四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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ダルマに良く似たおっかない御人

 

 むか〜しむかし、それはそれは昔のことである。一昔(ひとむかし)とか二昔(ふたむかし)とかもう可愛いレベルの昔である。

 ダルマに良く似たおっかない御人が眉をハの字に本当に困った顔で言い放つ。

 

「おんし、まっっったく戦いに向いとらんな……」

 

 そんな霊圧しといて一体どうなっとる? という呆れまくった視線から逃げるようにまあまあとなだめて誤魔化して有耶無耶にする。

 

「あはは……そう、でしょうね……自覚してますとも」

 

 そう言って源蔵は川に向かってヒュッと釣り竿を振って仕掛けを付けた糸を遠くに投げて釣りを始める。言動が一致していない。申し訳なさそうな声と表情が動きと同期していない。いっそ清々しい太々しさである。

 

「肝は、据わっとるんだがなぁ……勿体ない」

「まっ、兵主部さん。今からいい魚釣るんでヒレ酒にでもして一緒に呑みましょう」

「軽々しくわしの名を……まったく、どうも調子が狂うのう」

 

 誰もが恐れる古き神にのほほんと軽口を叩けるその胆力は本物。その不気味さも腹黒さも底知れなさも勿論知っている。そんな存在を目の前にしても全てを飲み込み屈託なく笑う。まるで毒気のない源蔵にまなこ和尚はただただ力が抜けるばかりである。

 

 源蔵の危険性を見極めに来たのだが、拍子抜けも良いところでなんか普通に酒飲んで雑談して帰っていった。

 源蔵は何気に次会う約束をする辺りアダマンチウムの心臓を持っていることは間違いないのであった。

 

 

 五大貴族を鼻で笑える程の霊圧は虫除けになる。

 ざっこざこな虚もそこらのイキったチンピラも不機嫌なごろつきだって垂れ流す霊圧だけで血相を変えて逃げてくし、貴族連中でさえビビり散らかして居ないことにしてるらしい。触らぬ神に祟りなし。面子が大事な貴族達にとって厄介事は御免らしい。

 

 わざわざ寄ってくるのは酒を片手に絡んでくる志波くんと監視ついでに何故か腹に溜まった愚痴をこぼす朽木さんくらいだ。

 

 そして、メリットがあればデメリットもある。

 敵を押し潰せる程の霊圧は強者ホイホイになる。

 

 いきなりの斬撃。

 突然のホラー展開に悲鳴を上げるとそこには戦闘狂の大罪人八千流さん。頭の中身が筋肉で出来ているでお馴染み、後に護廷隊設立に勤しむ山本重國ですら味見とばかり斬り掛かってくるから手に負えない。

 

 そうしてガチ強者と毎回全力で鬼ごっこしてる内に顔馴染みになるパターンが常になりつつあった。ドキッ! コロりもあるよ! リアル鬼ごっこが開催されるたびに、何処からともなく現れるノリの良さげな刀鍛冶がこっちを指差して爆笑してるのを全力疾走の最中に隙を見てコースを変更してすれ違い様にぶん殴るのが恒例である。

 

 霊圧によって強化される足の速さと硬さと鬼道系に対しての効果遅延。そして再生力と回復力、何より生命力。

 そうそう死なないけど痛いのは誰だって嫌である。

 ぎゃーぎゃー騒ぎながら何処までも走っていく源蔵達は見ようによっては輝くような青春の一幕。その動きはギャグ世界の不死身キャラのよう。だがしかし、本人にとっては生死をかけた全身全霊の逃走劇なのである。

 

 それにしてもあの刀鍛冶め。全方位に刀の形をした兵器をばら撒きすぎである。ハジケすぎてるよ! 

 

 現在、重國が塾と護廷隊の基礎を築き上げてる最中で源蔵にとって束の間の平和が訪れていた。

 最近まで重國ブートキャンプに強制連行されていた。重國は寝起きがてらにお散歩していた源蔵を問答無用で拘束して、どうにか強くしようと試行錯誤してこってり絞っていたのだ。それでも強くなれなかった逸材こそ、何を隠そう源蔵である。

 

 いつまで経っても成長するのは逃げ足ばかり。共闘しようものならチャンスをピンチに変える男。味方にデバッファーとは源蔵のことである。

 

 これは強くもなく弱くもない絶妙な虚を相手に実戦的修行として重國との共闘をしたワンシーンである。

 

「何しとるか源蔵ォ!」

「ふっ、知らないのかい? 重國。一番の敵は、やる気のある無能な味方なんだぜ……?」

「誇って言うことじゃなかろうがァ!!!」

「はい、整いました。儂の会話と掛けましてぇ、霊王様と解きまぁす!!」

「なんじゃ急に! 良いから戦えと……目の前に集中を! ええい! その心は!?」

 

「中身が空っぽ」

 

「冗談が過ぎるわァ! って言っとる場合かァ!」

 

「「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァ!!!!」」

 

 はい! ドッカーン! っと二人で空を飛んだのはいい思い出。今思えばめちゃくちゃアオハルをしていたような気がしないでもない。圧倒的スプラッタで赤の色合いが強かったけどね。

 

 どう頑張っても強くなれない死神もいる。

 才覚に溢れ名実ともに最強であることに偽りのない重國にとって出来ないことに対して理解し難い。源蔵のような存在がいることはこれから先で考えるべきことの軸の一つになったことだろう。そんなこともあるのか、と頭を抱えて教育と試験の大切さを噛みしめる重國がそこにはいた。

 

「元気出せってそういうこともあるよな。わかるよその気持ち」

「誰のせいじゃと思うとる!!!」

「適材適所という言葉がある。そんなに悩むと後退するぞ? 何処とは言わな」

「流刃若火ぁ!」

「なっはっはっはっ!」ダッシュ

 

 烈火のごとくブチキレる重國にキレッキレの漫才を仕掛けられるのは源蔵だけ。そう言われるくらい仲は良くなったのでした。めでたしめでたし。

 

 まあ、とは言え情勢は油断できるものでなく、源蔵を強くしようとしていたのは幾らでも戦力が欲しかったからに他ならない。霊王様を狙われれば三界が散開して解散することになる。それはもう文字通りに。これの怖いところは寒くなくて笑えないところにある。

 

 教育等辺のことは後回しに現状の最適解として集められた初代護廷十三隊はシンプルに頭のネジも中身もイカれた戦闘集団になったのだった。

 

 そうなるとその舵取りに中央四十六室が必要不可欠。

 完全に無茶振りである。しかも爆心地になり得る場所で隊士も同僚となる四十六室のメンバーですらも地雷みたいな連中で、その全員を相手にすることになるのが確定している。

 

 選ばれる死神は可哀想だなぁと思ったことが前振りそのものだと気付くのが遅かった。

 

 

 五大貴族にも王属特務にも繋がりがあり、他貴族に恐れられ、護廷十三隊の総隊長と仲が良く、他の隊長たちともある程度面識がある。

 

 教養があり、良識もあり、頭も回る。

 どんな状況にも相手にも物怖じせず、表も裏も事情を知りつつもこの世界の秩序を客観視して行動できる。

 

 山本元柳斎重國とはまた別のベクトルの強さを持つ死神。

 

 まさに逸材以外何者でもない。結果、源蔵は適材適所といった自分の発言の責任を取ることになる。

 

 幾人もの推薦の声が上がり、見事に中央四十六室に召集されたのだった。





源蔵「こんなときどんな顔をすればいいか分からないの」
重國「笑えば良いぞ」
源蔵「………」
重國「………」

源蔵「………」
重國「…済まん」
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