四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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村正

 

 源蔵と響河は防犯対策バッチリの高級居酒屋にて飯を腹いっぱい食べていた。勿論源蔵の奢りである。

 

「そういえばなんだけど。儂、めっちゃ反乱分子に狙われとるから、そこんとこよろしく! ちょー敵くるからさ! 相手頼むぞい!」

 

 そんな軽いノリで言われて響河は大したこと無いのではないか、などと油断していると店を出て少しするとぞろぞろと囲まれる。

 

「ちなみに殺しは絶対に駄目だから」

「なっ、出来なくはありませんが……!」

「君なら余裕だろう?」

「……ええ、勿論です。私の力、篤とご覧にいれましょう!」

「フゥ! 頼もしぃ!!」

 

 本当に百を超える刺客を相手する羽目になっている朽木響河は千切っては投げ、千切っては投げ、敵をすべて薙ぎ倒す。流石は若くして朽木家に迎え入れられる程の実力者である。危な気なく対処していく。

 

 後ろにいる源蔵の援護もかなりのモノで的確に縛道で締め上げたり、霊圧で吹き飛ばしたりしていた。フィールドギミックかな? 

 

「源蔵殿! 何故このような連中を生かしておくのですか。我々の命を狙うような不届者は殺してしまえば良いのです」

 

 源蔵はのほほんと若いねぇと笑いながら、その程度の輩は生かすも殺すも同じこと。なら生かしてあげれば良いと前置きした上でその理由を深掘りする。

 

「殺し合いの先は滅ぼし合いよ。だが、儂らが圧倒的に強い立場にあるなら他に選択肢がある」

 

 人も金も時間も無限ではなく、有限である。

 

「殺さずに追い返し続ければ、使う側と使われる側に不信が生じ始める。そして限界が近づくほどそれは大きくなり、やがて味方同士で争い、自滅する」

 

 殺し合いの恨みや憎しみの繰り返しの連鎖を終わらせ、子や孫に禍根を遺さない。その上で…………。

 

「その時に生き残った子らに手を差し伸べる。そうして儂らはより強大となる。やがて、いずれ、敵対しようなどと露も思わぬ程の強大に、ね」

 

 それを繰り返せば塵も積もれば山となる。今倒れているのは敵ではなく、潜在的な味方であり、敵意を向けるべき相手ではない、そう言い切ったのだった。

 

 敵を討ち倒し、力を示して功績を挙げてこそ、出世や信頼につながると信じている響河にとっては理屈は分かるが納得しかねるという感じだろうか。

 

「そう、ですか」

「さて、行こうか」

「はい」

 

 

 多くの反乱分子を追い払い、長らく歩いたその先に、たどり着いた終着点。そこは瀞霊廷を一望できる大罪人の処刑場、双極の丘である。

 

 響河殿程の死神に何かを伝えようとするのなら、それに相応しい場所と言葉が必要だろう。

 究極の青空教室で月を背に、源蔵は笑う。

 

 

「響河殿はもう気が付いて居られるのでは?」

「何を……ですか?」

「響河殿はもう誰かに認めてもらう側に居るのではなく、誰かを認める側に居ることに」

「私は銀嶺殿にまだ認めてもらえておりませぬ。その私が誰かを認めるなど烏滸がましいことでございます」

「そうかい? 銀嶺殿は君に後釜になってほしいのだろう。だから、あそこまで厳しくしてしまう。それくらいは感じているだろう?」

「最初はそう思っておりましたが、今は……。銀嶺殿は私など…………」

 

 朽木銀嶺殿は響河殿に何を求めて居るのだろうか。

 

 朽木響河殿は卍解を習得し、いくつもの功績を残し、婿として迎え入れられている。もう既に身内に迎え入れた時点で、その実力は認められていると言って良い。

 

 しかしながら、銀嶺殿はよくこう言って反省を促している。

 

『己の力を過信しすぎるな』

 

 響河殿に垣間見えるのは強者故の自己中心的な思考と行動。

 他人に任せるより、自分でやった方が上手く行くし、早く確実に終わる。他人の手を借りずとも、自らで成し遂げ、自らの力を絶対と信じ行動する。

 

 銀嶺殿はこう見ているに違いない。

 響河殿は自らを絶対とするが故に他人を求めず、自らより劣るものを許さず、その強さ故に慢心し、やがて孤立し、罠に嵌められ、自らで何とかしようとして蟻地獄のように過ちを繰り返す。

 

 実際、今現在そう成りかけていた。

 

