沢山の絶望をあなたに 作:エレオノーレ・フォン・ゼートゥーア
「もう半導体を手のひらサイズにできない悩みとはオサラバね!!時代は積層ブロック式CPUと量子演算機よ!!
戦術機なんてデカブツが作れる癖して半導体の小型化ができない時代は終わったのよ!!時代は機械化と多角化よ生体ユニットなんて時代遅れね!!」
「俺は火星と木星のハイヴを全部潰した後に小惑星帯を開発したい!!有機資源環境汚染とはオサラバだ持続可能な自然に優しいクリーンな社会を作りたいぞ!!」
大吟醸や碧寿、そして3Mに百年の孤独等々の名だたる銘酒を二人で何本も開けていた。
ターニャはワインを嗜む程度に抑え、霞はまだ未成年なのでジュースを、二人は弁えている辺り大人であった。
...香月博士は27歳だからまだいいが、我らがぜートゥーア閣下は腹に子を身籠っている状態で、それを知っていながら飲んでいる。
アルコールは胸より下に巡らない様にしているらしいが、何も知らない周囲からしたら「おい馬鹿止めろ止めて下さい止めろって言ってんだろぉぉ!!」って叫び始める人が現れるレベルだ。
ターニャは下戸だった、そして絡み酒である。
...社霞は怒ってもいい、だが誰も止めなかったし止められなかった。
周囲の大人は
唯一博士を除き彼女が心の内を読み取れる人間がハンスおじさんである、聖人が如き優しさと共に悪魔ですら戦慄する愉悦性を感じ取った事で、ある種の自己喪失にも陥る事になるのだ。
別世界でBETAブリット等とも幾度と交渉して心を通わせてきた彼女でさえ想像も理解できない人間であったのだ...
そして遂に社霞も仲間入りを果たしたのだ、ターニャや博士からアルコールをふんだくり我らがエレオノーレを見ながら「タケルさんカスミさん」と呟き続ける奇行をし出した。
これが人類の勝利である、今は彼ら彼女らを押さえ付けるモノは存在しないのだ。
「珍しく羽目を外していたわね、珍しいじゃない。」
「気が狂いそうだったんです...
私が会った人間の中で
赤子がESP能力で化学式を理解し、MP能力を使ってアルコールをアセトアルデヒトにした後に水と酢酸に分解していたのだ。
人工ESP能力者とは比較にならないそれを、母である彼女は自分の母体で人間という枠組みにおいて最高の経験を積ませていた。
...彼女達は経験は教育を凌駕すると言っていたが、それを赤子の頃からさせるなんて正気じゃないと思った。
あの世界大戦で生き残ったのだ、欧州だけで1億人以上が死亡したあの煉獄へと世界を導き生き残った人達だ、マトモな精神性を有している筈がない。
...それは分かっていた、その超常性はあの白銀武に並ぶどころかそれ以上だと思う、ただその中身は全て感じ取れないモノだった。
人の身に余る善性とそれを圧倒する酷薄性、それを更に凌駕する画一性と、そこに小さな想いを込める人間らしさ。
...彼女達の睡眠の最中に読み取れたモノは、自分が持つ全ての記憶よりも甚大な代物だった。
目の前の人を失うなんて次元じゃない、空間ごと世界ごと人間だけでなく全てを摘み取ってきたのだ。
間接的に合衆国人2千2百万人連合国人1200万人共和国人1千万人連邦1億人帝国4千4百万人を、あの3人は殺している。
...あそこまで当時の帝国が強くなければ、あそこまであの人が帝国を強くしなければ欧州における合衆国による絨毯核爆撃も起こらなかったし、交戦国全てに向けて帝国が弾道ミサイルや戦略爆撃機を投入しなければ、帝国陸軍のBC兵器の開発が削減されていれば、考えつく限り最悪の地獄が具現する事はなかったのだ。
その裏で彼女は、第一次から第三次産業を豪州にて構築し、秋津洲と同じく唯一災禍から逃れたのだ。
その力が、再び人類に牙を剥くんじゃないかと考えてしまう。
きっとその時の被害は、BETAだけじゃない人類も並行世界も全部燃えてしまうような気がする。
...人のせいにしてしまう自分に嫌気が差す、きっとあの人達は許してくれるけど、もう一度会う事はないのに、ありもしない幻想を観てしまった。
そんな浅ましい私だけど、
少なくともあの人達は望むものを手にしたから...
ハンスさんは未来を繋いだ、ターニャさんは遂に後方での安全な生活を手にした、そしてエレナさんもこの戦禍の中で何でもない日常を手にできる。
この下らない時が永遠に続く事を祈って...