「―――――結婚を前提に交際してほしい!」
真昼の公園、土曜日。
突如このような声が響き渡った。
凛とした可憐な声であった。
こんなところで告白とは大胆だなと思いつつ、その声の方を向いた。
するとそこには、チョーカーに繋がった縄を手渡そうとしている少女と、固まっている少年の姿があった。
……。
さて、この状況。
周囲の視線は白い。
そして少年の顔も白い。
白くないのは真っ赤な少女の頬くらいか。
少年が周囲に助けを求めるように視線をうろうろさせるが、誰も目を合わせない。
それはそうだ。
見ている分には面白い、しかし巻き込まれるのは困る。
そういう状況なのだ。
だからこそ視線は白いのであった。
さて、そんなわけでその様子をじっと見ていた私と少年の目が合うわけだ。
少年は九死に一生を得たかのような笑顔を浮かべる。
しかし困った。
私はむしろ君を地獄に落とす側なのであった。
「妹をよろしく」
そう。
目の前で縄を差し出している少女は、私の妹だった。
何故他人のような描写をしていたかというと、そもそも他人だったのだ。
両親が再婚し、私と妹が家族になった。
大体そんな感じだ。
それ故に、彼女のことはよく知らない。
いやまあ、最初から家族だったとしても妹のことを完璧に理解するのは難しいのだが。
しかしまさか、私の妹が特殊性癖を持っていたとは。
驚きだ。
しかし私はそのようなことで差別はしない。
十人十色という言葉がある。
私はその言葉のことをそれなりに好いている。
個性を肯定する熟語である。
嫌いな人間は少ないだろう。
さて。
後は若いものに任せて、私は退散することにしよう。
これ以上ここにいると、更なる騒動に巻き込まれそうだ。
追加の騒動が起こるのか、という疑問も浮かぶ。
しかし、なんとなく大変なことが起こりそうだという直感が働いた。
そしてその直感は、大体当たってしまうのであった。
「ぼ、僕はあの人のことが、好きだから、ごめんなさい!!」
……まあこのように、少年は私を巻き込むことにしたようだ。
そんなことに勇気を使ってどうする少年。
別に私は構わないが。
嫌ごめん嘘。
構う。
めっちゃ構う。
だって妹の顔が般若のようだ。
それに、そもそもの問題があった。
とても重要な、大切な要素だ。
「私は男なんだが」
そう、私は男だ。
どちらかと言えば男のような恰好をしていて、どちらかと言えば男のような声をしていて、どちらかと言えば男に見える。
しかし間違いなく男だ。
「ぼ……僕は構いません!!」
だから私が構うのだ。
妹の背後から黒いオーラのようなものが噴出している。
比喩表現だが、何となくそんな気がしてならない。
この状況で、私はどうやり過ごせばいいのか。
ここで少年のことを受け入れてしまえば、妹によって私は始末されてしまうかもしれない。
しかし妹の思いを遂げさせるのは、少年がかわいそうだ。
……さて、ひとつ思いついたことがある。
吉と出るか凶と出るかはわからないが、この状況を打破できるだろうことは明白な、比較的面白い案だと思う。
だがこの案は私の世間体へのダメージが大きいものだった。
……既に同性の相手に告白されている時点で世間体には大ダメージだが。
ならば構うことはなかった。
どうせなら底の底まで落ちてしまえばいい。
後のことは後で考えればいいのである。
「しかし私が構うんだ。何故なら私は……妹が好きだからだ」
「ぶっふぉ!?」
吹き出す妹。
目を見開く少年。
そして周囲の視線が私に向く。
というかまだ逃げていなかったのか周囲の人たち。
巻き込まれるぞ。
しかしこの発言によって、私たちは拮抗することになる。
私>妹>少年>私……という三すくみだ。
これにより、3人が同時に牽制し合い、うかつに動くことができなくなった。
我ながら素晴らしい案だ。
周囲の目は白いが。
「……それであれば」
しかし、そこで妹が口を開く。
なんだなんだ。
嫌な予感がするぞ。
私としては三すくみの状態を維持したいんだが。
「兄と君、ふたりと付き合うことにしたい。構わないだろうか?」
「いや構うが?」
堂々の二股発言である。
流石に構う。
しかしそうだな。
これはチャンスである。
この状況を利用して逃げ出すことにしよう。
「それでは明日、どちらが妹に相応しいか勝負することにしよう」
「え? え?」
「時間は同刻、場所はここ。それではこれで」
ささっと退散する。
これでこの場を乗り切ることができた。
いやできてはいないのだが。
これにより、私は1日の猶予を得た。
そして明日の決戦に向けて作戦を立てるのである。
不戦勝でいいのでは?
作戦は一瞬で決まった。
明日は家を出ない。
それで解決だった。
「……」
「……」
しかし誤算があった。
妹は、家にいたのだ。
というか同じ屋根の下で生活していたのだった。
すっかり忘れていた。
「……明日」
「……ん?」
暫く見合っていると、妹が口を開いた。
少し躊躇しているかのような様子である。
「明日……ちゃんと、来ていただきます」
そう言い残し、妹は自分の部屋へと逃げ帰った。
どうやら私に残された選択肢は1つだけのようである。
……勝負、何にしようか……?