 完璧な存在なんていなく、一人で何もかもなんて出来やしない。それはきっと霊王様が証明している。

 

 だがそんな死神なんぞ、隊長格にすらざらに居る。

 そこを許さないのはきっと朽木家故のなのだろう。

 朽木家は、世に秩序をもたらし、掟を守ると誓った一族であるからだ。

 

 

 では響河殿はどうだったのか。

 話を聞くにその卍解を手にした時、たとえ恐れられたとしても誰かを助ける為に戦うことを選んだからだそう。その思いを汲んで中央四十六室も斬魄刀を取り上げることをせず、護廷十三隊に迎え入れた。そこに成長の余地ありだと。

 

 響河殿はその気質からおそらく、平和な世界に生きることの想像が出来ていない。力という尺度、強者と弱者という物差し、弱肉強食でしか物事を測れない。

 

 それがない世界。他者を尊ぶ生き方が見えていないのだ

 

 それは才能故だろう。響河殿は自分と対等以上の相手を護廷隊に入って初めて出会ったのだ。それが銀嶺殿なのだろう。その人が義父になり、上司なのだから認めて貰いたいし張り切りもするだろう。

 

 だが、今まで培ったやり方が全てが朽木家では間違いなのだ。

 認めてもらえようもない。何故ならそもそもの考え方が違う。響河殿は個を絶対とし、銀嶺殿は全を尊ぶのだ。

 

 そのすれ違いがすべての原因であり、意識の違いをすり合わせて埋めることが最重要事項である。

 

 それが今回、源蔵がすべき事である。

 

 …………無理難題じゃね? なんてね。

 

 

「さて、響河殿。星は見上げておるかい?」

「星ですか?」

 

 護廷十三隊が倒れ、霊王宮が堕とされれば世界が崩壊する。

 それは誰もが知る真実である。その隊長格や席官になるという事。その責任は、学校で役職が付いたり、企業で幹部になるのとわけが違う。

 

 世界の守護者としてそこに立つことになる。

 

「君は今、銀嶺という星を見上げているけれど、儂らは皆、星から世界を見ねばならないのだ。それがどういうことか、分かるかい?」

「…………いえ」

「簡単な話だよ、響河殿。儂らはもう個であることをある種諦めておる」

 

 神ならざる身で神の一端を担うならば、もはや人であることを棄てねばならない。我々は死神だが、神を霊王様にすると分かりやすい。

 

「山本元柳斎重國は世界の正義を成すために」

 

 自らを世界のシステムの一部だと定義し、その役割に没頭すること。

 

「朽木銀嶺は世界に秩序をもたらすために」

 

 より良い世界のための礎となり、その身を捧げること。

 

「儂は、そうだね。世界の安寧を保つために」

 

 そこに個の意思が介在する余地はない。護廷の為に死すべし。その覚悟がなければ、隊長羽織に袖を通すことは許されない。

 

 尸魂界の為を思い、尸魂界を生かすことを最優先とし、尸魂界の為にその身を捧ぐこと。それだけがすべて。

 

 その点においてのみ、朽木響河は未熟と言えるだろう。

 

「君も世界を描く側として望まれることになる。特に朽木として在るなら、その責任が多くのしかかる。もうそれは理解しているね。……君の実力は確かだ。それは儂が保証しよう」

 

 月を背にする老人と朽木響河は目と目が会う。

 思わず背筋が凍り、冷や汗が噴き出るほど、その目に、その瞳に圧倒的される。

 

「あと君に必要なのは覚悟だけ」

 

 まるで未来を見通す様に、響河のすべてを見透かすように、この世のすべてを見定めるように。

 なんの武力も持ち合わせていない老人に気圧される。その存在に迫力が宿る。

 

「響河殿は儂らになる覚悟はあるかい?」

 

 中央四十六室の老獪。生きる歴史の化け狸。裁くことを背負い続ける覚悟の化身。

 

「いつまでも星を見上げていてはいけないよ」

 

 世界の為に未来を描いてこその護廷十三隊。

 

 朽木響河は、何も言えず、ただその重荷をまざまざと見せつけられたのだった。

 

 

 

 

 

 そして、後日談で少し未来のお話。

 

 朽木響河は銀嶺殿との長らくの話し合いの末、当主や隊長になるのではなく、その代理を務めるに留め、朽木家を支える道を選んだ。

 

 それはどうしてかを朽木白哉に問われた時。

 

「俺はあの人達の様には成れん。そう理解したまでだ」

 

 そう言って、響河は晴れやかに笑うのだった。




源蔵はフィールドギミック
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