双影無骨の強みは普段の作業に活きることである。
どんなに忙しい中央四十六室のお仕事でも源蔵が自分の分身達と分担して作業すれば瞬く間に片付けることが出来る。
ただその様子を見られるのは非常に困るので、四十六室の数ある執務室の一室を占拠し、その扉に「この扉、開けるべからず。開けた奴は超エッチ」と、どこかの童話の鶴の言葉をイヤらしくした張り紙をして侵入を防いでいる。
その日はある意味チートデイだ。
同僚達は物凄く気になっているものの、相手はあの源蔵だけに文句が言えず、その成果と仕上がりは完璧かつ丁寧で文句のつけ様がない。
むしろ今日は絶対に定時で帰れるぞという勝利宣言であり、自分たちがしてる不正に比べたら可愛いものである(笑えない)。
一度だけ、無謀にも一人の勇者が決死の覚悟で扉を開けた事件があった。
彼は当然量産型源蔵を確認。悲鳴を上げて失神。チーム源蔵、全力で偽装工作。その結果、扉を開けたら死ぬという噂が出回り、見事扉を開けるものは居なくなった。好奇心は猫を殺すのだ。
そして、重國にめちゃくちゃ怒られた。
ちなみに源蔵の分身たちの行き帰りは窓からであり、その見た目に似合わぬ俊敏さと鬼道を利用した大胆なパルクールで移動している。壁走りする源蔵は隠密機動もビックリだろう。
戦闘力皆無の理由は精神的なものが十割であるため、あの重國から逃げ回れるくらいに身体能力は高い。爆逃げの源蔵の名は昔の尸魂界では轟いていたものだ。
若干、不名誉であることは一旦置いておこう。
「源蔵様! ふ、不審者が! 侵入者が!!」
「あいわかった。儂の方から警備の者に伝えておこう。案ずるな。大丈夫だ!」
「おお! 流石は源蔵様! 一切の動揺がありませぬ!」
犯人は源蔵です。
そして手にした休日。
源蔵は台所に立っていた。
偉くなりすぎて外でも屋敷でも人に任せるのが仕事になってしまった源蔵だが、たまには自分で何かをしたくなる。重國が料理してるのを見て何となくやりたくなったのだった。
元々何でも自分でやらなきゃならない時代に生きていた死神で、昔は釣った魚を捌いては蒸したり焼いたりと多少腕には覚えがある。
その時も遊びに来た重國が流刃若火で見事に焼いてくれたものだ。最初はギャグで火柱を上げるものの、その後完璧な焼き加減を披露してくれる。そもそもにして我々は生き抜いてきた環境への対応により、食べ物を粗末に出来ない身体になっている。
もしも食べ物を灰にした瞬間、冗談なく本気のお通夜が始まる。食育とは命を学ぶことなのだ。
そして、やはり斬魄刀は将来的に普段使いにこそ活きるべきなのだ。
我らの相棒を殺し合いの為でなく、暮らしの一助、個人の特徴の一部、便利な道具くらいにまで価値を落とせればきっと平和と言えるだろう。源蔵の目指すところの一つである。
ただし、使い方に関しては始解限定の方向で。
使えるかは別問題として規模的に卍解は使用禁止である。護廷十三隊流掃除心得でも……いや、そもそも戦闘時以外に卍解を使う状況なんて無いのでは…………?
「源蔵様、何から作りましょうか」
「うーん、そだな〜」
秀胤のアドバイスで簡単な卵料理から挑戦しようとしている源蔵。
その隣を当たり前のように陣取っているのは痣城双也くんである。イケメンで真面目で素直で勤勉。しかも強い。今や源蔵一派のアイドル的存在となっていた。
そんな彼だが、源蔵にそれはもう孫のように懐きに懐いている。
帰ってきたら出迎え、しばらくその後ろについて回り、自分の仕事と鍛錬以外は源蔵が目の届く範囲にいる。そして困ったことが起きる前に対処する。第二の秀胤が爆誕していた。
そのうちケモミミとシッポが生えてくることだろう。
ただその貴族然とした気高さは猫に近く、忠誠度合いは犬に近い。何が生えて見えるかが悩み事できっと周囲の想像に委ねられるだろう。実に平和である。
ちなみに少し前は秀胤がその立場だったがそれが阻害される立場に。だがしかし、そのことで双也を拒絶することはなく、嫉妬することもなく、妬むことすらもない。むしろ頼もしいと後方で腕を組んでいるくらいだ。
「忠義とは主の為を思い行動し捧ぐもの。見返りを求めるものではなく、誰かと比べるものでもありません」
と、気持ちよく言い切り涼しい顔をしている。
意訳すると、推し最強! 推し活最高! 同担オーケー! である。流石は先祖代々推しに人生を捧げる一族。強い。
源蔵がその手に持っているのは伊勢檍涼殿のオススメ卵料理のレシピである。
現在彼女は源蔵一派が運営している飲食店の高級居酒屋にて女将として働いてもらっている。
清楚で清廉で未亡人。おまけに眼鏡美人。その柔らかな物腰で人当たりもよく、それでいて凛と芯のある人間性がみんなの心を鷲掴み。非常に人気がある。そのお店にリピーター続出である。
高級居酒屋だけに不埒な輩は少ないもののなきにしもあらず。なので一応警備の者はいる。だが、その心配は要らないだろう。重國の愛弟子の片割れが目を光らせているからだ。割と本気で。
「とりあえずレシピの端から作ってみるとも」
「お手伝い致します」
「助かるよ」
源蔵は人知れず感動していた。
しかも、台所も使う器具も調味料とかも増えに増えて、その上で全部使いやすいという進化を遂げていた。まさにジジイショック。
そりゃー重國も楽しむよこんなん! と心で叫ぶ源蔵である。
最近溜まったストレスをぶつけるが如く、源蔵は調理を開始するのだった。
ここで一つだけ間違いがあるとすれば、終始ご機嫌で楽しそうな源蔵を止める要員が居なかったこと。
その結果。
和食、洋食、中華、デザートまでの卵料理がテーブルを埋め尽くすことになり、重國を筆頭に仲の良い護廷隊のメンバーや源蔵一派を招待してみんなで食卓を囲みましたとさ。
めでたしめでたし。
平和が一番。