四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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柳の陰に誓いは残る

 

 まだ重國が丿字斎と呼ばれていた頃、尸魂界はまだまだ戦乱の世であり、重國が武功を上げ、その勢力を増やしている最中だった。

 

 すべては流れる血と涙を止める為、要らぬ犠牲と終わらぬ悲劇を終える為、繰り返す憎しみの連鎖を断ち切り、苦しむ弱者を救う為に。

 

 世界の正義の為に山本重國は鬼となった。

 

 重國の根っこは優しく他人を思える熱のある男だ。

 でなければ、古い神や五大貴族を納得させ、護廷十三隊の創立を出来る筈もない。ただの剣鬼にそのようなことは任されないだろう。

 

 成した武功を誇るのではなく、自身の卍解が引き起こした二次被害に後悔する。

 強大な敵を打ち倒さねばならない状況だった。だから誰もが仕方ないと言うだろうに、それを良しとせず自らを戒め、反省する。そこに重國という男の本質が垣間見れるだろう。

 

 そんな男が平和の為とはいえ屍を積み上げる道を選んだのだ。どれほどの覚悟を必要としたか、簡単に推し量ることは出来ないだろう。

 

 だからこそ、重國のところには人が集まり、歴史を動かしたのだ。

 

 ただ当時、不安だったのは重國は今と変わらず変なところで頑固でよく分からないところで意地を張るし、割と恐怖政治に走ること。

 

 そうなるとどうなるか。

 各地から志を同じくして集まった部下たちも門下の弟子たちでさえもイエスマンかモノを言わない者、自らで考えようとしない者たちが増えつつあった。忠義と盲目の履き違えである。

 確かに軍隊としてなら強い。だが、後に統治を行い、政治をすることを考えるなら多様性にかける。そうなれば外敵に強くとも内部から崩壊する可能性が高くなる。

 

 源蔵は(まつりごと)、内政関係の仕事を重國に半ば強引に任されていてそこそこ発言力はあったものの、戦事には触れなかった為にそっち関連の連中に対して口の挟み辛さがある。そもそも戦乱の世では軍部の意見が強くなるからどうしても立場が弱い。

 

 だから、重國とは別の視点を持ち、負けず劣らずの頑固で意見できるほど精神的に強く、重國が見落とす声を聞けて補え支えることの出来る存在が必要だった。

 

 そんなとき現れたのが白髪オールバックでありながら滲み出る好青年感。若き日の雀部長次郎殿だった。そう、物凄く柔軟な男である。

 

「源蔵殿とお見受けする! どうか、ご助力願えないでしょうか!」

「…………ほう、儂の手を借りるか。内容によっては無力ぞ? というかどちら様でしょうか?」

「私は雀部長次郎と申します。どうぞよろしくお願いします! 貴方は丿字斎殿が唯一対等とする御方。是非、そのお力をお貸しいただきたい!」

「えー、本当に儂でいいのぉ?」

「はい!!! 勿論でございます!」

 

 重國からある程度は聞いていた。

 近頃、自身の周りをうろちょろする若いのがいる、と。

 

 丿字斎の名が広まるほど、そのお溢れを貰おうと頭にウジの湧いた連中も出てくる。

 だが、その若者はそんな連中とは全く違った。

 門下の者達にも負けないほど鍛錬をしているのが見て取れた。忠義も厚い。気骨もある。

 

 だが決して門下になるわけではなく、口を開けば右腕になるとばかり繰り返す。ならば、口だけではないと証明しろと、卍解を習得してみせよと無茶振りをしたらしい。

 

 雀部殿と色々話して、その人となりを見たがなかなかどうして。今の重國には必要不可欠な人材でしかなく、まさに神のお導き。天の恵み。設計図のラストピース。やったなまなこ和尚である。

 

「儂の見立てでは、雀部殿はもう既に卍解の域に達してると思うのだが?」

「はい。ですが、私の卍解が丿字斎殿に届くかどうか……。一番近くで見てきた源蔵殿にご意見を賜りたく存じます」

 

 正直、源蔵が雀部殿に出来る助言は何もなく、後は自信をつけさせるだけだった。だが、源蔵に相談することにした雀部殿の判断は正しい。

 

「真正捻じ伏せ影を成し、虚誕捩じ込み信を成す」

 

 源蔵はその人柄を信じるに値すると判断し、源蔵は自身の斬魄刀、双影無骨のことを明かし、解放した。

 

「双影無骨」

 

 双影無骨で雀部殿の分身を造る。そして、その分身を倒せれば今の自分自身を越えることになる。それが出来れば自信もつくだろう、と。

 

 

「「卍解! 黄煌厳霊離宮!」」

 

 

 三日三晩、死闘が続いた。閃光が煌めき、雷鳴が響き渡り、電撃が大地を削る。何度も撃ち合い、工夫し、試行錯誤をし続けた末に、遂にその卍解の真髄にたどり着いた。

 

 彼の弛まぬ研鑽は、ついに実を結んだのだ。

 

 死闘を刻む焦げた大地に、大の字に倒れる雀部殿を迎えに行く。とても満足げで晴れやかな表情だった。

 

「源蔵殿。私は丿字斎殿の右腕に成れるでしょうか」

「雀部殿はきっと良い右腕になるよ」

 

 源蔵に出来ないことを重國が出来て、重國に足りないことを雀部殿ができる。

 

 これでもう心配は要らない。後は信じるだけだ。

 我々は未熟だが、それでも完璧である必要なんてなくて。こうやって支え合えば弱点を補える。そして、最後まで信じることが出来れば大きな何かを成し遂げられるはずだ。

 

 源蔵は雀部に手を差し伸べる。雀部長次郎はその手を取って立ち上がった。これにてようやくこの騒動の終わりを迎えたのだった。

 

 そして、肩を貸しながら帰っている最中である。

 

「雀部殿は洋食の方がお好きだとか」

「ええ、そうですね」

「なら、今度儂の自家製紅茶でも飲みながらゆっくりお話でもどうでしょう?」

 

 その言葉にビタッと固まった雀部殿は動き出すと思わず叫ぶ。

 

「げ、源蔵殿! 是非その、紅茶? の育て方を教えてください!」

「え? ええ。いいですぞ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「なんか、強くなったことより喜んでない?」

 

 そんな重國には内緒の、陰のお話である。




多分、互いに脳を焼きあってるお爺ちゃんたちです。
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