自称薬学者の
勉強も運動も、なんでも出来る少年だった青砥。
ある日、ドラッグの力を借りてこの世の真理に至るという思想に触れた彼は、薬学科へ進むことにした。もちろん、本当の動機は隠して。
そして、天才と呼ばれた男が一人前になるのは早かった。
その後、青砥は家族の前から姿を消す。行方不明になった青砥寧人を、双子の弟や警察が捜しているが、見付からない。
「寧人さん」
青砥がラボで合法ドラッグを作っていると、いつの間にか背後には久住がいた。
「はい」
無感情に返事をする。
「例の話、どうなん?」
「引き受けますよ。試作品もあります」
久住に、自作のドラッグを卸すという取り引き。
「話が早いわ。流石、天才薬学者やな」
久住は、へらへら笑っている。青砥は、無表情で調剤を続けた。
「それで? 安価なドラッグとやらは、出来たのですか?」
「順調やで。工場で生産しとる。あれを入り口にして、もっと依存性強くて、高価な寧人さんの薬で大儲けや」
「ルサールカです」
「ルサールカ?」
「私が作った薬の名前ですよ」
「なるほど。ほんなら、そのルサールカで一山当てようや」
「そうですね。資金はいくらでも欲しいですから」
真理に至る道は長い。
「……私を退屈させないでくださいね、久住さん」
「任しとき。毎日がスリリング間違いなしやで」
久住は、青砥の肩を軽く叩いた。
つまらない世界ではあるが、まだ青砥にも知らないことがある。全てを知ってなお、くだらない世界だったのなら見切りをつけるつもりだ。
「寧人さんには、この世界はおもんないんやろなぁ」
「ええ。退屈過ぎて死にそうですよ」
「まあ、退屈しのぎに付き合ってくれや」
「はい」
少しの期待。それを、久住はくれた。
「俺も、ずーっと退屈やねん。寧人さんとおんなじやな」
「嘘つき」
「バレた?」
悪びれもせず、久住は笑う。
「私の退屈は、私だけのものです。誰とも共有するつもりはありません」
「そうやな」
青砥寧人という物語は、久住と深い関わりを持たない。
人生は、暇潰し。犯す罪は、退屈しのぎ。そんな男は、孤高の存在であった。
他人は、全員くだらなく見える。だから、誰もいらない。興味もない。
青砥にとって、久住は、大海に落ちる小石程度の存在である。
わずかな波紋にのみ、意味があった。
久住にとって、青砥は駒のひとつなのだろう。
お互いを利用し、死ぬまで生きていく。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