ソードアート・オンライン 黒の剣士と赤の少女 作:相馬エンジェル梅太郎
これからは定期更新を目指していきたいと思います!(願望
それから一次創作の話ですが、近いうちに書こうかなと思いますがまずはこの小説をある程度のところまで出来たら、次はまた別の二次創作を書こうと思います!
それが少し落ち着いたら一次創作という形にさせて頂きます!
そういうことなのでこれからも、相馬エンジェル梅太郎をよろしくお願い致します!ww
「私はキリト君を諦めない」
そう言った彼女の目は冗談を言っている目では無かった。あの夜、俺はアスナを振った。
それでも彼女はこうして今俺の前に現れている。
それが悪い訳ではない。けれど、異常でもあった。
「どうして?」
胸に往来する感情は疑問。ただそれだけ。
だが、問い詰めることすら、今の俺には出来ない。
「キリト君は言ったよね」
「え?」
アスナは一定の距離を保ちながらも、小さく微笑み言葉を紡ぐ。
「アスナの綺麗なところしか知りたく無かったって」
「ああ」
素直に同意する。黒鉄宮。あそこで彼女に語った独白は彼女との決別に他ならないものだった。
それでも尚アスナは今、こうして俺の目の前にいる。
「私決めたの」
何を?
そう問いただしたかった。けれど、アスナはそれを求めていないようだった。
表情からそれが伝わる。だから、何も言えない。
「ふふ。キリト君はやっぱり優しいね」
全てを見透かしたようにアスナは言った。
そして。
「私はキリト君を理解するよ。そしてキリト君にも私を理解してもらう」
「え?」
それはあれ程の時間を擁しても、俺達が成しえなかったことだ。
二年。二年もの時間を共に過ごしても、分かり合えなかった俺達が今ここから始めようと。
アスナはそう言ったのだ。
「無理だよ。無理に決まってるよ、アスナ」
それを聞いて口から出たのは、気弱な言葉だった。
一度壊れてしまった物は、もう二度と治らない。それはこの世の摂理でもある。
それは俺達もだ。例外はない。故に、不可能。
「キリト君はエミリーさんのこと知りたがってたよね?」
エミリー。その言葉には異常な反応を示してしまう。相変わらず。
「ああ。知りたかったよ。知ろうと努力をしたよ」
紛れもない本心。それをアスナは。
「嘘だよ、それ」
「え?」
一言で切り捨てた。
「キリト君は嘘をついてるよ」
何も言えない。様々な感情が胸に広がる。けれど、その全てが負の感情だった。
「アスナに何が分かる」
口から出た言葉は止めようが無かった。
「お前に何が分かるんだよッ!」
声を荒げる。全身全霊の叫び。アスナはそれに動じることも無かった。
けれど、悲しそうな顔だった。
「そんなことも分からないの、キリト君?」
「は?どういうことだよ?」
「キリト君」
泣き笑い。彼女のこの表情を俺は、ここ最近よく見るようになった。きっと今までもこういう表情を浮かべている時があったのだろう。
俺はそれに気付けなかった。否。気づこうとしなかった。
「相手を知りたかったら、まずは自分を知ってもらはないと」
「え?」
頭が真っ白になる。
「それがルールだよ。一方通行じゃダメ」
アスナは俺に伝えることで、過去の自分に言い聞かせているようだった。
「キリト君何も伝え無かったんでしょ?自分のことは置いといて、彼女のことだけを知ろうとして。何かを聞かれたら嘘で塗り固めるつもりだった。違う?」
その言葉は的を捉えていた。
「どうして、そんなことまで」
俺の言葉にアスナは笑った。
「そんなの決まってるでしょ?」
そう告げると、アスナは一呼吸を置き、俺の胸に飛び込んで来た。
「おい。アスナ」
引き離そうとする。
そして。
「だってずっと見てたから。ずっと貴方のことが好きだったから」
涙声で言う彼女を引き離すことは、俺には出来なかった。
白銀の迷宮区。
そこで俺はオレンジ色の弱さを知った。
“あの事件”以来、私は全てが変わった。本当に全てが。
見える風景も。聞こえる音も。食べ物の美味しさも。鼻を擽る匂いも。
全てが変わり、全てに意味を見出せなくなった。
