綱彌代家の分家の死神が自分の妻とその学友を斬り殺す事件があった。
本家の綱彌代家は、身内から犯罪者を出すのは都合が悪いとこの事件を権力で握りつぶそうとしたが、当時被害者たちの同級生であった京楽春水、浮竹十四郎の両名の見事な活躍により、ついに四十六室の裁判にまで持ち込んだ。
加害者である死神の言い分は妻とその学友が痴話喧嘩まがいの口論の末斬り合いとなり、自分はそれに巻き込まれる形で襲われ、仕方なく斬るしかなかった、とそう供述した。
そんなものが嘘なのは捜査を担当した死神から四十六室の裁判官までみんな分かっていた。
それでも何人、いや、何十人もの賢者たちと数名の裁判官までもがその言い分を認めた。その結果、情状酌量を与えられた刑罰となり、この事件は幕を閉じた。
当然、おかしいだろうと異を唱えるものたちがいたが判決が出てしまえば最早後の祭りだった。決定は覆ることなく、好き勝手した死神はその重罪を嘲笑うように檻からすぐに出てくることになるだろう。
源蔵の蜘蛛の糸は予測しやすい大きな事件や襲撃、暗殺になら手が届くものの個人の諍いまではどうしようもない。
せめて裁判だけでも誠実であろうと最後まで足掻いたが、所詮一人で一票でしかなく、バツの悪そうな顔をした連中が選んだ判決が是となった。
中央四十六室のメンバーはほぼ全員が貴族出身だ。
だから元々貴族に対しての判決が甘い。相手の家の圧力に負ける人もいれば家の事情や属する貴族間の勢力図による忖度、個人間で賄賂による癒着があった。これでまだマシな方だ。その事実こそが弱みそのもので後で幾らでもどうにでもできる。
ただどうにも出来ないことがある。
後に綱彌代家に家族を盾に脅されていた者達もいたことが分かった。あってはならないことだ。そんなことが出来てしまえば正しい裁定など出来る筈もない。
だが、まかり通る現実がある。そうなるとこれから先も高位の貴族を裁くことなぞ出来ないだろう。
つまり、最初からこの結末は決まっていたのだ。
中央四十六室の名折れも良いところだ。この裁判のために奔走した者達のすべては無駄だったのだ。
その後、源蔵は少しでも出来ることをしようと被害者の関係者たち全員に頭を下げて回って、葬儀費用やその他諸々の補償まで個人で行った。
それでもきっとあの絶望と失意に満ちた盲目の青年は死神を憎むだろう。あのニヤケ顔をした加害者の死神もまた犯罪者として源蔵の前に現れることになるはずだ。
だが、それを防ぐ手段は今のところ存在しないのだった。
源蔵はすべての悲劇を救えると思うほど自惚れてはいない。
だが、その傲慢さは必要だと考えている。
中央四十六室は緊急時以外の仕事はほぼ全て事件が起きた後の後始末であり、後手に回るしかないのが現状であった。色々なしがらみの増えた今、若い頃には打てていた先手もできなくなっている。
毎日、嫌でもそのすべての悲劇を目の当たりにし続けている。
ずっとずっと見続けている。積み上げられた紙の束より多くの命が手のひらからこぼれ落ちていく。どれだけ対策しても防止や予防に手を尽くしてもすり抜けていく。
その度に自分の不甲斐なさを自覚するばかりだ。
正直なところ源蔵は山本元柳斎重國が羨ましく思う。
重國のように何かを劇的に変えられたらと心の底から思う。でも近くでみてきたからその苦労を知っているし、重ねた努力も並大抵ではないとわかっている。だから尊敬しているし、憧れがある。こちらも負けてられないとそう思える。
それでもユーハバッハのようにいっそのこと全部始めからやり直した方が楽かもしれない。なんてそんな事が一瞬よぎってしまうくらいにはイラつきもしている。だが、そう思うと同じくらいに頭が挿げ替わった程度で何かが変わると到底思えなかった。
なら、今ある世界で逃げずに、前を見て真正面から戦わなければ、悪辣を反省し正さなければ、変わって行けると証明しなければ、これから先どんな世界になったとしても我々に生きる価値はない
その苦難の道こそ霊王様に対しての償いに相応しい。
人の内側を変えていくのはそう簡単にはいかない。
最低限の段階で平和を築いて、最低限の暮らしが出来るように整備して、教養を育て、誰かを許せる余裕がある世界にする必要がある。
いくら遠くてもどれほど長くても、一歩一歩実直に歩いて、一つひとつ積み上げて、少しずつ世界を変えていくしかない。
でも、それこそが源蔵の役目だとそう信じている。
幸い時間はある。
いずれ世界は変わる。我々の人を殺してのし上がる時代から人を活かして評価される時代がくる。その世代にしっかりとバトンを渡せるようにするのだ。
いつか必ず、何百年、何千年掛かるとも、それでもとそう語り、そう信じて、その為に戦うのだ。
いずれまた別の形で貴族による大きな悲劇が起こるはずだ。この時見逃したツケを払う事になるだろう。
だから、その時までには今回のことを活かさせてもらう。
この無駄を無駄のままにしない。
間違いを間違いのまま終わらせること。それこそが間違いだ。
もう二度と間違いを繰り返さない為にと、重國に負けず劣らずの熱を秘めて源蔵は今日も中央四十六室へと向かうのだ。
日間ランキング一位ありがとうございます。
皆様のおかげです。何よりBLEACHが最強なんですよね。
感想も読んでます。とても励みになっています。感謝です。
そのぉ、大変恐縮ですが…、ホントに気が向いたら…、もしよろしければなんですが…。
評価とかくださると凄く嬉しいです。心が1upします。踊ります。
いや、やっぱり踊りはしないかもしれません。