四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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雨露柘榴

 

 

 痣城双也は見違えていた。

 あどけない少年から立派な青年へと育とうとしている最中といったところだろうか。

 

 その弛まぬ鍛錬の成果であろう綺麗な肉付きから骨の髄まで鍛え抜いているのがよく分かる。それでいて硬く分厚いのではなく、鋭く柔らかく引き絞られたようにスラリとしているのだからズルいという他ない。

 

 本人の上昇志向は元より、常に周囲に強者がいた環境も良かった。彼は斬拳走鬼を基礎からきっちりとやり直し、斬魄刀と向き合い、頼れる者たちからの助言を貰い、素直に学び、それを実践し、身につける。それを小さく何度も積み重ねた。

 

 背負う重みも戦う意味も感情さえも、何もかも無駄と斬り捨てる以前の双也はもう居ない。自分自身と真っ直ぐに向き合い、ちゃんと周りを見て共に歩もうとする立派な死神に成ろうとしていた。

 

 尊敬する主たるお爺さんがそうして来たように。

 

 そんな彼が懸命に一心不乱に素振りするとき、その脳裏に描くのは自身の姉が殺されかけたときの光景だ。

 

 自分は動けず、無力で、立ち尽くすばかり。

 それとは正反対に決死の覚悟で立ち向かう姉。その背中をただただ見送ることしか出来なかった。頭によぎったのは姉の死のイメージとその絶望。突入してきた護廷隊に助けられなければ一生の後悔になるところだった。

 

 そのトラウマを真正面から見つめ、怖かったと悔しかったと受け入れ、もう二度と繰り返さないと己の魂に誓った。

 

 だから、今日も己と戦う日々である。

 

 ちなみに双也の姉は真央霊術院を無事卒業し、十三番隊に入隊したそうだ。浮竹隊長の下でなら彼女も伸び伸びとその才覚を発揮できるだろう。

 

 

 

 中央四十六室のメンバーである源蔵は常に命を狙われる可能性がある為、本来なら清浄塔居林に住まなければならないところ、過去の経験から「おいおい、何処に居ても危険ぞ? なら帰るわ!」と仕事が一段落すると呑気に堂々と帰ってくる。鋼の心臓である。

 

 双也はその霊圧を察するとすぐに空気に融けて出迎える。

 

「たっだァ! ぎゃあああァァァ!!! て、天井から人がァッ! ってお前かい!」

 

「お帰りなさいませ。源蔵様」

 

 なんなの! お決まりなの!? もうこれお約束なの!? っと腰を抜かして完璧なリアクションをする源蔵に心なしか双也も満足げである。ドSかな? 

 

 大丈夫ですかと心配しながら、起き上がるのを支えようとする双也の手を借りて源蔵は起き上がる。

 

「あんまりやると儂、腰悪くするってぇ……」

「だから一ヶ月に一回程度にしてるではないですか」

「多いよぉ。儂には多いよぉ」

 

 ちなみに屋敷の人たちには慣れたもので、この明るい悲鳴が聞こえるとあの爺孫、またイチャイチャしてるよくらいの認識である。

 

「ふぅ。おや、また鍛錬してたのかい? 精が出るねぇ」

「はい。今は雨露柘榴の始解と卍解の即時展開と融合拡大時間の短縮を目指して取り組んでいるところです」

「…………君は何を想定して強くなってるのん?」

「最強を。貴方の敵を悉く打ち倒す強さを」

 

 その目には一切の迷いなく、真っ直ぐに本気だと伝えるように源蔵を見つめている。

 

「十一番隊の隊長となり、それを証明致します」

「いやもうそこら辺の隊長格なら簡単に蹴散らせるくらい強いでしょうに」

 

「ええ、知ってます。私がそこら辺の隊長に負ける道理がありません」

 

 腕を組んでフフンと自慢げにする双也とその後ろで密かに実体化して同じ格好でフフンとしている雨露柘榴を見て、源蔵は穏やかに笑うのだった。

 

 

 此処にはもう、恐怖で前に踏み出せないような無力な少年はいない。

 

 

 

 

 それは源蔵の仕事場である中央四十六室に向かう途中のこと。

 緊急時には四十六室を守る為に閉じられる十三の防壁がある。その最初の一つに背を預けて一人の男が源蔵を待っていた。

 

「よう、源蔵の爺さん」

 

 野性味溢れるワイルドな笑顔を源蔵に向けるのは、今現在護廷十三隊で最強と名高い男。十一番隊隊長、刳屋敷剣八である。

 

 その荒々しい外見に似合わず、誰彼構わず喧嘩するような気性はなく、歴代剣八の中でも理性的だと言えるだろう。

 だがその実力は剣八の名に恥じない強さでメノスなら一太刀、隊長を超えるとされるあの最上級大虚(ヴァストローデ)を討ち倒したことがある護廷十三隊でも屈指の猛者である。

 

「やあ、息災かい? 刳屋敷殿」

「応とも! そういえばアンタ、俺の卍解の使用禁止を解除してくれたそうじゃねぇか」

「儂のように条件付きだけどね。ホントは自由にしてあげたかったんだけど、そう簡単には行かなくってさ。済まないねぇ」

 

「いや、それでも良い。これだけでも気持ちよく戦えるってもんだ。…………感謝してる」

 

 それを言うためだけに律儀に頭を下げに来たらしい。流石は曳舟十二番隊隊長と共に零番隊へ勧誘を受けている人格者である。

 

「あと百年、いや数十年か。(うち)の子が最強の座を賭けて君に挑むと思うからさ。その時は全力をもって相手をしてあげてほしい」

 

「そいつは面白れぇ。楽しみにしてるぜ」

 

 そうして獰猛に笑う様は正しく剣八である。

 

 剣八の名は最強の証明。

 それは誉れであり、呪いである。飢えた獣が彷徨う様に、常に闘争を求め、戦いを尊び、殺し合いに悦びを見出す。

 

 そして、己を超える強者に出逢うことを恋焦がれているのだ。




この二人が真っ向勝負? 全員退避!!!!
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