そこは一番隊隊舎、総隊長執務室である。
「困ったのう」
と、目を細める山本元柳斎重國。
「困りましたね」
と、小さく息を吐く雀部長次郎。
「なんとお詫びすべきか……申し訳ない……」
と、意気消沈する朽木銀嶺。
「たのもー!!! なんじゃいみんな揃ってぇ! おいおい老人会かぁ! 儂招待されてな、あっ、失礼しましたぁ…………」
そんなところに突撃をかました源蔵はすぐに空気を察した。
ゲンゾウ は にげだした。
「まあ待て源蔵よ」
しかし重國にまわりこまれてしまった。
「いやいやいや、大丈夫大丈夫。そちらさん、大変そうじゃないの。こっち急ぎじゃないからさ。儂のは後でいいとも!」
ゲンゾウ は にげだした。
「まあまあ、そう言わずに。源蔵殿もお忙しいはず。それを追い返したとなれば礼に欠けましょう。是非、ご要件を」
しかし長次郎殿にまわりこまれてしまった。
「いやいやいや、大丈夫大丈夫。儂、暇よ暇。そう! これ、いつでもいい案件でな? だ、だから時間が空いたらまた来ますんでぇ!」
ゲンゾウ は にげだした。
「良いところに来られた源蔵殿、少々相談をよろしいかな?」
しかし銀嶺殿にまわりこまれてしまった。
「は、はは、銀嶺殿にそんなことを言われたら、き、聞かない訳には参りませんなぁ……」
ゲンゾウはもう逃げ場がない。それを判断するとガックリと肩を落として降参です、もう観念しましたよとジェスチャーするのだった。
「……くっ、みんな儂のこと好きすぎかぁ?」
「「「…………」」」
「嘘でもなんか言ってくれよ!! 儂を羞恥心で殺すつもりかい!!」
爆逃げの源蔵、見事な敗北である。
現在護廷十三隊で内部抗争が起きていた。
護廷十三隊の権威が高まると自分たちの立場が弱くなると考えた御貴族様たちがちょっと圧でもかけようかな? なんて始めたら、この期に乗じて暴れるしかねぇと反護廷隊派の死神たちが協力し、思いの外燃え広がった形だ。
これにはお貴族様たちもはわわっとしていた。殴ってもよいか?
それでも山本元柳斎重國が揺らぐことはないだろう。
早急に反乱分子を片付け、その頭目を捕らえて処刑台に送る為に粛々と動いている。こういう荒事は得意分野で滅法強い。心配するだけ無駄である。
ところがどっこい、その最中に別方向の問題が発生したらしい。その中心こそ、五大貴族朽木家二十六代目当主であり、六番隊隊長を務める朽木銀嶺殿である。
前途有望な朽木家には一つだけ不安がある。
それは跡取り問題である。息子で跡取りの朽木蒼純殿が居るのだが御身体が弱く、噂ではあまり長くは無いとも。
だから、もしもの為に将来有望な若者を娘婿として朽木家に迎え入れたのだが…………。
「響河は才能に溢れておる。だが、如何せん自らの力を過信しすぎる嫌いがある」
「加えてあやつの斬魄刀、村正は強力無比。ひとたび力に呑まれれば尸魂界に甚大な被害をもたらすじゃろう」
「その前にどうにか出来ないかと色々やって見たのですがどうも上手くいかず…………」
「うん、それ儂にまる投げられても困るやつだよね!」
「では、頼むぞ源蔵」
「源蔵殿にしか頼めません。どうかよろしくお願いします」
「我家のことながら巻き込んで申し訳ない。至らぬ倅のこと、どうか宜しく頼みます」
「あれぇ、これ俺の知らないところで既に決定してるやつだ! そうか……最初から仕組まれていたのか…………」
源蔵は天を仰ぎ、そうすべてを悟ったのだった。
朽木響河は同胞殺しの疑いありとして投獄されていた。
勿論やっていない。その事件は響河自身、或いは朽木家の活躍を良く思わない一派に嵌められたのだ。
だが、どれほど主張したところで周囲は妬みか嫉みか誰も聞く耳を持ってくれない、そんな状況だった。味方であるはずの銀嶺殿でさえ……。
誰もが銀嶺のように誇り高く、気高くあれ続ける訳ではない。
度重なる叱咤に響河のその心は酷く荒みきっていた。彼を慮る斬魄刀、村正は囁く。この牢屋から抜け出して罠にはめた連中に真意を問うのだ。もしも、後悔でもしていたなら響河の心はまだ救われる。そんなこと、あるはずもないのに。
何が正しいかも見失っていた朽木響河は、その言葉を信じて牢屋を出ようとする。その方が賢明かもしれぬと。
その時だった。
「今そこから出ると君は儂の手のひらからこぼれ落ちることになる。どうか、話を聞いてくれないかい?」
中央四十六室に巣食う化け狸、源蔵がまるで散歩の序でのような軽さで目の前に現れたのだった。
問答無用と実体化した村正が斬り伏せようと動くが、それより早く源蔵の莫大な霊圧が辺り一帯を押し潰す。全員生きているくらいに手加減はお手の物。長年の鍛練の賜物だ。
その霊圧の重圧に後ろをついてきていた監視員も倒れ、辛うじて意識を保って居られるのは朽木響河のみである。
「儂のお話、聞いてくれる、よね?」
一先ず大人しくなった朽木響河の牢屋を開け、その拘束が解かれる。その行動に不思議そうな顔をする響河の思考を読むように源蔵は言葉を発する。
「響河殿が無実なのは百も承知さね。なんせ君に利がない。こんな荒唐無稽な計画に騙されるほど今の四十六室は馬鹿じゃない。少なくとも、金と権力で真実がねじ曲がるなんてことは儂の目が黒いうちはさせんよ。なるべく、だけどもね」
「ですが、銀嶺殿は罪に問われるだろうと、私の力が恐れられているからと…………!」
「その後に忍耐力を学べと言われただろう。大切なのそこだけだから。意訳すると、私が助けるまで大人しくしてなさい、だ。朽木家男児はみんな口下手なの。そうか、もうよい、済まぬのこの三つで人生乗り切ろうとする一族なんだから。まだ銀嶺殿は言葉を尽くしてくれてる方よ」
「絶対助けるのにまるで助けないみたいな言い方するんだからさー!」と、面倒くさそうにする源蔵。このあけすけな物言いに思わず噴き出す響河。ようやく味方だと刷り込みができたらしい。ここで一安心。
程よく銀嶺殿を貶しながら、軽口を叩き、余裕が出てきたことを確認すると「まずは飯食いに行くぞ!」と手を差し伸べるのだった。
店までの夜道を歩きながら、今の現状を教えていく。
朽木響河は現在、席官も今ある任務の全てから外され、完全にフリーである。
「今日一日、儂の護衛ということになっている。よろしく頼むぞい?」
「……何故このようなことを?」
「重國と銀嶺に響河殿の世界を押し広げる為に一肌脱げとな? この儂の特別授業というやつよ」
任せよ! えっへん! と胸を張る源蔵にそこはかとない不安を覚える響河殿である。
あれ、前後編になっちゃった…