これは絵画を集める収集家のお話
昔々あるところに、一人の少女がいました。夜空の色を吸い込むような深い黒髪に、星のように輝く瞳が美しい少女でした。
彼女は絵を描くことが大好きで、毎日毎日たくさんの絵を描いて暮らしました。
彼女の絵を求めて、たくさんの人が少女の下を訪れました。彼女は人々の役に立てることが嬉しくて、一生懸命絵を描きました。
幸か不幸か、彼女の絵には不思議な力があったのです。
しかし、しだいに絵が有名になると人々は少女にたくさんの絵を描くように迫りました。少女が嫌がっても関係ありません。無理やり絵を描かせて、少女を苦しめました。
少女の部屋には光り輝く宝石やきれいな服が増えていきましたが、少女は次第にやつれていきました。
絵を楽しく描くことができない苦しみに、心を病んでしまったのです。
ある日、プツリと糸が切れるように少女は亡くなりました。
人々はもう新しい絵が生み出されないことを嘆き、残った絵を奪い合いました。
少女の死を悲しんだのは1人の友達だけでした。
おしまい
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勇者ヒンメルの死から50年前
王都近くの街道
魔王討伐の帰り道、馬車に揺られながら私たちは王都にむかっている。
左右は森で、魔物の気配もない。
馬車の上でハイターが諳んじたのは、不思議な話だった。
「ハイター、何その話」
「おやフリーレン、聞いたことないんですか。これは私たち僧侶の間に伝わる昔話です」
「昔話?」
「ええ、人々の欲によって罪のない少女を殺してしまった話として、戒めを込めて受け継がれています」
「ふーん……」
創作なのかな、でもどこかで聞いたことがある気がする。
「もしかして、『魔女の絵画』の話かいハイター。」
「『魔女の絵画』?」
「ええ、ヒンメルの言う通りです。この昔話は、『魔女の絵画』を生み出した少女の話だとされています。」
「俺も聞いたことがある。不思議な力を持つ絵画を生み出した魔女の話だな。実話だったのか」
ヒンメルとアイゼンも話に混ざってきた。
「魔女の話なら私もよく知っている。たぶん、神話の時代の魔法使いじゃないかな。私が生まれるよりも前の話だと思うよ」
「そんなに前の話なのか。それは知らなかったな。」
「うん、噂レベルだけど絵画の目撃情報もちらほらとある。魔法を切り裂く双剣、空飛ぶ馬車…というか、ヒンメルのそのマントは絵画だと思うな」
「マントが絵?どういうことだフリーレン」
アイゼンの問いかけに昔読んだ記述を思い出す。
「えっと確か、『魔女の絵画』は、現実に影響を出す魔道具になるんだ。条件は不明だけど、絵が魔道具に変わって使用者を助けてくれるらしい」
「へえ…このマントがやたら頑丈なのはそのせいか」
「たしかに、爆風に飲まれてもヒンメルだけはなぜか無事だったからな」
「いや気づけよ」
はははっと3人の笑い声が街道に響いた。
そう、魔女の絵画を求めて探し回ったこともあったけど全然見つからなかったんだよね
最近は目撃情報もないし……ん?
「フリーレン、どうしたんだい?」
「……街道の先に魔力反応。手練れだね」
私の言葉を聞いて一斉に戦闘態勢になるヒンメルたち。
でもあんまり敵意は感じないな。
とりあえず馬車に停まってもらおうか。
「なんか手を振ってないか」
「女性だね、ものすごく笑顔だ」
「敵じゃなさそうですね」
「降りようか」
「おーい!初めまして!君たちが勇者パーティ?」
金色の髪に、青地の服。
魔力の感じがなんだか変だな。魔族ではないだろうけど…魔力が体と一体化しているみたいな、不思議な感じだ。
「そうだ、ぼくは勇者ヒンメル。…君は?」
「あたしはヒマワリ!ねぇねぇ、世界を旅してきた勇者パーティのみんなに一個聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「…なにかな。」
「『魔女の絵画』の目撃情報、持ってない?」
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「じゃあヒマワリ、君は『魔女の絵画』を収集しているのかい?」
「そうなの。でも最近行き詰っていてさ。噂の勇者パーティなら何か知ってるかと思ったんだけど、まさか具現化させているとはね」
ヒマワリと名乗った少女も馬車に乗せて、荷台の上で話を聞くことになった。
「やっぱりこれは絵画なのか」
「作品No.18『守り人のマント』。使用者の心が折れない限り決して破けないマントだよ」
「どうりで頑丈なわけだな」
「ええ、ヒンメルの心が折れるところなんて想像もつきませんからね」
破けないといいつつ、爆炎からも魔法攻撃からも守ってくれる優れものだからね。
それにしても不思議な魔力だ、もしかして…
「ちなみに~効果は意志の強さに比例するらしいから、よっぽど強い意志を持ってるんだねあなたは!さすが勇者!」
「やめろよ、照れる」
「照れるな」
「ところで、さっきから私のことを見ているあなたは?」
「ああごめんね、私はフリーレン。ヒマワリって、もしかして絵画なの」
え、と口を開けたままヒンメルたちはポカーンとしているけどヒマワリは笑っている
「よくわかったねフリーレン!そのとーり、私が作品No.1『ヒマワリ』だよ!初見で見破ったのはあなたが二人目!」
「やっぱり…絵なのに意思が宿るなんて、どういう仕組みだい?」
「ふふん、それは内緒かな!でもほんとによく見破ったね、さすが私の姪弟子!」
「……姪弟子?」
「その話もまた今度ね。私はエーラ流星を見に行かなきゃ」
「もう行くのかい?」
「うん!かなり遠いところまで見に行きたくてね。話せて楽しかったよ」
そう言ってヒマワリは飛んで行った。文字通り、飛んで行った。
「…飛行魔法って、人類は使えないですよね」
「いやこれは、たまげたなあ」
「もしかしたら、あれも絵画の力なのかもね。それにしても、姪弟子か。あの人の弟子なら、何があってもおかしくはない」
もしかしたら先生とも面識があったかもしれないな。今度会ったら聞いてみよう
「もうすぐ王都につくね。これから忙しくなるぞ」
これが私とヒマワリの最初の出会い。
『収集家ヒマワリ』という名を次に聞くのは、だいぶ先のことだったけれど。
続かない