦闘能力を失うだろう、もしくは文字通り連邦軍の投入が不可能にまるまで彼らが爆撃を続けるか。
そして彼女は動き出した、見るからにいつ劣勢となってもおかしくないこの状況を座して構えるなど、この機会を逃す事など『有り得ない』のだと。
ヴァルト地域及び白ルーシーそしてウクライーネとスミオ共和国の解放を条件に帝国は連邦との講和を提言した。
なるほど彼女は即日の停戦及び戦前への回帰を主張したが、どうやら帝国の最高統帥会議はそれを認めなかったらしい。
何という無常か、
加えてこれまでの帝国の躍進の音頭取りを為していたいた、ハンス・フォン・ゼートゥーアの更迭がされる始末であった。
彼は前線の兵士に強く支持されていた、否帝国に名立たる参謀連にまで。
機動戦と静止・ゲリラ戦の両方を選択できる軍の先進的な体系の提言をし、戦略規模での戦争という概念を帝国内に浸透させた彼が居なければ、今の帝国はなかった筈だと断言できる。
恐らく三大都市の何れかに差し掛かると同時に進軍は停滞し、主力の壊滅という結果を残していたに違いない。
だが実際は三大都市全てへ牙を差し向ける事に成功させていた、総動員と大規模な陽動によって他戦線でも空軍との連携で大きな戦果を挙げている。
どれかが崩れれば連邦は斃れると彼らは勘違いしているのだろうか?
彼らの急所はそこではないというのに、彼らに急所は存在しない、手段は彼ら共産党もしくは人心の喪失による経済の完全崩壊のみである。
その為には白紙講和が一番だろうに、だがその事を理解してくれなかったのだ。
...だが私は彼らが言う事にも一理あると思った、連邦西方地域の解放という選択は、連邦に対帝国戦略を整えるにあたり再起不可避な損失が与えられると。
なるほど確かにそうだ、大祖国戦争なるプロパガンダも自ら否定する事になる。
...だが彼らは
それを連邦が理解していない筈がなかった、これは約束された決別なのだ。
...思わずにはいられない『私の認識が甘かった』と、帝国は内戦戦略に敗れ私は連邦の広大な大地と頭数に負けたのだ。
結果を出せなかった親父は更迭され、私も責任をとるべく連邦首都モスコーの攻略戦に参加しないといけないのか。
どうしよう凄い困る、だって私の実力で勝っちゃうんだもん。
私は帝国に勝ってほしかったんだ、私としての半生は何の為にあったんだろうか、何というか虚しいにも程がある。
ナショナリズムが過ぎる、この勝利は帝国ではなく私のモノだからだ。
約束された正義の大勝利である、実に甘露な言葉だろうか、捻くれ者の私にとっては全く嬉しくも何ともない。
帝国を踏み台にすると決めた主人公の限界、ただし家族は見捨てられなかったらしい。