そんな私がこの世界に出合ったのは、パパのおかげだ。
パパは悩んでいた。誰よりも悩んでいた。
ママよりも、花梨よりも。誰よりも真剣に向き合い、自分のエゴと現実との狭間で潰れそうになっていた。
それでもパパは悩み続けた。
触れられない。届かない。近づけない。
パパは辛かったと思う。けれど、私も辛かった。
そんな時パパがこの世界を運んできた。
「これをあげるよ」
パパが私にくれたのは、ナーヴギアとソードアート・オンラインのゲームディスク。
私はそれが何だか、分からなかった。
“あの事件”以来テレビは全く見なくなった。そして、前もあまり見る方では無かった。
ネットにもあまり興味が無く、周りからは情報が遅れているといつもからかわれたりした。
戸惑う私を見て、パパは笑いかけた。その距離が遠かった。
それが悲しかった。パパも悲しそうだった。
この時私は初めて、パパが泣いているところを見た。
苦渋の決断を下したようの思えた。
パパが泣いているところを見たのは、初めてだったが、泣いているのは知っていた。
目が充血して、腫れているのをよく見た。
「これは仮想世界へ行けるゲームだ」
「仮想世界?」
「ああ」
優しく肯定する。そして、私は次の父の言葉に強烈に惹かれた。
「これは現実から離脱出来る。現実を忘れられる」
甘美な響き。この苦しくて、苦しくて、本当に苦しい世界から。
「逃げられるの?」
「ああ。もちろんだ」
にっこり笑った。私は。久しぶりだった。
父はさらに、涙を流した。流し続けた。
「さあ。行きなさい。絵美。“私の世界へ”」
涙声で告げる父の言葉を最後に、私はこの世界へと足を踏み入れた。
「曇りか」
一層の空は曇天だった。今にも一雨来そうな空は、私の心を表したようだった。
不安定だった。自分でも笑えてしまうほど。
アスナさんは言った。
決断しろと。
背中を押してくれたのだろうか。よく分からない。真意はよく分からなかった。
けれど、私は今もこうして立ち止まってる。
これが私の決断なのだろうか。
「行こう」
思考を留める。外出用の服に着替える。黒のワンピースに、黒のチェスターコート。
彼とそっくりの服。色を加えるために、赤のマフラーを巻いていく。
ドアの前。
無意識に振り返ると。窓の外は。
「雪だ」
静かに雪が降っていた。綺麗だった。綺麗だけれど、辛くなる。
白銀はどうしても、黒の剣士との出会いを思い起させるから。
ドアを開ける。日課を熟す。
「今日も無事でありますように」
フレンドですら無い、彼の安否の確認のために私は外に出る。
白銀の世界に祈る。
今日も彼が無事でありますように。
雪が降っている。
白銀の迷宮区は、さらに白銀が支配する。その中で彼女は泣いている。
俺は何も出来ない。
彼女の背中に手を回すことも。彼女に慰めの言葉をかけてやることも。
彼女と一緒に泣いてやることも。
何も出来ない。
ただ胸を貸すだけ。それだけ。そうして時間は流れ続けた。
「ありがと。もう大丈夫」
アスナは明るい声で告げ、俺から離れた。
「ああ」
それに対して俺は何も言うことが出来ない。言葉を紡ぐことが出来なかった。
「今日はもう帰るね」
アスナの背中が遠ざかっていく。それを俺は黙って見ていた。
黒鉄宮。ここは変わらず不動だった。
私がいくら不安定な状況になろうとも、この石碑だけは不動。
そして日に日に増えていく、消されるプレーヤーの名前。
私はそれにも、意味を見出せなかった。
ここのプレイヤーの全てが消えようとも、彼が消えなければそれでいい。
ここのプレイヤーの全てが残ろうとも、彼が消えては意味がない。
素直にそう思えてしまう。
kiritoの文字を見つける前に、karinの文字が目に入って来た。
カリンはあの日から、私の前に姿を見せていない。今頃きっと自責の念に押しつぶされているのだろう。
けれど、それを止める資格は私にはない。
止めてしまったら、きっと私達はまた壊れてしまう。
だから今は待つ。ただそれだけ。
思考に耽っているとkiritoの文字を見失ってしまった。
