四十六室の老害(自称)   作:スターリー

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伏して生きるな

 

 技には消耗限界を超えるとまったく出せなくなるものと命を削って出し続けられるものの二種類ある。

 

 双影無骨は後者である。

 

 自身の分身なら作製時間は短く、霊力の消耗は少ない。

 だが、他人の分身作製は、最初に分身を造る相手の霊圧をある程度双影無骨に注いで貰う必要がある。

 そうして自身の分身を造るより二倍の時間を掛けながら、造る相手の二倍の霊圧を消費して完璧な分身を造り出す。

 

 造る分身が強ければ強いほど無理をすることになる。また、数の制限はないが霊圧の消費が造るごとに二倍ずつ増える。正直ボッタクリである。

 

 そして、もし霊圧が足りなければ命を削る。

 

 源蔵の霊圧ならそんなことは滅多にないものの、どの程度命を消耗するのかは本人すら理解していない。自分の命を守るためにも、他者に悪用されぬ為にも、なるべく使わぬが吉だ。それでも源蔵は必要ならやってきた。

 

 当然、生きている者でなくてはならないし、分身を作る状況のまま再現される為、死にかけなら死にかけで再現される。ただ、霊圧を消費して多少の自由は可能だ。

 

 必要分以上の霊圧を込めて四肢の失った部分を再生させ、本人に移植が出来る。それで何度も命を救ったことがある。

 まあ、その後の分身の処分が地獄、というか勘違いされるというか、かなり気まずいというデメリットがあるが……。

 

 造り出した分身はその死神の現時点以上に強くなることはなく、その精神は双影無骨が本人の心の動きをなぞる動きしかしない。つまり、操れるわけではない為に相手によっては言うことを聞かないし、後ろからぶった斬ってくる可能性がある。

 

 戦力として運用するなら圧倒的に義骸だし、咄嗟に入れ替わるようには造れない。瞬歩の擬似分身のが使い勝手が良い。習得出来るかは別として。

 

 色んな相手に能力を明かして了承を得て霊圧を注いでもらい、途方もない時間とある日突然ぽっくり逝っている可能性を無視すれば軍隊を造れる。

 

 だから和尚も見に来たが、本人がまったくその気が無いし、その製造過程に斬り殺せるとして見送った。

 

 あの時、和尚は普通に命を取りに来ていた。源蔵、神回避である。

 

 

 

 

 

「源蔵、お主……」

「おお、重國じゃないかい。どしたの?」

 

 山本元柳斎重國は源蔵と付き合いが長いだけにその霊圧の増減が分かる。

 追及するような野暮はしないが、源蔵の性格を知っているが故にその霊圧の消費にどれだけ無理をしたのかをわかってしまう。

 

「……いや、儂の気のせいじゃった。源蔵よ。今日は焼き魚じゃ。食うて行くがよい」

「なん……だと? 流石は重國。儂、もう腹ペコ過ぎて重國がたこ焼きに見え……」

「流刃若火ァ!」

「死ぬわ!」

 

 戦う才能もなければ命を奪う覚悟が出来なかった。だが、それ以上に絶対に誰も殺さない覚悟を決めていた。

 

 最初からそう生きていた。出会った時からずっと。

 

「儂の名は山本重國。お主、名は何という」

「源蔵だよ。()()()()()()。だから、ただの源蔵でいい」

 

 どうしてそうなったのか。その決意に至るまで何があったのか。源蔵はこれまでに語ることはしなかった。  

 

 ただ一言、償いだ、と。

 

 

「あーそういや、重國には教えとくよ」

「何をじゃ」

「儂の始解と卍解のこと」

「なにぃ! 卍解じゃと……!? 飯どきに気軽に話すことではないわァ!」

「まあまあ、そんなにキレると血管キレるぞい!」

「流刃若火ァ!!」

「いやブチギレじゃねぇかァ!!」

 

 周りは情けない奴だと嗤う者もいたが決してそうではない。

 源蔵は必要とあれば迷わず自分の命を懸けるだろう。救える可能性があるのなら最後まで諦めることはしないだろう。誰よりも先に命を護る為に動くだろう。

 

 重國が近くで見ていなければきっと何処かで野垂れ死んでいる。

 

 誰かを助ける為に。

 

 

「おっ、重國! 魚釣れたぞ魚!」

「ほう、上手いもんじゃのう」

「よーし、これで結構いい数釣れたぞ。重國、火の準備を頼む」

「流刃若火ァ!」

「強火が過ぎるわァ!」

 

 この時代に生まれるには優し過ぎたのだ。

 だが、そこに誰とも違う強さを見た。これから先、求めるべき未来を見た。このような男が増えれば世界も平和になるだろう、と。

 

 

 何故、初代護廷十三隊が手段を選ばず、戦いへの誇りや民を護ることへの信念が無くともいることが出来たのか。人の命の重さを灰ほどにも感じずにただ戦いにのみ没頭することが出来たのか。護廷とは名ばかりの殺伐とした殺し屋の集団でいることが出来たのか。

 

 それは誰よりも命の重さを知っている男が手綱を握るが故だった。

 

 源蔵を貴族がほとんどの中央四十六室に置いたのはそういう理由があった。正義を成してくれると誰よりも信じられるのだ。事実、堕落することなく、少しずつ良くなっている。

 

 それは源蔵だからこそ、出来ることだ。

 

 

 

 いつものほほんと笑っているクセにその裏で一人の死神が背負うには重すぎるものを当たり前のように背負って生きている。

 

 その姿を見るたびに腹に力が入る。伏してはならぬと立ち上がれる。

 

 本当に張り合いのある、かけがえのない友である。

 

 だから、山本元柳斎重國は負けてはおれんと、帯をきつく締める。今日も汎ゆるを護るために護廷十三隊総隊長の責を全うするのだ。




チートはデメリットを盛ってこそですよね。え?足りない?
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