自分の屋敷を歩いていると、突然壁からニュッと少年が生えてきた。
「ぎゃあああァァァ!!!!」
「おはようございます。源蔵さま」
「ハァハァ、普通に歩かんか! 心臓に悪いわ!」
「申し訳ありません」
「ふぅ、おはような」
「はい」
素直に謝ると、てててっと後ろをついてくる。彼の名は痣城双也くん。痣城家のご子息で最近この屋敷で預かることにした少年である。
「源蔵さま。秀胤さまから、朝食の準備ができたとのことです」
「あいわかった。向かうとしよう」
「お供します」
貴族関連の不正や悪行に目を光らせようとしていた矢先のことだった。
痣城家が良からぬことをしていると複数の密告があった。
調査してみると確かに重罪を犯していて、すぐに彼の両親を捕らえた。だがしかし、不鮮明な部分も多く、辻褄が合わない部分もいくつか見つかった。例えるなら真実に嘘を巧みに混ぜて罪の水増しをしている、といったところか。
そして、次はないぞと釘を差していた賢者たちから密告してきた連中が袖の下と共に一族郎党皆殺しにするように頼まれた、と報告が上がり、ついでに痣城家の姉弟が行方不明になっているとも。
源蔵は直ちに屋敷の部下たちと隠密機動、一番隊と連携をとって強盗もビックリな計画を企んだ悪徳貴族たちを拘束。そしたら想定以上の悪党どもで手に入れた資料を元に違法賭け闘技場を摘発。そして痣城姉弟の救出をしたのだった。
痣城家の人達は水増し分の罪を減刑されるも犯している分の罪は償ってもらう形になり、彼らを貶めようとした貴族たちは逆に処刑台へと向かうことになった。因果応報、自業自得だ。
その際、一族のほとんどが牢屋にぶち込まれ残っている人達も生活が苦しいらしく、身寄りを失った痣城家の姉弟を源蔵が引き取った、というのがこれまでの流れである。
ちなみに突然二人を連れてきた源蔵だが、秀胤は事後報告でも一切の動揺せず、慣れた様子で姉弟を気遣いながら諸々の手続きを瞬く間に終わらせ、屋敷の案内と説明をしているうちに部屋の手配を済ませ、休ませる。
源蔵が何も言わずとも完璧に仕事をやり遂げたのだった。強い。
「そういえば、お姉さんからお手紙届いてたぞ」
「そうですか」
双也くんのお姉さんは迷惑になるといけないからと真央霊術院の寮に住む選択をした。全然気にしなくて良いのにと気遣うが「一日でも早く護廷十三隊の死神となり、このご恩に報いられるよう精進致します」と返ってきた。とても真面目で高潔な女性だった。そして、うちの屋敷の子達とか秀胤と同じ目をしていた。怖い。
「源蔵さま。どうすれば貴方のお役に立てますでしょうか」
「ん? そうだねぇ。君が健やかに育ってくれれば儂の心が救われるかなぁ。それはとても役立ってることになるぞ?」
「いえ、そうではなく。では虚を全滅させれば私を認めてくださりますか?」
「無理に世界を変えようとすると歪が生じる。その歪は見えないところで大きくなり、ある日突然爆発し崩壊する。今の儂たちには観測できないものがまだまだ沢山ある。それを理解しないまま、した気になって世界をどうこうしようとするのは余りに傲慢なことだ。だから少しずつ研究して理解して変えていくんだ。時間をかけてね」
人を育てるのと同じように。
「…………」
痣城双也はまだ幼いながらも死神として高いレベルにいる。
預かってすぐ本人の希望もあり、斬魄刀を握らせることになった。源蔵は勿論教えられないので屋敷の者に修行を任せていたのだが、たった数日で全ての過程を無視して卍解を会得したと報告がきた。源蔵は驚きすぎてお茶を噴き出した。
貴族というだけで霊圧に恵まれるのは約束されている。そして斬拳走鬼も完成度が高まってきている。大人も負けるほどに。ただ卍解の能力に頼りきりにする部分があり、そこに隙があるらしい。
まあ、源蔵は雑魚なのでイメージ出来ずに右から左に流れていくのだが。
「なら、護廷十三隊でどの隊が最強なのでしょうか」
「んー、個人なら重國一択だけど、まあやっぱり十一番隊かね。どうしてだい?」
「私が最強となって源蔵様の盾となり矛になります。それを証明しましょう」
「双也くんの実力は認めてるよ? もう儂より圧倒的に強いし」
「いえ、まだまだです」
痣城双也の世界は一変した。
幼い頃から今まで見せられ続けた貴族の黒い部分。所詮、そんなものだと心を沈ませていた。唯一、それでも真っすぐあろうとする姉に煩わしいと思いながら、そんな死神もいると何処か救われていた。だが、財産を目当てに他の貴族に家を壊され、ついには善良な姉と共に殺し合いの見世物にされた時には何もかも諦めかけていた。
でも、考えうる最悪は起こらなかった。
乗り込んできた護廷十三隊の死神たちと取り押さえられていく悪党ども。あれだけ恐ろしかった虚が一瞬で倒され、瞬く間に制圧されていく。目まぐるしく状況が変わっていき……。
気がつけば源蔵というお爺さんに引き取られていた。話を聞くと助けてくれたのもこのお爺さんらしい。
この屋敷に来てからまだ日は浅いが、実家にいる時よりも遥かに居心地が良い。何より、ここは姉のような死神で溢れている。
その中心にいたのは……。
「儂、厠に行くから先に行っててよ」
「はい、わかりました」
遠ざかる背中を見ながら双也少年はつぶやく。
「源蔵さま。いつか必ず貴方のお役に」
源蔵の信者が増えた。
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