もう一度探すと、変わらずそこにあった。
今日も無事それが何よりも嬉しかった。
彼が変わらずこの世界で生きている。それが何よりも嬉しい。
目を瞑る。死者の記される場所で、私は彼との思い出に浸る。
心が温かくなる。
そして声が聞こえた。
「もう彼とは合わないの?」
「え?」
石碑の前、そこにいたのは背中を押してくれた少女だった。
「サチさん」
心なしか涙声になってような気がする。けれど、サチさんは笑っていた。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
微笑むサチさんに頭を下げる。礼儀を正しくするのは、“過去の私”の美学でもあった。
だから、こうして頭を下げ、挨拶をする。
「ふふ。礼儀正しいのね」
笑われる。けれど、不快では無かった。寧ろ嬉しかった。
私を認めてくれているようで。
「はい。父が厳しい人だったので」
「そっか」
暫しの沈黙。変なことを言ってしまったかと不安になる。
けれど。
「いいお父さんだったんだね」
私の杞憂だったようだ。
「はい。自慢の父です」
胸を張って答えた。
「そっか。どんな人だったの?」
サチさんは私の父のことを聞きたがっているように感じた。私は“過去の私”の父との思い出を語ることにした。
「父は頭がいい人でした。それはもうとても。テレビにも出たりしてました。私はあんまりテレビとか見なかったし、それに父について調べたり、外からの情報で父を知るのは恥ずかしくて。だから父が何を研究していたのかはよく分かりませんでした」
それは素直に後悔した。
「他にも父は厳しい人でもありました。あまり感情が豊かではない人でした。でも、それはいつも無表情とかそういう訳ではない無く、あまり感情を外に出さない人だったんです」
サチさんは微笑みながら、話を聞いてくれている。
「でも、娘の私からしたら父の変化はすぐに分かりました。幸福。嬉しい。悲しい。悩み。怒り。色んな感情を顔に出してました。それが他の人にはよく分かっていなかったみたいですけど」
吹き出してしまう。パパと離れて初めて、パパの不器用さが分かった気がする。
「他にも礼儀に厳しい人でした。父の都合でたまにパーティーにも、参加したりしました。そういうのもあったから父は礼儀に厳しかったのかもしれないです。でも、父はパーティーが嫌いでいっつもムスッとしてました。でも、他の人からはそれが分からないみたいで、ドンドン父に話しかけて来るんです。それでより一層父が不機嫌になる。その繰り返しでした」
自分でも驚く程、パパの話を人に出来た。それは“この世界”では禁忌だと思っていたのに。
「お父さんが好きなんだね」
「え?」
サチさんは泣いていた。でも、笑っていた。アスナさんと同じような表情。
でも、サチさんからは諦めの表情が強く伺えた。
問い詰めたい。どうして泣いているんですか?
問い詰めたい。何を諦めてしまったんですか?
問い詰めたい。問い詰めたい。問い詰めたい。
この“この世界”でこんなに人に、関心を抱いたのは二人だけ。
キリト君と、サチさんだけ。
でも。
「はい。好きでした」
怖くて出来なかった。
好きでした。好きでした。好きでした。
私が好きになる人は、皆過去形になってしまう。
ママも、パパも、花梨も、キリト君すらも。
「好きでした。って今はもう好きじゃないの?」
サチさんが優しく問いかけて来る。
「私は“この世界”で初めて父の本質を知ることが出来たのだと思います」
「本質?」
サチさんが疑問に感じたように言う。
「はい。それを知って私は思いました」
何を?この問いは返って来なかった。
「理由はどうあれ、やってはいけないことをした父を愛すことはできません」
もう二度と。
その言葉は胸にしまっておいた。
「それじゃあ失礼します」
サチさんに頭を下げ、黒鉄宮を後にする。
サチさんは無言で私を送り出してくれた。
黒鉄宮。石碑。
sachi。
全てを諦めてしまった少女の文字は、二度と元に戻ることはない。