四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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炎熱系最強で死神史上最強で

 

「重國やい。茶会に来たぞい!」

「そうか。もうそのような時間じゃったか。……して、源蔵よ。茶会は明日の筈だが?」

 

「…………」

「…………」

 

 顔を見合わせて数秒、心がシンクロする。

 

 ついにボケたか! 

 

 なんて互いに貶すが正直自分の記憶に自信のないお爺ちゃんズ。その脳内に急いで展開されるのは直近のスケジュールである。脳内検索していく内に徐々に記憶の扉が開かれ、正解が輪郭を帯びていく。

 

 浮かび上がるのは忘れてはならない喫緊の予定である可能性で……。

 

 それが鮮明になればなるほど、二人の背中をすぅ~と冷や汗と共に悪寒がなぞっていく。

 

 明日、重國主催の茶会があるのは本当である。

 だがしかし、今日も茶会があるということも本当なのではないか。そんな突っかかりから今日の予定が掘り起こされる。

 

 二人は目を合わせたまま表情がみるみる変わっていく。

 その瞬間、同じタイミングで思い出した。

 

 茶会あるけど此処じゃねぇ! 、と。

 

 開催場所は四番隊。あの卯ノ花隊長がその生徒たちと共にこれまでに飾りつけた素晴らしい生花の数々の発表と品評を兼ねたかなり気合を入れた催しである。もしも、万が一にもその席でやらかしようものなら…………。

 

 尸魂界の生き字引。

 生きた歴史そのものと言って良い最年長二人組はその老体に見合わぬスピードで競うように四番隊へ急ぐのだった。

 

 

「また二人揃って。本当に仲がよろしいのですね」

「いやぁ、ハッハッハ……はぁ」

「まあ、……のう」

 

 どうにか無事に間に合った二人は軽く挨拶回りをして何事もなかったように振る舞う。

 まあ、付き合いの長い卯ノ花烈には察しがついているものの、そこを突くのは野暮である。起きていない間違いを責めるほど器量は狭くない。にこやかにしょうがない人たちですねと流してくれる。

 

「あまり無茶はしてはいけませんよ。もうお二人共、若くはないのですから」

 

 そう言って卯ノ花四番隊隊長は次の来賓へ挨拶へと向かうのだった。

 

「…………いやぁ、良かった良かった。間に合って。なあ重國さんや」

「相変わらず足だけは良いな。若い頃を思い出したわ。源蔵もたまには共に鍛錬をせんか?」

「ウン、ソダナ……カンガエテオクトモー」

 

 儂知ってる。それ儂だけ命がけになるやつぞ。

 

 

 

 

 山本元柳斎重國。

 

 炎熱系最強と謳われる斬魄刀流刃若火を十二分に使いこなし、たとえそれが無くとも斬拳走鬼のレベルが高く、名実ともに死神史上最強を恣にしている護廷十三隊総隊長である。

 護廷隊創立以来その牙城を崩せたものはいない。この事実こそ、その力量を示すに十分な証拠になるだろう。

 

 だが、そんな称号と厳つい風貌に似合わず掃除、洗濯、炊事の得意な意外と家庭的な男である。

 

 偉くなろうが忙しかろうが自分のことは自分でやるという習慣が根付いているし、武芸を極めるほど我慢強く学ぶことに熱心で凝り性な性格もある。

 毎日やっている内に上達してついつい極めてしまうのだろう。流石は元柳斎の名を轟かせた男。一芸に秀でる者は多芸に通ず、なんて言葉が当てはまる。

 

 

 たまの休みのことである。

 菓子折り片手に一番隊に重國の顔を見に行くと、たぁー! という聞き覚えのある雄叫びが聞こえてくる。何事かと中を覗けば割烹服を着た、物凄く気合の入った重國が掃除用具セットを身に着け、隊舎を隅々まで掃除して磨き上げているのである。

 

 此方に気づくと「もう少し待っておれ、すぐ終わらせる」とカッコよく決めてくるのは今や見慣れた光景だ。

 

 青空の下、干された褌たちが風になびくさまを見ながら、爽やかな汗を拭っている姿はもう立派な主夫である。

 

 そんな彼が最も輝く瞬間が料理である。

 

 作るのは昔ながらの日本料理や比較的簡単なものではある。だがプロ顔負けの包丁捌きが出来て、何よりプロに勝る程の火加減の上手さがある。その理由は言わずもがな。

 

 源蔵は重國の焼き芋こそ世界最強であると確信している。

 

 元々サバイバル出身の我らは甘くて美味しいお芋の選び方を知っている。そこにこれまで蓄積した知識による工夫、経験から来る焼き方のコツとタイミング、その芋に合った火の入り方と加減の強弱。それらの熟練した技術が最高の焼き芋に仕上げるのだ。

 

 包みを開けると甘い匂いが爆発して、食べる前からもう美味いというのが約束されて勝利している。

 薄皮を割ってその黄金にかぶりつけば、とろける濃厚な甘さに舌が幸せになり、突き抜ける香ばしさに鼻が支配される。少し焦がしてあるのが憎いところである。

 

 つまり、重國の焼き芋こそ至高。源蔵はこれだけは譲れんと異論は認めない所存。

 なんて焼き魚でも焼き鳥でも焼き栗でも、どれも絶品で全部最強なのだった。

 

 

 茶会を終えた二人は一番隊隊舎で一休みしていた。

 焼き芋するが来るじゃろう? と誘われ、断る選択肢などある筈もなく…………。

 

 最早こなれた二人がそれぞれにテキパキやるべきことを済ませればあっという間に食べるだけである。

 

「そう言えば最近、重國の一番弟子達に会ったよ。立派に育って……。こりゃあ、真央霊術院出身初の隊長になる日が近いんじゃないかい?」

「……あやつらは未熟。まだまだこれからよ」

 

 縁側に並んで座って、焼き芋片手に茶をしばく。

 

 何百年の戦乱の末にようやく手に入れた友人と穏やかなひとときである。




焼き芋食べたい
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